Dark Chocolate
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ずっと死んだと思い続けていた妹に会える。
今まで力を追い続けた亡霊のようになっていた俺に、そんな奇跡があっていいのだろうか。
いや、俺自身の明確な意思があって魔界から人間界までやってきた訳だが。
魔界で人間界に帰る直前、ダンテは俺に忠告した。
「バージル。あんたの過去は、全部エリには伏せておく。だからちゃんと人間として暮らせよ」
人間として、か。
今までずっと悪魔として生きて来た。
流れる血は両方だが、久しぶりの人間的生活。
できるだろうか。
いや、エリに会うためにはそう努めるしかない。
「言っとくが、もしまたあんたが悪魔に呑まれたら…
容赦なくあんたを殺す」
「…未だに俺を殺せると思っているのか?」
「殺す気で行くって言ってんだよ」
「フン、面白い……ただ…エリに会えるなら、俺はまた変わるだろう」
それくらいの「力」を、妹であるエリには幼い頃感じていた。
まぶたに残る彼女の笑みは、ずっと輝いていたからだ。
時は経ったが、彼女の根底にあるものは何も変わらないと信じている。
この先の人生を「人間」として生きてみるのも悪くない。
彼女と同じ人間として…。
ダンテの事務所の家具の隅に身を隠しながら、俺は懸命に目を凝らした。
俺の中で妹は、幼い日に失った子どもの姿のままだった。
何故か自身の胸が鼓動するのを感じる。
ああ、そうか。
俺はエリに会えることが嬉しく、そして久しぶり過ぎて少し緊張しているんだなと、理解した。
「久しぶり、ダンテ」
幼い頃の面影を僅かに残した彼女は、頬を薄く染め黒い瞳を細めて、ダンテの名前を呼ぶ。
黒いニットと白いロングスカート。
胸元には確か、遠い記憶に父から彼女にプレゼントされた、白と黒の宝石をあしらったロザリオが輝いている。
何年経ってもエリの中で、あの子どもの頃の記憶が残っているのを感じられた。
「…お前…なんか、きれいになったな…」
「え…?褒めても何も出ないよ?」
「いや、本当に…なんか、品もあっていい」
「ありがとう…」
ダンテが俺の気持ちを代弁した。
というか、やつがあんまりエリに近づくので、俺の方からはエリが見えなくなった。
邪魔だと思っていると、やつはやつで久しぶりのエリをちゃんとエスコートしようとソファへ案内する。
「ここ、座れよ」
「うん」
2人の会話を聞いているだけでなく、早くそこに駆け寄りたい。
焦ったく感じながらも、ダンテから俺の存在は「サプライズ」だと言われていたため、なんとか我慢している。
「早くしろ」と、双子ならこの間だけそれっぽくテレパシーとか使いたいところだ。
今以外は心から勘弁願いたいが。
「あーサプライズっていうのはアレだ。唐突だけど、俺たち兄がいたろ?あの本の虫の」
強い念が伝わったのか、ダンテはようやく俺のことをエリに切り出す。
話題を出されたら出されたで、柄にもなく心臓が脈打つ。
どうか「忘れた」とか「そんなひともいた」とか、気のない返事でないことを祈る。
「…バージルのこと?」
「そうだ。あいつ、生きてるんだ」
エリ。
俺のことをしっかり覚えていてくれた。
まだ直接顔を合わせていないのに、胸がじんとするのがわかった。
「そして、今ここにいる。Welcome back!バージル!」
唐突にダンテに出番を振られ、今少し感動に酔いしれていた俺は内心慌てた。
だがすぐに持ち直し、一歩ずつしっかりエリの前へと歩み寄った。
「エリ」
名前を呼ぶとエリはソファから立ち上がって、俺の顔をまじまじと眺める。
「…本当に…本当に、バージルなの?」
「そうだ…また会えて、心から嬉しい」
手の届く距離まで近づいて彼女の頬に触れれば、漆黒の瞳にはしっかりと俺の姿が映っている。
何年ぶりだろうか。
確かに、俺が知っている彼女だ。
その瞳は、決して変わらない。
「信じられない…バージル…」
エリも同じように感じてくれたのか、俺を見つめたまま涙が静かに頬を伝う。
「俺のために泣いてくれるのか…?」
「当たり前じゃない…ずっと会いたかったもの…」
「俺も…ずっと会いたいと思っていた」
そのままエリを抱き締めようと両手を広げた時、突然ダンテが俺たちの視界を遮った。
すっかり忘れていたが、そういえばこいつもいた。
「ちょい待て、ストップ。ハグはなしだ。人妻だぞ」
そうだった。
知らない間に、ダンテによればエリは結婚していたらしい。
まぁ俺も息子がいた訳だが。
だからと言って、兄が妹を抱き締めたらいけないのか?
ただ単に俺とエリを引き離したかったのだろうとダンテを睨みつけた時、エリは言いにくそうに切り出した。
「ダンテ、私ね…」
「…指輪、してねぇよな。なんでだ」
ダンテの発言にエリの手元を瞬間的にチェックすれば、あるだろうものがない。
エリの態度も相まって、意図的に外してきたということもないようだ。
というか、エリがそんなことをする筈がない。
「ダンテ、そんな野暮なことを聞くな」
「そうか…そうかよ」
ダンテはまるで自分に言い聞かせるように、繰り返す。
とりあえずエリは今、独身だ。
恐らく内心喜んでいるんだろうが、あいにく俺も同じ気持ちだ。
俺たちにも今から十分チャンスがある。
「えっと…改めてひとり暮らしし始めたところなの。寂しいからいつでも遊びに来てね」
「…絶対行く」
エリからまさかの提案をされ、ダンテはまだ感情が追いつかないのか、やや遅れて宣言した。
久しぶりの人間界。
まだ慣れないこともあるが、ものすごく楽しめそうだ。
end.