DmCD
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「エミリー、誕生日おめでとう」
「…なにこれ?」
徐に部屋にやって来たバージルは、入って来てすぐにそう言って微笑んだ。
言われて、ああ今日だったんだ、と他人事のように思う。
いつものように、彼は私にバースデープレゼントをくれる。
一緒に過ごす誕生日はこれで何回目だろう。
手渡された紺色のリングケースを開けると、ダイヤの指輪が入っていた。
もう長い付き合いだ。
勿論、指輪をもらうのは初めてじゃない。
「ありがとう」
一応口角を吊り上げお礼を言えば、彼の顔が近づいてくる。
短くキスされ、私は彼の胸板を押した。
「誕生日だからってべたべたしないでよ」
訂正。
誕生日だからとか関係ないんだった。
私に触りたい時は、私の意思に関係なく触る。
それがこのひと。
バージルはやっぱり私の発言はお構いなしに、あくまで柔らかく身体を包む。
振り解こうと思えばできる。
わかっていてやっている。
「エミリー。俺は君がこの世に生を受けて、本当に感謝している」
「…毎年聞いてるわ、その台詞」
「いいじゃないか、変わらないで」
変わらない、か。
少なくとも、私の想いは変わったと思う。
昔はただただ盲目に、彼を愛していた。
全部初めてだった。
こんなに気が合って、よくしてくれるひとは。
私は目を閉じ、バージルの胸にほんの少しだけ頬を擦り付け彼の腕を解いた。
「さ、もういいでしょ?プレゼントありがとう」
「相変わらずつれないな」
「嬉しかった、本当に」
何回かの誕生日だから、盛大にやる必要はないし、大喜びするほど子供でもない。
テンプレでも毎回お祝いしてくれるのは、一応ありがたいと思っている。
もう出て行くかと思いきや、バージルは再び私に近づいて、額に唇を押し当てた。
「後で食事に行こう。レストランを予約してある」
そうだった。毎年こうなる。
多分レストランで待っているのは、大きなケーキとご馳走。
私はこの先待ち受けている情景を脳に思い浮かべて、バージルに微笑んで返した。
きっと彼は女の子には皆、私にしているようなことをする。
それが偶々「私」だっただけで。
彼にとって、「私」はアクセサリーや道具のようなもの。
それがときどき虚しくもあるし、なんでいつまでも彼の側にいるんだろうと考える。
彼の「本質」に気づいてしまった私は、きっと不幸なのかもしれない。
誕生日の次の日。
一応貰った指輪を身につけ、まじまじと眺めているとドアがノックされた。
「エミリー」
ああ、バージルか。
まあ、この施設内で私の部屋に来るのは大半がこの人だ。
あくまで何の感情もない顔で彼を見れば、彼は相変わらずにこにこしながら口を開く。
「この仕事、お願いできないか」
「…ほんと人遣い荒いのね、あなたって」
「俺以外はエミリーしかできないんだ」
そう言われて、なんだかんだ嫌じゃない自分がいて。
必要とされている、そう喜んでいる自分。
こういう瞬間だけは、今も昔も変わらなかった。
私はバージルに近づき、書類を受け取る。
「その指輪、してくれたんだな」
「…ああ、せっかく貰ったしね」
「嬉しいよ」
彼は口角を吊り上げ私にキスし、出て行った。
任務を遂行するために、早速デスクに向かう。
この指輪は「首輪」みたいなもの。
わかってる。
わかってるのに、外せない。
end.
5/5ページ