Charlotte
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バージル。
死んでしまったと思っていた、私の大切なもうひとりの兄。
顔立ちはダンテにそっくりだったけれど、性格は全く違っていた。
私たちが悪魔に襲われた日は、バージルだけおつかいに行っていていなかった。
すべてが終わった後、バージルの着ていた洋服の切れ端が落ちていて、私はまた泣いた。
遺体は見つからなかった。
でも、バージルは一向に帰ってくる気配がなくそれですべて察した。
お母さんとバージルのことは立ち直るには時間がかかったけれど、ダンテがそばにいたから今までやっていけた。
今、バージルはどんな風に成長したんだろう。
ダンテからあまり詳しく聞いていないけど、魔界と人間界を繋ごうとしてると言っていた。
何故そんな危険なことをするのか、理由はわからない。
だけど、私はもう1度バージルに会いたい。
そう強く思っている。
ホテルでの数日は長く感じた。
チェックインしてすぐにテレビのチャンネルを回すと、すべて巨大な塔テメンニグルのことを報道していた。
中には生放送中のキャスターが悪魔に襲われてしまうショッキングなものもあり、驚いてスイッチを切った。
この悪夢を兄バージルがもたらしていると思うと、体調が悪くなった。
1日1日そんな風に過ごしていると、待ちに待った日はやっと訪れた。
ダンテからの電話だ。
「エリ、全部終わったぜ」
久しぶりの声に、電話だけでものすごく安心する自分がいた。
自然と頬が緩み、久しぶりに笑ったことに気づく。
「ダンテ…お疲れ様」
「バージルだけど」
バージルの名前を聞くと心臓がどくんと高鳴る。
エリは黙ったまま続きを待った。
「一応生きてる。相当派手に怪我させたから今意識はない」
とりあえず良かったと思った。
兄2人はどちらも死なずに生きている。
「こんなこと言うのどうかと思うが、早く帰って来てくれ。顔、見たい」
「うん、すぐにそっちに行くね。夕方には着くと思う」
「こっちは結構荒れてるから気をつけろよ。迎えに行きたいが…」
「私は大丈夫。バージルの傍にいてあげて」
ダンテの声は冷静だった。
ダンテもすごく疲れているだろうし、今すぐにでも飛んで行きたい。
エリは電話を切って、すぐに荷物をまとめた。
向こうで買えない場合を考えて、途中スーパーで食材を揃えて駅に急いだ。
列車でどこまで行けるかわからないけれど、近くまで行けたら徒歩でもいい。
テメンニグルがあった場所に近づく程、街並みは荒れていた。
建物は全壊や半壊しているものもあった。
駅は辛うじて残っていたので予定通り降り、それからは歩いた。
街が復興するまでどれくらい掛かるんだろうとぼんやり考え、同時に自分の家族がこんな風にしたんだと申し訳なさも感じる。
ようやく事務所まで辿り着くと、なんとか損壊を免れていた。
久しぶりに、このドアを開く。
ダンテはいつものように中央のデスクに座っていた。
「ダンテ、ただいま…!」
「エリ!おかえり」
エリの姿が見えるなり笑顔で迎え入れてくれる彼に、駆け寄る。
「良かった。無事で…本当に」
「俺が死ぬ訳ないだろうが。お前が1番よく知ってんだろ」
にっと笑った表情に、どうしようもなく安心する。
エリは彼につられて微笑んだ。
荷物を適当な場所に置くと、ダンテが2階の部屋を指す。
エリの部屋の隣の客室だった。
「…あいつに会うだろ?エリ」
バージル。
心臓が勝手にどくんと脈打つ。
勿論会いたい。
だけど、どんな顔をして会ったらいいかわからなくて緊張してくる。
だって、10年ぶりだ。
エリは少し間を空けてゆっくり頷いた。
「実はまだ意識はねぇんだ。だから、見るだけになるけど…」
半魔である2人が戦ったらただではすまないと思ってはいた。
そんなに酷い傷なのかなと覚悟を決め、後について2階に上がる。
ダンテが客室のドアを開き、ベッドに横たわる人影が見えた。
またどくんと心臓が高鳴る。
あそこに、バージルがいる。
死んでしまったと思っていた、大切な兄が。
「血みどろだったから着替えもさせたぜ。見た目傷は塞がってた」
ほとんどダンテの声が入らないまま、エリは1歩1歩踏みしめながらバージルに近づいた。
ベッドのすぐ横まで来て、しゃがみこむ。
記憶の中の彼と比べてずいぶん逞しく成長した姿がそこにあった。
意識はないものの、規則正しい呼吸が感じられる。
「…バージル大人になってる」
「当たり前だろ」
「でも、本当そっくり。ダンテと」
「そうか?嬉しくねぇ」
「バージルの方が厳しい顔してるんだよ。ダンテはお母さん似」
「今度鏡見てみる」
本当に、バージルなんだ。
バージルが今目の前にちゃんといて、手を伸ばせば触れることができる。
お帰りなさい、バージル。
やっと、やっと会えたね。
エリは目頭が熱くなるのを感じ、涙が頬を伝った。
また兄妹が揃ったなんて、そんな夢見たいなことが現実に起きている。
「まだちょっと信じられない…兄妹皆揃ったなんて」
ダンテがエリの傍に来てしゃがみ込み、細い肩を抱く。
「エリ」
「夢みたい」
「夢じゃねぇよ」
夢じゃないと思えば思うほど、自然と涙が出て来る。
半魔で傷が治るとはいえ、バージルの身体は相当痛手を負っていて、回復するのは時間が掛かりそうだ。
エリはバージルの右手を両手で引き、頬に寄せる。
それは少し冷たかった。
「バージル…」
目が覚めたら、なんて言おうか。
離れ離れだった約10年、バージルと話したいことが山ほどある。
今はゆっくり休んで、早くその瞳に私を映して。
end.