【第3章】皆で叩く現実の扉
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スパーダは純粋な悪魔でありながら、人間の女を妻として娶り、ふたりの間には双子の男児が生まれた。
彼らは自身が半分悪魔であることを自覚することもなく、また幼さ故にその必要もなく、緑豊かな土地で何不自由なく育てられた。
窓から射し込む柔らかい光や、お気に入りの音楽、キッチンから漂う甘い香り…。
そういった優しいものが、永遠に溢れているのだと錯覚さえしてしまうくらいだった。
だがその日は突然に、やって来た。
悪魔の群勢が彼らの家、いや、住んでいた街全体を襲ったのだ。
運命の時、彼らはそれぞれ別々の場所にいた。
双子の弟と母親は家の中。
弟は母によってクローゼットの中に隠され、助かった。
双子の兄は庭にあった遊具のひとつにいた。
怒りや悲しみ、そして、恐怖。
様々な感情が1度にやって来て、たったひとりながら兄も何とか生き延びた。
命は助かったものの、まだまだ幼かったので、何故母は自分も守ってくれなかったのかとも考えてしまった。
何故弟だけを。
しかし事態が少し落ち着いた後、肝心な母は、血みどろで事切れていた。
私がVの話をそこまで聞いた時、外が一瞬明るくなって大きな音が響き渡る。
続いて地面が揺れ、窓ガラスもかたかた音を立てた。
すぐに雷だとわかって、思わず自分の身体を両腕で抱き締める。
その仕草にVは気付いてくれ、話を中断してくれた。
「怖いか?」
「…落ちたらどうしようかと思って」
「こちらへ来い」
優しい眼差しに、座っていたひとり掛けソファーを動かして、Vの椅子の隣にくっつける。
それから私の肩に手を回してくれ、温もりがだんだん不安を消していってくれた。
落ち着いてから、今まで聞いた話を思い返す。
「V、今の話が以前この街が襲われた時のことだよね?スパーダの家族はレッドグレイブに住んでいたの?」
質問したらVが私の顔を覗き込み、緑色の瞳を細めてさっきの話とは対照的に穏やかな笑みをくれる。
「…全て、イエスだ。場所はまるで隠れ家のようだったがな」
「そうなんだ…」
まだ雷が近いのか、外ではゴロゴロと音が響いている。
Vとくっついているからか、私は今そこまで強い恐怖は感じない。
ひとりでと、ふたりでとは、このシチュエーションもそうだけど、今までの色々な状況から全く違うことをもう痛いくらいに知っている。
私はたまたまひとりでその日を迎えてしまった、スパーダの双子の息子の、お兄さんのことをふと考えてしまう。
Vの話は明らかにお兄さん側に偏っていて、お兄さんの存在がVに関係しているのは簡単に予想できる。
「2人はその後どうなったの…?」
「弟は名前を変えて人間として生きた…知っているのはこれくらいだ。兄の方が詳しい」
「…聞かせて」
Vの返事に私は確信して、続きを促す。
私からは視線を外し、まるで思い出すように、言葉を選んでいった。
兄はスパーダより受け継いだ魔剣閻魔刀を使い、悪魔は勿論、自らに危険をもたらすものは全て排除した。
生きるために必要なことはなんでもした。
そもそも何故あの日に、悪魔たちが襲って来たのか。
それは父が、伝説の魔剣士スパーダであることが関係していることは明白だ。
彼はスパーダに繋がるものを、文献や土地なども調べ始めた。
あの悪夢の日からずっと力が全てで、今となっては自身の中に流れる血の意味も理解している。
スパーダの強大な力は、息子である自分が受け継ぐに相応しい。
そう思った。
そうして、ひたすら力を追い求める過程で、兄は弟と再会することになった。
そこまで話を進めて、何故かVは押し黙った。
2人が再会してからどうなったか話す様子がなく、私たちの間には沈黙が流れて、それを破ったのはVじゃなくアームレストに留まったグリフォンだった。
「スパーダの息子たちは意見の違いから大喧嘩!その後も何度か戦って、兄貴の方はまさかまさかの負け続きっつー訳だ!」
なんだかものすごく話を端折られた気がする。
しかもグリフォンはいつもの口調で、場に似合わずちょっと演劇風になっている。
でもVは、それを否定もせず遮ることもしなかったから、本当のことなんだろう。
「悪魔の身体は人間とは違って丈夫で、半魔でもスパーダの息子なら尚更だ!だが、兄貴の身体もとうとう限界まで来ちまった…それこそ瀕死までな」
さあ続きを話すのはVだというように、グリフォンはそこまで言うと、Vをじっと見つめた。
しばらくただ言われるままだったVは、それを受けてまた口を開く。
「彼が父から譲り受けた閻魔刀は、人と魔を分かつという能力があった」
「ソレで貫いたんだ、自分の身体をグサッとな!」
「うるさい、展開が早過ぎてアリアが付いていけないだろう」
とうとうグリフォンの話に待ったを出すV。
普通に考えて、刀で自分の身体を貫いたら死んでしまう。
もっと丁寧に説明が欲しいところだった。
悪魔がそう簡単に死なないように、スパーダの息子たちも、それこそ心臓を貫いても死なないくらいの治癒力をもっていた。
兄は瀕死状態だったが、度重なる敗北からあるひとつの強い感情があった。
俺は、弟に負け続けるような男ではない。
弟に負けっぱなしで死ぬような男ではない。
彼は弟に勝つために、ある方法を思い付く。
それこそが、人と魔を分かつ己の武器閻魔刀で自らを貫くことだった。
そうすれば、完全な悪魔となり弟に勝つことができる。
ためらいなど全くなく実行に移すと、彼の肉体からは様々なものが飛び出した。
悪魔と、人と、それまでの記憶たち…。
「悪魔は生まれてからみるみるうちに力をつけ、この街に危険をもたらし…そして今もそれは続いている」
Vの一通りの話を、一応頭で理解することはできた。
今まで何があって、どうしてこうなったかを知ることはできた。
でも、感情が一緒に付いてこない。
とにかく、Vはスパーダの息子のひとりで、しかもその人間の部分ということ、らしい。
全てを聞いた私はすぐに何かを言うことができなくて、私たちの間には再び雨の音が響き始めた。
end.
彼らは自身が半分悪魔であることを自覚することもなく、また幼さ故にその必要もなく、緑豊かな土地で何不自由なく育てられた。
窓から射し込む柔らかい光や、お気に入りの音楽、キッチンから漂う甘い香り…。
そういった優しいものが、永遠に溢れているのだと錯覚さえしてしまうくらいだった。
だがその日は突然に、やって来た。
悪魔の群勢が彼らの家、いや、住んでいた街全体を襲ったのだ。
運命の時、彼らはそれぞれ別々の場所にいた。
双子の弟と母親は家の中。
弟は母によってクローゼットの中に隠され、助かった。
双子の兄は庭にあった遊具のひとつにいた。
怒りや悲しみ、そして、恐怖。
様々な感情が1度にやって来て、たったひとりながら兄も何とか生き延びた。
命は助かったものの、まだまだ幼かったので、何故母は自分も守ってくれなかったのかとも考えてしまった。
何故弟だけを。
しかし事態が少し落ち着いた後、肝心な母は、血みどろで事切れていた。
私がVの話をそこまで聞いた時、外が一瞬明るくなって大きな音が響き渡る。
続いて地面が揺れ、窓ガラスもかたかた音を立てた。
すぐに雷だとわかって、思わず自分の身体を両腕で抱き締める。
その仕草にVは気付いてくれ、話を中断してくれた。
「怖いか?」
「…落ちたらどうしようかと思って」
「こちらへ来い」
優しい眼差しに、座っていたひとり掛けソファーを動かして、Vの椅子の隣にくっつける。
それから私の肩に手を回してくれ、温もりがだんだん不安を消していってくれた。
落ち着いてから、今まで聞いた話を思い返す。
「V、今の話が以前この街が襲われた時のことだよね?スパーダの家族はレッドグレイブに住んでいたの?」
質問したらVが私の顔を覗き込み、緑色の瞳を細めてさっきの話とは対照的に穏やかな笑みをくれる。
「…全て、イエスだ。場所はまるで隠れ家のようだったがな」
「そうなんだ…」
まだ雷が近いのか、外ではゴロゴロと音が響いている。
Vとくっついているからか、私は今そこまで強い恐怖は感じない。
ひとりでと、ふたりでとは、このシチュエーションもそうだけど、今までの色々な状況から全く違うことをもう痛いくらいに知っている。
私はたまたまひとりでその日を迎えてしまった、スパーダの双子の息子の、お兄さんのことをふと考えてしまう。
Vの話は明らかにお兄さん側に偏っていて、お兄さんの存在がVに関係しているのは簡単に予想できる。
「2人はその後どうなったの…?」
「弟は名前を変えて人間として生きた…知っているのはこれくらいだ。兄の方が詳しい」
「…聞かせて」
Vの返事に私は確信して、続きを促す。
私からは視線を外し、まるで思い出すように、言葉を選んでいった。
兄はスパーダより受け継いだ魔剣閻魔刀を使い、悪魔は勿論、自らに危険をもたらすものは全て排除した。
生きるために必要なことはなんでもした。
そもそも何故あの日に、悪魔たちが襲って来たのか。
それは父が、伝説の魔剣士スパーダであることが関係していることは明白だ。
彼はスパーダに繋がるものを、文献や土地なども調べ始めた。
あの悪夢の日からずっと力が全てで、今となっては自身の中に流れる血の意味も理解している。
スパーダの強大な力は、息子である自分が受け継ぐに相応しい。
そう思った。
そうして、ひたすら力を追い求める過程で、兄は弟と再会することになった。
そこまで話を進めて、何故かVは押し黙った。
2人が再会してからどうなったか話す様子がなく、私たちの間には沈黙が流れて、それを破ったのはVじゃなくアームレストに留まったグリフォンだった。
「スパーダの息子たちは意見の違いから大喧嘩!その後も何度か戦って、兄貴の方はまさかまさかの負け続きっつー訳だ!」
なんだかものすごく話を端折られた気がする。
しかもグリフォンはいつもの口調で、場に似合わずちょっと演劇風になっている。
でもVは、それを否定もせず遮ることもしなかったから、本当のことなんだろう。
「悪魔の身体は人間とは違って丈夫で、半魔でもスパーダの息子なら尚更だ!だが、兄貴の身体もとうとう限界まで来ちまった…それこそ瀕死までな」
さあ続きを話すのはVだというように、グリフォンはそこまで言うと、Vをじっと見つめた。
しばらくただ言われるままだったVは、それを受けてまた口を開く。
「彼が父から譲り受けた閻魔刀は、人と魔を分かつという能力があった」
「ソレで貫いたんだ、自分の身体をグサッとな!」
「うるさい、展開が早過ぎてアリアが付いていけないだろう」
とうとうグリフォンの話に待ったを出すV。
普通に考えて、刀で自分の身体を貫いたら死んでしまう。
もっと丁寧に説明が欲しいところだった。
悪魔がそう簡単に死なないように、スパーダの息子たちも、それこそ心臓を貫いても死なないくらいの治癒力をもっていた。
兄は瀕死状態だったが、度重なる敗北からあるひとつの強い感情があった。
俺は、弟に負け続けるような男ではない。
弟に負けっぱなしで死ぬような男ではない。
彼は弟に勝つために、ある方法を思い付く。
それこそが、人と魔を分かつ己の武器閻魔刀で自らを貫くことだった。
そうすれば、完全な悪魔となり弟に勝つことができる。
ためらいなど全くなく実行に移すと、彼の肉体からは様々なものが飛び出した。
悪魔と、人と、それまでの記憶たち…。
「悪魔は生まれてからみるみるうちに力をつけ、この街に危険をもたらし…そして今もそれは続いている」
Vの一通りの話を、一応頭で理解することはできた。
今まで何があって、どうしてこうなったかを知ることはできた。
でも、感情が一緒に付いてこない。
とにかく、Vはスパーダの息子のひとりで、しかもその人間の部分ということ、らしい。
全てを聞いた私はすぐに何かを言うことができなくて、私たちの間には再び雨の音が響き始めた。
end.