【第1章】夢のようなひと
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初めこの店に留まると決めた時、正直1番に利用価値があるというのが大きかった。
この身体にはもう、あまり力が残されていないことはわかっていた。
だからこそネロと別れて、1ヶ月この街に残ることを決めた。
食事も寝る場所も提供されるのは、本当にありがたいことだ。
以前の「自分」ならば、力もなくただ守りたいという気持ち1点のみでこの店に残った彼女を、愚かだと笑っただろう。
彼女はどこか、死ぬことを恐れてはいない気がした。
死よりも大切なひとの思い出がなくなることを、恐れているようだった。
自分のことよりもたとえ肉親であっても、ひとのことばかり考えている彼女。
まっすぐ過ぎる行動。
幼い純粋さも相まって、それはどこか美しくさえ思えた。
今のアリアは自分が死んでも、仕方ないと納得するような潔さがある。
それは彼女の魅力であり、同時に悪いところだ。
この数日で、少なからず彼女に肩入れし始めている自分がいる。
それはきちんと、わかった上で彼女に接しているつもりだ。
4日目の朝。
彼女は以前と同じように、俺が目覚めた時にはすでに隣にはいなかった。
行き先は考えられる限り、ひとつしか思い当たらない。
壊れかけた寝室へと向かうと開け放されたドアから、庭に咲き乱れるデイリリーを、床に座ってぼんやり眺めているアリアの後ろ姿があった。
それは淋しげにも満たされているようにも見え、なんだか彼女の心情に探りを入れたくなる。
すぐに声はかけず、静かな足取りで1歩ずつ近づいて、手を伸ばせば届く距離まで来てやっと口を開いた。
「アリア」
「あ、V、おはよう」
振り向いた彼女は、声を掛けるまでどんな表情をしていた予想もつかないくらい和かに微笑む。
彼女も俺に懐き始めているのはわかっている。
そうなったのは、もともとは俺の彼女に対するささやかな好奇心のせいだ。
そうすると、さしずめ今の彼女に色彩を与えたのは俺ということになる。
1ヶ月という期限付きの関係だというのに。
最初のうちは、無理矢理力尽くでこの街から引き離すという手もあったはずだ。
考えて何故か自身の胸が少し痛むのがわかった。
初めから、俺がこの店を見つけなければ良かった。
しかしそうしたら、アリアはひとりで死んでいたのかもしれない。
何故なのだろう。
こんなたったひとりの女に、感情を揺さぶられるなど。
「早く起きて、昨日までのことを日記に書いてたんだ」
「…そうか」
アリアは昨日見せつけてきたノートを、両手で持って目を細める。
それに応えて同じように返しながら、隣に腰を下ろす。
彼女にとって今ここで起きていることは、確かに忘れたくない時間であることの証。
数日でそんなにも、俺とお前の距離は近づいてしまったのだろうか。
いや、本当はわかっている。
ただ俺は、怯えているんだろう。
俺が目的を果たす時、確実に彼女の傍に「俺」はいない。
このまま彼女といれば、俺の中の何かも変わるかもしれない。
彼女の中で何かが変わろうとしているのと、同じように。
それならば、何故出逢ったのが今なのか。
今でないと出逢えなかったのか。
「アリア…どうした」
ぼんやりと風に揺れるデイリリーを見つめて、たくさん考え事をしていたら、アリアが大きな瞳で覗き込んでいるのに気づいた。
「V、何考えてるんだろうと思って」
「…なんでもない」
彼女には言えなかった。
こんな矛盾した感情を。
たくさん隠している「俺」を許してほしいとは言わない。
俺は、お前に対してどうするべきか今また悩み始めた。
下手に思い出が残ればその先、より生きるのが辛くなるのは目に見えているのだから。
end.
この身体にはもう、あまり力が残されていないことはわかっていた。
だからこそネロと別れて、1ヶ月この街に残ることを決めた。
食事も寝る場所も提供されるのは、本当にありがたいことだ。
以前の「自分」ならば、力もなくただ守りたいという気持ち1点のみでこの店に残った彼女を、愚かだと笑っただろう。
彼女はどこか、死ぬことを恐れてはいない気がした。
死よりも大切なひとの思い出がなくなることを、恐れているようだった。
自分のことよりもたとえ肉親であっても、ひとのことばかり考えている彼女。
まっすぐ過ぎる行動。
幼い純粋さも相まって、それはどこか美しくさえ思えた。
今のアリアは自分が死んでも、仕方ないと納得するような潔さがある。
それは彼女の魅力であり、同時に悪いところだ。
この数日で、少なからず彼女に肩入れし始めている自分がいる。
それはきちんと、わかった上で彼女に接しているつもりだ。
4日目の朝。
彼女は以前と同じように、俺が目覚めた時にはすでに隣にはいなかった。
行き先は考えられる限り、ひとつしか思い当たらない。
壊れかけた寝室へと向かうと開け放されたドアから、庭に咲き乱れるデイリリーを、床に座ってぼんやり眺めているアリアの後ろ姿があった。
それは淋しげにも満たされているようにも見え、なんだか彼女の心情に探りを入れたくなる。
すぐに声はかけず、静かな足取りで1歩ずつ近づいて、手を伸ばせば届く距離まで来てやっと口を開いた。
「アリア」
「あ、V、おはよう」
振り向いた彼女は、声を掛けるまでどんな表情をしていた予想もつかないくらい和かに微笑む。
彼女も俺に懐き始めているのはわかっている。
そうなったのは、もともとは俺の彼女に対するささやかな好奇心のせいだ。
そうすると、さしずめ今の彼女に色彩を与えたのは俺ということになる。
1ヶ月という期限付きの関係だというのに。
最初のうちは、無理矢理力尽くでこの街から引き離すという手もあったはずだ。
考えて何故か自身の胸が少し痛むのがわかった。
初めから、俺がこの店を見つけなければ良かった。
しかしそうしたら、アリアはひとりで死んでいたのかもしれない。
何故なのだろう。
こんなたったひとりの女に、感情を揺さぶられるなど。
「早く起きて、昨日までのことを日記に書いてたんだ」
「…そうか」
アリアは昨日見せつけてきたノートを、両手で持って目を細める。
それに応えて同じように返しながら、隣に腰を下ろす。
彼女にとって今ここで起きていることは、確かに忘れたくない時間であることの証。
数日でそんなにも、俺とお前の距離は近づいてしまったのだろうか。
いや、本当はわかっている。
ただ俺は、怯えているんだろう。
俺が目的を果たす時、確実に彼女の傍に「俺」はいない。
このまま彼女といれば、俺の中の何かも変わるかもしれない。
彼女の中で何かが変わろうとしているのと、同じように。
それならば、何故出逢ったのが今なのか。
今でないと出逢えなかったのか。
「アリア…どうした」
ぼんやりと風に揺れるデイリリーを見つめて、たくさん考え事をしていたら、アリアが大きな瞳で覗き込んでいるのに気づいた。
「V、何考えてるんだろうと思って」
「…なんでもない」
彼女には言えなかった。
こんな矛盾した感情を。
たくさん隠している「俺」を許してほしいとは言わない。
俺は、お前に対してどうするべきか今また悩み始めた。
下手に思い出が残ればその先、より生きるのが辛くなるのは目に見えているのだから。
end.