【第4章】今も変わらない何か
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色々とありつつもしっかり夕食まで共にしてしまった。
久しぶりに連続してきちんと人間のように食事している。
ダンテの事務所に帰宅すれば、昨日と同じくにやりとした表情で出迎えられる。
まさかアリアに会いに行く度にこうされるのかと、自然と目元に力が入った。
「おー、バージル。今日はどうだった?」
「貴様…毎回聞くつもりか」
「まぁな!オニーチャンが本気で恋してるの気になるじゃねぇか」
「恋…!?」
アリアのことは気になる。
似合わず花束をやるくらいには彼女を笑顔にしたいし、涙を見るのも不快だ。
今日、痛い程それを実感してしまった。
しかし第三者から改めて指摘されると、どうにも不愉快で思わず声を上げていた。
「今更そんなに動揺するなよ。ていうか、考えたら…まどろっこしいことやってねぇでVに聞いたら話が早いぜ?」
「俺にまた腹を貫けと…?」
「勿論、ちゃんと制御した状態でな」
そもそもアリアを見つけたのはVで、理にかなっている。
少し考えると、アリアがVに満面の笑みを向ける姿が真っ先に浮ぶ。
一気に胸にもやもやした何かが広がり、頭を横に振った。
「いや……駄目だ」
「なんでだ?」
「駄目なものは駄目だ」
「Vはあんただろ?」
「それでも、駄目だ」
ダンテの尋問を今度こそ振り切り、真っ直ぐに2階の自室に向かう。
自分でももう分かっている。これは嫉妬だ。
昼間アリアが、自身の中のグリフォンと対話している時も、俺は嫉妬していた。
だから、あのような衝動的な行動を…。
無理矢理唇を奪って、俺に意識を向けようとしていた。
改めて自らの行動を恥ずかしく思い、とりあえず落ち着こうとベッドに腰掛ければ、ブレイクの詩集が目にとまる。
手に取りページを捲ると押し花が挟んであるため、自然と「ゆりの花」に行き着いた。
ここにアリアの名前が書かれていたから、俺は彼女に興味を持った。
最初は、抜け落ちた記憶を取り戻したい気持ちが大きかった。
アリアを見つけさえすれば、俺は解放されるのだと。
だが、それは甘かった。
言われるまま望まれるままアリアと過ごすのは、不思議と苦痛ではなかった。
今日彼女は…魔力で創り出した花瓶に、とても興味を持っていた。
今まで人間に自分の力を見せるのはほとんどなかった。
必要性がなかったからだ。
我ながら驚くほど平和な使い方をしてしまったが、アリアが喜んでいたから間違いではなかったのだろう。
瞳を輝かせて魔力の結晶を見つめる彼女に、胸が温かくなるのを感じた。
アリアになら、もっと…。
もっと…?
そこまで考えてやめた。
ともかく俺は、これまで「記憶探し」の側面が大きかったのに、今は「アリアに会いたい」と思っている。
ブレイクの詩集を静かに閉じても、心が落ち着くどころか逆に昂ってしまった。
1度自覚すると最後まで確かめたい気持ちがどんどん湧き立ってしまい、アリアの店の電話番号をメモした紙切れを探す。
確認すれば時計は午後9時前。
1度自室を出て再び1階に降りると、タイミングよくダンテはシャワールームにいるようだ。
デスクの上にある電話の受話器を手に取り、迷いなくコールする。
「アリア…?」
「…バージルさん?どうしたんですか?」
「今からそちらに行ってもいいか」
「今から…!?いいですけど、どうやって…」
「すぐ行く」
「すぐ…!?」
冷静になれば先程まで会っていたのだから、驚くのも無理はない。
アリアは声を張り上げていたが、電話を切って伝えた通りにすぐさま閻魔刀を手に取り、鯉口を切る。
一応事務所の家具を傷付けないように注意し十字に切り裂いて、中に足を踏み入れれば、そこは思惑通りアリアの店の中。
アリアは目を見開いた後俺の傍に駆け寄って、その時初めてパジャマ姿に気付き、ほんの少しだけ申し訳なくなった。
「バージルさん!」
「…アリア、すまん。こんな夜更けに」
「ううん、大丈夫。それが…閻魔刀?」
瞳を細めてから、すぐに俺が握っている閻魔刀に視線を向ける。
今一部始終を見ていたのだから、気になるのは無理もない。
だが、1度も教えていないのに名前を知っているのが引っ掛かる。
「ああ…知っているのか?」
「Vがある程度のことは教えてくれていたから」
一体やつはどこまでアリアに伝えたんだろうか。
まさか、俺のこれまでの全てを?
自身が関与しない間に勝手にされるのは不快なところも勿論あったが、知った上で目の前の彼女がここにいるのならいいかとも思えた。
「閻魔刀があったから…Vが生まれたんだよね」
アリアの言葉に確信し、愛おしげに全体を見つめるその姿に、胸の奥が熱を帯びるのが分かる。
全てを聞いた上で俺を待ち、ずっと「俺」を好いていてくれた彼女に、改めて嬉しいと思ってしまっている。
そうだ、俺は…もっと。
アリアの眼前に閻魔刀を差し出すと両手で受けたので、完全に手放し、持たせた。
「あ…」
「閻魔刀は意志を持つ刀。お前のことを覚えてもらう」
「は、はい…」
突然の行動に動揺しているようだが、両腕でしっかり抱き締めるように受け止めている。
まるで宝物を扱うかのような仕草を、まじまじと見つめてしまう。
「昼間もそうだが…初めて人間に己の魔力も魔具も見せた」
「…そうなの?」
俺がアリアに対してなんの躊躇いもなく情報を開示するからか、不思議そうに首を傾げられた。
今まで自分自身や所有物を大切にされた記憶があまりない。
しかし、アリアは「俺」を重んじてくれる。
血の繋がらない他人に、受け入れられている不思議な感覚。
今まででアリアだけが、それをくれる。
彼女の右肩に手をやれば、確かにその瞳に俺の姿が映っている。
「アリア。俺は…お前を、もっと知りたい。心の中まで」
素直に口に出した時、例の如く頭の中に何かがやって来た。
これは…
月が柔らかく照らす夜、俺はブレイクの詩集を読んでいる。
隣には彼女が座っている。
「私…もっと、あなたのこと知りたい」
そう言った彼女は、俺と目が合ったら何故かとても焦っているようだった。
「あっいや、素性とかじゃなくて、もっと、奥にあるもの」
また、思い出した。
最初にそう言ったのはアリアだった。
断片的な記憶が戻り、再び現在の彼女の姿が重なる。
苦しそうに見えたのか、閻魔刀を持っていない方の手を俺の腕に添えてくれていた。
「バージルさん…また…」
不安そうに眉間に力が入っていたので、頬に指を滑らせて顎に手を添えれば、段々表情が和らぐ。
「…お前が以前…俺に言ったんだな、同じように」
無意識だが、俺は繰り返している。
自分で求めていると思ったものは、過去に1度経験したものだった。
忘れているだけで、身体のどこかで覚えているらしい。
アリアの艶やかな唇に親指を滑らせ、ゆっくり触れる。
「今、ようやく理解した。俺がお前を3年間探し続けた理由」
「俺」はきっと、彼女に愛してもらいたいのだ。
全て自覚した時、アリアの真っ直ぐな視線に心臓が脈打つのを感じ、同時に彼女がゆっくり口を開く。
「その理由…聞いてもいい?」
極めて純粋な問いだが「お前に愛してほしかったから」などとは言えず、少し間を置いてから視線を逸らし、触れていた手も離した。
自身の耳が熱くなっているのには気づいたが、それだけはどうしようもない。
「…いや…駄目だ。それだけは言えん」
「…分かりました」
また隠し事をするなと言われるかと思い再びアリアを見れば、そっと微笑んでくれる。
「大丈夫。怒ってないし悲しんでもないから」
「…ああ」
どうやら、もう悟られているようだ。
ずっと任せていた閻魔刀をやっと受け取り、今日は俺から次の予定を切り出そうと口角を上げた。
「明日…閉店してから来てもいいか?」
「…はい、勿論!」
満面の笑みで返事してくれ、胸がじんと温かくなるのが分かる。
他者に受け入れられるというのは、こういう感覚なのかと改めて思った。
「…夕食も共にしたい。お前の好きなもので構わない」
「はい」
閉店してからというのは、店が開いている状態ではアリアとあまり交流できないと考えたからだった。
当たり前だが、他の客が来たら俺はそれを大人しく待っていなければならない。
すっかり今日この時に満足して、再び閻魔刀を構える。
「おやすみ、バージルさん」
「ああ…おやすみ、アリア」
おやすみなんて誰かに言ったのは、いつぶりだっただろうか。
end.