【第3章】皆で叩く現実の扉
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ラジオによれば、悪魔の影響はすでにレッドグレイブ市外にもおよぼうとしていて、前線では特殊部隊も派遣して何とか食い止めようとしているらしい。
例えば救助隊を呼んでヘリを要請しても、攻撃を受けてしまい無事に飛び立てるか疑問だということで、私たちは朝から街の外を目指して出発した。
勿論何度か悪魔たちと戦闘になったけれど、その度に皆が私に配慮しながら守ってくれた。
道中グリフォンから、普通ならVがこんなに最後まで警護することは奇跡で、それだけ私への愛情が深いからだと言われた。
改めてVの細い背中を見ると、複雑な気持ちが渦巻く。
Vのことが大好きだけど、私自身にここまでしてくれる価値があるのかなとか考えてしまう。
今までVがくれた全部に、私はこれから答えたいし恥ない生き方をしたい。
この1ヶ月は私の人生を確実に変えた。
この先Vが目的を遂げて、バージルさんに逢っても、素敵だと思ってもらえる女性になりたい。
どれだけ歩いたのか、駅まで到着して中のベンチにたどり着いた時、Vが振り返った。
「アリア、少し休憩しよう」
「今まで歩き通しだったもんなァ!俺も休みてェ!」
グリフォンはベンチの背もたれに留まり、シャドウは床にだらりと座り込む。
なかなか反応がない私に、Vが肩に手を乗せて顔を覗き込む。
「…大丈夫か?口数が少ないが」
「あ…うん!大丈夫!元気元気!」
なるべく笑顔で声を弾ませて答えるけど、Vの怪訝な表情は変わらなかった。
ベンチに留まったままのグリフォンがそんな私たちを見かねて口を開く。
「Vちゃんよ。もうすぐお別れって時に元気いっぱいでいられるワケねェだろ」
グリフォンが代弁してくれたことは間違ってはいない。
どちらかと言えば悲しみよりは申し訳なさみたいなものが渦巻いていて、でもうまく言葉にできなくて黙ったままになってしまう。
Vもグリフォンの方を見つめたまま、しばらく何も言わなかった。
「………そうか」
「何ィ!?その間?」
グリフォンのツッコミは無視して、改めてVが私を真っ直ぐ見つめた。
深い緑の瞳はこんな時にもとても綺麗だ。
ゆっくり右腕で腰を引き寄せられ、もう一方の手で優しく頬を撫でる。
「俺も、お前と離れがたい」
「V…」
「先を急いでいるのは…早くお前を安全な場所に誘導したいからだ…」
色々考えて、Vは自分自身も口数が減ったことに思い立ったのか、理由を説明してくれた。
私が珍しく黙ってるのはVが原因な訳じゃないのに。
「だから、誤解しないでくれ」
「エッ!そっちィ!?なんかちょっと方向違くない?まァ妥協点か?」
グリフォンがまたVにツッコミを入れて、いつもならそんなやり取りが楽しく笑ってしまうのに、今日は笑えなかった。
今に始まったことじゃないけど、皆私にすごく優しくしてくれる。
私が生きていけるようにしてくれる。
それが今またじわじわ感じられて、目の奥が熱くなってきた。
「エッ!?アリア!泣くなよ…ッ!てか泣くとこォ!?」
グリフォンは動揺して翼をばたつかせるし、Vは私の腰を抱いたまま困ったように眉間にシワを寄せる。
「ご、ごめん!!勝手に泣けてきちゃった…っ」
慌てて溢れる涙を両手で拭う。
私が今泣いてるのは、私のためにここまでしてくれる皆への感謝からで、悲しみは一切ない。
「私、ほんと…これから頑張るから…ありがとう皆…」
泣きながら笑う私に、感謝が伝わるか分からなくて、でも感情が昂ってしゃくり上げてしまうのが情けなかった。
涙で良く見えない中、Vの両腕が背中を滑ってそっと包んでくれる。
「アリア…俺もまだこれからなすべきことがある。お前だけが足掻き生きる訳じゃない」
頭をゆっくり撫でて耳元でそう囁いてくれ、これからも「ひとりじゃない」ことを改めて知らせてくれる。
「そうだぜ、アリア!俺らはすぐに再会する気でいるし、寂しくねェ!覚悟しとけよ!」
グリフォンの言う通り、魔獣たちとはすべて終わったら契約する約束をしているから、すぐに会えるはず。
足元のシャドウも身体を擦り寄せてくれて、私はまた段々落ち着きを取り戻すことができた。
それから少し駅で休んで、私たちはまた出発した。
一歩ずつ近づいてくる、この日々の終わり。
そして、新しい時間の始まり。
なんとかまだ日が高いうちに、レッドグレイブと隣街を繋げる橋を見渡せる広場に辿り着けた。
そこは最前線ということもあってか、バスなどの車がたくさん横転しガソリンに引火して、多くの悪魔が群がっている。
まさにこの世の地獄のような惨状に、いつ橋が崩壊して更には隣街まで被害が拡大するか分からないような状態だ。
「アリア、もう少しだ。ここを超えたらあの橋のたもとで人間たちの助けを得られるはず」
少し離れた瓦礫に身を隠しながら、Vが私に説明する。
特殊車両もたくさんあるのを肉眼で確認できるから理屈は分かる。
「…でも、この先あんなに悪魔がいるよ。ちょっと様子を見た方がいいんじゃない…?」
Vたちだけで何とかできる数には見えなくて、私の声は震えていた。
それこそ私を守るだけじゃなく、皆にも危険がありそうだ。
それでもVは、私の方にしっかり視線をくれて、頭を撫でてくれた。
「心配いらない…俺が悪魔たちを引き付ける。その隙にグリフォンにお前を任す」
私はその言葉にゆっくり頷き、思わずVの服の裾をちょっとだけ握って、目蓋をぎゅっとつぶる。
この瞬間が怖くて心臓がどきどきしてしまうのと、Vたちの身の危険を考えてしまうのを誤魔化すように。
「…行くぞ」
そう言って立ち上がると同時、Vは私の腰を引き寄せてそっと、でもしっかり口付ける。
不思議なほど澄んだ青空と街が赤く燃えているのが瞬間的に目に焼き付く。
「アリア…俺の心は、お前のものだ」
Vはくちびるを離し、口角を上げて微笑んだ。
今こんな時なのに、それがすごく綺麗だと思ってしまって、私が何か発する前にVが空に向かって指を鳴らす。
Vの髪の色素が抜けて、ナイトメアが姿を現した。
戦闘が始まると理解した瞬間、グリフォンが私の側に近づいて「足に掴まれ」と促される。
ああ、これが「最後」なんだ。
グリフォンの力を借りてつま先が宙に浮いた時、これだけは絶対に言わなくちゃと口を大きく開ける。
「V…!私も!私の心もあなたのものだから!」
今伝えないともう届かないかもしれない。
何回も何回も伝えた気持ちをまた言葉にしたら、Vは嬉しそうに目を細めた。
グリフォンはあっと言う間に悪魔たちを飛び越えて、橋のたもとに私を連れて行ってくれ、そこには武装した軍隊や様々な特殊車両が陣を張っている。
グリフォンは悪魔だけど、ただの民間人の私を抱えているから、攻撃は止めてくれた。
「…グリフォン!」
私を地面に着地させ、すぐに飛び立ってVの元に戻ろうとするグリフォンに叫ぶ。
青空に、大きく翼を広げた姿がよく映えている。
「アリア、なるべく笑っとけ!それだけで俺たち頑張れるからなァ!」
最後にかけてくれる言葉もすごく優しい。
姿が見えなくなるまでいつまでも見ていたかったけれど、軍隊の人たちが私に駆け寄って来てできなくなった。
end.