Dark Chocolate
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「やべぇ、俺こんな飯食うの本当に何年ぶりだよ」
2人の兄それぞれ再会を果たした後、私は事務所のキッチンを借りて料理を作った。
もともと作る予定ではなかったけれど、時を経て兄妹3人が揃ったことをお祝いするために。
買い出しにもちゃんと行って、ディナーの準備はばっちりだ。
「奇遇だな、俺もだ」
「あんたはまぁ…な」
今まで家族がいた私にとってはありふれた家庭料理だけど、バージルとダンテはとても喜んでくれている。
それが嬉しくて、私は久々にはしゃいで口を開いた。
「いっぱい食べてね。久しぶりに張り切っちゃった!」
「ありがとな、エリ。来てもらったのに作ってもらって悪いな」
ダンテが私に労いの言葉をかけてくれる。
料理が得意だった私たちの母エヴァの影響で、私も料理するのは好きだ。
だから全く苦痛にならない。
「本当に気にしないで。たくさん作るのはむしろ嬉しいから」
「お前のような妻がいたら…帰宅するのが毎日楽しいだろうな」
「え?もう…バージル」
バージルはバージルで唐突にそんなことを言うものだから、再会したばかりの兄の言葉にも、胸がときめくのがわかった。
それが兄として言われているのか、男として言われているのか。
バージルに会うのは本当に久々過ぎて、どうしても男性として意識してしまう。
「あっ、そういや、前仕事の礼でもらったワインがあるぜ。持ってくる」
ダンテもお祝いのために気を利かせ、1度席を立つ。
私とバージル2人だけの空間に、今気になったことを聞いておこうと思った。
バージルとは子どもの頃以来だから色々気になることは多いけど、1番はこれ。
「バージルは恋人とかいないの?」
「いない。お前と同じでフリーだ」
バージルは何故か自信満々で、即答する。
左手には何もなかったから、結婚していないのは何となく察していたけれど。
「そうなんだ。バージルかっこいいのに、皆見る目がないんだね」
「エリ…」
にっこり微笑むと、何故かまたバージルがどこか嬉しそうに口角を上げる。
なんだろう、私何か変なこと言ったかな?
あ、かっこいいって言葉が単純に嬉しかったのかな?
少ししてダンテが赤ワインを片手に私たちの前に現れて、にやにやしながらバージルの顔を見た。
「バージルはな、未婚の父ってやつだ。息子もいるし」
「えっそうなの?」
「そうなんだよ、俺も知った時驚いた」
バージルも、私と同じで「訳あり」なんだ。
私の場合はちょっと…いや、かなり違うかもしれない。
もう過ぎ去った昔、私はダンテに当時の彼を紹介して…そして「婚約破棄」された。
ダンテとは彼を紹介してから疎遠になって、結局今でさえその事実を言えずにいる。
全く同じではないけど、話しにくい過去をもつ人が身近にいることが、私にはとても救いになる気がした。
ダンテの発言を受けて、バージルは何故かダンテを睨み付ける。
未婚で息子がいるにしても、バージルにあまり触れて欲しくない過去があるのは、私と同じ。
だから、特に驚かなかった。
大人になるって、やり直したい過去が大なり小なり出て来るって、私はもう知っている。
「そっか、皆色々あったんだね…」
私が遠い目をしながらぽつりと零すと、ダンテは赤ワインを右手に掲げて、空気を変えるように宣言する。
「とりあえずよ、早く食おうぜ…!エリが作ってくれた飯が冷めちまう」
「うん、そうだね。ダンテ!」
気を取り直して、私たちは再会を祝してちょっとしたパーティーをスタートした。
子どもの頃はお菓子やジュースだったけれど、もうお互い大人だからそれはお酒と肴に代わる。
1度お酒ですごい失敗をしたことがある私は、セーブしながら飲み進めた。
「エリ…お前に会えて本当に良かった…」
「バージル…」
「お前の漆黒の髪も瞳も、あの頃と…全く…変わらない」
「ありがとう、バージル」
バージルが早々に酔い始め、とろんとした瞳でさっきから私をずっと見つめてくる。
口説き文句なのかなんなのか、それこそずっとずーっと同じような歯の浮くような台詞を続ける。
子どもの頃からどこかきりっとした空気をまとっているバージルが、まさかお酒に呑まれるとこんな風になっちゃうなんて。
「あーごめんな、エリ。こいつ、酔うとタチが悪いな」
「ダンテ!俺は…酔ってなんか、いない…」
「十分酔ってるぜ、クソ兄貴」
とうとうテーブルに突っ伏して眠りに落ちてしまったバージルに、ダンテは苦笑した。
そうしてダンテの青い瞳が、今度こそ私だけに向けられる。
真っ直ぐなそれに、何故か私の心臓は1回とくんと高鳴った。
「エリ、こっちで呑もうぜ。ほら」
「うん」
ダンテが立ち上がり手招きして、私たちはソファに並んで座った。
ダンテとは10年ぶりだ。
なんでだろう。
緊張なのか、やっぱり胸がどきどきする。
なんでかな?
隣にいるのは、兄であるダンテなのに。
「お前さ、離婚したなら言ってくれりゃ良かったのに」
「違うの…1度も結婚してない。あの後婚約、破棄されたの…」
「…は?マジ?」
「ずっと言いたかったけど…ダンテ、私の電話すぐ切っちゃうじゃない…」
それで私が何回悩んだことか。
悩みは益々私に、受話器を握らせた。
今は逃げたり隠れたりできない状況だから、ダンテの身体があからさまにぎくりと反応するのがわかった。
「それはだな…」
「大丈夫だよ、今こうして会ってくれたから」
私はダンテに安心してほしくて、にっこりと微笑んでみせる。
別にダンテを責めるつもりは全くない。
あの当時の彼にプロポーズされても、私の頭の中で、何故か赤がこびりついて離れなかった。
ただ、それだけのことなんだ。
だからそれこそが、「理由」なんだ。
「ダンテ。私がこうなっちゃったの、なんでだと思う?」
「え…」
私からダンテの顔を覗き込んでブルーの瞳を見つめると、ダンテは目を丸くしている。
多分こんなこと、少しも考えていないんだろうな。
だからこれは、私の電話をすぐに切っちゃうダンテへの細やかな仕返し。
「私が…ブラコンだったから…だよ」
「!?」
あ、ダンテすごく驚いてる。
私の「サプライズ」も成功したみたいで良かった。
今自分も、バージルと同じように酔っているのかもしれない。
だけど本音だからいいの。
「私との電話、今度はちゃんとしてね!ね、お願い。ダンテとバージル2人で。」
「ああ、勿論だ…これから毎日、させてくれ」
ダンテは口角を上げて、私にしっかりと約束してくれた。
馬鹿だなぁ、私。
何年経っても、ずっとずーっとブラコンなんだから。
でも、これから毎日がとても楽しみ。
end.