【第3章】皆で叩く現実の扉
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私が今まで大切にして来たお店は、とうとう壊れてしまった。
でも、いつか全てが終わった時にここに戻る。
そして私のお店を新しく作る。
Vたちから生きる希望をもらった私は、振り返ることもせずにいられた。
先導してくれていたVが、崩壊した街の一件のお店の軒下を見つけて振り返る。
「アリア、大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
「少しここで休憩しよう」
悪魔との戦闘と脱出で、お互いに少し息切れしていた。
壁にもたれかかってしゃがみ込むと、浮遊できるグリフォンは涼しい顔で私の胸元にあるものに気づいて口を開く。
「アリア、ちゃんと日記だけは持って来たのか!」
「お店を出る時にボロボロになっちゃったけどね…」
混乱の中でほとんど握りつぶしてしまったけど、持ち出せたこと自体が救いだった。
ページをパラパラと捲ると、ちゃんと皆で作ったデイリリーの花びらも残っていてほっとする。
「押し花もなんとか無事だし、良かった…っ」
「…俺のも大丈夫だ」
Vも口角を上げて本の1ページに挟んである黄色を見せてくれた。
少し時間を得て、きっとずっとこうなった時の対処法を考えていてくれたVは、私の瞳を真剣に見つめる。
「…アリア、レッドグレイブ以外伝手はないのか?」
もうしばらくここで生きることはできないから、当たり前の質問。
だけど、私が密かにずっと逃げていたもう1つのこと。
今となってはVの視線からもそらさずに、真っ直ぐ答える。
「隣街に母がいる…最近全く会ってないけど、連絡すれば何とかしてくれると思う」
「母」と言う単語にVの眉がぴくりと動いて、何か思うところがあるみたいだ。
でも、それが私の母に対してか、V自身のお母さんに対してかまではわからない。
私からしたら、母はあまり知らない人に近い。
物心ついた時には父と母は離婚していて、ロマンチストな父を母が嫌っているイメージが強かった。
父に影響を受けていた私も同じに決まってると思って、こうなる前からずっと連絡ができていなかった。
「…お母さんすごいリアリストだから、私のことなんて思ってるか今まで怖かった」
黙って聞いてくれるVに全部説明はしないまでも、少し本音をこぼして続ける。
「でも、頑張って連絡してみる」
「アリアちゃんも人生苦労したのネ…」
グリフォンが声のトーンを落として私に寄り添ってくれた。
Vは「頑張れ」なんて言わず私の頭を優しく撫でてから、瞳を細める。
「…俺がこの街の外まで誘導する。明日には主要部から出られるだろう」
「うん…!」
大きく頷いた後一歩遅れて、Vとのお別れが少しだけ早まった事実を実感して、ちょっとだけ悲しくなる。
でも、深く考える前にグリフォンの大きな声が響き渡った。
「てか、ここキャンディーストアじゃねェか!ラッキー!」
「えっホント…!?」
先に中を見ていたグリフォンと同じようにショーウィンドウを覗き込むと、大小様々な瓶の中に飴とかクッキーが入っているのが分かる。
偶々辿り着いたところはお菓子屋さんだったみたいだ。
「ちょうどいい…これから日も落ちるしな」
Vがゆっくり立ち上がり木戸を少しずつ開けて、隙間から安全を確認してから私たちは店内に入った。
ところどころ瓶が落ちて割れていたり荒れた店内には、お菓子の甘い香りよりも埃っぽい匂いが立ち込めている。
「夜はここで明かそう」
「うん…食べるものがありそうで良かった」
あと何日か活動するために何も食べない訳にはいかない。
グリフォンとシャドウも店内に入って、物色するようにあれこれ見ている。
「アリアちゃんってホント、生命線太そうだなァ!死神に嫌われてるンじゃね!?」
「それはちょっと前から私も思ってた…!」
「おっと、自覚アリ!?最強だな!」
こんな状況なのにグリフォンとの掛け合いが面白くて、私は自然と笑うことができた。
たくさんの棚に並ぶ瓶をひとつずつ手に取ってみる。
「見て、V。チョコチップクッキー!こっちはストロベリーキャンディーかな?」
Vに見せながらそれぞれ蓋を外すと、甘い香りが鼻をかすめる。
「クッキーは日が経っているからダメかもしれない。俺が先に試そう」
それなら一緒のタイミングで食べようよと言う前に、長い指で小振りなクッキーを摘んで口に入れてしまった。
Vだってお腹を壊す心配は十分あるのに。
「大丈夫、V?」
「湿気っているが害はなさそうだ」
また1枚クッキーを手に取って私の口元に差し出してくれるから、ちょっと恥ずかしくなりながら噛り付く。
「…うん、美味しい!」
「俺たちにもくれよォ!」
「はい、グリフォン!」
1枚摘んでグリフォンに差し出すと、大きく嘴を開いてほとんど丸呑みしてしまった。
シャドウの方もVの掌からクッキーを口にする。
「念のため何個か持っておこう…何もないよりましだからな」
「そうだね…」
私たちはそれぞれポケットに数個のクッキーとキャンディーを入れた。
この先まともに食にありつけないかもしれないことがじわじわ実感できて、改めて命の危機を感じ始める。
それに日が傾いて来たのか、室内が段々暗くなって来た。
「…キャンドルか何かあればいいんだが」
「ちょっと探してみる!」
「OK、探してやるぜ!待ってなァ」
全員で室内を隈なく探すけれど、電気が通っていない状態で灯りがつくようなものはなかなかない。
他に代用できるものも考え付かず、不意にVが部屋のランプを指差した。
「グリフォン、お前の電流で何とかしろ」
「イヤイヤ!無理だろォよ!俺にずっと放電シテロってか?」
「役に立たん奴だ…」
そんなやり取りの中、私とシャドウは諦め切れずに引き出しも全部開けていて、とうとう目的のものを見つけ出す。
「V、グリフォン!これ!」
部屋の片隅の1番下の棚には使われていない防災用品が閉まってあった。
悪魔が街に現れるという災害には役に立たなかったようで、大きめのろうそくと何個か缶詰がそのまま残っている。
「良くやった、アリア」
「ヨッシャー!早速明るくしてやるゼ!」
ろうそくを床に置いて、グリフォンが電撃でうまく点火させた。
ほのかな灯りだけど何もない闇とは全然違う。
私たちはまた、少しだけ落ち着いて床に座り込んだ。
「疲れただろう…」
隣のVが労わるように瞳を細めて微笑む。
お昼の襲撃からここまでほぼノンストップで来たから、当然疲れは出てるけど、それは皆同じことで私も微笑んで返した。
「…大丈夫。ありがとう、V」
「お前の店…」
そう静かに切り出して、Vはろうそくの火をじっと眺める。
何か考えているみたい。
「また…いつか来店したいものだ」
今まで奇跡的に籠城できた、黄色い花の美しい空間。
きっともうぐちゃぐちゃになってしまって、戻ることもできない。
残っているのは皆の中に残る記憶と、押し花のデイリリーだけだ。
ぼろぼろになった日記を、指先でそっと撫でる。
「…また、いつでも来てね…例えば…何年かかってもいいから」
探さないでほしいとは言われたけど、待っているのは許してほしい。
そう思って、私は今自分でできるだけ精一杯笑ってみせた。
end.
でも、いつか全てが終わった時にここに戻る。
そして私のお店を新しく作る。
Vたちから生きる希望をもらった私は、振り返ることもせずにいられた。
先導してくれていたVが、崩壊した街の一件のお店の軒下を見つけて振り返る。
「アリア、大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
「少しここで休憩しよう」
悪魔との戦闘と脱出で、お互いに少し息切れしていた。
壁にもたれかかってしゃがみ込むと、浮遊できるグリフォンは涼しい顔で私の胸元にあるものに気づいて口を開く。
「アリア、ちゃんと日記だけは持って来たのか!」
「お店を出る時にボロボロになっちゃったけどね…」
混乱の中でほとんど握りつぶしてしまったけど、持ち出せたこと自体が救いだった。
ページをパラパラと捲ると、ちゃんと皆で作ったデイリリーの花びらも残っていてほっとする。
「押し花もなんとか無事だし、良かった…っ」
「…俺のも大丈夫だ」
Vも口角を上げて本の1ページに挟んである黄色を見せてくれた。
少し時間を得て、きっとずっとこうなった時の対処法を考えていてくれたVは、私の瞳を真剣に見つめる。
「…アリア、レッドグレイブ以外伝手はないのか?」
もうしばらくここで生きることはできないから、当たり前の質問。
だけど、私が密かにずっと逃げていたもう1つのこと。
今となってはVの視線からもそらさずに、真っ直ぐ答える。
「隣街に母がいる…最近全く会ってないけど、連絡すれば何とかしてくれると思う」
「母」と言う単語にVの眉がぴくりと動いて、何か思うところがあるみたいだ。
でも、それが私の母に対してか、V自身のお母さんに対してかまではわからない。
私からしたら、母はあまり知らない人に近い。
物心ついた時には父と母は離婚していて、ロマンチストな父を母が嫌っているイメージが強かった。
父に影響を受けていた私も同じに決まってると思って、こうなる前からずっと連絡ができていなかった。
「…お母さんすごいリアリストだから、私のことなんて思ってるか今まで怖かった」
黙って聞いてくれるVに全部説明はしないまでも、少し本音をこぼして続ける。
「でも、頑張って連絡してみる」
「アリアちゃんも人生苦労したのネ…」
グリフォンが声のトーンを落として私に寄り添ってくれた。
Vは「頑張れ」なんて言わず私の頭を優しく撫でてから、瞳を細める。
「…俺がこの街の外まで誘導する。明日には主要部から出られるだろう」
「うん…!」
大きく頷いた後一歩遅れて、Vとのお別れが少しだけ早まった事実を実感して、ちょっとだけ悲しくなる。
でも、深く考える前にグリフォンの大きな声が響き渡った。
「てか、ここキャンディーストアじゃねェか!ラッキー!」
「えっホント…!?」
先に中を見ていたグリフォンと同じようにショーウィンドウを覗き込むと、大小様々な瓶の中に飴とかクッキーが入っているのが分かる。
偶々辿り着いたところはお菓子屋さんだったみたいだ。
「ちょうどいい…これから日も落ちるしな」
Vがゆっくり立ち上がり木戸を少しずつ開けて、隙間から安全を確認してから私たちは店内に入った。
ところどころ瓶が落ちて割れていたり荒れた店内には、お菓子の甘い香りよりも埃っぽい匂いが立ち込めている。
「夜はここで明かそう」
「うん…食べるものがありそうで良かった」
あと何日か活動するために何も食べない訳にはいかない。
グリフォンとシャドウも店内に入って、物色するようにあれこれ見ている。
「アリアちゃんってホント、生命線太そうだなァ!死神に嫌われてるンじゃね!?」
「それはちょっと前から私も思ってた…!」
「おっと、自覚アリ!?最強だな!」
こんな状況なのにグリフォンとの掛け合いが面白くて、私は自然と笑うことができた。
たくさんの棚に並ぶ瓶をひとつずつ手に取ってみる。
「見て、V。チョコチップクッキー!こっちはストロベリーキャンディーかな?」
Vに見せながらそれぞれ蓋を外すと、甘い香りが鼻をかすめる。
「クッキーは日が経っているからダメかもしれない。俺が先に試そう」
それなら一緒のタイミングで食べようよと言う前に、長い指で小振りなクッキーを摘んで口に入れてしまった。
Vだってお腹を壊す心配は十分あるのに。
「大丈夫、V?」
「湿気っているが害はなさそうだ」
また1枚クッキーを手に取って私の口元に差し出してくれるから、ちょっと恥ずかしくなりながら噛り付く。
「…うん、美味しい!」
「俺たちにもくれよォ!」
「はい、グリフォン!」
1枚摘んでグリフォンに差し出すと、大きく嘴を開いてほとんど丸呑みしてしまった。
シャドウの方もVの掌からクッキーを口にする。
「念のため何個か持っておこう…何もないよりましだからな」
「そうだね…」
私たちはそれぞれポケットに数個のクッキーとキャンディーを入れた。
この先まともに食にありつけないかもしれないことがじわじわ実感できて、改めて命の危機を感じ始める。
それに日が傾いて来たのか、室内が段々暗くなって来た。
「…キャンドルか何かあればいいんだが」
「ちょっと探してみる!」
「OK、探してやるぜ!待ってなァ」
全員で室内を隈なく探すけれど、電気が通っていない状態で灯りがつくようなものはなかなかない。
他に代用できるものも考え付かず、不意にVが部屋のランプを指差した。
「グリフォン、お前の電流で何とかしろ」
「イヤイヤ!無理だろォよ!俺にずっと放電シテロってか?」
「役に立たん奴だ…」
そんなやり取りの中、私とシャドウは諦め切れずに引き出しも全部開けていて、とうとう目的のものを見つけ出す。
「V、グリフォン!これ!」
部屋の片隅の1番下の棚には使われていない防災用品が閉まってあった。
悪魔が街に現れるという災害には役に立たなかったようで、大きめのろうそくと何個か缶詰がそのまま残っている。
「良くやった、アリア」
「ヨッシャー!早速明るくしてやるゼ!」
ろうそくを床に置いて、グリフォンが電撃でうまく点火させた。
ほのかな灯りだけど何もない闇とは全然違う。
私たちはまた、少しだけ落ち着いて床に座り込んだ。
「疲れただろう…」
隣のVが労わるように瞳を細めて微笑む。
お昼の襲撃からここまでほぼノンストップで来たから、当然疲れは出てるけど、それは皆同じことで私も微笑んで返した。
「…大丈夫。ありがとう、V」
「お前の店…」
そう静かに切り出して、Vはろうそくの火をじっと眺める。
何か考えているみたい。
「また…いつか来店したいものだ」
今まで奇跡的に籠城できた、黄色い花の美しい空間。
きっともうぐちゃぐちゃになってしまって、戻ることもできない。
残っているのは皆の中に残る記憶と、押し花のデイリリーだけだ。
ぼろぼろになった日記を、指先でそっと撫でる。
「…また、いつでも来てね…例えば…何年かかってもいいから」
探さないでほしいとは言われたけど、待っているのは許してほしい。
そう思って、私は今自分でできるだけ精一杯笑ってみせた。
end.