【第2章】目に見えないもの
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「…またここに来てしまったのか」
生家のお気に入りの場所だったソファーの上で、俺はすぐにこれが「夢」だと理解した。
レコードから流れる曲は、あいつではなく俺が好いていた1曲。
再び、幼い頃の記憶が蘇ってくる。
一瞬の中の永遠に焦がれる彼女に、同じく好きだったウィリアムブレイクの詩のひとつを思い出した。
アリアに、最後に隠された真実を告げなければ。
1ヶ月を惜しむ姿を見ていると、いっそうその想いは強くなる。
その時が来たら、「俺」は今とは全てが異なる。
ためらいがあるというのか、アリアがそれを「俺」として認識するのか疑問で踏み切れない。
自身の両手をまじまじと眺め、細く長い指に、改めて脆さを感じる。
アリアが愛したのは紛れもなく、今のこの「俺」なのだ。
静かに目を閉じ再び開けば、隣には何年も見慣れた自分自身が腰掛けている。
「…バージル」
勿論彼は今存在していない。
呼び掛けても、夢の中でさえ俺をその瞳に映すことなく、ただ腕を組んで前を見つめている。
それがいかにも俺らしく、自然と笑みが浮かぶ。
果たして彼に、俺の声は聞こえているのだろうか。
聞こえていなくとも、また口を開いた。
「もう少しだ。もう少しで、俺はお前に…」
戻る、という言葉は紡げなかった。
何故なら偶然かもしれないが、青い瞳がしっかりと俺を捕らえたからだ。
見えているのか、俺が。
心臓がどくりと鼓動して、しかしやはり見えてなどいないらしい。
彼は再び視線を俺から外し、前を見据える。
少しだけ落胆したような気分になり、「独り言」を続ける。
「生き続けられたら…もう1度…彼女に会いたい」
生きて、やりたいことが増えてしまった。
彼女の俺だけに向けられる笑顔を思い出す。
この姿になってから得るものがあるとは。
彼女は間違いなく、そのうちのひとつ。
「…忘れるなよ。お前が捨てた「俺」を愛した女がいることを」
お前にとって、これは決して悪夢ではないはずだ。
お前がお前としてあるために、必要な時間だった。
だからこそ。
「忘れるな、アリアを」
いつか願った「永遠」は、彼女の胸の中にも同じようにある。
彼女と新しい1日を過ごすため、俺は再び瞳を閉じた。
【第2章】 end.