Charlotte
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そろそろ満月だ。
広い洋館の中で、彼は空を見上げた。
準備を始めてから1年経った。
あとはもう1つのアミュレットが手に入れば条件は揃う。
あいつは本来の「意味」は知らないが、母親の形見ということもあり簡単には渡さないだろう。
そんなことは1年前に再会した時からわかっている。
次に弟に会う時は殺し合いも避けられない筈だ。
もうすぐ、この世は魔界に呑まれる。
その時偉大な父スパーダの力は、全て俺のものになる。
バージルがアミュレットを無意識に握り締めた時、背後からスキンヘッドでオッドアイの男が口元に笑みを浮かべ、近づいて同じように月を見上げた。
「いよいよだな」
「…ああ」
「そういえば、彼と共にいる女だが…」
「…女?邪魔なら殺せ」
「いいのか?黒髪の東洋人の女に見覚えはないのかね」
「…知らん」
見覚えはあったが、彼が知っているのは女性ではなく少女だった。
しかももうこの世にはいない。
いくら思っても彼女が成長した姿を見ることはできない。
可哀想なエリ。
あの時もっと力があったなら、助けてやれたのに。
彼は少しだけ、大切なものを一瞬で失ったあの悪夢を思い出した。
妹が生きていたら、きっと美しい女性になっていたに違いない。
ダンテは生きていたというのに、何故彼女は。
弟ながら、妹と同じ東洋人女性をそばに置くとは趣味が悪い。
あいつはいつまで経っても甘えただ。
「本当なの…」
ダンテの話を一通り聞いたエリは、自身の身体を抱き締めて震えた。
バージルが生きていることは願ってもいない、心から嬉しい知らせだった。
だけど、いつまでも喜んでいられる状況ではなかった。
愛しい兄は、何故か魔界と人間界を繋ぐ準備をしているらしい。
「そんな…どうして…」
「辛いだろうが、本当なんだ。エリ」
ダンテの真剣な様子に、エリも嘘だとは思っていない。
ただ素直に納得できないだけだ。
自分たち家族を襲ったのは他でもない悪魔なのに、どうしてそんな恐ろしいことをするのか。
ダンテに守られて一般的な平和な世界で生きていたエリには、何回考えてもバージルの真意はわかりそうになかった。
「もしあいつが行動に出たら、俺は…」
ダンテはその先を言わなかったが、強い瞳が物語っていた。
実の兄弟で剣を交えるなんて、想像するだけで嫌だ。
エリは胸の鼓動が早くなるのを感じ、自然と身につけていたロザリオを握る。
バージルを止められるのはきっと、ダンテしかいない。
本当は戦ってほしくない。
だが、バージルがそうするならば。
バージルの意思はわからないけれど、その行動自体が、自分の中で正しいことには思えない。
人間界と魔界を繋げば勿論悪魔たちが溢れ出し、きっとたくさんの人たちを危険にさらす。
それならば例えば、バージルを倒すことが正解なのか。
それも、違う気がした。
まだ恐ろしい想像は現実にはなっていないのだ。
エリは拳を握り締めダンテを見つめた。
「ダンテ、お願いがあるの」
バージルが生きていてくれて、心の底から嬉しかった。
その気持ちに嘘はない。
だから、できればまた一緒に…。
「なんでもいいから…バージルを止めて、そして連れて帰ってほしい」
わがままを言っているとわかっていた。
自分は頼むだけで、ダンテに任せっきり。
でも、どうしても譲れないことだった。
愛しい兄は、生きていたのだから。
ダンテはしばらく悩むように視線を落とし、そして頷く。
「ああ…わかってる、エリ。わかってる」
ダンテはエリの頬を撫でた。
いつまでもどこまでも優しい妹。
このぬくもりも知らないあんたは馬鹿だぜ、バージル。
エリが傍にいなければ、もしかしたらバージルを殺していたかもしれないと、ダンテは思った。
それから数日。
前触れなのか、悪魔の出現は相変わらず多かった。
怪しいうちに最低限のことをやっておこうと、珍しく早起きし作業を終えて、ダンテは事務所に戻った。
シャワーを浴び、久しぶりのデリバリーピザを少し早い夕食代わりにする。
掛かってくる間違い電話にいつものように開店準備中と返事して受話器を置けば、ドアの向こうに人影が見えた。
ノックもせずに、ひとりの男がドアを開ける。
スキンヘッドでオッドアイ。
彼はゆっくり歩を進め、ダンテの傍に近づいた。
ぎょろりとした目が明らかな敵対心を感じさせる。
「君が…ダンテかね。スパーダの息子だとか」
「どこでそれを聞いた?」
「君の兄上から」
男はそう言うと事務所の中を見渡した。
何かを探している様子だった。
「…いつも共にいる女性はどこへ?」
「今ここにはいねぇぜ」
「残念だ。兄妹の感動の再会を期待していたのに」
エリまで利用しようとしていたのか。
ダンテは妹がここにいなかったことに安堵した。
「ひとの家庭事情に首突っ込むとか最低だな」
「…君の兄上から招待状を受け取っている」
とうとう来た。
ぎりぎりセーフだ。
今朝の列車でエリをこの街から遠ざけたのは正解だった。
どこまで安全と言えるかわからないが、確実にこの街にいるよりはましだ。
すぐに兄貴を止めて、そしてここに連れて帰る。
それまで待ってろよ、エリ。
「何あれ…」
エリは列車に揺られながら、天に向かってそびえ立つ塔を見た。
空には塔を中心にどす黒い雲が立ちこめている。
エリのところからは小指程度だが、ダンテの事務所にいたら、街の下から突然現れた巨大な塔の影響で粉塵がすごかっただろう。
列車内の乗客たちが騒いでいる。
まだここまでそれほど影響はないが、ホテルについたらテレビを付けてみよう。
現実に不気味な塔を見て、改めてダンテの話がリアルに感じられ、身体が強張っていく。
ダンテは無事だろうか。
バージルは…。
エリは胸のロザリオに手を当てた。
end.
広い洋館の中で、彼は空を見上げた。
準備を始めてから1年経った。
あとはもう1つのアミュレットが手に入れば条件は揃う。
あいつは本来の「意味」は知らないが、母親の形見ということもあり簡単には渡さないだろう。
そんなことは1年前に再会した時からわかっている。
次に弟に会う時は殺し合いも避けられない筈だ。
もうすぐ、この世は魔界に呑まれる。
その時偉大な父スパーダの力は、全て俺のものになる。
バージルがアミュレットを無意識に握り締めた時、背後からスキンヘッドでオッドアイの男が口元に笑みを浮かべ、近づいて同じように月を見上げた。
「いよいよだな」
「…ああ」
「そういえば、彼と共にいる女だが…」
「…女?邪魔なら殺せ」
「いいのか?黒髪の東洋人の女に見覚えはないのかね」
「…知らん」
見覚えはあったが、彼が知っているのは女性ではなく少女だった。
しかももうこの世にはいない。
いくら思っても彼女が成長した姿を見ることはできない。
可哀想なエリ。
あの時もっと力があったなら、助けてやれたのに。
彼は少しだけ、大切なものを一瞬で失ったあの悪夢を思い出した。
妹が生きていたら、きっと美しい女性になっていたに違いない。
ダンテは生きていたというのに、何故彼女は。
弟ながら、妹と同じ東洋人女性をそばに置くとは趣味が悪い。
あいつはいつまで経っても甘えただ。
「本当なの…」
ダンテの話を一通り聞いたエリは、自身の身体を抱き締めて震えた。
バージルが生きていることは願ってもいない、心から嬉しい知らせだった。
だけど、いつまでも喜んでいられる状況ではなかった。
愛しい兄は、何故か魔界と人間界を繋ぐ準備をしているらしい。
「そんな…どうして…」
「辛いだろうが、本当なんだ。エリ」
ダンテの真剣な様子に、エリも嘘だとは思っていない。
ただ素直に納得できないだけだ。
自分たち家族を襲ったのは他でもない悪魔なのに、どうしてそんな恐ろしいことをするのか。
ダンテに守られて一般的な平和な世界で生きていたエリには、何回考えてもバージルの真意はわかりそうになかった。
「もしあいつが行動に出たら、俺は…」
ダンテはその先を言わなかったが、強い瞳が物語っていた。
実の兄弟で剣を交えるなんて、想像するだけで嫌だ。
エリは胸の鼓動が早くなるのを感じ、自然と身につけていたロザリオを握る。
バージルを止められるのはきっと、ダンテしかいない。
本当は戦ってほしくない。
だが、バージルがそうするならば。
バージルの意思はわからないけれど、その行動自体が、自分の中で正しいことには思えない。
人間界と魔界を繋げば勿論悪魔たちが溢れ出し、きっとたくさんの人たちを危険にさらす。
それならば例えば、バージルを倒すことが正解なのか。
それも、違う気がした。
まだ恐ろしい想像は現実にはなっていないのだ。
エリは拳を握り締めダンテを見つめた。
「ダンテ、お願いがあるの」
バージルが生きていてくれて、心の底から嬉しかった。
その気持ちに嘘はない。
だから、できればまた一緒に…。
「なんでもいいから…バージルを止めて、そして連れて帰ってほしい」
わがままを言っているとわかっていた。
自分は頼むだけで、ダンテに任せっきり。
でも、どうしても譲れないことだった。
愛しい兄は、生きていたのだから。
ダンテはしばらく悩むように視線を落とし、そして頷く。
「ああ…わかってる、エリ。わかってる」
ダンテはエリの頬を撫でた。
いつまでもどこまでも優しい妹。
このぬくもりも知らないあんたは馬鹿だぜ、バージル。
エリが傍にいなければ、もしかしたらバージルを殺していたかもしれないと、ダンテは思った。
それから数日。
前触れなのか、悪魔の出現は相変わらず多かった。
怪しいうちに最低限のことをやっておこうと、珍しく早起きし作業を終えて、ダンテは事務所に戻った。
シャワーを浴び、久しぶりのデリバリーピザを少し早い夕食代わりにする。
掛かってくる間違い電話にいつものように開店準備中と返事して受話器を置けば、ドアの向こうに人影が見えた。
ノックもせずに、ひとりの男がドアを開ける。
スキンヘッドでオッドアイ。
彼はゆっくり歩を進め、ダンテの傍に近づいた。
ぎょろりとした目が明らかな敵対心を感じさせる。
「君が…ダンテかね。スパーダの息子だとか」
「どこでそれを聞いた?」
「君の兄上から」
男はそう言うと事務所の中を見渡した。
何かを探している様子だった。
「…いつも共にいる女性はどこへ?」
「今ここにはいねぇぜ」
「残念だ。兄妹の感動の再会を期待していたのに」
エリまで利用しようとしていたのか。
ダンテは妹がここにいなかったことに安堵した。
「ひとの家庭事情に首突っ込むとか最低だな」
「…君の兄上から招待状を受け取っている」
とうとう来た。
ぎりぎりセーフだ。
今朝の列車でエリをこの街から遠ざけたのは正解だった。
どこまで安全と言えるかわからないが、確実にこの街にいるよりはましだ。
すぐに兄貴を止めて、そしてここに連れて帰る。
それまで待ってろよ、エリ。
「何あれ…」
エリは列車に揺られながら、天に向かってそびえ立つ塔を見た。
空には塔を中心にどす黒い雲が立ちこめている。
エリのところからは小指程度だが、ダンテの事務所にいたら、街の下から突然現れた巨大な塔の影響で粉塵がすごかっただろう。
列車内の乗客たちが騒いでいる。
まだここまでそれほど影響はないが、ホテルについたらテレビを付けてみよう。
現実に不気味な塔を見て、改めてダンテの話がリアルに感じられ、身体が強張っていく。
ダンテは無事だろうか。
バージルは…。
エリは胸のロザリオに手を当てた。
end.