【第4章】今も変わらない何か
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正直に言えばちょっと諦めかけていたこの3年、とうとうバージルさんに出逢えた。
その喜びはすごく大きい。
でも、私のことは覚えていないと言われた。
バージルさんに逢えたら私の胸の穴を埋められるかと思っていたけど、そんなに簡単なものじゃない…。
急に叩きつけられた現実が悲しかったんだろう、勝手に涙が出てしまった。
自分のお店に戻ってデスクにつくと、今までだんまりだったグリフォンが話し掛けてくる。
『アリア…大丈夫か?』
「グリフォン!反応なくなっちゃったからどうしようかと思った」
第1声が何故か元気がなくて、黙っていたけど皆バージルさんとの様子を見ていて、そして私が少なからずショックを受けてたことを気遣ってくれているようだった。
『…だってよォ、まさかバージルと会うと思わねェだろ!』
「そうだね…まさかだった」
『アイツ何にも覚えてねェとか信じらんねェ!Vはどうした!?Vは!』
「でも、バージルさん…私を3年間ずっと探し続けてくれてた…それに…」
バージルさんの中にVを見たかと言われたら、まだまだ分からない。
見た目もやっぱり全然違ったし、私も出逢い方が違ったらとても同じ人物とは思えない。
でも、一瞬微笑んだその姿はほんの少しだけ面影を感じた。
忘れているのに3年間も私を探してくれていたのは、やっぱりどこかにVの影響があるはず。
急に目の前で泣いてしまった私を確かに慰めてくれたのには、強くVを感じてしまった。
「お前の涙は何故か…気分が悪い」
掛けてくれたバージルさんの言葉をまた思い出して、私は「嬉しい」と思った。
記憶が霞んでいても、Vとバージルさんは「感情」で繋がっているような気がしたから。
だからこそ別れ際、復興記念コンサートに私から誘った。
断られたらとちょっと怖かったけど、応えてくれた。
それも正直、心の底から嬉しかった自分がいる。
「バージルさんは私とのこと…忘れてるのに、初対面の私に優しかった…コンサートも来てくれるって」
『まァな、昔はもっと輪を掛けて酷かったからな!Vちゃんの旅のおかげかもしれねェ』
とりあえず、これで終わりじゃない。
むしろ今また新しく始まった気がして、段々胸が温かくなってくる。
「私…土曜日、楽しみ…いいんだよね?楽しみにしても大丈夫だよね?」
『楽しめよ!ただし期待はせずになァ!…俺たちまた隠れてるから』
「隠れてたんだ?」
『そうだぜ!…多分バレてるケド』
そうと決まったら、大事に貯めていたお金を少し崩して新しい服と靴を買って、その日のシミュレーションをし始めた。
その日に、なるべく綺麗で可愛い自分でいたかった。
土曜日まで毎日どきどきして、1日に何回かカレンダーを見てしまう。
今更わかったことだけど、当日の曲目にパガニーニの名前があった。
Vが好きだと言っていたカプリース第24番、聴けるだろうか。
短いようで長い数日が経ち、前日の夜を迎えた。
寝る支度をしてベッドにいるけれど、眠気はあまりやって来ない。
むしろ冴えてしまっている。
「とうとう明日だね…」
『俺たちが洋服とか一緒に選んだんだから、大丈夫だ!胸張って行け、アリア!』
「うん、ありがとう。こういう時シャドウも撫でられたらいいのにな…安心しそう」
『猫チャンもアリアの手が恋しいってよ』
「そっか、良かった。もしシャドウが実体化できたらたくさん撫でよう」
バージルさんは明日のことどんな気持ちでいるだろう。
楽しみ?それとも暇つぶし?
どきどきしてあまり眠れず、朝起きたらちょっとクマができてる気がした。
とりあえずメイクで隠したのをまたグリフォンが応援してくれ、なんとか心を落ち着かせる。
早めにお昼ご飯も食べて、待ち合わせの13時に間に合うよう少し早めに駅に着いたのに、すでに周りの人より頭ひとつ背が高い銀髪が見えた。
良かった、本当に来てくれた。
「バージルさん…!」
安心感からか思わず頬が緩んで駆け寄ると、私を視界に入れたバージルさんもどこか表情が柔らかくなった気がする。
「ごめんなさい、お待たせしました」
「いや、今来たところだ。それにお前も遅刻はしていない」
「お互い早く来ちゃいましたね」
「そうだな」
私が笑えばバージルさんもつられて僅かに口角を上げて、すっかり緊張は消えてしまった。
なんだか、出逢って2回目じゃないみたい。
「早速行きましょうか。ここから歩いてそんなにないと思います」
「ああ…確か会場は3か月前に完成したばかりのホールか」
「ご存じなんですね」
「まぁ…3年間通い詰めていたからな」
私を探すためにずっとレッドグレイブに通っていた。
諦めずに。
その事実を改めて感じて、胸が熱くなってくる。
Vは私を何年掛けても探すと言ってくれた。
その意志がバージルさんに確かに残っているんだ。
会場に着けば、開演が14時のため既にたくさんの人がいた。
用意したチケットをもう1度確認すると、ぎりぎりで購入したから2階席の端で、階段にもかなりの人で溢れている。
「…大丈夫か。お前はこちらを歩け」
「あ、はい…」
あまりの人口密度に気を遣ってくれたのか、バージルさんが腰に手を回して私を壁際にしてくれる。
突然のことに思わず頬が熱くなって、ばっちり見られてしまった。
その瞬間、身体に回された手は解かれた。
「…悪かったな」
「いえ…ありがとうございます」
バージルさん、すごく優しい。
こうやって自然と私を危険から守ってくれるのは、どうしてもVの面影を感じる。
バージルさんのエスコートで無事に座席に到着し、早速入り口で購入したパンフレットを開く。
チラシで見たパガニーニの曲目が気になった。
「あっ…」
「切ったのか?」
「だ、大丈夫です…あっ」
聞かれた通り、紙を捲る時に指を切ってしまい、傷を隠そうとしたけどすぐに腕を掴まれた。
見られたくない理由は、明白だった。
私は今、怪我をしても治ってしまうから。
それは確実にグリフォンたちの影響がある。
「…お前」
切った指先が治っていく様子をしっかり見られ、バージルさんの瞳がまるで睨むかのように私に向く。
3年前グリフォンたちと契約すると言ったらVにも止められたし、こうなったのは自業自得だ。
私はゆっくりでも、グリフォンたちとどんどん「同化」している。
「…他に不調はないのか」
「はい…今のところは…」
他に思い当たることと言えば、時々胸の辺りが熱くなるくらいだけど、痛みがある訳でもない。
バージルさんは掴んだ腕を離して、意外にも私を責める訳でも私に呆れる訳でもなかった。
そして座席のアームレストに頬杖をついて、私からは逆方向に視線をやってしまう。
何か考えているのは分かったけど、それが何かは分からない。
今まで舞い上がっていた気持ちはまた、不穏なものに変わってしまった。
それから会話もなく、開演の時間を迎える。
公演は休憩を挟んで約2時間半。
まずレッドグレイブの復興を祝すスピーチでスタートし、演奏が始まった。
私から誘ったけれど、こうした生演奏を聴くのは初めてだ。
少し遠いものの、音だけじゃなく演者さんの表情や指の動き、熱気などが感じられる。
この感動が私だけじゃないといいなと、バージルさんの方をちらっと見てみた。
「!」
ちょうど同じタイミングで視線があって、ちょっと気まずい。
遅れて心臓が飛び出そうなくらい脈打って、更には伏せ目がちに微笑んでくれる。
頭の中のキャパシティがオーバーしそうで、すぐに正面の舞台に視線を戻した。
とりあえず、バージルさんも楽しんでくれているみたいだ。
前半終盤なると、私が期待していたパガニーニのカプリース第24番を演奏してくれ、どうしても懐かしい気持ちになった。
Vが好きだと言っていた曲。
それは多分、バージルさんも…。
end.
その喜びはすごく大きい。
でも、私のことは覚えていないと言われた。
バージルさんに逢えたら私の胸の穴を埋められるかと思っていたけど、そんなに簡単なものじゃない…。
急に叩きつけられた現実が悲しかったんだろう、勝手に涙が出てしまった。
自分のお店に戻ってデスクにつくと、今までだんまりだったグリフォンが話し掛けてくる。
『アリア…大丈夫か?』
「グリフォン!反応なくなっちゃったからどうしようかと思った」
第1声が何故か元気がなくて、黙っていたけど皆バージルさんとの様子を見ていて、そして私が少なからずショックを受けてたことを気遣ってくれているようだった。
『…だってよォ、まさかバージルと会うと思わねェだろ!』
「そうだね…まさかだった」
『アイツ何にも覚えてねェとか信じらんねェ!Vはどうした!?Vは!』
「でも、バージルさん…私を3年間ずっと探し続けてくれてた…それに…」
バージルさんの中にVを見たかと言われたら、まだまだ分からない。
見た目もやっぱり全然違ったし、私も出逢い方が違ったらとても同じ人物とは思えない。
でも、一瞬微笑んだその姿はほんの少しだけ面影を感じた。
忘れているのに3年間も私を探してくれていたのは、やっぱりどこかにVの影響があるはず。
急に目の前で泣いてしまった私を確かに慰めてくれたのには、強くVを感じてしまった。
「お前の涙は何故か…気分が悪い」
掛けてくれたバージルさんの言葉をまた思い出して、私は「嬉しい」と思った。
記憶が霞んでいても、Vとバージルさんは「感情」で繋がっているような気がしたから。
だからこそ別れ際、復興記念コンサートに私から誘った。
断られたらとちょっと怖かったけど、応えてくれた。
それも正直、心の底から嬉しかった自分がいる。
「バージルさんは私とのこと…忘れてるのに、初対面の私に優しかった…コンサートも来てくれるって」
『まァな、昔はもっと輪を掛けて酷かったからな!Vちゃんの旅のおかげかもしれねェ』
とりあえず、これで終わりじゃない。
むしろ今また新しく始まった気がして、段々胸が温かくなってくる。
「私…土曜日、楽しみ…いいんだよね?楽しみにしても大丈夫だよね?」
『楽しめよ!ただし期待はせずになァ!…俺たちまた隠れてるから』
「隠れてたんだ?」
『そうだぜ!…多分バレてるケド』
そうと決まったら、大事に貯めていたお金を少し崩して新しい服と靴を買って、その日のシミュレーションをし始めた。
その日に、なるべく綺麗で可愛い自分でいたかった。
土曜日まで毎日どきどきして、1日に何回かカレンダーを見てしまう。
今更わかったことだけど、当日の曲目にパガニーニの名前があった。
Vが好きだと言っていたカプリース第24番、聴けるだろうか。
短いようで長い数日が経ち、前日の夜を迎えた。
寝る支度をしてベッドにいるけれど、眠気はあまりやって来ない。
むしろ冴えてしまっている。
「とうとう明日だね…」
『俺たちが洋服とか一緒に選んだんだから、大丈夫だ!胸張って行け、アリア!』
「うん、ありがとう。こういう時シャドウも撫でられたらいいのにな…安心しそう」
『猫チャンもアリアの手が恋しいってよ』
「そっか、良かった。もしシャドウが実体化できたらたくさん撫でよう」
バージルさんは明日のことどんな気持ちでいるだろう。
楽しみ?それとも暇つぶし?
どきどきしてあまり眠れず、朝起きたらちょっとクマができてる気がした。
とりあえずメイクで隠したのをまたグリフォンが応援してくれ、なんとか心を落ち着かせる。
早めにお昼ご飯も食べて、待ち合わせの13時に間に合うよう少し早めに駅に着いたのに、すでに周りの人より頭ひとつ背が高い銀髪が見えた。
良かった、本当に来てくれた。
「バージルさん…!」
安心感からか思わず頬が緩んで駆け寄ると、私を視界に入れたバージルさんもどこか表情が柔らかくなった気がする。
「ごめんなさい、お待たせしました」
「いや、今来たところだ。それにお前も遅刻はしていない」
「お互い早く来ちゃいましたね」
「そうだな」
私が笑えばバージルさんもつられて僅かに口角を上げて、すっかり緊張は消えてしまった。
なんだか、出逢って2回目じゃないみたい。
「早速行きましょうか。ここから歩いてそんなにないと思います」
「ああ…確か会場は3か月前に完成したばかりのホールか」
「ご存じなんですね」
「まぁ…3年間通い詰めていたからな」
私を探すためにずっとレッドグレイブに通っていた。
諦めずに。
その事実を改めて感じて、胸が熱くなってくる。
Vは私を何年掛けても探すと言ってくれた。
その意志がバージルさんに確かに残っているんだ。
会場に着けば、開演が14時のため既にたくさんの人がいた。
用意したチケットをもう1度確認すると、ぎりぎりで購入したから2階席の端で、階段にもかなりの人で溢れている。
「…大丈夫か。お前はこちらを歩け」
「あ、はい…」
あまりの人口密度に気を遣ってくれたのか、バージルさんが腰に手を回して私を壁際にしてくれる。
突然のことに思わず頬が熱くなって、ばっちり見られてしまった。
その瞬間、身体に回された手は解かれた。
「…悪かったな」
「いえ…ありがとうございます」
バージルさん、すごく優しい。
こうやって自然と私を危険から守ってくれるのは、どうしてもVの面影を感じる。
バージルさんのエスコートで無事に座席に到着し、早速入り口で購入したパンフレットを開く。
チラシで見たパガニーニの曲目が気になった。
「あっ…」
「切ったのか?」
「だ、大丈夫です…あっ」
聞かれた通り、紙を捲る時に指を切ってしまい、傷を隠そうとしたけどすぐに腕を掴まれた。
見られたくない理由は、明白だった。
私は今、怪我をしても治ってしまうから。
それは確実にグリフォンたちの影響がある。
「…お前」
切った指先が治っていく様子をしっかり見られ、バージルさんの瞳がまるで睨むかのように私に向く。
3年前グリフォンたちと契約すると言ったらVにも止められたし、こうなったのは自業自得だ。
私はゆっくりでも、グリフォンたちとどんどん「同化」している。
「…他に不調はないのか」
「はい…今のところは…」
他に思い当たることと言えば、時々胸の辺りが熱くなるくらいだけど、痛みがある訳でもない。
バージルさんは掴んだ腕を離して、意外にも私を責める訳でも私に呆れる訳でもなかった。
そして座席のアームレストに頬杖をついて、私からは逆方向に視線をやってしまう。
何か考えているのは分かったけど、それが何かは分からない。
今まで舞い上がっていた気持ちはまた、不穏なものに変わってしまった。
それから会話もなく、開演の時間を迎える。
公演は休憩を挟んで約2時間半。
まずレッドグレイブの復興を祝すスピーチでスタートし、演奏が始まった。
私から誘ったけれど、こうした生演奏を聴くのは初めてだ。
少し遠いものの、音だけじゃなく演者さんの表情や指の動き、熱気などが感じられる。
この感動が私だけじゃないといいなと、バージルさんの方をちらっと見てみた。
「!」
ちょうど同じタイミングで視線があって、ちょっと気まずい。
遅れて心臓が飛び出そうなくらい脈打って、更には伏せ目がちに微笑んでくれる。
頭の中のキャパシティがオーバーしそうで、すぐに正面の舞台に視線を戻した。
とりあえず、バージルさんも楽しんでくれているみたいだ。
前半終盤なると、私が期待していたパガニーニのカプリース第24番を演奏してくれ、どうしても懐かしい気持ちになった。
Vが好きだと言っていた曲。
それは多分、バージルさんも…。
end.