【第4章】今も変わらない何か
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アリアの日記。
俺のブレイクの詩集にあったのと同じデイリリーの押し花と、「V」への愛が綴られていた。
勿論全て読んだ訳ではない。
Vは、私の初恋。
生きる希望をくれたひと。
もう1度あなたに会いたい。
いつまでもずっとここで待ってる。
アリアに初めて出逢った時、記憶がないとストレートに告げたら、彼女は静かに涙を流した。
その答えが分かった気がした。
ずっと愛して待っていた男が、全て忘れている。
今考えれば当たり前のことだったが、アリアは俺に「V」を見たかったのだ。
彼女の一途さに、嬉しさと戸惑いが両方やって来た。
Vは俺だが、全て俺ではない。
好奇心に負けて日記を読んだことを、少し後悔した。
読まなければ、今自分に向けられる笑顔を、俺へのものだとして素直に受け入れられたのに。
「私は…最初こそVの面影を探していたかもしれないけど、今バージルさんと一緒にいるのが楽しくて…」
自業自得の悩みの種は、すぐにアリアが取り去ってくれた。
彼女は「V」のことを今も大切にしていて、その上で俺といて心地いいと言ってくれた。
それに、無許可で日記を読んだことを、怯むことなく当然のごとく俺に怒った。
怒られたのはもしかしたら、幼い頃の遠いあの日以来かもしれない。
アリアはありふれた人間の女だが、今の俺にはそれが新鮮だ。
「私、明日も明後日もバージルさんと普通にこうして会いたいです」
そう言ってこぼれた笑顔に、なんだか胸が締め付けられた。
今のお互いの「理由がないと会えない関係」から、「理由がなくても会える関係」に、アリアから申し出てくれたのだ。
俺も何故か、それに応えたいと思った。
何故?
3年間彼女を探し続けていた見返りが欲しいのか。
このままでは記憶も戻っていないし、何も得ていない。
あの時、衝動に任せて抱き締めた彼女は、暖かく柔らかかった。
閻魔刀でダンテの事務所に帰ることもできたが、アリアを含む人間の目もあり出発時から置いてきたため、例のごとく電車に揺られて帰宅する。
アリアの家は分かった。
次回から直接訪問してもいい。
「早かったじゃねぇか」
事務所に帰宅すれば、ダンテはまたにやにやと笑って出迎えた。
後ろ手でドアの施錠をすると、距離をつめて左肩に肘を乗せてくる。
「また今日も入り浸ってるかと思ったぜ」
「…お前はいちいち俺を苛立たせるな」
「あれだけ目の前で色々展開されて、口挟まずにいられるか?シラフで無理なら酒用意するぜ?」
「昼間からか」
「いいだろ、依頼もねぇし。聞きてぇこといっぱいあるし?」
どうせ下衆な質問だろうとは思ったが、もうすでにこいつとアリアには面識ができてしまった。
盛大に溜め息をついてから、首を縦に振る。
「……いいだろう。今更隠す気もない」
かくして、差し出されたのはウイスキーのロック。
朝からアリアに用意した食事を少々味見した程度で何も口にしていないが、生きるために接種しなければならない訳でもない。
完全に趣味趣向の領域になっているので、とりあえずアーモンドも用意してみた。
普通の人間ならば、空きっ腹に酒を流し込んだらどうなるか。
「アリアちゃんのこと、改めてどう思ってる?」
「…は?」
あまりに漠然とした質問に答えられるはずもなく、眉間に力が入る。
変わらずにやりとした表情のダンテに再び苛ついて来たが、1度話してやると決めたことなので何とか堪えた。
「この間はよく分からないとか言ってただろ。1日中一緒にいてどうだったかってことだよ」
確かにこの間よりアリアという女について知るところが増えた。
アリアが俺に与える「感情」は…たくさんありすぎて結局はよく分からない。
「……不思議な気持ちだった」
「あんたマジで言ってる?」
色々と考えた上で返されたリアクションに、とうとうダンテを睨み付ける。
それを見て焦ったのか、両手を上げて広げてみせた。
「わかった、悪かった。まぁずっと一緒にいたってことはそういうことだよな」
「…俺が彼女と過去に接触していたのは、まず間違いない」
「聞きてえのはそういうことじゃねぇよ、バージル」
言われずとも何となく察していたが、胸の中に確かに存在するこの燻ったものがなんなのか、自分で消化できずにいる。
ダンテの尋問は止むことを知らず、再び口を開いた。
「グリフォンに対してあんたは本気でキレてた。それはなんでだ?」
「…アリアの体内にアレが入っているかと思ったら不快だった」
グリフォンがアリアの真似をした姿を思い出すと、今も鳥肌が立つ。
彼女の身体の中にあんなにも下品なやつが入っていることが、いつでも身体をコントロールできる状況下にいることが、不快以外の何ものでもない。
「アリアの身体が悪魔化し始めているのは、合意の上なら自業自得だ。幸い今は…肉体的な害もない」
悪魔憑きは過去フォルトゥナでも見たことがあるが、皆完全に悪魔に身体も心も奪われていた。
近いうちにアリアと使い魔を何らかの手段で引き離さないと、この先はどんな影響があるか謎だ。
「とにかく、アレが体内に入っているのは本当に不快だ」
「…ふーん」
「なんだ?」
グラスに口を当て口角を上げるダンテの表情が気になり、思わず問う。
「それよ、嫉妬じゃねぇか」
「嫉妬…?」
「どうでもいい相手なら何とも思わねぇだろ、あんた。体内に何か入ってようが放っておくだろ?」
確かに、一理あるかもしれない。
別にその辺りに悪魔憑きがいても、邪魔なら斬るし害がなければ放っておくくらいだ。
「グリフォンはアリアちゃんを助けて欲しいっつーけど、多分あんたを試したかったんだと思うんだよ」
俺が思考に集中していると、止まることなくダンテが続ける。
「あんたがアリアちゃんを好きか、もしくは好きになれそうか…探りを入れたんじゃねぇか?」
その言葉にグリフォンがアリアの身体で真似をした姿がフラッシュバックし、一気に頭に血が昇った。
「俺を試すなど…なんだかまた腹が立って来た…」
「とりあえず認められたみてぇだし、いいじゃねぇか」
ダンテは軽く笑うが、何故アリアに近づくのにアレの許可がいるのか。
次にまた同じようなことがあれば、アレだけ引き摺り出してやりたいくらいだ。
そこでようやく再びウイスキーをひと口含むと、だいぶ氷で薄まっていて勿体ないと思った。
「てか、そもそもアリアちゃん本人があんたを好きそうで良かった」
俺からは分からんが、こいつからしたらそう見えるのかと、ダンテの単純な思考が少し羨ましくなる。
アリアが好いているのは「V」だ。
俺の中の一部で、俺ではない。
今やっと「俺と一緒に過ごしてみたい」と言われたに過ぎない。
「あの子あんたと地獄の果てまで一緒にいてくれそうだな。ほら、グリフォンたちを体内に受け入れる度量と覚悟もある」
なんだかもやもやし始めた俺とは対照的に、ダンテはこころなしか機嫌がいい。
短時間しか会っていないが、どうやらこいつはアリアを気にいったようだ。
「…明日もアリアと会う」
「マジ?この先絶対アリアちゃんのこと振るなよ、バージル」
「振る…?」
「おい、さっきからボケてるのか本気で自分の感情に疎いのかどっちだよ」
「俺を馬鹿にしているのか?」
「馬鹿になんてしてねぇよ」
「じゃあなんだ?」
「あーもうアリアちゃんのこと好きかって聞いてんだ。グリフォンと同じこと言わせるなよ」
「好き…?」
その答えは分からない。
今まで愛だの恋だのは不要だと生きてきた。
だから、知らない間に「愛し愛される関係」を結んでいたアリアを探してこうして接触している。
「…嫌いではない。毎日会っても飽きないしな」
「ああ…まぁそうだよな」
「…優しくしてやりたいとも思う」
「それ!それだよそれ!」
ダンテが突然どんと肩を叩き、声を張り上げた。
相手に優しくすることが、愛なのか?
分からんが、ずっと人間界で暮らしていたこいつに、今は倣ってもいいかもしれない。
「とりあえず!明日もアリアちゃんに優しくしてやれよ、な?」
「お前に言われずともそうする…」
思い返せば俺は、出逢った時からアリアの涙を見るのはなるべく避けたいし、笑顔を見ていたいのだ。
end.
俺のブレイクの詩集にあったのと同じデイリリーの押し花と、「V」への愛が綴られていた。
勿論全て読んだ訳ではない。
Vは、私の初恋。
生きる希望をくれたひと。
もう1度あなたに会いたい。
いつまでもずっとここで待ってる。
アリアに初めて出逢った時、記憶がないとストレートに告げたら、彼女は静かに涙を流した。
その答えが分かった気がした。
ずっと愛して待っていた男が、全て忘れている。
今考えれば当たり前のことだったが、アリアは俺に「V」を見たかったのだ。
彼女の一途さに、嬉しさと戸惑いが両方やって来た。
Vは俺だが、全て俺ではない。
好奇心に負けて日記を読んだことを、少し後悔した。
読まなければ、今自分に向けられる笑顔を、俺へのものだとして素直に受け入れられたのに。
「私は…最初こそVの面影を探していたかもしれないけど、今バージルさんと一緒にいるのが楽しくて…」
自業自得の悩みの種は、すぐにアリアが取り去ってくれた。
彼女は「V」のことを今も大切にしていて、その上で俺といて心地いいと言ってくれた。
それに、無許可で日記を読んだことを、怯むことなく当然のごとく俺に怒った。
怒られたのはもしかしたら、幼い頃の遠いあの日以来かもしれない。
アリアはありふれた人間の女だが、今の俺にはそれが新鮮だ。
「私、明日も明後日もバージルさんと普通にこうして会いたいです」
そう言ってこぼれた笑顔に、なんだか胸が締め付けられた。
今のお互いの「理由がないと会えない関係」から、「理由がなくても会える関係」に、アリアから申し出てくれたのだ。
俺も何故か、それに応えたいと思った。
何故?
3年間彼女を探し続けていた見返りが欲しいのか。
このままでは記憶も戻っていないし、何も得ていない。
あの時、衝動に任せて抱き締めた彼女は、暖かく柔らかかった。
閻魔刀でダンテの事務所に帰ることもできたが、アリアを含む人間の目もあり出発時から置いてきたため、例のごとく電車に揺られて帰宅する。
アリアの家は分かった。
次回から直接訪問してもいい。
「早かったじゃねぇか」
事務所に帰宅すれば、ダンテはまたにやにやと笑って出迎えた。
後ろ手でドアの施錠をすると、距離をつめて左肩に肘を乗せてくる。
「また今日も入り浸ってるかと思ったぜ」
「…お前はいちいち俺を苛立たせるな」
「あれだけ目の前で色々展開されて、口挟まずにいられるか?シラフで無理なら酒用意するぜ?」
「昼間からか」
「いいだろ、依頼もねぇし。聞きてぇこといっぱいあるし?」
どうせ下衆な質問だろうとは思ったが、もうすでにこいつとアリアには面識ができてしまった。
盛大に溜め息をついてから、首を縦に振る。
「……いいだろう。今更隠す気もない」
かくして、差し出されたのはウイスキーのロック。
朝からアリアに用意した食事を少々味見した程度で何も口にしていないが、生きるために接種しなければならない訳でもない。
完全に趣味趣向の領域になっているので、とりあえずアーモンドも用意してみた。
普通の人間ならば、空きっ腹に酒を流し込んだらどうなるか。
「アリアちゃんのこと、改めてどう思ってる?」
「…は?」
あまりに漠然とした質問に答えられるはずもなく、眉間に力が入る。
変わらずにやりとした表情のダンテに再び苛ついて来たが、1度話してやると決めたことなので何とか堪えた。
「この間はよく分からないとか言ってただろ。1日中一緒にいてどうだったかってことだよ」
確かにこの間よりアリアという女について知るところが増えた。
アリアが俺に与える「感情」は…たくさんありすぎて結局はよく分からない。
「……不思議な気持ちだった」
「あんたマジで言ってる?」
色々と考えた上で返されたリアクションに、とうとうダンテを睨み付ける。
それを見て焦ったのか、両手を上げて広げてみせた。
「わかった、悪かった。まぁずっと一緒にいたってことはそういうことだよな」
「…俺が彼女と過去に接触していたのは、まず間違いない」
「聞きてえのはそういうことじゃねぇよ、バージル」
言われずとも何となく察していたが、胸の中に確かに存在するこの燻ったものがなんなのか、自分で消化できずにいる。
ダンテの尋問は止むことを知らず、再び口を開いた。
「グリフォンに対してあんたは本気でキレてた。それはなんでだ?」
「…アリアの体内にアレが入っているかと思ったら不快だった」
グリフォンがアリアの真似をした姿を思い出すと、今も鳥肌が立つ。
彼女の身体の中にあんなにも下品なやつが入っていることが、いつでも身体をコントロールできる状況下にいることが、不快以外の何ものでもない。
「アリアの身体が悪魔化し始めているのは、合意の上なら自業自得だ。幸い今は…肉体的な害もない」
悪魔憑きは過去フォルトゥナでも見たことがあるが、皆完全に悪魔に身体も心も奪われていた。
近いうちにアリアと使い魔を何らかの手段で引き離さないと、この先はどんな影響があるか謎だ。
「とにかく、アレが体内に入っているのは本当に不快だ」
「…ふーん」
「なんだ?」
グラスに口を当て口角を上げるダンテの表情が気になり、思わず問う。
「それよ、嫉妬じゃねぇか」
「嫉妬…?」
「どうでもいい相手なら何とも思わねぇだろ、あんた。体内に何か入ってようが放っておくだろ?」
確かに、一理あるかもしれない。
別にその辺りに悪魔憑きがいても、邪魔なら斬るし害がなければ放っておくくらいだ。
「グリフォンはアリアちゃんを助けて欲しいっつーけど、多分あんたを試したかったんだと思うんだよ」
俺が思考に集中していると、止まることなくダンテが続ける。
「あんたがアリアちゃんを好きか、もしくは好きになれそうか…探りを入れたんじゃねぇか?」
その言葉にグリフォンがアリアの身体で真似をした姿がフラッシュバックし、一気に頭に血が昇った。
「俺を試すなど…なんだかまた腹が立って来た…」
「とりあえず認められたみてぇだし、いいじゃねぇか」
ダンテは軽く笑うが、何故アリアに近づくのにアレの許可がいるのか。
次にまた同じようなことがあれば、アレだけ引き摺り出してやりたいくらいだ。
そこでようやく再びウイスキーをひと口含むと、だいぶ氷で薄まっていて勿体ないと思った。
「てか、そもそもアリアちゃん本人があんたを好きそうで良かった」
俺からは分からんが、こいつからしたらそう見えるのかと、ダンテの単純な思考が少し羨ましくなる。
アリアが好いているのは「V」だ。
俺の中の一部で、俺ではない。
今やっと「俺と一緒に過ごしてみたい」と言われたに過ぎない。
「あの子あんたと地獄の果てまで一緒にいてくれそうだな。ほら、グリフォンたちを体内に受け入れる度量と覚悟もある」
なんだかもやもやし始めた俺とは対照的に、ダンテはこころなしか機嫌がいい。
短時間しか会っていないが、どうやらこいつはアリアを気にいったようだ。
「…明日もアリアと会う」
「マジ?この先絶対アリアちゃんのこと振るなよ、バージル」
「振る…?」
「おい、さっきからボケてるのか本気で自分の感情に疎いのかどっちだよ」
「俺を馬鹿にしているのか?」
「馬鹿になんてしてねぇよ」
「じゃあなんだ?」
「あーもうアリアちゃんのこと好きかって聞いてんだ。グリフォンと同じこと言わせるなよ」
「好き…?」
その答えは分からない。
今まで愛だの恋だのは不要だと生きてきた。
だから、知らない間に「愛し愛される関係」を結んでいたアリアを探してこうして接触している。
「…嫌いではない。毎日会っても飽きないしな」
「ああ…まぁそうだよな」
「…優しくしてやりたいとも思う」
「それ!それだよそれ!」
ダンテが突然どんと肩を叩き、声を張り上げた。
相手に優しくすることが、愛なのか?
分からんが、ずっと人間界で暮らしていたこいつに、今は倣ってもいいかもしれない。
「とりあえず!明日もアリアちゃんに優しくしてやれよ、な?」
「お前に言われずともそうする…」
思い返せば俺は、出逢った時からアリアの涙を見るのはなるべく避けたいし、笑顔を見ていたいのだ。
end.