【第4章】今も変わらない何か
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目覚めるといつもと違う天上が目に入り、思わず部屋の中を見渡した。
家具はクローゼットと小さなタンスがあるくらいで、ベッドサイドチェストにはライトとVが持っていたブレイクの詩集が置かれている。
必要最低限の物のみしかないという印象で、どう考えてもバージルさんの部屋だと思った。
昨晩一緒に素敵なお店でお酒を飲んで、いい雰囲気になって…そこまでは覚えている。
『グリフォン!?起きてる!?』
『…起きてるぜ!よく眠れたみたいで良かった』
思わず私の中にいるグリフォンに呼び掛け、すぐに返事があってちょっとほっとする。
『いやいや、良くないって!ここどこ!?』
『ンー…ダンテの事務所。ダンテっつーのはバージルの双子の弟な』
『私やっぱり…バージルさんの前でやらかしたんだね!?』
『マ、吐いたり絡んだりはしてねェんだ。ただ眠っちまっただけ、グッスリとな。じゃなかったら俺も酒でやられてたって…』
飲酒して爆睡する女なんて、バージルさんどう思っただろうか。
眠ってしまう前、バージルさんのぬくもりがぽかぽかして心地良かったのはすごく覚えている。
確かに緊張とか色々あって前日あまり眠れていなかったけど、自分で自分が信じられない。
今たっぷり睡眠時間をとって思考も全部すっきりして、頭を抱えるしかなかった。
『…バージルさん、失望したかな…』
『それだけはわかんねェな。ほら、心までは読めねェだろ?どんな時もよ』
『今は嘘でも慰めが欲しかった…』
『クヨクヨしても仕方ねェ!ほら、部屋から出た出たァ!』
悩んでいてもグリフォンの言う通りなので、とりあえずベッドから起き上がる。
そう言えば、バージルさんは昨日どこで眠ったんだろう?
ここがバージルさんの部屋なら、私にベッドを譲ってくれたに違いない。
申し訳なさすぎて早く謝りたいのに、でも合わせる顔もない。
ゆっくり深呼吸してちょっと心を落ち着けてから、ドアノブを回して部屋の外に出る。
どうやらここは2階らしく、1階へと続く階段を降りて行けば、途中でソファに座っていたバージルさんとすでに目が合った。
焦って駆け寄っても、特にその表情からは軽蔑も呆れも何も読み取れない。
「アリア…よく眠れたか?」
「バージルさん、ごめんなさい!私あんな…恥ずかしい…」
勢いよく頭を下げてからバージルさんの瞳を見れば、改めて羞恥心が込み上げて来て顔も熱くなってくる。
「ベッドも占領してしまったし…」
バージルさんもしかしてこのソファで眠ったのかな?
かなり長身だし、窮屈だっただろうな。
申し訳なくて視線をそらすと、バージルさんが立ち上がってお互いの距離がかなり近づく。
「過ぎたことだ。気にするな」
僅かに口角を上げて、私に触れようとしたのか左手が挙げられたので、思わず後退ってしまった。
その瞬間、バージルさんの眉がぴくりと動く。
「何故、距離を取る?」
怪訝そうな表情に、だけど私も自分なりに思うところがあって、再び近づいてくるバージルさんから逃げるように後ろに下がる。
「だ、だって、シャワーも浴びてないし!匂ったら嫌なんです!」
「…別に俺は構わんが」
「私が気にします!!」
これ以上恥の上塗りをするのは嫌だ。
全力で叫んだら、今まで全然視界に入っていなかったけれど、もう1人の住人が私に近づいて肩を静かに叩いて来た。
バージルさんと同じくらい長身で銀髪の、間違いなくグリフォンに聞いた双子の弟のダンテさん。
でも、髭も手伝ってかむしろダンテさんの方がお兄さんに見える。
性格も全然違うのか、柔らかい笑顔を私に向けてくれた。
「あー、アリアちゃん?とりあえず、シャワー貸すぜ」
私は必然的にバージルさんとダンテさんに挟まれる形になる。
とにかくダンテさんに1度も何も言わずにいることは出来ず、完全にダンテさんの方に向き直った。
「あっご挨拶せずにすみません!私は…えっと、Vの…」
「恋人、だろ?」
「…多分そうです」
明確に恋人と言われたことはないけど、1ヶ月間一緒にいて好き合っていたからそうなんだろう。
歯切れの悪い返事に反応したのは目の前の笑顔のダンテさんではなく、後ろにいるバージルさんだった。
「多分…?」
「Vの恋人です」
バージルさんの声色になんとなく影が含まれていて、早くはっきり言い直さなきゃと思って被せて改めてダンテさんに伝える。
私たちを交互に見てから、何故か今度はダンテさんが吹き出して笑った。
「その夫婦漫才、ちょっとやめてくれねぇか。いい加減笑っちまう」
「え、えっと…まだ結婚してません!」
「そりゃ分かってるぜ。例え話だ」
いっそのこと爆笑し始めたダンテさんを払い除け、バージルさんが私の手を取る。
初めて手を握られた感触に、そういう雰囲気じゃないのにすごく大きいなとか思った。
「もういい、ダンテ。俺が案内する」
「…初めからそうすりゃいいのに」
シャワールームの前に連れて行かれ、なるべく綺麗なタオルと新品の歯ブラシ、ドライヤーまで用意してくれ、至れり尽くせりの状態に私は再びただただ頭を下げるしかない。
一式集めてからバージルさんが私の顔をしっかり見た。
「今日の予定はないのか?」
「一応お店を開けようかと思ってたんですけど…昨日のコンサートで需要が増えるかなって」
「店?」
「私、レコード店をやっているんです。父がやっていた店の引き継ぎみたいな形で」
そう言えばバージルさんにまだ説明したことはなかった。
本当に端的に伝えただけだけど、バージルさんは少しだけ考えてからまた口を開く。
「…では急がなければ。開店は何時だ?」
「そんな急がなくてもいいですよ!いつも10時か11時くらいに開けてます」
「案外適当だな…誰か待っていたらどうする」
「さすがに開店待ちするような方にはまだお会いしたことないです」
そこまで皆が現代でもレコードを必要としていたら、私はお店の存続のために色々考えたりしていなかっただろう。
開店時間をそんなに気にするなんて、バージルさんが几帳面なのか、昨日演奏に感動した誰かのことを考えてなのか、グリフォンが言った通りバージルさんの心を覗くしか方法はない。
もしそんなことができたら、全てのことがすぐにうまく行くのかもしれないけれど。
「…朝食、何もないが用意しておく」
「ありがとうございます」
バージルさんがシャワールームを後にして、私は洋服のボタンに手を掛けた。
急ぎつつなるべく丁寧に身体を洗い、ドライヤーで髪を乾かす。
バッグの中に最低限のメイク用品を入れておいた昨日の自分を褒めたい。
ある程度ひとに見られても自分が恥ずかしくないように身なりを整え、バージルさんのもとに戻った。
さっき言っていたように、しっかり朝ご飯の支度を進めてくれていて、テーブルにパンとカリカリベーコン、目玉焼きが並べられている。
ホットコーヒーまで出してくれ、何もないどころか完璧すぎる朝食が目の前に広がっていた。
何故かダンテさんもその様子を立ったまま不思議そうに眺めている。
「…こいつが誰かにここまでするのは珍しいぜ。アリアちゃんもし逃げるなら今のうちだ。なんせ1度こう思ったらそうとしか思わない石頭だからな」
「ダンテ、アリアに余計なことを吹き込むな」
私が何か返事をするより先にバージルさんが遮って、椅子を引いて座らせてくれる。
促されて早速口にするけど、バージルさんやダンテさんは先に食べてしまったのか一緒に食事することはなかった。
「今から電車で戻って間に合うか?」
「そうですね、大丈夫だと思います。色々配慮して下さってありがとうございます」
完食してコーヒーを飲んでいると、相変わらずお店の開店時間を気にするバージルさんに確認される。
今8時半だから、きっと帰宅して着替えても11時には開店できるだろう。
ダンテさんにも泊めてもらったお礼を言い、事務所の扉を開けば、何故かバージルさんが私の後ろについて来た。
「…送る」
「えっいいんですか?」
「ああ、お前の店に行ってみたい」
「…分かりました。お願いします」
そこまでやり取りしてようやく、そう言えばここがどこにあるか知らないし、どうやって自分のお店に帰るか全く分からないことに気付く。
自然とバージルさんが私をレッドグレイブまでリードしてくれて、胸が温かくなった。
なんだか、昨日も今日もこれ以上ないくらい優しくしてもらっている。
そういえばバージルさん、昨日は眠っている私を抱えて、ひとりでどうやって事務所まで移動したんだろう。
まさか私を抱えたまま電車には乗れないだろうし…。
色々考えていれば、バージルさんが歩きながら私の瞳を覗き込んできた。
「昨日の夜のこと…どれくらい覚えている?」
どうやらお互いに昨晩のことを考えていたみたい。
囁くような声にどこか不安の色を感じた私は、なんて答えようか迷ってから、ただ素直に答えることに決めた。
「えっと…だいたい全部覚えてますよ」
「敬語はやめろと言ったはずだが」
「…気にしてたんですか?」
「言い方に距離を感じる」
それって多分、私と心的な距離を縮めたいと思ってくれてるってことだ。
2回も言うなんてよっぽど強く思っているんだなと、胸がきゅんとする。
「バージルさんって…案外可愛らしいんですね」
「可愛らしいとはなんだ」
心外だと眉をひそめる表情も、可愛く見えて自然と微笑んでしまった。
バージルさんは私よりかなり歳上なのに、不思議に年齢差を感じなくなっている。
「言われた通り敬語…やめてみる」
「…それでいい」
私の返事に口角を上げたバージルさんに、また胸が高鳴ってしまう自分を否定出来なかった。
end.
家具はクローゼットと小さなタンスがあるくらいで、ベッドサイドチェストにはライトとVが持っていたブレイクの詩集が置かれている。
必要最低限の物のみしかないという印象で、どう考えてもバージルさんの部屋だと思った。
昨晩一緒に素敵なお店でお酒を飲んで、いい雰囲気になって…そこまでは覚えている。
『グリフォン!?起きてる!?』
『…起きてるぜ!よく眠れたみたいで良かった』
思わず私の中にいるグリフォンに呼び掛け、すぐに返事があってちょっとほっとする。
『いやいや、良くないって!ここどこ!?』
『ンー…ダンテの事務所。ダンテっつーのはバージルの双子の弟な』
『私やっぱり…バージルさんの前でやらかしたんだね!?』
『マ、吐いたり絡んだりはしてねェんだ。ただ眠っちまっただけ、グッスリとな。じゃなかったら俺も酒でやられてたって…』
飲酒して爆睡する女なんて、バージルさんどう思っただろうか。
眠ってしまう前、バージルさんのぬくもりがぽかぽかして心地良かったのはすごく覚えている。
確かに緊張とか色々あって前日あまり眠れていなかったけど、自分で自分が信じられない。
今たっぷり睡眠時間をとって思考も全部すっきりして、頭を抱えるしかなかった。
『…バージルさん、失望したかな…』
『それだけはわかんねェな。ほら、心までは読めねェだろ?どんな時もよ』
『今は嘘でも慰めが欲しかった…』
『クヨクヨしても仕方ねェ!ほら、部屋から出た出たァ!』
悩んでいてもグリフォンの言う通りなので、とりあえずベッドから起き上がる。
そう言えば、バージルさんは昨日どこで眠ったんだろう?
ここがバージルさんの部屋なら、私にベッドを譲ってくれたに違いない。
申し訳なさすぎて早く謝りたいのに、でも合わせる顔もない。
ゆっくり深呼吸してちょっと心を落ち着けてから、ドアノブを回して部屋の外に出る。
どうやらここは2階らしく、1階へと続く階段を降りて行けば、途中でソファに座っていたバージルさんとすでに目が合った。
焦って駆け寄っても、特にその表情からは軽蔑も呆れも何も読み取れない。
「アリア…よく眠れたか?」
「バージルさん、ごめんなさい!私あんな…恥ずかしい…」
勢いよく頭を下げてからバージルさんの瞳を見れば、改めて羞恥心が込み上げて来て顔も熱くなってくる。
「ベッドも占領してしまったし…」
バージルさんもしかしてこのソファで眠ったのかな?
かなり長身だし、窮屈だっただろうな。
申し訳なくて視線をそらすと、バージルさんが立ち上がってお互いの距離がかなり近づく。
「過ぎたことだ。気にするな」
僅かに口角を上げて、私に触れようとしたのか左手が挙げられたので、思わず後退ってしまった。
その瞬間、バージルさんの眉がぴくりと動く。
「何故、距離を取る?」
怪訝そうな表情に、だけど私も自分なりに思うところがあって、再び近づいてくるバージルさんから逃げるように後ろに下がる。
「だ、だって、シャワーも浴びてないし!匂ったら嫌なんです!」
「…別に俺は構わんが」
「私が気にします!!」
これ以上恥の上塗りをするのは嫌だ。
全力で叫んだら、今まで全然視界に入っていなかったけれど、もう1人の住人が私に近づいて肩を静かに叩いて来た。
バージルさんと同じくらい長身で銀髪の、間違いなくグリフォンに聞いた双子の弟のダンテさん。
でも、髭も手伝ってかむしろダンテさんの方がお兄さんに見える。
性格も全然違うのか、柔らかい笑顔を私に向けてくれた。
「あー、アリアちゃん?とりあえず、シャワー貸すぜ」
私は必然的にバージルさんとダンテさんに挟まれる形になる。
とにかくダンテさんに1度も何も言わずにいることは出来ず、完全にダンテさんの方に向き直った。
「あっご挨拶せずにすみません!私は…えっと、Vの…」
「恋人、だろ?」
「…多分そうです」
明確に恋人と言われたことはないけど、1ヶ月間一緒にいて好き合っていたからそうなんだろう。
歯切れの悪い返事に反応したのは目の前の笑顔のダンテさんではなく、後ろにいるバージルさんだった。
「多分…?」
「Vの恋人です」
バージルさんの声色になんとなく影が含まれていて、早くはっきり言い直さなきゃと思って被せて改めてダンテさんに伝える。
私たちを交互に見てから、何故か今度はダンテさんが吹き出して笑った。
「その夫婦漫才、ちょっとやめてくれねぇか。いい加減笑っちまう」
「え、えっと…まだ結婚してません!」
「そりゃ分かってるぜ。例え話だ」
いっそのこと爆笑し始めたダンテさんを払い除け、バージルさんが私の手を取る。
初めて手を握られた感触に、そういう雰囲気じゃないのにすごく大きいなとか思った。
「もういい、ダンテ。俺が案内する」
「…初めからそうすりゃいいのに」
シャワールームの前に連れて行かれ、なるべく綺麗なタオルと新品の歯ブラシ、ドライヤーまで用意してくれ、至れり尽くせりの状態に私は再びただただ頭を下げるしかない。
一式集めてからバージルさんが私の顔をしっかり見た。
「今日の予定はないのか?」
「一応お店を開けようかと思ってたんですけど…昨日のコンサートで需要が増えるかなって」
「店?」
「私、レコード店をやっているんです。父がやっていた店の引き継ぎみたいな形で」
そう言えばバージルさんにまだ説明したことはなかった。
本当に端的に伝えただけだけど、バージルさんは少しだけ考えてからまた口を開く。
「…では急がなければ。開店は何時だ?」
「そんな急がなくてもいいですよ!いつも10時か11時くらいに開けてます」
「案外適当だな…誰か待っていたらどうする」
「さすがに開店待ちするような方にはまだお会いしたことないです」
そこまで皆が現代でもレコードを必要としていたら、私はお店の存続のために色々考えたりしていなかっただろう。
開店時間をそんなに気にするなんて、バージルさんが几帳面なのか、昨日演奏に感動した誰かのことを考えてなのか、グリフォンが言った通りバージルさんの心を覗くしか方法はない。
もしそんなことができたら、全てのことがすぐにうまく行くのかもしれないけれど。
「…朝食、何もないが用意しておく」
「ありがとうございます」
バージルさんがシャワールームを後にして、私は洋服のボタンに手を掛けた。
急ぎつつなるべく丁寧に身体を洗い、ドライヤーで髪を乾かす。
バッグの中に最低限のメイク用品を入れておいた昨日の自分を褒めたい。
ある程度ひとに見られても自分が恥ずかしくないように身なりを整え、バージルさんのもとに戻った。
さっき言っていたように、しっかり朝ご飯の支度を進めてくれていて、テーブルにパンとカリカリベーコン、目玉焼きが並べられている。
ホットコーヒーまで出してくれ、何もないどころか完璧すぎる朝食が目の前に広がっていた。
何故かダンテさんもその様子を立ったまま不思議そうに眺めている。
「…こいつが誰かにここまでするのは珍しいぜ。アリアちゃんもし逃げるなら今のうちだ。なんせ1度こう思ったらそうとしか思わない石頭だからな」
「ダンテ、アリアに余計なことを吹き込むな」
私が何か返事をするより先にバージルさんが遮って、椅子を引いて座らせてくれる。
促されて早速口にするけど、バージルさんやダンテさんは先に食べてしまったのか一緒に食事することはなかった。
「今から電車で戻って間に合うか?」
「そうですね、大丈夫だと思います。色々配慮して下さってありがとうございます」
完食してコーヒーを飲んでいると、相変わらずお店の開店時間を気にするバージルさんに確認される。
今8時半だから、きっと帰宅して着替えても11時には開店できるだろう。
ダンテさんにも泊めてもらったお礼を言い、事務所の扉を開けば、何故かバージルさんが私の後ろについて来た。
「…送る」
「えっいいんですか?」
「ああ、お前の店に行ってみたい」
「…分かりました。お願いします」
そこまでやり取りしてようやく、そう言えばここがどこにあるか知らないし、どうやって自分のお店に帰るか全く分からないことに気付く。
自然とバージルさんが私をレッドグレイブまでリードしてくれて、胸が温かくなった。
なんだか、昨日も今日もこれ以上ないくらい優しくしてもらっている。
そういえばバージルさん、昨日は眠っている私を抱えて、ひとりでどうやって事務所まで移動したんだろう。
まさか私を抱えたまま電車には乗れないだろうし…。
色々考えていれば、バージルさんが歩きながら私の瞳を覗き込んできた。
「昨日の夜のこと…どれくらい覚えている?」
どうやらお互いに昨晩のことを考えていたみたい。
囁くような声にどこか不安の色を感じた私は、なんて答えようか迷ってから、ただ素直に答えることに決めた。
「えっと…だいたい全部覚えてますよ」
「敬語はやめろと言ったはずだが」
「…気にしてたんですか?」
「言い方に距離を感じる」
それって多分、私と心的な距離を縮めたいと思ってくれてるってことだ。
2回も言うなんてよっぽど強く思っているんだなと、胸がきゅんとする。
「バージルさんって…案外可愛らしいんですね」
「可愛らしいとはなんだ」
心外だと眉をひそめる表情も、可愛く見えて自然と微笑んでしまった。
バージルさんは私よりかなり歳上なのに、不思議に年齢差を感じなくなっている。
「言われた通り敬語…やめてみる」
「…それでいい」
私の返事に口角を上げたバージルさんに、また胸が高鳴ってしまう自分を否定出来なかった。
end.