Charlotte
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「ダンテ」
いつからかエリに名前を呼ばれるのが、たまらなく心地良いことに気付いた。
いつもあいつは微笑みながら、まるで宝物みたいに俺の名前を呼んでくれる。
それはあいつが、残された唯一の俺の家族だからなのか。
あの夜から離れ離れで暮らしていたが、子どもの頃から一緒だから、エリは俺が半魔だろうが何やってようが関係なく、俺を俺として見てくれる。
それはやっぱり、どうしようもなく心地良かった。
自分でも気づかないうちに、いつの間にかエリが俺の特別になった。
エリと俺は一応兄妹だが、血は繋がっていない。
だから多分、俺がエリに惚れてもいいはずだ。
他に好きな女を探そうとも思ったが、皆エリには適わなかった。
「…ダンテ!」
ダンテが目を開いたら、エリのアップだった。
ここは俺の寝室のはず。
なんでエリがいるんだろうと、まだあまり動かない鈍い頭で考える。
彼女は覗き込むように、ベッドの端に座っていた。
さらさらと肩から流れる黒髪と赤い唇が魅力的で、思わず引き寄せてその小さな唇にキスしようとした。
「ダ、ダンテ!ばか!何やってるの!」
「あ?ごめん、寝ぼけて手が勝手に動いた」
唇が触れる寸前、真っ赤な顔をしたエリに胸元を殴られ、ダンテはやっと頭がクリアになってくる。
しまったこのままキスのひとつでもしておけば良かったと、ちらりと見た時計は午前10時を指していて、エリが部屋に来た理由を察した。
それにしても何も考えずに入ってくるなんてよっぽど純粋なのか、男として見られていないのか。
エリはまだ少し頬を赤らめたまま、ベッドの端に座って申し訳なさそうに見つめる。
「ダンテが起きるの遅いからご飯先に食べちゃった」
「気にすんなよ。起こしてくれてサンキュ」
キスはしないまでも、エリの頭を少し撫でれば彼女は益々顔を赤くする。
ダンテが欠伸しながらベッドから立ち上がると、エリはドアノブに手を掛け微笑んだ。
「今からだとブランチになっちゃうけど、大丈夫?」
エリの作ったものなら何時でも喉を通る。
ダンテは喜んで頷いた。
寝ていたとはいえ、昨日の夕食から何も食べていないので腹ぺこだった。
ひとりで暮らしていた時は自炊は面倒だったし随分適当な食生活を送っていて、エリが甲斐甲斐しく世話してくれるのがいまだに少し慣れない。
まるで、儚い夢みたいだ。
そんな思考が一瞬頭の中を過ぎる。
あの日の悪夢は昔は繰り返し見たし震える夜もあった。
だけど、今は違うのだ。
悪魔と戦う術はあるし「ダンテ」として生きていく自信もある。
なのに、どうして。
また柄にもなく感傷に浸り始めた頭を左右に振ってリセットし、リビングに向かった。
エリが温め直してくれた遅い朝食を取っていると、鼻歌を歌って上機嫌な彼女が空いている椅子に腰掛けた。
何故かまだエプロン姿だ。
「エリ、甘い香りがする」
「クッキー焼いてるの」
「お前ほんと料理得意だな」
「…うん、好きなの。お母さんみたいになりたくて」
そう言ってエリは目を細めて微笑み、何故かそれに母親エヴァの笑顔が重なる。
母さんも、料理が得意だった。
まだ何日も経っていないが、エリも十分な腕に達していると思う。
母さんが生きていたらエリと一緒にキッチンに立っていただろうか。
ありもしないその光景を想像し、ダンテは薄く笑みを浮かべる。
「できたら食わせてくれよ」
「勿論!」
幸せな白昼夢を見ながら遅い朝食を終え、今日はエリとゆっくりしようかと考える。
何か特別なことをしなくても、一緒にテレビを観るだけでもいい。
いろんなプランを練っていると、事務所の黒電話が甲高い音を上げた。
「また電話?」
「ちっ」
この間の電話といい、何なんだ一体?
ダンテはあからさまに不機嫌な様子で電話の乗ったデスクを蹴り上げ、受話器を手に取る。
耳はその内容に傾け視線だけエリに移せば、彼女はやっぱり気になるのか少し不安そうな顔をしていた。
正直この間の電話も今回の電話も、依頼ではない。
でも悪魔絡みだから行かない訳にはいかない。
ダンテは受話器を置いて、エリに告げる。
「悪ぃ、エリ」
「わかってるよ。大丈夫、ダンテが帰るの待ってるから」
「ああ、すぐ帰ってくる。ごめんな」
不安にさせるから、エリにはすべてを話す訳にはいかなかった。
妹には、どんな状況であれ心安らかでいてほしい。
悪夢の夜を一緒に震えながらやり過ごした後から、その願いはとても強かった。
「いってらっしゃい」
エリはあくまで笑顔で送り出してくれ、彼女の頭を優しく撫で、自分も微笑んで背を向ける。
引っ越し早々エリを何度もひとりぼっちにするのは勿論気がひけた。
この間寂しいと言っていたし、もしかしたら悪魔が襲ってくるかもしれない。
だけど、あの日の悪夢は絶対に繰り返さない。
ダンテは自分自身に誓いながら足を急いだ。
end.