【第4章】今も変わらない何か
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Vはまたいつか私のお店に来たいと言っていた。
姿は違えど3年ぶりにこうして一緒に並んで扉の前に立つことができて、なんだか不思議な気持ちだ。
バージルさんは感情の読めない表情で私の顔を覗き込む。
「ここか」
「うん、私のお店」
私自身喜びとは言い難い複雑な気持ちで、ドアノブを回した。
あの日、崩壊寸前だったけれどVと一緒に過ごした空間。
大切な思い出。
今も私のお店に詰まっている。
「外装も内装も昔のままだよ」
中に入るように促して、バージルさんは店内を静かにぐるりと見渡した。
そして、以前と同じように何度か瞬きしてから目元を手で押さえる。
「バージルさん…?」
「…ああ」
心配になってすぐ傍に寄ると、私を不安にさせないようにか少し口角を上げて見せた。
もしかして…いや多分、確実に、断片的にもバージルさんの中のVの記憶が蘇って来てる気がする。
毎回こうなるのは、私とVを繋げる何かに触れた時だから、ほぼ間違いない。
バージルさんはさっき私に歩み寄ってくれたばかり…
今の状況でバージルさんが全部思い出したら、私たちはどうなるんだろう?
Vと同じように私を好きになってくれて、改めて恋人同士になる?
でも、バージルさんはVとそのまま同じじゃない。
今は記憶がないから、その間のことを探りたくて私の傍にいてくれるだけかもしれない。
私に優しくしてくれるのも、記憶を取り戻したい気持ちが強いからかも…。
前考えて不安になったのと同じようなことを、また考える。
「アリア」
「あっ…ごめんなさい」
名前を呼ばれて我に返り時計を見たら、10時を少し過ぎていた。
開店時間を気にしてたくさん配慮してくれたバージルさんのためにも、早く支度しないと。
「私、着替えてくるね。どこでも座ってくれて大丈夫だから」
「わかった」
バージルさんを店舗のフロアにひとり残して、急いで自室に向かった。
まさか今回のお出掛けのために買った新品の服を2日連続で着用することになるとは思わなくて、着替えていると複雑な気持ちになる。
だけど、昨日私があそこで眠ってしまわなければ、今日もバージルさんと一緒いることはなかったかもしれない。
最初はバージルさんに会ったら、Vの記憶が残っているか確かめたかったのが大きかった。
でも今は、バージルさんが私から離れてしまうこと自体が、怖い。
自分の中にある1番の気持ちを自覚して店内に戻ると、バージルさんは私がいつも使っているデスクで、何かを熱心に読んでいた。
少しずつ近づいて、それは私の日記だと気付く。
「バージルさん…それ」
手を伸ばせば触れられる程の距離になってから声を掛けて、初めて読むのをやめて私の方を見てくれた。
相変わらずそのブルーの瞳からは何も読み取れない。
「…すまん、少しだけ読んだ」
とりあえず勝手に日記を読んだことを軽く謝ってくれる。
勿論その行為自体、私にとっては嫌なことだ。
でも今はそれだけじゃなくて、なんだか胸がもやもやする。
すぐにバージルさんに何か反応することさえ出来なくて、固まってしまった。
「アリア…?」
私の様子がおかしいことに気づいたのか、腰掛けたバージルさんの瞳が真っ直ぐ見つめてくる。
握られた日記に視線をやって思わず唇を噛めば、受け取れと言わんばかりに目の前に差し出された。
「俺が軽率だった。お前に許可を取れば良かったのに」
「…バージルさんはどこまで記憶がないんですか?」
日記を受け取らず、無意識のうちに出た声は自分のものにしてはすごく低くて、他人事みたいに「怒っているんだな」と思う。
いや、怒っているのは分かっていたけれど、感じていたより更に私自身怒っているみたいだ。
当然私に怯むことなく、バージルさんは眉ひとつ動かさずに口を開いた。
「3年前のことは断片的なものしかない。俺はあの時瀕死状態だったからな」
例えば事故の前後とか、記憶が飛ぶと聞いたことがある。
ブレイクの詩集に私の名前があって、私がバージルさんの覚えていない記憶の「鍵」だということは明白だったはず。
「今、バージルさんが私の傍にいてくれるのは…ただの好奇心ですか?」
忘れている時間を思い出したい一心で私を探して、そして今ここにいてくれるだけかもしれない。
昨日も今日も好意のようなものを感じることもあったけど、それは私の思い込みに過ぎなかったのかもしれない。
疑心暗鬼になって、胸が締め付けられる。
私はVとの思い出が大切で、それは一生変わらない。
でもバージルさんとも、もっとこれから、一緒に過ごしてみたいと思い始めている。
そのままをバージルさんに伝えようと決心して、やっと差し出された日記を受け取った。
「私は…最初こそVの面影を探していたかもしれないけど、今バージルさんと一緒にいるのが楽しくて…」
素直に言うのを、バージルさんはただ真っ直ぐ聞いてくれ、軋んだ心が少しだけ落ち着く。
ぼろぼろの日記を抱き締めて、改めて、たとえバージルさんでも勝手にこれを読まれたショックを自分の中で受け止める。
「これはVとの1ヶ月間の証なんです」
この中にはVへの気持ちが詰まっている。
日記が記憶のトリガーになることは否定しない。
でも少しだけ一緒に過ごして、バージルさんとVが全部同じじゃないことは十分わかった。
「一部の記憶がないの、不安だとは思います。ただ私はそれを覚えているし、愛しいと思ってる…」
やっぱりバージルさんはVと、「感情」が繋がっている気がする。
だからこそ、知識だけじゃなく自然と思い出してほしい気持ちが、私の中で強くなっていく。
「これからは…ただ情報を入れるんじゃなくて…私と一緒に過ごしてみませんか?」
本当に心からの言葉だった。
私自身がバージルさんと同じ時を刻んでみたい。
そうしたら、また何かが変わる気がする。
その思いに応えて欲しくて、日記を握る手が少しだけ震える。
あんまり真剣に言うからか、バージルさんはしばらく私の瞳を見つめたままになって、それから口角を上げて微笑んでくれた。
「…そうだな」
「ありがとうございます…良かった。私、明日も明後日もバージルさんと普通にこうして会いたいです」
受け入れてくれたのが嬉しくて、私も自然と笑顔になれる。
でもすぐに頬が熱くなって、思わず下を向いてしまった。
今の台詞って好きって言っているようなものなんじゃ…。
Vがバージルさんに戻ってもずっとずっと好きだと思っていたけど、ちょっと早すぎる。
ひとりで少しパニックになっていたら、座っていたバージルさんが不意に立ち上がって私の右肩にそっと触れた。
「アリア」
「バージルさん…?」
「今、お前を抱きしめたい」
突然どういうこと!?と思ったのは遅くて、すでに大きな手が背中に回って包まれてしまう。
改めて筋肉質な肉体とか身長とか体格差を思い知らされて、心臓が壊れそうなくらい脈打ち始めた。
目の前に厚い胸板があってちょっとだけ頬を寄せれば、バージルさんの香りを感じる。
なんだかとても安心して目蓋を閉じたら、そっと髪を撫でてくれた。
ああ…なんか、ずっとこうしていたい。
日記を抱き締めしながらも、私もバージルさんの背中に手を回したいと思った時、包んでいた腕はゆっくり解かれてしまう。
バージルさんは私に澄んだブルーの瞳を細めてから、お店の入り口へ向かって歩き、ドアノブに手を掛けた。
「明日、また来る」
「はい…待ってます」
もう行っちゃうんだ。
名残惜しい気持ちはあったけど、やっと再び開店時間のことを思い出して、素直に背中を見送った。
完全にバージルさんの姿が見えなくなったのを確認してから、きっとずっと知らないふりをしていたグリフォンの声が突然響き渡る。
『アー!!優しそうな顔しやがって!もう大好きじゃねェか、アリアのこと!』
「そ、そうかな!?」
『Vの意識が知らない間に作用してるにしてもよォー!お前を抱きしめたい!?あのバージルが!?』
「…私もびっくりした」
あの、ってことはグリフォンが知ってるバージルさんは全然違うんだろうか。
私は今のバージルさんしか知らないから何とも言えなかった。
『アリアもバージルのこと、嫌じゃねェんだな。俺まで心臓バクバクしてるンだけど!そのうちオトメになっちまうかも!?』
「ごめん…まだドキドキ止まらない」
抱きしめたいと言われてから、身体が熱くてたまらない。
感覚を共有しているグリフォンには申し訳ないけど、自分の意思ではどうしようもない。
『…こりゃ心配しなくても全然大丈夫じゃねェか!俺が焚き付けたのが良かったカ…』
「焚き付けた?」
『アー!!何でもねェー!!ほら、アリア!開店時間だろ!!』
「わかった…知らないフリしておく」
すごく意味深なことをぽろっと言われた気がする。
私の知らないところで、グリフォンは何かしていたんだろうか。
end.
姿は違えど3年ぶりにこうして一緒に並んで扉の前に立つことができて、なんだか不思議な気持ちだ。
バージルさんは感情の読めない表情で私の顔を覗き込む。
「ここか」
「うん、私のお店」
私自身喜びとは言い難い複雑な気持ちで、ドアノブを回した。
あの日、崩壊寸前だったけれどVと一緒に過ごした空間。
大切な思い出。
今も私のお店に詰まっている。
「外装も内装も昔のままだよ」
中に入るように促して、バージルさんは店内を静かにぐるりと見渡した。
そして、以前と同じように何度か瞬きしてから目元を手で押さえる。
「バージルさん…?」
「…ああ」
心配になってすぐ傍に寄ると、私を不安にさせないようにか少し口角を上げて見せた。
もしかして…いや多分、確実に、断片的にもバージルさんの中のVの記憶が蘇って来てる気がする。
毎回こうなるのは、私とVを繋げる何かに触れた時だから、ほぼ間違いない。
バージルさんはさっき私に歩み寄ってくれたばかり…
今の状況でバージルさんが全部思い出したら、私たちはどうなるんだろう?
Vと同じように私を好きになってくれて、改めて恋人同士になる?
でも、バージルさんはVとそのまま同じじゃない。
今は記憶がないから、その間のことを探りたくて私の傍にいてくれるだけかもしれない。
私に優しくしてくれるのも、記憶を取り戻したい気持ちが強いからかも…。
前考えて不安になったのと同じようなことを、また考える。
「アリア」
「あっ…ごめんなさい」
名前を呼ばれて我に返り時計を見たら、10時を少し過ぎていた。
開店時間を気にしてたくさん配慮してくれたバージルさんのためにも、早く支度しないと。
「私、着替えてくるね。どこでも座ってくれて大丈夫だから」
「わかった」
バージルさんを店舗のフロアにひとり残して、急いで自室に向かった。
まさか今回のお出掛けのために買った新品の服を2日連続で着用することになるとは思わなくて、着替えていると複雑な気持ちになる。
だけど、昨日私があそこで眠ってしまわなければ、今日もバージルさんと一緒いることはなかったかもしれない。
最初はバージルさんに会ったら、Vの記憶が残っているか確かめたかったのが大きかった。
でも今は、バージルさんが私から離れてしまうこと自体が、怖い。
自分の中にある1番の気持ちを自覚して店内に戻ると、バージルさんは私がいつも使っているデスクで、何かを熱心に読んでいた。
少しずつ近づいて、それは私の日記だと気付く。
「バージルさん…それ」
手を伸ばせば触れられる程の距離になってから声を掛けて、初めて読むのをやめて私の方を見てくれた。
相変わらずそのブルーの瞳からは何も読み取れない。
「…すまん、少しだけ読んだ」
とりあえず勝手に日記を読んだことを軽く謝ってくれる。
勿論その行為自体、私にとっては嫌なことだ。
でも今はそれだけじゃなくて、なんだか胸がもやもやする。
すぐにバージルさんに何か反応することさえ出来なくて、固まってしまった。
「アリア…?」
私の様子がおかしいことに気づいたのか、腰掛けたバージルさんの瞳が真っ直ぐ見つめてくる。
握られた日記に視線をやって思わず唇を噛めば、受け取れと言わんばかりに目の前に差し出された。
「俺が軽率だった。お前に許可を取れば良かったのに」
「…バージルさんはどこまで記憶がないんですか?」
日記を受け取らず、無意識のうちに出た声は自分のものにしてはすごく低くて、他人事みたいに「怒っているんだな」と思う。
いや、怒っているのは分かっていたけれど、感じていたより更に私自身怒っているみたいだ。
当然私に怯むことなく、バージルさんは眉ひとつ動かさずに口を開いた。
「3年前のことは断片的なものしかない。俺はあの時瀕死状態だったからな」
例えば事故の前後とか、記憶が飛ぶと聞いたことがある。
ブレイクの詩集に私の名前があって、私がバージルさんの覚えていない記憶の「鍵」だということは明白だったはず。
「今、バージルさんが私の傍にいてくれるのは…ただの好奇心ですか?」
忘れている時間を思い出したい一心で私を探して、そして今ここにいてくれるだけかもしれない。
昨日も今日も好意のようなものを感じることもあったけど、それは私の思い込みに過ぎなかったのかもしれない。
疑心暗鬼になって、胸が締め付けられる。
私はVとの思い出が大切で、それは一生変わらない。
でもバージルさんとも、もっとこれから、一緒に過ごしてみたいと思い始めている。
そのままをバージルさんに伝えようと決心して、やっと差し出された日記を受け取った。
「私は…最初こそVの面影を探していたかもしれないけど、今バージルさんと一緒にいるのが楽しくて…」
素直に言うのを、バージルさんはただ真っ直ぐ聞いてくれ、軋んだ心が少しだけ落ち着く。
ぼろぼろの日記を抱き締めて、改めて、たとえバージルさんでも勝手にこれを読まれたショックを自分の中で受け止める。
「これはVとの1ヶ月間の証なんです」
この中にはVへの気持ちが詰まっている。
日記が記憶のトリガーになることは否定しない。
でも少しだけ一緒に過ごして、バージルさんとVが全部同じじゃないことは十分わかった。
「一部の記憶がないの、不安だとは思います。ただ私はそれを覚えているし、愛しいと思ってる…」
やっぱりバージルさんはVと、「感情」が繋がっている気がする。
だからこそ、知識だけじゃなく自然と思い出してほしい気持ちが、私の中で強くなっていく。
「これからは…ただ情報を入れるんじゃなくて…私と一緒に過ごしてみませんか?」
本当に心からの言葉だった。
私自身がバージルさんと同じ時を刻んでみたい。
そうしたら、また何かが変わる気がする。
その思いに応えて欲しくて、日記を握る手が少しだけ震える。
あんまり真剣に言うからか、バージルさんはしばらく私の瞳を見つめたままになって、それから口角を上げて微笑んでくれた。
「…そうだな」
「ありがとうございます…良かった。私、明日も明後日もバージルさんと普通にこうして会いたいです」
受け入れてくれたのが嬉しくて、私も自然と笑顔になれる。
でもすぐに頬が熱くなって、思わず下を向いてしまった。
今の台詞って好きって言っているようなものなんじゃ…。
Vがバージルさんに戻ってもずっとずっと好きだと思っていたけど、ちょっと早すぎる。
ひとりで少しパニックになっていたら、座っていたバージルさんが不意に立ち上がって私の右肩にそっと触れた。
「アリア」
「バージルさん…?」
「今、お前を抱きしめたい」
突然どういうこと!?と思ったのは遅くて、すでに大きな手が背中に回って包まれてしまう。
改めて筋肉質な肉体とか身長とか体格差を思い知らされて、心臓が壊れそうなくらい脈打ち始めた。
目の前に厚い胸板があってちょっとだけ頬を寄せれば、バージルさんの香りを感じる。
なんだかとても安心して目蓋を閉じたら、そっと髪を撫でてくれた。
ああ…なんか、ずっとこうしていたい。
日記を抱き締めしながらも、私もバージルさんの背中に手を回したいと思った時、包んでいた腕はゆっくり解かれてしまう。
バージルさんは私に澄んだブルーの瞳を細めてから、お店の入り口へ向かって歩き、ドアノブに手を掛けた。
「明日、また来る」
「はい…待ってます」
もう行っちゃうんだ。
名残惜しい気持ちはあったけど、やっと再び開店時間のことを思い出して、素直に背中を見送った。
完全にバージルさんの姿が見えなくなったのを確認してから、きっとずっと知らないふりをしていたグリフォンの声が突然響き渡る。
『アー!!優しそうな顔しやがって!もう大好きじゃねェか、アリアのこと!』
「そ、そうかな!?」
『Vの意識が知らない間に作用してるにしてもよォー!お前を抱きしめたい!?あのバージルが!?』
「…私もびっくりした」
あの、ってことはグリフォンが知ってるバージルさんは全然違うんだろうか。
私は今のバージルさんしか知らないから何とも言えなかった。
『アリアもバージルのこと、嫌じゃねェんだな。俺まで心臓バクバクしてるンだけど!そのうちオトメになっちまうかも!?』
「ごめん…まだドキドキ止まらない」
抱きしめたいと言われてから、身体が熱くてたまらない。
感覚を共有しているグリフォンには申し訳ないけど、自分の意思ではどうしようもない。
『…こりゃ心配しなくても全然大丈夫じゃねェか!俺が焚き付けたのが良かったカ…』
「焚き付けた?」
『アー!!何でもねェー!!ほら、アリア!開店時間だろ!!』
「わかった…知らないフリしておく」
すごく意味深なことをぽろっと言われた気がする。
私の知らないところで、グリフォンは何かしていたんだろうか。
end.