【第4章】今も変わらない何か
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「バージル、今日の依頼行くか?」
人間界に戻って高頻度で昼食に頼んでいるピザを頬張りながら、ダンテが言った。
初めのうちこそ食べながら喋るなと注意したが、全く効果がないので最近は目をつぶっている。
「…何時からだ?」
「…21時。なんだよ、またレッドグレイブか?」
すぐに行くとは言わないのには当然理由があり、もう長いこと「それ」をしているので完全に悟られている。
別に驚かれる訳でも呆れられる訳でもなく、当たり前のように質問された。
「……そうだが」
「飽きねぇな、あんたも。あ、飽きねぇというより諦めないのか」
諦めない、か。
どこかで聞いた台詞だな。
確かに、俺は諦めることもできた筈だ。
しかし、やめられなかった。
「その話、そろそろ聞かせてくれよ」
ピザを平らげた後で、やつはにやりとした。
ダンテには完全に悟られたようでいて、あまり詳しくは伝えていないので「俺がレッドグレイブに通っていること」しか知らずにいる。
正直、話をするか悩む。
話したところで馬鹿にされるのが落ちな気もしている。
ネロに預けていたブレイクの詩集。
こちらに帰って来て改めて開いてみれば、「ゆりの花」のページに黄色い花弁の押し花と、ひとりの女の名前が書き記されていた。
アリア…。
「自分」で書いただろうに、悪魔の血で書かれているのが悪趣味にも思え、同時にインクがない状況でも書き留めたかったのだと思った。
俺自身が閻魔刀の力で悪魔と人に分かれ、何かの手を借りて蘇ったのは断片的に覚えている。
かなり朧げだが、「人」としての記憶も残っている。
「誰かに愛されていた」記憶も…?
いや、そこだけが確実にない。
都合よく抜け落ちて、思い出せない。
しかし意味もなく「俺」が、わざわざ「ゆりの花」のページに誰かの名前を書き込むことなどない筈だ。
ずっとその女を探しているが、名前と押し花以外手掛かりもなく見付けられずにいる。
間もなく3年という月日が経つこともあり1度話してやってもいいかと、ブレイクの詩集を片手に、デスクに座るダンテの前にページを開いた。
「ポエム野郎の本?」
「仮にも俺だ。馬鹿にするな」
「ああ、悪ぃ」
詩など理解しないこいつに何を血迷ったか「ゆりの花」の意味を説明すると、意外にも笑いもせずに真剣に聞いている。
「俺が誰かを愛していたなど…俺自身が信じられん」
「だから会って確かめなきゃってか?そんな理由で探さねぇだろ、3年も」
確かに一理ある。
意味のない、成果のない行為を何故繰り返すのか。
諦めればいいものを。
だが、どうしてか諦められない。
今の俺は愛を信じられないが、胸の奥から「諦めるな」と言っているように聞こえる。
「…本当は自分で気づいてねぇだけで好きなんだろ、その女のこと」
「だから…そもそも相手が思い出せん」
溜め息混じりにそう言うと、ダンテが薄く笑った。
「とりあえず…俺なら3年も続かねぇかも。まぁせいぜい頑張れよ」
頑張れ、か。
誰かに応援されずとも、俺は多分この行為をやめることはないだろう。
「諦められない」のだから。
「俺はずっとお前を探していた」
初めて目が合った時、特別に何か感じた訳ではなかった。
ただこの女も「ある種の喪失感」を持っている気がして、しかも何故か悪魔をその身に宿している。
「アリア」である可能性は十分で、そして本当にそうだった。
喜びなどの感情よりも、探し出した達成感のようなものが先にやってくる。
「え…っ…あの、えっと…」
俺が名乗ってからどうやら動揺しているようで、緑色の瞳が揺れて唇は少し震えていた。
それはどういう感情からなのか?
恐怖か?喜びか?
分からない。
俺がブレイクの詩集を見て勝手に「俺たちは想い合っていた」と推測しただけで、本当は違ったのか。
女が瞳を細めて微笑むと、何故か心臓が脈打つ。
「私も…ずっと会いたかったんです」
「…随分と…遅くなってしまったな」
自分の口から出た言葉に少し驚いた。
ただ今この瞬間、俺が忘れている部分を持っているのは、間違いなくこの女…
アリアだと確信する。
頭ではなく、身体の内側からそう感じられた。
「しかし…お前と過ごしたであろう日々、あいにく何も覚えていない。だからお前を探しに来た」
馬鹿正直に伝えるとアリアは目を見開き、再び唇を震わせる。
先程の嬉しそうな微笑みは一瞬で消えた。
「そう…なんですね…そっか、そうですよね」
静かな声は俺に伝えるために出たものではなく、自分自身に言い聞かせるようなものだ。
3年の月日を掛けてようやく「アリア」を探し出した。
ひとつの目標を達成した今、俺はこの女に何を求めるのか。
会ったら都合良く朧げな記憶を思い出す、なんてことはなかった。
再び少し沈黙が訪れてどうすべきか迷っていたら、引き攣った笑顔のアリアの瞳から、何故かぽろぽろ涙が落ちている。
「…泣くな」
別に泣いて縋ってくる訳でもないのに、無意識に気遣う言葉を言ってしまった。
不思議と俺自身の胸の奥も痛い。
「あ…ごめんなさい…」
「…やめろ。お前の涙は何故か…気分が悪い」
アリアは右手で涙を拭き深く息を吸って、とりあえず落ち着いたようだった。
それにほっとするのを感じて、俺はこの女の表情に一喜一憂している自分を実感する。
蓋をしている記憶の中にアリアがいて、「俺」はアリアを大切にしていた…?
誰と想い想われていた…?
まだまだ信じられない。
この再会に俺も少なからず動揺し色々考えている間に、アリアが駅の一角のブースからあるチラシを持ち出して来た。
「バージルさん、良かったら…これに一緒に行きませんか?」
レッドグレイブ復興記念コンサート。
まさか突然こういった誘いを受けるとは思わなかったが、3年間探し続けてやっと見つけた「アリア」だ。
ここで終わるのもあまりに呆気ない。
「…わかった。空けておく」
「本当ですか?ありがとうございます」
「ああ」
今度の土曜日またこの駅の改札前でと約束し、今日のところは別れた。
去り際に確かに向けてくれた笑顔。
頭から離れないのは「俺」のせいなのだろうか。
一気に様々なことが進み複雑な心境で事務所へ戻れば、早速にやにやした顔でダンテが出迎えた。
「おー、バージル。どうだった?」
「…見つけた」
今更誤魔化したところでと思い渋々返事をすれば、俺とは対照的に目を見開いて驚き、声を張り上げる。
「マジかよ!?良かったじゃねぇか!どんな子だった?」
「わからん」
「わからんって、よ。あるだろ?可愛いとか」
「まだわからん…」
ごく短時間しか一緒にいなかったのだから、どんな女か聞かれたところで分かる筈がない。
とにかく、次は土曜のコンサートだ。
end.
人間界に戻って高頻度で昼食に頼んでいるピザを頬張りながら、ダンテが言った。
初めのうちこそ食べながら喋るなと注意したが、全く効果がないので最近は目をつぶっている。
「…何時からだ?」
「…21時。なんだよ、またレッドグレイブか?」
すぐに行くとは言わないのには当然理由があり、もう長いこと「それ」をしているので完全に悟られている。
別に驚かれる訳でも呆れられる訳でもなく、当たり前のように質問された。
「……そうだが」
「飽きねぇな、あんたも。あ、飽きねぇというより諦めないのか」
諦めない、か。
どこかで聞いた台詞だな。
確かに、俺は諦めることもできた筈だ。
しかし、やめられなかった。
「その話、そろそろ聞かせてくれよ」
ピザを平らげた後で、やつはにやりとした。
ダンテには完全に悟られたようでいて、あまり詳しくは伝えていないので「俺がレッドグレイブに通っていること」しか知らずにいる。
正直、話をするか悩む。
話したところで馬鹿にされるのが落ちな気もしている。
ネロに預けていたブレイクの詩集。
こちらに帰って来て改めて開いてみれば、「ゆりの花」のページに黄色い花弁の押し花と、ひとりの女の名前が書き記されていた。
アリア…。
「自分」で書いただろうに、悪魔の血で書かれているのが悪趣味にも思え、同時にインクがない状況でも書き留めたかったのだと思った。
俺自身が閻魔刀の力で悪魔と人に分かれ、何かの手を借りて蘇ったのは断片的に覚えている。
かなり朧げだが、「人」としての記憶も残っている。
「誰かに愛されていた」記憶も…?
いや、そこだけが確実にない。
都合よく抜け落ちて、思い出せない。
しかし意味もなく「俺」が、わざわざ「ゆりの花」のページに誰かの名前を書き込むことなどない筈だ。
ずっとその女を探しているが、名前と押し花以外手掛かりもなく見付けられずにいる。
間もなく3年という月日が経つこともあり1度話してやってもいいかと、ブレイクの詩集を片手に、デスクに座るダンテの前にページを開いた。
「ポエム野郎の本?」
「仮にも俺だ。馬鹿にするな」
「ああ、悪ぃ」
詩など理解しないこいつに何を血迷ったか「ゆりの花」の意味を説明すると、意外にも笑いもせずに真剣に聞いている。
「俺が誰かを愛していたなど…俺自身が信じられん」
「だから会って確かめなきゃってか?そんな理由で探さねぇだろ、3年も」
確かに一理ある。
意味のない、成果のない行為を何故繰り返すのか。
諦めればいいものを。
だが、どうしてか諦められない。
今の俺は愛を信じられないが、胸の奥から「諦めるな」と言っているように聞こえる。
「…本当は自分で気づいてねぇだけで好きなんだろ、その女のこと」
「だから…そもそも相手が思い出せん」
溜め息混じりにそう言うと、ダンテが薄く笑った。
「とりあえず…俺なら3年も続かねぇかも。まぁせいぜい頑張れよ」
頑張れ、か。
誰かに応援されずとも、俺は多分この行為をやめることはないだろう。
「諦められない」のだから。
「俺はずっとお前を探していた」
初めて目が合った時、特別に何か感じた訳ではなかった。
ただこの女も「ある種の喪失感」を持っている気がして、しかも何故か悪魔をその身に宿している。
「アリア」である可能性は十分で、そして本当にそうだった。
喜びなどの感情よりも、探し出した達成感のようなものが先にやってくる。
「え…っ…あの、えっと…」
俺が名乗ってからどうやら動揺しているようで、緑色の瞳が揺れて唇は少し震えていた。
それはどういう感情からなのか?
恐怖か?喜びか?
分からない。
俺がブレイクの詩集を見て勝手に「俺たちは想い合っていた」と推測しただけで、本当は違ったのか。
女が瞳を細めて微笑むと、何故か心臓が脈打つ。
「私も…ずっと会いたかったんです」
「…随分と…遅くなってしまったな」
自分の口から出た言葉に少し驚いた。
ただ今この瞬間、俺が忘れている部分を持っているのは、間違いなくこの女…
アリアだと確信する。
頭ではなく、身体の内側からそう感じられた。
「しかし…お前と過ごしたであろう日々、あいにく何も覚えていない。だからお前を探しに来た」
馬鹿正直に伝えるとアリアは目を見開き、再び唇を震わせる。
先程の嬉しそうな微笑みは一瞬で消えた。
「そう…なんですね…そっか、そうですよね」
静かな声は俺に伝えるために出たものではなく、自分自身に言い聞かせるようなものだ。
3年の月日を掛けてようやく「アリア」を探し出した。
ひとつの目標を達成した今、俺はこの女に何を求めるのか。
会ったら都合良く朧げな記憶を思い出す、なんてことはなかった。
再び少し沈黙が訪れてどうすべきか迷っていたら、引き攣った笑顔のアリアの瞳から、何故かぽろぽろ涙が落ちている。
「…泣くな」
別に泣いて縋ってくる訳でもないのに、無意識に気遣う言葉を言ってしまった。
不思議と俺自身の胸の奥も痛い。
「あ…ごめんなさい…」
「…やめろ。お前の涙は何故か…気分が悪い」
アリアは右手で涙を拭き深く息を吸って、とりあえず落ち着いたようだった。
それにほっとするのを感じて、俺はこの女の表情に一喜一憂している自分を実感する。
蓋をしている記憶の中にアリアがいて、「俺」はアリアを大切にしていた…?
誰と想い想われていた…?
まだまだ信じられない。
この再会に俺も少なからず動揺し色々考えている間に、アリアが駅の一角のブースからあるチラシを持ち出して来た。
「バージルさん、良かったら…これに一緒に行きませんか?」
レッドグレイブ復興記念コンサート。
まさか突然こういった誘いを受けるとは思わなかったが、3年間探し続けてやっと見つけた「アリア」だ。
ここで終わるのもあまりに呆気ない。
「…わかった。空けておく」
「本当ですか?ありがとうございます」
「ああ」
今度の土曜日またこの駅の改札前でと約束し、今日のところは別れた。
去り際に確かに向けてくれた笑顔。
頭から離れないのは「俺」のせいなのだろうか。
一気に様々なことが進み複雑な心境で事務所へ戻れば、早速にやにやした顔でダンテが出迎えた。
「おー、バージル。どうだった?」
「…見つけた」
今更誤魔化したところでと思い渋々返事をすれば、俺とは対照的に目を見開いて驚き、声を張り上げる。
「マジかよ!?良かったじゃねぇか!どんな子だった?」
「わからん」
「わからんって、よ。あるだろ?可愛いとか」
「まだわからん…」
ごく短時間しか一緒にいなかったのだから、どんな女か聞かれたところで分かる筈がない。
とにかく、次は土曜のコンサートだ。
end.