【番外】
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レッドグレイブ駅の改札前に立っていると、どうしても初めてバージルさんに出逢った日のことを思い出してしまい、ひとりで胸を熱くしていた。
そろそろ待ち合わせの時間かなと腕時計を確認してから再び頭を上げれば、愛する旦那様と同じ髪色を見つける。
こういう時手を振るか迷って、出し掛けた手をぎゅっと握った。
歳が近い「息子」である彼は、私の姿に気付いてちゃんと駆け寄ってくれる。
性格とか中身はあまり知らないけれど、目元とか骨格がやっぱりバージルさんに似ていてちょっとだけ眩しく感じる。
「……久しぶり、ネロ」
戸惑いが声に出ていないといいなと思いながら私がぎこちなく笑えば、まだまだネロもどこか気まずそうに口角を上げた。
「久しぶり…悪いな、時間取っちまって」
「全然…大丈夫」
他でもないネロの方から連絡をもらったのが、1週間ほど前。
「私とVの馴れ初めが聞きたい」と提案された。
言われた時は正直嫌だなという感情が先に来て、ただ私も例の6月15日の話がVやバージルさん以外の視点から聞きたかったから、とりあえず電話を切ってちょっと悩んでいた。
少し離れたところで一部始終を見ていたバージルさんは、電話の相手が誰かまでは分かっていないようだけど、私の様子が変なことに気づいて近寄ってくる。
「…どうした、浮かない顔をして」
「えっと…ネロさんから電話があって…」
なんとなく言い出し辛くて視線を逸らしてもバージルさんの方は私をじっと見たままで、無言の圧力を感じる。
ネロさんは息子なのにどちらかと言えば「ひとりの男」として見ている印象があるし、私が話すまでずっとこのことばっかり考えてしまうかもしれない。
再び戻した視線はバージルさんの真っ直ぐな瞳とばっちり合ってしまい、もう折れるしかなかった。
「やっぱり…私とVの馴れ初めが気になるって。だから、2人で話したいそうです」
「ネロとアリアの2人で、か?」
それ以外に何があるんだろうとつっこみを入れたくなる気持ちが少し湧いたけど、黙って頷く。
バージルさんは腕を組んで考える素振りをした後、至って真面目な顔で口を開いた。
「とにかく…2人きりは駄目だ。許可は出せん」
やっぱり。
分かり切っていた答えに、改めてネロさんにお断りの連絡を入れようと思い受話器を握る。
その時、相変わらず腕組みしたままのバージルさんから出た言葉は意外なもの。
「…俺も行こう」
え!?と思ったけれど、考えを聞いたらとりあえず納得できてしまい…今日になった。
「…私の好きなお店でいいかな?」
ネロにはフォルトゥナからレッドグレイブまでわざわざ来てもらった。
私がエスコートしなくちゃと1歩足を踏み出して、意識的に笑い掛ける。
「話ができればどこでもいい」
「良かった。私も同じ気持ち」
Vやバージルさん以外の男性と並んで歩くことなんて私の人生ではなくて、何を話したらいいか悩む。
無言なのもどうかなと思ったけれど、変な話をするよりはいいかと結局道中何も話さず、お店に到着した。
店員さんに人数を伝えて4人掛けテーブルに案内され、入口が見える奥の椅子に座る。
私たちの独特な気まずさは変わらなくて、向かい合わせになったまま沈黙が流れた。
少ししてネロの後ろからよく知ったシルエットが現れた時は思わず微笑んでしまって、ネロは思いっきり不思議そうな顔をする。
気配で気付くのとほぼ同時、ワイシャツ姿で黒髪をさっと結った愛しいひとが私たちの間に確かな存在感を放ち仁王立ちした。
「人の妻と逢い引きとは…いい度胸だな」
「V!?」
Vは驚くネロに表情を変えることもなく、私の隣の椅子を引いて静かに腰掛ける。
座る仕草をしている時の結び損ねた前髪が顔に掛かっているのが艶やかで、もう自分の「夫」なのに綺麗だなと思ってしまった。
「逢い引きってよ…俺はお前の話を聞きたくて」
「はじめから俺に聞けばいいだろう」
「ぜってぇ話さないだろ…」
2人の関係性が分からないけれど、何となく威圧感を放っているVにネロがたじろいていると言うか呆れていると言うか、どこか押されている印象を受ける。
「ごめん!騙すようなことして…」
とにかくネロは今日私と2人で話をすると思っていただろうから、顔の前に両手を合わせて謝罪した。
「まさか…初めからVも来る気だったのか?」
「そうなの」
2人っきりはダメだって言うからとは言わずに頷けば、Vがテーブルに肘をついて両手を組んだ。
「当たり前だろう、アリアは俺の妻だ」
「…知ってるっつーの」
目を細め少し眉間にシワを寄せたネロは完全に面倒くさいという雰囲気を醸し出している。
バージルさんやVのこの感じがなんなのかよく分からない。
ちょっと困るけれど不思議と嫌だという感情もなくて、ただただネロには申し訳ない。
とりあえず私は傍観者になっていようと黙ったままでいれば、改めてVの全身を眺めたネロが、続けて口を開いた。
「てか、お前がワイシャツ着てるとめちゃくちゃ違和感」
「1ヶ月」から解放されて、必要性があれば今もVが現れる。
洋服も見慣れた面積少なめの黒革よりも、今のレッドグレイブに似合う「普通の服」が増えてきていた。
私も最初の頃ちょっとだけ違和感があったのは内緒にしておいて、そういうVはと言えば例の黒服を思い出しているのか、すぐに返答はせずに静かな声で囁く。
「むしろ…アレが服とは言えん」
「どういうことだよ…そもそもどこで手に入れたんだ」
「興味があるのか?意外だな」
「いや、ねぇよ。これっぽっちも」
私もどこで調達したものかは知らないけれど、だいたいネロと同じ感想を抱いてしまう。
Vの趣味とVが着ていた服は、結婚した今もどうにも結び付かない。
また後で覚えていたら聞いてみようと思いながら、なんだか2人の会話のテンポがいいような気もしていた。
「…ねぇV、もしかして2人は結構仲がいい?」
姿は違えど父親とその息子、案外仲良しなのかも。
いや、もしかしたらVの姿の方が素直に話ができるのかもしれない。
逆もまた然りで、ネロも何倍かフレンドリーな印象。
2人は私の質問を受けて同時にきょとんとした後、Vがネロの方を見つめた。
「……どうだ?」
「俺に振るか?」
Vの態度にネロは再びのジト目。
予想外に返された質問にどうするんだろうと思っていたら、緑色の瞳が今度は私を捉える。
「…さて、アリア。この店のおすすめを教えてくれ」
「結局スルーかよ」
ネロのつっこみにも反応する気配がなくVが真っ直ぐに見つめてくるので、私もいっそネロを置いてメニューを手に取った。
でもこのお店は悪魔憑き時代に何回か通っていたから、すでに心の中で注文するものは決まっている。
「…えっとね、この栗とカシスのモンブランかな」
「1度試してみよう」
Vはメニューの文字を読む訳でもなく、私の発言を聞いただけでほんの少し瞳を細めて微笑んだ。
何気に一緒にはまだ来店しておらず、自分の嗜好よりも私の「お気に入り」をまたひとつ知れたのが嬉しかったのかな?なんて、密かに惚気てしまう。
「おいおい…今度は俺そっちのけでデートか?」
ネロのその発言に慌てたのは私の方で、メニューを見やすいように開いて差し出した。
「ネロは何にする?」
完全に主導権というか、この場を支配しているのがVになっていて、ネロは呆れて溜め息をつきながらも笑っている。
「2人と同じのでいいぜ、もう」
「…投げやりなのは好かんな」
「あー、ハイハイ」
望んで選んだのかはわからないけどショートケーキをチョイスして店員さんにそれぞれオーダーすれば、さっきまでのやりとりが嘘みたいに、私たちの間には少しの沈黙がやって来た。
私から何か話題を振るにしても、この状況でどこまで6月15日のことを聞いたらいいか分からないし、とりあえず黙っておく。
「…間がもたんな」
やがてVが唐突に右腕をかざし、すぐに察してしまった。
グリフォンを召喚して代わりに話してもらおうとか?
でもここはカフェの中だし、他の人から見たらペットに見えるかもしれない。
懐かしい黒い粒子が大きな鳥の形になって、翼をはためかせてからVの腕に留まる。
「よォ〜!なんだヨ?家族団らんのひと時ってヤツ〜?」
「おいおい、V!ここでソレはまずいだろ!?」
ネロが立ち上がる勢いで叫ぶと同時、周りのお客さんがこっちに注目しざわついている。
私が初めてグリフォンに出逢った時のように「鳥が喋った!?」だとか「本物の鳥!?」とか、色々言われていてグリフォンは眉毛のような部分をひそめた。
「チョイ待て。揃いも揃ってソレだとか生きてるか?とかうるせェな。今目に映ってるのが真実だ!バーカ」
Vの腕に留まったまま翼を大きく広げて主張するグリフォンに、とうとう店員さんがこっちに走ってやって来る。
間違いなく私たちを注意するか摘み出すためで、私はあくまでも冷静に口を開く。
「…グリフォン、さすがに状況的に黙った方が良さそうだよ」
「アリアまでそんなこと言うのォ〜…ってVちゃん!!」
店員さんが辿り着く前に、さすがのVもグリフォンを再びその身に戻した。
彼は今まで確かに動いていたものがいなくなって目を丸くしている。
…が、責任感が強い性格なのかきちんと注意をしてくれる。
「ごめんなさい。気をつけます」
「営業妨害になったなら詫びよう…今技の練習をしていた」
「彼、魔術師なんです」
私の説明に合わせてVは何の変哲もない床を指し、今度は黒い液体からシャドウが現れ、その低くく野生的な鳴き声がカフェ全体に響き渡り、再度店内は響めきに包まれた。
久しぶりに街中で外に出してあげられたのに、これ以上すると他のお客さんが怖がってしまうかもしれない。
「シャドウ、おいで」
私がテーブルの方に手招きして駆け寄ってくるのに合わせて、Vがシャドウを「帰還」させる。
私たちのやりとりに、店員の彼はまた口を開けたままになっている。
「…これが俺の能力だ」
「周りの皆さんにご迷惑になるのでこれっきりにします。いつも素敵な空間をありがとうございます」
状況的にチップを多めに渡して、少ししたら引き下がってくれた。
良かった、摘み出されたりはしなかった。
でも、顔だけはしっかり覚えられてしまったかもしれない。
次の来店時が早くも心配になりつつ、とりあえず無事に紅茶とケーキが運ばれて来る。
「…お前ら、似た者夫婦だな」
今までの流れで私とVに何か通じるものを感じたのか、ネロがぽつりと呟いた。
似た者夫婦…。
似た者夫婦なんだろうか。
もともとそうなのか段々そうなったのか、自分では分からない。
「Vはともかく…アリアまでなんか、肝が据わってるっつーか…」
ティーカップに口を付け私たち2人を交互に見ながらそう続け、何度目かの溜め息をつく。
その理由はさっきのグリフォンとシャドウの件だろう。
勿論周りに危害は加えていないけれど、かなり騒がせてしまった。
少しは反省し、でも、ネロが自然と私の名前を読んでくれたのはちょっと嬉しい。
「そうだろう」
一方でVの方も嬉しいポイントがあったのか、口角を上げて静かに紅茶を啜っている。
すぐにVの言っている意味が分からず、ネロの発言を思い返せば、私が「肝が据わっている」と言われたのを喜んでいるみたい。
「…それって褒めてる?」
「勿論だ」
一般的な褒め言葉とは違う気がしてつっこみを入れれると、また私だけの特別な優しい笑みをくれて思わず口をつぐんでしまった。
そして遅れてティーカップを手にした時、気付く。
私たちを見るネロの瞳が、何故かまたジト目になっている。
「とりあえず、世間に迷惑かけるようなことはするなよ…」
分かってはいたけれど、スパーダの血族の中でネロはかなりの常識人だ。
きっと育ててくれた人たちが良い方だったんだろう。
私は更に自分の中で反省の心を強くした。
「ごめん…調子に乗りました…」
「アリア、何故謝る?」
Vは少しも悪いと思っていないのか、首を傾げて私の瞳をじっと見る。
まるで純粋な少年みたいなそれに、心がぐらつくのが分かった。
そう、別に周りに害を及ぼしたとかではないんだ。
騒がせてしまったけれど、怪我をさせた訳でもない。
グリフォンやシャドウもせっかく平和な街で過ごせる機会があるんだから、今度はペット同伴可のカフェでも利用してみよう。
私がやっとお気に入りのケーキをひとくち頬張れば、お客さんのひとりで一部始終を見ていた髭の老紳士が近づいて来る。
「…失礼。君、サーカスに興味はないかな?」
まさかの提案に咽そうになって、Vの方は思いっ切り眉間に皺を寄せている。
ネロは吹き出して大声で笑い、私たちのやりとりは再びカフェ中に響いた。
end.
そろそろ待ち合わせの時間かなと腕時計を確認してから再び頭を上げれば、愛する旦那様と同じ髪色を見つける。
こういう時手を振るか迷って、出し掛けた手をぎゅっと握った。
歳が近い「息子」である彼は、私の姿に気付いてちゃんと駆け寄ってくれる。
性格とか中身はあまり知らないけれど、目元とか骨格がやっぱりバージルさんに似ていてちょっとだけ眩しく感じる。
「……久しぶり、ネロ」
戸惑いが声に出ていないといいなと思いながら私がぎこちなく笑えば、まだまだネロもどこか気まずそうに口角を上げた。
「久しぶり…悪いな、時間取っちまって」
「全然…大丈夫」
他でもないネロの方から連絡をもらったのが、1週間ほど前。
「私とVの馴れ初めが聞きたい」と提案された。
言われた時は正直嫌だなという感情が先に来て、ただ私も例の6月15日の話がVやバージルさん以外の視点から聞きたかったから、とりあえず電話を切ってちょっと悩んでいた。
少し離れたところで一部始終を見ていたバージルさんは、電話の相手が誰かまでは分かっていないようだけど、私の様子が変なことに気づいて近寄ってくる。
「…どうした、浮かない顔をして」
「えっと…ネロさんから電話があって…」
なんとなく言い出し辛くて視線を逸らしてもバージルさんの方は私をじっと見たままで、無言の圧力を感じる。
ネロさんは息子なのにどちらかと言えば「ひとりの男」として見ている印象があるし、私が話すまでずっとこのことばっかり考えてしまうかもしれない。
再び戻した視線はバージルさんの真っ直ぐな瞳とばっちり合ってしまい、もう折れるしかなかった。
「やっぱり…私とVの馴れ初めが気になるって。だから、2人で話したいそうです」
「ネロとアリアの2人で、か?」
それ以外に何があるんだろうとつっこみを入れたくなる気持ちが少し湧いたけど、黙って頷く。
バージルさんは腕を組んで考える素振りをした後、至って真面目な顔で口を開いた。
「とにかく…2人きりは駄目だ。許可は出せん」
やっぱり。
分かり切っていた答えに、改めてネロさんにお断りの連絡を入れようと思い受話器を握る。
その時、相変わらず腕組みしたままのバージルさんから出た言葉は意外なもの。
「…俺も行こう」
え!?と思ったけれど、考えを聞いたらとりあえず納得できてしまい…今日になった。
「…私の好きなお店でいいかな?」
ネロにはフォルトゥナからレッドグレイブまでわざわざ来てもらった。
私がエスコートしなくちゃと1歩足を踏み出して、意識的に笑い掛ける。
「話ができればどこでもいい」
「良かった。私も同じ気持ち」
Vやバージルさん以外の男性と並んで歩くことなんて私の人生ではなくて、何を話したらいいか悩む。
無言なのもどうかなと思ったけれど、変な話をするよりはいいかと結局道中何も話さず、お店に到着した。
店員さんに人数を伝えて4人掛けテーブルに案内され、入口が見える奥の椅子に座る。
私たちの独特な気まずさは変わらなくて、向かい合わせになったまま沈黙が流れた。
少ししてネロの後ろからよく知ったシルエットが現れた時は思わず微笑んでしまって、ネロは思いっきり不思議そうな顔をする。
気配で気付くのとほぼ同時、ワイシャツ姿で黒髪をさっと結った愛しいひとが私たちの間に確かな存在感を放ち仁王立ちした。
「人の妻と逢い引きとは…いい度胸だな」
「V!?」
Vは驚くネロに表情を変えることもなく、私の隣の椅子を引いて静かに腰掛ける。
座る仕草をしている時の結び損ねた前髪が顔に掛かっているのが艶やかで、もう自分の「夫」なのに綺麗だなと思ってしまった。
「逢い引きってよ…俺はお前の話を聞きたくて」
「はじめから俺に聞けばいいだろう」
「ぜってぇ話さないだろ…」
2人の関係性が分からないけれど、何となく威圧感を放っているVにネロがたじろいていると言うか呆れていると言うか、どこか押されている印象を受ける。
「ごめん!騙すようなことして…」
とにかくネロは今日私と2人で話をすると思っていただろうから、顔の前に両手を合わせて謝罪した。
「まさか…初めからVも来る気だったのか?」
「そうなの」
2人っきりはダメだって言うからとは言わずに頷けば、Vがテーブルに肘をついて両手を組んだ。
「当たり前だろう、アリアは俺の妻だ」
「…知ってるっつーの」
目を細め少し眉間にシワを寄せたネロは完全に面倒くさいという雰囲気を醸し出している。
バージルさんやVのこの感じがなんなのかよく分からない。
ちょっと困るけれど不思議と嫌だという感情もなくて、ただただネロには申し訳ない。
とりあえず私は傍観者になっていようと黙ったままでいれば、改めてVの全身を眺めたネロが、続けて口を開いた。
「てか、お前がワイシャツ着てるとめちゃくちゃ違和感」
「1ヶ月」から解放されて、必要性があれば今もVが現れる。
洋服も見慣れた面積少なめの黒革よりも、今のレッドグレイブに似合う「普通の服」が増えてきていた。
私も最初の頃ちょっとだけ違和感があったのは内緒にしておいて、そういうVはと言えば例の黒服を思い出しているのか、すぐに返答はせずに静かな声で囁く。
「むしろ…アレが服とは言えん」
「どういうことだよ…そもそもどこで手に入れたんだ」
「興味があるのか?意外だな」
「いや、ねぇよ。これっぽっちも」
私もどこで調達したものかは知らないけれど、だいたいネロと同じ感想を抱いてしまう。
Vの趣味とVが着ていた服は、結婚した今もどうにも結び付かない。
また後で覚えていたら聞いてみようと思いながら、なんだか2人の会話のテンポがいいような気もしていた。
「…ねぇV、もしかして2人は結構仲がいい?」
姿は違えど父親とその息子、案外仲良しなのかも。
いや、もしかしたらVの姿の方が素直に話ができるのかもしれない。
逆もまた然りで、ネロも何倍かフレンドリーな印象。
2人は私の質問を受けて同時にきょとんとした後、Vがネロの方を見つめた。
「……どうだ?」
「俺に振るか?」
Vの態度にネロは再びのジト目。
予想外に返された質問にどうするんだろうと思っていたら、緑色の瞳が今度は私を捉える。
「…さて、アリア。この店のおすすめを教えてくれ」
「結局スルーかよ」
ネロのつっこみにも反応する気配がなくVが真っ直ぐに見つめてくるので、私もいっそネロを置いてメニューを手に取った。
でもこのお店は悪魔憑き時代に何回か通っていたから、すでに心の中で注文するものは決まっている。
「…えっとね、この栗とカシスのモンブランかな」
「1度試してみよう」
Vはメニューの文字を読む訳でもなく、私の発言を聞いただけでほんの少し瞳を細めて微笑んだ。
何気に一緒にはまだ来店しておらず、自分の嗜好よりも私の「お気に入り」をまたひとつ知れたのが嬉しかったのかな?なんて、密かに惚気てしまう。
「おいおい…今度は俺そっちのけでデートか?」
ネロのその発言に慌てたのは私の方で、メニューを見やすいように開いて差し出した。
「ネロは何にする?」
完全に主導権というか、この場を支配しているのがVになっていて、ネロは呆れて溜め息をつきながらも笑っている。
「2人と同じのでいいぜ、もう」
「…投げやりなのは好かんな」
「あー、ハイハイ」
望んで選んだのかはわからないけどショートケーキをチョイスして店員さんにそれぞれオーダーすれば、さっきまでのやりとりが嘘みたいに、私たちの間には少しの沈黙がやって来た。
私から何か話題を振るにしても、この状況でどこまで6月15日のことを聞いたらいいか分からないし、とりあえず黙っておく。
「…間がもたんな」
やがてVが唐突に右腕をかざし、すぐに察してしまった。
グリフォンを召喚して代わりに話してもらおうとか?
でもここはカフェの中だし、他の人から見たらペットに見えるかもしれない。
懐かしい黒い粒子が大きな鳥の形になって、翼をはためかせてからVの腕に留まる。
「よォ〜!なんだヨ?家族団らんのひと時ってヤツ〜?」
「おいおい、V!ここでソレはまずいだろ!?」
ネロが立ち上がる勢いで叫ぶと同時、周りのお客さんがこっちに注目しざわついている。
私が初めてグリフォンに出逢った時のように「鳥が喋った!?」だとか「本物の鳥!?」とか、色々言われていてグリフォンは眉毛のような部分をひそめた。
「チョイ待て。揃いも揃ってソレだとか生きてるか?とかうるせェな。今目に映ってるのが真実だ!バーカ」
Vの腕に留まったまま翼を大きく広げて主張するグリフォンに、とうとう店員さんがこっちに走ってやって来る。
間違いなく私たちを注意するか摘み出すためで、私はあくまでも冷静に口を開く。
「…グリフォン、さすがに状況的に黙った方が良さそうだよ」
「アリアまでそんなこと言うのォ〜…ってVちゃん!!」
店員さんが辿り着く前に、さすがのVもグリフォンを再びその身に戻した。
彼は今まで確かに動いていたものがいなくなって目を丸くしている。
…が、責任感が強い性格なのかきちんと注意をしてくれる。
「ごめんなさい。気をつけます」
「営業妨害になったなら詫びよう…今技の練習をしていた」
「彼、魔術師なんです」
私の説明に合わせてVは何の変哲もない床を指し、今度は黒い液体からシャドウが現れ、その低くく野生的な鳴き声がカフェ全体に響き渡り、再度店内は響めきに包まれた。
久しぶりに街中で外に出してあげられたのに、これ以上すると他のお客さんが怖がってしまうかもしれない。
「シャドウ、おいで」
私がテーブルの方に手招きして駆け寄ってくるのに合わせて、Vがシャドウを「帰還」させる。
私たちのやりとりに、店員の彼はまた口を開けたままになっている。
「…これが俺の能力だ」
「周りの皆さんにご迷惑になるのでこれっきりにします。いつも素敵な空間をありがとうございます」
状況的にチップを多めに渡して、少ししたら引き下がってくれた。
良かった、摘み出されたりはしなかった。
でも、顔だけはしっかり覚えられてしまったかもしれない。
次の来店時が早くも心配になりつつ、とりあえず無事に紅茶とケーキが運ばれて来る。
「…お前ら、似た者夫婦だな」
今までの流れで私とVに何か通じるものを感じたのか、ネロがぽつりと呟いた。
似た者夫婦…。
似た者夫婦なんだろうか。
もともとそうなのか段々そうなったのか、自分では分からない。
「Vはともかく…アリアまでなんか、肝が据わってるっつーか…」
ティーカップに口を付け私たち2人を交互に見ながらそう続け、何度目かの溜め息をつく。
その理由はさっきのグリフォンとシャドウの件だろう。
勿論周りに危害は加えていないけれど、かなり騒がせてしまった。
少しは反省し、でも、ネロが自然と私の名前を読んでくれたのはちょっと嬉しい。
「そうだろう」
一方でVの方も嬉しいポイントがあったのか、口角を上げて静かに紅茶を啜っている。
すぐにVの言っている意味が分からず、ネロの発言を思い返せば、私が「肝が据わっている」と言われたのを喜んでいるみたい。
「…それって褒めてる?」
「勿論だ」
一般的な褒め言葉とは違う気がしてつっこみを入れれると、また私だけの特別な優しい笑みをくれて思わず口をつぐんでしまった。
そして遅れてティーカップを手にした時、気付く。
私たちを見るネロの瞳が、何故かまたジト目になっている。
「とりあえず、世間に迷惑かけるようなことはするなよ…」
分かってはいたけれど、スパーダの血族の中でネロはかなりの常識人だ。
きっと育ててくれた人たちが良い方だったんだろう。
私は更に自分の中で反省の心を強くした。
「ごめん…調子に乗りました…」
「アリア、何故謝る?」
Vは少しも悪いと思っていないのか、首を傾げて私の瞳をじっと見る。
まるで純粋な少年みたいなそれに、心がぐらつくのが分かった。
そう、別に周りに害を及ぼしたとかではないんだ。
騒がせてしまったけれど、怪我をさせた訳でもない。
グリフォンやシャドウもせっかく平和な街で過ごせる機会があるんだから、今度はペット同伴可のカフェでも利用してみよう。
私がやっとお気に入りのケーキをひとくち頬張れば、お客さんのひとりで一部始終を見ていた髭の老紳士が近づいて来る。
「…失礼。君、サーカスに興味はないかな?」
まさかの提案に咽そうになって、Vの方は思いっ切り眉間に皺を寄せている。
ネロは吹き出して大声で笑い、私たちのやりとりは再びカフェ中に響いた。
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