【第3章】皆で叩く現実の扉
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「アリアのヤツ、今頃どうしってかなァ」
アリアを送り届けた日の夜、もう僅かになったろうそくの炎を見ながらグリフォンがぽつりと言う。
俺たちは崩壊した街の一角、路地裏で野宿することにした。
特に返答することもなく、ブレイクの詩集を久しぶりにひとりだけで1ページずつ読み進める。
「だんまりかよ!Vちゃん!?」
話し相手がいないのにとうとう痺れを切らしたのか、大きく叫んでこちらを覗き込んだ。
その時ちょうど「ゆりの花」のページでデイリリーの押し花が挟んであったため、あからさまにこれまでの勢いがなくなる。
「…アー、すまねェ…やっぱ寂しいよナ」
勝手にうなだれているグリフォンに、まだ何か返答する気はない。
寂しい、か。
これまですぐ近くにあったあの笑顔は今、ない。
改めて思い返すと、アリアはよく笑ったし泣いたし、最初は怒ってもいた。
様々な表情で頭の中がいっぱいになり、なんだか笑みがこぼれた。
そしてようやく、もう会えない事実に突き当たる。
そうか。
もう、会えないのだ、Vとしては。
次会えるのは、バージルとして。
最後に別れた時、アリアが振り絞るような声で、眉をひそめて言っていた言葉を思い出す。
「私の心もあなたのものだから!」
また泣いてしまいそうだったなと今思っても、現実に隣に俺はいないのだから、抱き締めてやることはできない。
そこで初めて最初にグリフォンが独り言のように言ったことと同じことを考えた。
「ゆりの花」のページはそのままに、俺はやっとグリフォンの方に顔を向ける。
「…アリアの悪夢は終わった。次は俺の番だ」
「すっげー前向きじゃん!良かった、やっぱ愛の力は偉大だゼ!」
俺の言葉を聞き、今度はあからさまに声のトーンを上げた。
とにかく、結果的にアリアは今まで食と宿を提供してくれていた。
持ち前の運のようなものもあったかもしれない。
「ネロが戻るまであと数日…またどこかでやり過ごそう」
「そうだな。アリアが見つけた缶詰、まだひと缶あったよなぁ?」
「まだ開けんぞ」
「エェー!?節約すんのォ!?」
「当たり前だろう。もういつ食にありつけるか分からん」
「だからって今食うモンもねェし!」
「お前は食わなくても死なないだろう」
アリアが見つけたクッキーやキャンディーはすでに全てなくなった。
あと5日間、人の身体でなんとか持ち堪えなければならない。
「…そうだ、少し貸せ」
「エッ!?痛ェ…!」
再びブレイクの詩集に目をやった時、ひとつ思い付いてわめくグリフォンの羽根に手を掛ける。
紺色の羽根を1枚むしって立ち上がり、先程倒した悪魔の死体に近づいた。
乾いていない血溜まりに先を浸して、「ゆりの花」のページに書き込む。
何事かと側に寄って来たグリフォンは手元を見てぎょっとした様子だ。
「ちょっと…V…流石に悪趣味じゃねェ?」
「インクがないから仕方ない」
「そりゃそうだけどサ…」
この先「俺」が忘れないようにアリアの名前をしっかり書き記し、少しだけ微笑んだ。
「俺の恋心は…アリアに託した」
保護されてから、すぐ隣街の病院に連行された。
自分ではあまり気づいていなかったけど、栄養失調気味だったようで点滴が開始され、とりあえず1日は入院することになった。
今まで色々な人たちが対応してくれ、ずっとばたばたして何かを考える暇もなかった。
その日の晩はすごく深く眠れて、夢も見なかった。
次の日、目覚めたらもうすぐ正午になる時間で、ちょうど看護師のひとが回ってきた。
私が起きたのを確認し、目を細めて微笑む。
「よく眠っていましたね。昼食、食べられそう…?」
勝手にお腹の音が部屋に響いて、代わりに返事をした。
すぐにパンとスープが出され「美味しい」と思った時、ぼろぼろの日記をとりあえず視線だけで必死に探し回る。
部屋の片隅のテーブルにそっと置いてあるのに気づいて、反射的に立ち上がろうとすると少しふらついてしまったけど、すぐに手に取って抱き締めた。
「Vと皆…どうしてるかな…」
結局最後までは一緒にいられなかった。
出された食事はそのままに、備え付けてあるTVのスイッチを入れる。
今更だけど、ほぼ全局がレッドグレイブの様子を報道していた。
1番驚いたのは、昨日私がVに送り届けてもらった橋周辺が悪魔たちによって陥落したという最新ニュースだ。
本当にぎりぎりのところで皆に助けてもらったんだと、改めて恐怖心がやってくる。
昨日の記憶が断片的にも蘇って、私はVとグリフォンに言われたことを頭の中に繰り返した。
「俺の心は、お前のものだ」
「アリア、なるべく笑っとけ!それだけで俺たち頑張れるからなァ!」
私の身体は、Vたちに生かしてもらったもの。
そう考えるとなんだか胸が熱くなって、ニュースを観ながらちゃんと昼食を完食した。
その後もばたばただった。
まず、病院から母に私の状況を連絡され、私も久しぶりに母と向き合った。
母は意外にも労ってくれ、私の無事を泣いてもくれた。
私が最後に怖がっていたことは、あっさり解決した。
向き合えば、何とかなることもあるんだ。
またひとつ、私は前に進めた。
今日、夕方に迎えに来てくれるという。
それまでの時間、病院の窓から空に伸びるクリフォトをぼんやり眺めていた。
あと数日でVの旅が終わる…。
end.
アリアを送り届けた日の夜、もう僅かになったろうそくの炎を見ながらグリフォンがぽつりと言う。
俺たちは崩壊した街の一角、路地裏で野宿することにした。
特に返答することもなく、ブレイクの詩集を久しぶりにひとりだけで1ページずつ読み進める。
「だんまりかよ!Vちゃん!?」
話し相手がいないのにとうとう痺れを切らしたのか、大きく叫んでこちらを覗き込んだ。
その時ちょうど「ゆりの花」のページでデイリリーの押し花が挟んであったため、あからさまにこれまでの勢いがなくなる。
「…アー、すまねェ…やっぱ寂しいよナ」
勝手にうなだれているグリフォンに、まだ何か返答する気はない。
寂しい、か。
これまですぐ近くにあったあの笑顔は今、ない。
改めて思い返すと、アリアはよく笑ったし泣いたし、最初は怒ってもいた。
様々な表情で頭の中がいっぱいになり、なんだか笑みがこぼれた。
そしてようやく、もう会えない事実に突き当たる。
そうか。
もう、会えないのだ、Vとしては。
次会えるのは、バージルとして。
最後に別れた時、アリアが振り絞るような声で、眉をひそめて言っていた言葉を思い出す。
「私の心もあなたのものだから!」
また泣いてしまいそうだったなと今思っても、現実に隣に俺はいないのだから、抱き締めてやることはできない。
そこで初めて最初にグリフォンが独り言のように言ったことと同じことを考えた。
「ゆりの花」のページはそのままに、俺はやっとグリフォンの方に顔を向ける。
「…アリアの悪夢は終わった。次は俺の番だ」
「すっげー前向きじゃん!良かった、やっぱ愛の力は偉大だゼ!」
俺の言葉を聞き、今度はあからさまに声のトーンを上げた。
とにかく、結果的にアリアは今まで食と宿を提供してくれていた。
持ち前の運のようなものもあったかもしれない。
「ネロが戻るまであと数日…またどこかでやり過ごそう」
「そうだな。アリアが見つけた缶詰、まだひと缶あったよなぁ?」
「まだ開けんぞ」
「エェー!?節約すんのォ!?」
「当たり前だろう。もういつ食にありつけるか分からん」
「だからって今食うモンもねェし!」
「お前は食わなくても死なないだろう」
アリアが見つけたクッキーやキャンディーはすでに全てなくなった。
あと5日間、人の身体でなんとか持ち堪えなければならない。
「…そうだ、少し貸せ」
「エッ!?痛ェ…!」
再びブレイクの詩集に目をやった時、ひとつ思い付いてわめくグリフォンの羽根に手を掛ける。
紺色の羽根を1枚むしって立ち上がり、先程倒した悪魔の死体に近づいた。
乾いていない血溜まりに先を浸して、「ゆりの花」のページに書き込む。
何事かと側に寄って来たグリフォンは手元を見てぎょっとした様子だ。
「ちょっと…V…流石に悪趣味じゃねェ?」
「インクがないから仕方ない」
「そりゃそうだけどサ…」
この先「俺」が忘れないようにアリアの名前をしっかり書き記し、少しだけ微笑んだ。
「俺の恋心は…アリアに託した」
保護されてから、すぐ隣街の病院に連行された。
自分ではあまり気づいていなかったけど、栄養失調気味だったようで点滴が開始され、とりあえず1日は入院することになった。
今まで色々な人たちが対応してくれ、ずっとばたばたして何かを考える暇もなかった。
その日の晩はすごく深く眠れて、夢も見なかった。
次の日、目覚めたらもうすぐ正午になる時間で、ちょうど看護師のひとが回ってきた。
私が起きたのを確認し、目を細めて微笑む。
「よく眠っていましたね。昼食、食べられそう…?」
勝手にお腹の音が部屋に響いて、代わりに返事をした。
すぐにパンとスープが出され「美味しい」と思った時、ぼろぼろの日記をとりあえず視線だけで必死に探し回る。
部屋の片隅のテーブルにそっと置いてあるのに気づいて、反射的に立ち上がろうとすると少しふらついてしまったけど、すぐに手に取って抱き締めた。
「Vと皆…どうしてるかな…」
結局最後までは一緒にいられなかった。
出された食事はそのままに、備え付けてあるTVのスイッチを入れる。
今更だけど、ほぼ全局がレッドグレイブの様子を報道していた。
1番驚いたのは、昨日私がVに送り届けてもらった橋周辺が悪魔たちによって陥落したという最新ニュースだ。
本当にぎりぎりのところで皆に助けてもらったんだと、改めて恐怖心がやってくる。
昨日の記憶が断片的にも蘇って、私はVとグリフォンに言われたことを頭の中に繰り返した。
「俺の心は、お前のものだ」
「アリア、なるべく笑っとけ!それだけで俺たち頑張れるからなァ!」
私の身体は、Vたちに生かしてもらったもの。
そう考えるとなんだか胸が熱くなって、ニュースを観ながらちゃんと昼食を完食した。
その後もばたばただった。
まず、病院から母に私の状況を連絡され、私も久しぶりに母と向き合った。
母は意外にも労ってくれ、私の無事を泣いてもくれた。
私が最後に怖がっていたことは、あっさり解決した。
向き合えば、何とかなることもあるんだ。
またひとつ、私は前に進めた。
今日、夕方に迎えに来てくれるという。
それまでの時間、病院の窓から空に伸びるクリフォトをぼんやり眺めていた。
あと数日でVの旅が終わる…。
end.