【第1章】夢のようなひと
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朝は好きだ。
たとえ私がこの店内でひとりぼっちでも、明るい日差しが今日の活力を与えてくれる。
太陽の光が差し込んで、私はゆっくりとまぶたを開いた。
ああ、また1日が始まる。
いつもと同じようで違う、悪夢の中で生きていく1日が。
ぼーっとしていた感覚が晴れていけば、私のすぐ目の前に黒髪と、同じ色の長いまつ毛の男性の寝顔。
片目は前髪で隠れてしまい、ちょっと影ができているところがなんだか色っぽく見える。
「…っ…」
思わず声を上げそうになるのを、自分の両手で抑え込んで、昨日あったことを全部思い出した。
「あーそっか…」
V。不思議なひと。
あなたは何なの?
そう思っても、今私がいるこの街は非現実的なことがたくさん起きている。
だからこれ以上は何も聞いたりしないつもりだ。
「アリアと言ったな。きっと、お前の方がよっぽどまっすぐで美しい」
昨日の晩、Vに言われた台詞を思い出す。
美しいという言葉は、絶対今のVの寝顔の方が似合ってる。
見れば見る程そう思う。
まるで彫刻みたいだ。
「多分、私よりVの方がきれーだよ」
私はようやく身を起こして、寝ているVに囁いた。
同時に私以外にも目覚めたひとに気づいて、にっこり微笑む。
「あっ、おはよう黒猫ちゃん」
Vの隣で丸まっていた黒猫ちゃんは、しっぽを左右に揺らしていた。
私の傍の鳥くんは、まだ眠っているみたい。
2人が起きるまでこうしているのも何だし、きっと、咲き始めたあれを見に行こう。
「来て。いいもの見せてあげる」
私は黒猫ちゃんに静かに伝え、ゆっくり立ち上がった。
書斎から出て一緒に向かったのは、本来のベッドルーム。
破壊されてしまい、眠るのは危険だからやめた。
明るいのを利用して瓦礫を避け、ベッドの横の大きな窓から身を乗り出す。
「見て見て。綺麗でしょ?」
天に向かって、大きく開く黄色い花。
楽器に喩えるなら、ラッパみたいなそれ。
普段通りなら、目覚めたらこの花が朝の訪れを知らせてくれていた。
「こんなに綺麗なのに、1日しか保たないんだよ。でもその分たくさん花が咲くんだ」
私は花たちを見つめて、隣の黒猫ちゃんの身体をそっと撫でる。
ベルベットみたいな毛並みは、すごく心地いい。
「デイリリーっていうんだって。これも父さんの趣味なの」
私の「父さん」という言葉に反応したのか、黒猫ちゃんは私のほっぺをひと舐めした。
そして何度もぺろぺろ舐めてくるから、笑わずにはいられなくなる。
「あ…はははっ、くすぐったい」
もしかして励まそうとしてくれてるのかな?
私は自分で気づかないうちに、そんなに哀しそうな顔をしていたんだろうか。
私と黒猫ちゃんがすっかり仲良くしていると、すぐ後ろから突然声が聞こえてきた。
「…お前の父は、いい趣味を持っていたんだな」
振り返れば全然気配を感じなかったのに、Vが立っている。
さっきVの寝顔をじっくり観察してしまったのもあって、私は大げさかもしれないくらい飛び上がった。
「V!?びっくりした…!」
「おはよう、アリア」
Vは何ともないように、口角を上げて優雅に微笑む。
優雅にっていうのは、完全な私のイメージだけど。
「…うん、おはよう」
挨拶を返せば、Vも私たちと同じように窓から身を乗り出して裏庭のデイリリーたちを見つめた。
「美しい…」
「ありがとう…かな」
私はVの感想に父が残した花たちへの賞賛も含まれている気がして、お礼を言う。
朝日とデイリリー畑とVの横顔。
目の前に、なんだか絵画みたいな光景が広がっている。
私はVをVはデイリリーを眺めて少し経った時、開いたままのドアから鳥くんが現れた。
「おっはよーメシアちゃん!今日は何食わしてくれんの?って、ゴメンな!取り込み中だった?」
「あ、鳥くん、おはよ!大丈夫、皆でお花見てただけ」
「あらーメシアちゃんも、なんだかんだでロマンチストだよなァ」
「そうかな…?」
ロマンチストって言葉は、私よりも父に似合う言葉だと思っていた。
だから、自分自身に向かって使われるとは思わなかった。
「じゃなかったら音楽も花もしねェって!」
「まぁ…そうか」
確かに、失礼かもしれないけど鳥くんが音楽や花を嗜むってイメージはあまりない。
何かの音楽を聴きながら、リズムに乗ったりはありそうだけど、雰囲気に酔うってタイプじゃなそうだ。
私がくすりと笑うと、鳥くんは不思議そうに首を傾げた。
その後、私たちは昨晩と同じように皆一緒に朝食を済ませて、今後どうするのか少しだけ話し合った。
Vにはやるべきことがあると言っていた。
日中は少しの時間、お別れだ。
「じゃあ、V。私はここでお留守番してればいいのね?」
「そうだ。下手に出歩くと危険だからな」
「わかった。どちみち徘徊するつもりはなかったから…」
この街に悪魔たちが現れてからこれまでも、外に出るのは必要最低限だった。
基本的にずっと閉じこもっていた私には、簡単なルールだ。
わかってるのに、何故か胸に締め付けられるような感覚を覚えて、視線を下に落とす。
「絶対帰ってくるから、暗い顔すんなよメシアちゃん!」
鳥くんの声掛けにはっとして、私は笑顔を作る。
「そんな顔してた?疲れたらいつでも帰ってきて」
「ああ…助かる」
「やるべきこと、頑張ってね!」
言葉でVの背中を押して、Vたちは私のもとを後にした。
今日1日の「やるべきこと」が終わったら、皆はここに戻ってくる。
そんな保証はどこにもない。
昨日会ったばかりだし、もう来てくれないかも…。
そんな考えに行き当たる。
おかしいな。
ちょっと前まで、こんなに寂しいとかなかったのに。
まだ平和にこのお店をやっている時は、毎日ちょこちょこ来店してくれるお客さんと話すだけで楽しかった。
だけどあの悪夢から、ずっとひとりで気を張っていたからか。
またひとりになりたくないって今もっと、強く強く思ってる。
もし昨日Vたちと出逢っていなかったら、今日の私はどうしていたんだろう?
明日の私は?
ひとりがもう想像できなくなっている。
だから皆が帰ってくることを前提に、私はあることを始めた。
父が大切にしていたレコードたち。
1曲ずつ聴いていく。
作業していると気が紛れたのか、寂しい気持ちや不安はだんだん減っていった。
「メシアちゃん、ただいまー!」
そして夕暮れ時。
鳥くんの相変わらずの元気な声と共に、Vたちはちゃんと帰って来てくれた。
良かった。
また皆と今日も楽しく過ごせる。
「おかえりなさーい!今日の1曲はこれだよ」
私は皆が帰宅した時用に、何枚か聴いて準備した1枚をプレーヤーにセットした。
父が好きでよく聴いていた曲。
「ワァォ、超ノリノリ」
1番最初に反応してくれたのは鳥くんだった。
Vは何故か視線を横にずらし、口を開く。
「スウィートジョージアブラウン…」
「え?V知ってるんだ?」
「昔聴いたことがある」
Vの緑の瞳が私に戻され、微笑んだ。
「へぇーVも詳しそう」
「お前の父ほどではないだろうな」
この曲結構古いみたいなんだけどな。
意外過ぎる。
しかも「昔」って?Vってそんなに歳いってる?
不思議に思ったけど、聞かずにしておく。
あ、Vって本当に音楽が好きで色々聴いたことがあるってことかな。
私は自分自身で勝手にそう納得させた。
選んだ1曲が終わった頃、Vは私に問いかける。
「この曲も、お前の父がよく聴いていたのか?」
「うん、そうだよ」
私は父を思い出しながら、目を細めた。
とっても、懐かしい。
「アリア自身が気に入った曲も、聴いてみたいものだな」
私自身?
今まで、父に聴かされたり与えられたものを大切にしてきた私には、そんな視点はなかった。
Vには、私から見て自分自身の独特な世界観がある。
Vは「私の世界」に興味があるんだ。
「考えとく」
これはある意味Vがくれた「課題」だね。
この1ヶ月間の楽しみが、またひとつ増えた。
end.
たとえ私がこの店内でひとりぼっちでも、明るい日差しが今日の活力を与えてくれる。
太陽の光が差し込んで、私はゆっくりとまぶたを開いた。
ああ、また1日が始まる。
いつもと同じようで違う、悪夢の中で生きていく1日が。
ぼーっとしていた感覚が晴れていけば、私のすぐ目の前に黒髪と、同じ色の長いまつ毛の男性の寝顔。
片目は前髪で隠れてしまい、ちょっと影ができているところがなんだか色っぽく見える。
「…っ…」
思わず声を上げそうになるのを、自分の両手で抑え込んで、昨日あったことを全部思い出した。
「あーそっか…」
V。不思議なひと。
あなたは何なの?
そう思っても、今私がいるこの街は非現実的なことがたくさん起きている。
だからこれ以上は何も聞いたりしないつもりだ。
「アリアと言ったな。きっと、お前の方がよっぽどまっすぐで美しい」
昨日の晩、Vに言われた台詞を思い出す。
美しいという言葉は、絶対今のVの寝顔の方が似合ってる。
見れば見る程そう思う。
まるで彫刻みたいだ。
「多分、私よりVの方がきれーだよ」
私はようやく身を起こして、寝ているVに囁いた。
同時に私以外にも目覚めたひとに気づいて、にっこり微笑む。
「あっ、おはよう黒猫ちゃん」
Vの隣で丸まっていた黒猫ちゃんは、しっぽを左右に揺らしていた。
私の傍の鳥くんは、まだ眠っているみたい。
2人が起きるまでこうしているのも何だし、きっと、咲き始めたあれを見に行こう。
「来て。いいもの見せてあげる」
私は黒猫ちゃんに静かに伝え、ゆっくり立ち上がった。
書斎から出て一緒に向かったのは、本来のベッドルーム。
破壊されてしまい、眠るのは危険だからやめた。
明るいのを利用して瓦礫を避け、ベッドの横の大きな窓から身を乗り出す。
「見て見て。綺麗でしょ?」
天に向かって、大きく開く黄色い花。
楽器に喩えるなら、ラッパみたいなそれ。
普段通りなら、目覚めたらこの花が朝の訪れを知らせてくれていた。
「こんなに綺麗なのに、1日しか保たないんだよ。でもその分たくさん花が咲くんだ」
私は花たちを見つめて、隣の黒猫ちゃんの身体をそっと撫でる。
ベルベットみたいな毛並みは、すごく心地いい。
「デイリリーっていうんだって。これも父さんの趣味なの」
私の「父さん」という言葉に反応したのか、黒猫ちゃんは私のほっぺをひと舐めした。
そして何度もぺろぺろ舐めてくるから、笑わずにはいられなくなる。
「あ…はははっ、くすぐったい」
もしかして励まそうとしてくれてるのかな?
私は自分で気づかないうちに、そんなに哀しそうな顔をしていたんだろうか。
私と黒猫ちゃんがすっかり仲良くしていると、すぐ後ろから突然声が聞こえてきた。
「…お前の父は、いい趣味を持っていたんだな」
振り返れば全然気配を感じなかったのに、Vが立っている。
さっきVの寝顔をじっくり観察してしまったのもあって、私は大げさかもしれないくらい飛び上がった。
「V!?びっくりした…!」
「おはよう、アリア」
Vは何ともないように、口角を上げて優雅に微笑む。
優雅にっていうのは、完全な私のイメージだけど。
「…うん、おはよう」
挨拶を返せば、Vも私たちと同じように窓から身を乗り出して裏庭のデイリリーたちを見つめた。
「美しい…」
「ありがとう…かな」
私はVの感想に父が残した花たちへの賞賛も含まれている気がして、お礼を言う。
朝日とデイリリー畑とVの横顔。
目の前に、なんだか絵画みたいな光景が広がっている。
私はVをVはデイリリーを眺めて少し経った時、開いたままのドアから鳥くんが現れた。
「おっはよーメシアちゃん!今日は何食わしてくれんの?って、ゴメンな!取り込み中だった?」
「あ、鳥くん、おはよ!大丈夫、皆でお花見てただけ」
「あらーメシアちゃんも、なんだかんだでロマンチストだよなァ」
「そうかな…?」
ロマンチストって言葉は、私よりも父に似合う言葉だと思っていた。
だから、自分自身に向かって使われるとは思わなかった。
「じゃなかったら音楽も花もしねェって!」
「まぁ…そうか」
確かに、失礼かもしれないけど鳥くんが音楽や花を嗜むってイメージはあまりない。
何かの音楽を聴きながら、リズムに乗ったりはありそうだけど、雰囲気に酔うってタイプじゃなそうだ。
私がくすりと笑うと、鳥くんは不思議そうに首を傾げた。
その後、私たちは昨晩と同じように皆一緒に朝食を済ませて、今後どうするのか少しだけ話し合った。
Vにはやるべきことがあると言っていた。
日中は少しの時間、お別れだ。
「じゃあ、V。私はここでお留守番してればいいのね?」
「そうだ。下手に出歩くと危険だからな」
「わかった。どちみち徘徊するつもりはなかったから…」
この街に悪魔たちが現れてからこれまでも、外に出るのは必要最低限だった。
基本的にずっと閉じこもっていた私には、簡単なルールだ。
わかってるのに、何故か胸に締め付けられるような感覚を覚えて、視線を下に落とす。
「絶対帰ってくるから、暗い顔すんなよメシアちゃん!」
鳥くんの声掛けにはっとして、私は笑顔を作る。
「そんな顔してた?疲れたらいつでも帰ってきて」
「ああ…助かる」
「やるべきこと、頑張ってね!」
言葉でVの背中を押して、Vたちは私のもとを後にした。
今日1日の「やるべきこと」が終わったら、皆はここに戻ってくる。
そんな保証はどこにもない。
昨日会ったばかりだし、もう来てくれないかも…。
そんな考えに行き当たる。
おかしいな。
ちょっと前まで、こんなに寂しいとかなかったのに。
まだ平和にこのお店をやっている時は、毎日ちょこちょこ来店してくれるお客さんと話すだけで楽しかった。
だけどあの悪夢から、ずっとひとりで気を張っていたからか。
またひとりになりたくないって今もっと、強く強く思ってる。
もし昨日Vたちと出逢っていなかったら、今日の私はどうしていたんだろう?
明日の私は?
ひとりがもう想像できなくなっている。
だから皆が帰ってくることを前提に、私はあることを始めた。
父が大切にしていたレコードたち。
1曲ずつ聴いていく。
作業していると気が紛れたのか、寂しい気持ちや不安はだんだん減っていった。
「メシアちゃん、ただいまー!」
そして夕暮れ時。
鳥くんの相変わらずの元気な声と共に、Vたちはちゃんと帰って来てくれた。
良かった。
また皆と今日も楽しく過ごせる。
「おかえりなさーい!今日の1曲はこれだよ」
私は皆が帰宅した時用に、何枚か聴いて準備した1枚をプレーヤーにセットした。
父が好きでよく聴いていた曲。
「ワァォ、超ノリノリ」
1番最初に反応してくれたのは鳥くんだった。
Vは何故か視線を横にずらし、口を開く。
「スウィートジョージアブラウン…」
「え?V知ってるんだ?」
「昔聴いたことがある」
Vの緑の瞳が私に戻され、微笑んだ。
「へぇーVも詳しそう」
「お前の父ほどではないだろうな」
この曲結構古いみたいなんだけどな。
意外過ぎる。
しかも「昔」って?Vってそんなに歳いってる?
不思議に思ったけど、聞かずにしておく。
あ、Vって本当に音楽が好きで色々聴いたことがあるってことかな。
私は自分自身で勝手にそう納得させた。
選んだ1曲が終わった頃、Vは私に問いかける。
「この曲も、お前の父がよく聴いていたのか?」
「うん、そうだよ」
私は父を思い出しながら、目を細めた。
とっても、懐かしい。
「アリア自身が気に入った曲も、聴いてみたいものだな」
私自身?
今まで、父に聴かされたり与えられたものを大切にしてきた私には、そんな視点はなかった。
Vには、私から見て自分自身の独特な世界観がある。
Vは「私の世界」に興味があるんだ。
「考えとく」
これはある意味Vがくれた「課題」だね。
この1ヶ月間の楽しみが、またひとつ増えた。
end.