【第3章】皆で叩く現実の扉
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母は久しぶりに再会したのに、いきなり詳しく色々と聞いてこないのが逆に心地良かった。
私も母も、少しずつ今までの時間を埋められたらいいなと無意識に思っているようだった。
「生きていて良かった…本当に…」
一言そう言って泣いてくれたのが、すごく嬉しかった。
どうやらレッドグレイブの事件が報道されてから、毎日生存者情報などをチェックしてくれていたらしい。
改めて人に大切にされているのを感じて、これからしっかり生きなくちゃと心の底から思う。
母のマンションに移動した夜も、泥のように眠った。Vと皆はどうしてるかな。
笑えって言われても、今はとても笑っていられない。
せめて夢の中だけでも皆に会えたらいいのに。
食事と睡眠をとるだけの生活を2、3日して、とうとうやって来た。
6月15日。
今日がその日だということは知っていたけど、今私にできるのは全てうまく行くことを祈るしかない。
夕方、いつまでもぼーっとしているのもなんとなく申し訳なくなって、台所に立っていた。
久しぶりに料理でもしようと、計量カップに水道水を注いでいた時だった。
最初は普通に透明な水だったのに、途中から真っ黒に変色してぎょっとする。
あと少しでカップから溢れそうになるのを慌てて止めて、黒い水からよく知った声が囁き掛けてきた。
「…よぉ、アリア」
「グ、グリフォン!?」
そんなこと通常ならあり得ないけど、何故か水からグリフォンの声が聞こえる。
いつもよりだいぶ元気がないそれは私の大声に反応することなく続けた。
「そー、俺たち…何も言わずにとりあえずこの水飲んでくンね?マズソーな色で悪いな…」
「わかった!!」
何のためらいもなく真っ黒な水を一気に飲み干す。
今まで散々奇妙な体験をして来た私には、特に疑問に思うこともないし、身の危険とかも考えなかった。
ましてや「飲め」と言ったのはもう信頼し切っているグリフォンだ。
水が身体の中に入っていくとすぐに、熱いものが駆け巡るのがわかる。
何かが這いずり回っているような、むず痒い感じ。
その感覚がちょっと気持ち悪くて、引きずるようにして何とか自分の部屋の扉を開く。
薄目でベッドを確認して倒れ込んだ。
少しするとだいぶ落ち着いてきて、深呼吸してから口を開く。
「グリフォン…?」
見慣れた姿はないけれど、さっき会話できた事実は間違いない。
しばらく返事がなくて不安に思ったところで、耳からじゃなくて身体の内側から声がする。
『…アー、ちょっと待て…ヨシヨシ、OK OK。いい飲みっぷりだったな』
「グリフォン…どこにいるの?」
『まァそうだな、一言で言えばアリアちゃんの体内っつーか』
「私の体内…!?」
さっきの黒い液体はグリフォンたちそのものだったってこと?私は自分自身の心臓部を右手で押さえた。
さすがにちょっとだけ不安になってくる。
そんなに何個も生命体が入ってて、私の身体は大丈夫なんだろうか。
『オット、心配しないでくれよ!一応等価交換になってるから害はねェはず…すぐには、ナ』
グリフォンは私の心配を取り払うように、説明を続ける。
今魔力は最小限になっているから、人体にあまり影響が出ないだろうこと。
そして等価交換の意味。
とりあえず鏡を見てほしいと言われ、母に借りていた大きめの手鏡に自分の顔を映した。
「私…瞳の色が変わってる。Vと同じ色になってる」
両目の色がVと同じ緑色に変わって、髪は毛先の方から黒くグラデーションが掛かっている。
まじまじと見つめると、まるで瞳の中でグリフォンたちが動いたかのように、緑の濃淡がくるくると変わった。
『アリアの瞳と髪の色を貰ったぜ。右目が俺、左目が猫チャン。髪はあのデカいやつな』
「文字通り…一心同体ってこと?」
『そうだなァ!今の俺でもこういうことならできるぜ』
グリフォンがそう言うと勝手に右腕が上がったり下がったりして、続く形で左腕も動き出す。
多分シャドウも遊び感覚で動き始めたんだと思った。
『俺って超やさしー!好きなヤツと目と髪同じ色になるってめっちゃロマンチックじゃねェ?』
「ちょっと色々言いたいところが出て来ちゃったけど、とりあえず私の身体勝手に動かすのはなしにしてね…!」
『了解!主のお願いだもんな』
改めて私自身の意志で腕を動かしてみた。
なんか、これじゃあ主っていうより憑かれてるって感じだ。
でも私はVと違って生まれながら普通の人間だし、どうしようもないと納得させる。
今まで自分の身に起きたことでいっぱいいっぱいだったけれど、一区切りしてはっとした。
グリフォンたちが私のもとに来たってことは、Vも元に戻れたんだろうか。
「Vはどうなったの…!?」
姿は見えない中、自分の中にいるグリフォンに叫び気味に聞いてみる。
失敗なんて想像もしてないのに、勝手に心臓がどきどきして来た。
『安心しな、Vは無事にバージルに還ったぜ』
「そっか!良かった…」
良かったと自分の口から出て、そこでまた思ってしまった。
そうか。
もう、Vには会えないんだ。
次に会えたら、顔も姿も分からないバージルさん。
出逢えた時、私、分かるだろうか…。
わかっていたことだけど、ちょっと寂しくなってしまう。
『アリア、Vちゃんが言ってたぜ。愛してるって』
「…それ、泣かせようとしてる?グリフォン」
『ホントのこと言っただけダロ!』
私は少しだけ泣いて、無理矢理笑った。
たくさん笑って素敵な女性になって、Vに…。
バージルさんに出逢いたいと思ったから。
レッドグレイブの事件は、この6月15日に終焉を迎えた。
【第3章】 End.
私も母も、少しずつ今までの時間を埋められたらいいなと無意識に思っているようだった。
「生きていて良かった…本当に…」
一言そう言って泣いてくれたのが、すごく嬉しかった。
どうやらレッドグレイブの事件が報道されてから、毎日生存者情報などをチェックしてくれていたらしい。
改めて人に大切にされているのを感じて、これからしっかり生きなくちゃと心の底から思う。
母のマンションに移動した夜も、泥のように眠った。Vと皆はどうしてるかな。
笑えって言われても、今はとても笑っていられない。
せめて夢の中だけでも皆に会えたらいいのに。
食事と睡眠をとるだけの生活を2、3日して、とうとうやって来た。
6月15日。
今日がその日だということは知っていたけど、今私にできるのは全てうまく行くことを祈るしかない。
夕方、いつまでもぼーっとしているのもなんとなく申し訳なくなって、台所に立っていた。
久しぶりに料理でもしようと、計量カップに水道水を注いでいた時だった。
最初は普通に透明な水だったのに、途中から真っ黒に変色してぎょっとする。
あと少しでカップから溢れそうになるのを慌てて止めて、黒い水からよく知った声が囁き掛けてきた。
「…よぉ、アリア」
「グ、グリフォン!?」
そんなこと通常ならあり得ないけど、何故か水からグリフォンの声が聞こえる。
いつもよりだいぶ元気がないそれは私の大声に反応することなく続けた。
「そー、俺たち…何も言わずにとりあえずこの水飲んでくンね?マズソーな色で悪いな…」
「わかった!!」
何のためらいもなく真っ黒な水を一気に飲み干す。
今まで散々奇妙な体験をして来た私には、特に疑問に思うこともないし、身の危険とかも考えなかった。
ましてや「飲め」と言ったのはもう信頼し切っているグリフォンだ。
水が身体の中に入っていくとすぐに、熱いものが駆け巡るのがわかる。
何かが這いずり回っているような、むず痒い感じ。
その感覚がちょっと気持ち悪くて、引きずるようにして何とか自分の部屋の扉を開く。
薄目でベッドを確認して倒れ込んだ。
少しするとだいぶ落ち着いてきて、深呼吸してから口を開く。
「グリフォン…?」
見慣れた姿はないけれど、さっき会話できた事実は間違いない。
しばらく返事がなくて不安に思ったところで、耳からじゃなくて身体の内側から声がする。
『…アー、ちょっと待て…ヨシヨシ、OK OK。いい飲みっぷりだったな』
「グリフォン…どこにいるの?」
『まァそうだな、一言で言えばアリアちゃんの体内っつーか』
「私の体内…!?」
さっきの黒い液体はグリフォンたちそのものだったってこと?私は自分自身の心臓部を右手で押さえた。
さすがにちょっとだけ不安になってくる。
そんなに何個も生命体が入ってて、私の身体は大丈夫なんだろうか。
『オット、心配しないでくれよ!一応等価交換になってるから害はねェはず…すぐには、ナ』
グリフォンは私の心配を取り払うように、説明を続ける。
今魔力は最小限になっているから、人体にあまり影響が出ないだろうこと。
そして等価交換の意味。
とりあえず鏡を見てほしいと言われ、母に借りていた大きめの手鏡に自分の顔を映した。
「私…瞳の色が変わってる。Vと同じ色になってる」
両目の色がVと同じ緑色に変わって、髪は毛先の方から黒くグラデーションが掛かっている。
まじまじと見つめると、まるで瞳の中でグリフォンたちが動いたかのように、緑の濃淡がくるくると変わった。
『アリアの瞳と髪の色を貰ったぜ。右目が俺、左目が猫チャン。髪はあのデカいやつな』
「文字通り…一心同体ってこと?」
『そうだなァ!今の俺でもこういうことならできるぜ』
グリフォンがそう言うと勝手に右腕が上がったり下がったりして、続く形で左腕も動き出す。
多分シャドウも遊び感覚で動き始めたんだと思った。
『俺って超やさしー!好きなヤツと目と髪同じ色になるってめっちゃロマンチックじゃねェ?』
「ちょっと色々言いたいところが出て来ちゃったけど、とりあえず私の身体勝手に動かすのはなしにしてね…!」
『了解!主のお願いだもんな』
改めて私自身の意志で腕を動かしてみた。
なんか、これじゃあ主っていうより憑かれてるって感じだ。
でも私はVと違って生まれながら普通の人間だし、どうしようもないと納得させる。
今まで自分の身に起きたことでいっぱいいっぱいだったけれど、一区切りしてはっとした。
グリフォンたちが私のもとに来たってことは、Vも元に戻れたんだろうか。
「Vはどうなったの…!?」
姿は見えない中、自分の中にいるグリフォンに叫び気味に聞いてみる。
失敗なんて想像もしてないのに、勝手に心臓がどきどきして来た。
『安心しな、Vは無事にバージルに還ったぜ』
「そっか!良かった…」
良かったと自分の口から出て、そこでまた思ってしまった。
そうか。
もう、Vには会えないんだ。
次に会えたら、顔も姿も分からないバージルさん。
出逢えた時、私、分かるだろうか…。
わかっていたことだけど、ちょっと寂しくなってしまう。
『アリア、Vちゃんが言ってたぜ。愛してるって』
「…それ、泣かせようとしてる?グリフォン」
『ホントのこと言っただけダロ!』
私は少しだけ泣いて、無理矢理笑った。
たくさん笑って素敵な女性になって、Vに…。
バージルさんに出逢いたいと思ったから。
レッドグレイブの事件は、この6月15日に終焉を迎えた。
【第3章】 End.