Charlotte
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「いただきます」
ダンテに告白された次の朝。
エリはいつも通り朝食を作り、3人で食卓を囲んだ。
いつも通り、いつも通り。
自分ではそう思っていたが、2人の兄はそれぞれ妹の異変に気づいていた。
いつものように笑わないエリ。
ダンテは夜の突然のキスと告白に少し責任を感じ、バージルはそれを知らないものの、ダンテがエリに何かしたことを気配で察した。
2人ともとりあえずエリを下手に刺激することはやめ、真面目に食事を終えた。
エリはいつも通り3人分の皿を洗い始めたが、心は完全に別のことに向いていた。
ダンテとバージル。
どちらかを選ぶなんて、できない。
2人には待ってほしいと言ったけど、正直初めから心の中で半分以上決まっていた。
だって…。
2人とも私には大切で大好きなひとだから、選べない…。
恋心だってまだあまりわからないけど、2人を想う気持ちは誰より強いと思ってる。
だから。
だからこそ、私は2人と一緒に暮らしてちゃいけない。
ダンテの想いに応えてもバージルに応えても、どちらかを排除することになってしまう。
そんなの、私にはできそうにない。
もしそうなるなら、いっそのこと別のどこかでひとりで暮らそう…。
長年の夢は、家族一緒に暮らす夢は砕けてしまうけど、2人の真剣な想いに応えられないから当然だ。
エリは目を盗んで、とりあえずハンドバッグ片手に街へ出た。
なんとか決心しても、すぐに行けるところなんてなかった。
学校に通っていた時の下宿先は遠く、行くお金もない。
どうしよう…。
とぼとぼ歩いていたら、ある建物が目に入る。
以前バージルとお茶したお店。
時間はまだお昼前だが、精神的に落ち着きたかった。
今度はひとりで店のカフェスペースへ腰掛けてメニューを広げる。
やっぱり時間的に店内には誰もおらず、ひとり貸切状態だ。
なんとなく入って気分も気分だったため、メニューのページをただぱらぱら捲った。
こんな時にもこの苺の乗ったケーキダンテが好きそうだなとか、バージルはコーヒーだけかなとか、2人のことを考える自分が少し嫌になった。
「はぁい」
突然声を掛けられ顔を上げると、見覚えがあるブロンドヘア。
バージルと来た時に注文を取ってくれた女性店員だった。
「あ、あの時の」
「どうしたの、浮かない顔して。あの彼氏と喧嘩でもした?」
「…そういう訳じゃ」
そんな深刻な表情してるのかと他人事のように思う。
女性店員はエリの向かいの席に座って、親身になって眉をひそめる。
「この世の終わりみたいな顔してる」
「そんな顔してましたか…」
「やっぱり男関係?」
思わず視線を逸らす。一応合ってる。
「あ、図星?」
「間違ってはないと思います…」
「詳しくは言えないみたいね」
例えば今ダンテとバージルのことを話しても、誰かに理解されにくい状況だろう。
当事者である自分もちょっと戸惑っている。
血は繋がらない兄妹で、恋愛関係で悩んでいるなんて。
それより、そうだ。
もしかしたら、ここで働けないだろうか。
仕事があれば、ひとりでも生きていける。
とっさに思いつき、思ったまますぐ口を開く。
「あ…突然すみません!ここで雇ってもらえませんか?」
「え?」
エリの提案に、女性店員はただ目をぱちくりさせる。
そうして一呼吸してから、急に真剣な瞳に変わった。
「逃げるの?」
「…え?」
今度はエリが目をぱちくりさせる番だった。
逃げるって、どういうことだろう。
「よくわからないけど、そんな顔で仕事探すってそういうことでしょ。同棲してる彼氏から逃げて、ひとりで暮らそうと思ってるとか」
ちょっと違うけれど、大体は合っている。
自分では「逃げる」とは思っていないけれど。
「本当にそれでいいの?思いつめた顔のまま、このまま後悔しない?」
正直、後悔しないかと言えば嘘になる。
でも、ダンテもバージルも選べない。
どっちも大切。
妹としてなら許される感情は、ひとりの女性としては許されない。
だったら、自分が2人の前からいなくなるしかない。
そうするしか、思いつかない。
「…っ…」
瞳から熱いものが溢れて頬を伝い、エリは手で顔を覆った。
「やだ!ごめんね…泣かせるつもりじゃなかったの…」
「すみません…ごめん、なさ…」
女性店員は椅子から立ち上がって、エリの身を包んで背中をさする。
「本当は…離れたくなくて…」
「じゃあ一緒にいればいいのに…」
「でも…できないんです…」
言葉にしたら益々涙で視界が曇る。
もう、ダンテとバージルと一緒の生活ができない。
本当は一緒にいたいけど、こんな風にどっちも選べないから、自分がいなくなるしか方法がない。
「迷ってるなら、まだ行動する時じゃないのかもね」
優しく包んでくれる彼女はまた、囁くように助言してくれる。
この間まで兄だと思っていた2人に突然異性としての想いを告げられ、今はパニックになっているだけかもしれない。
バージルにも家族愛がどうだとか言われたが、皆で一緒にいたいというのはその延長の気持ちなのだろうか。
「きっと大丈夫、自分で納得する答えがいつか見つかるから…焦っちゃダメ」
ダンテとバージル。
どちらかと、恋人として過ごす未来。
とにかく今、2人を見る目はこれまでとはまた違う。
いつか選べるだろうか。
エリはしばらく、彼女に甘えて泣いていた。
「バージル!エリがいねぇ!」
同じ頃、エリの不在に気づいたダンテが事務所中を走り回っていた。
今まで無断で出て行ったことなんてなかった妹が、知らない間にひとりで出て行った。
思ったより事態は深刻だ。
「知っている。しかし荷物は全部ある。家出ではないだろう」
いつの間にかエリの部屋を確認していたバージルは腕を組んで、冷静な口調で言う。
「貴様、エリに何をした」
「…何もしてねぇよ。あんたみたいにエリに好きだって言っただけだ」
バージルに問われた瞬間キスしてエリを泣かせたことを思い出したが、ごまかしておく。
「今の間はなんだ」
「何でもねぇし」
バージルは更に追求してくるが、言ったら腹を刺されかねない。
「エリが帰って来なかったらどうする!?」
「探し出すに決まっているだろう」
「そ、そうか…そうだよな」
エリが出て行った理由。
やっぱり、兄だと思っていた男に突然愛を告白されたからか。
それとも自分たち2人のうち、どちらを選ぶか悩んでいるのか。
「…あんたさ、エリが俺たち2人どっちかひとり選べると思ってるか?」
ダンテの質問に、バージルは答えなかった。
ダンテもバージルもお互いに妹に想いを打ち明けたが、エリが性格的に2人を天秤に掛けることはできないだろうと、心の奥ではわかっていた。
幼い頃から平等に接してくれた妹。
しかしそれは家族としての愛情で、異性間のそれとはまた別だ。
テメンニグルでの一件とはまた違う、双子の戦いが再び火蓋を切る。
「ただいま…」
そんな時事務所の扉が開き、弱々しく帰宅を告げたのは愛しい妹だった。
良かった帰って来てくれたと、2人とも一斉に駆け寄る。
「エリ、心配したんだぜ」
「無断でいなくなるから、どうしたものかと」
「ダンテ…バージル…」
エリはそれぞれに視線を送って、2人に微笑んで見せる。
「ごめんね、これからは気をつけるから。今からすぐご飯作るね」
無理矢理笑っているのは、明白だった。
しかも目元は赤くなり腫れている。
エリは思った以上に精神的に追い詰められている。
兄2人は心から思った。
end.
ダンテに告白された次の朝。
エリはいつも通り朝食を作り、3人で食卓を囲んだ。
いつも通り、いつも通り。
自分ではそう思っていたが、2人の兄はそれぞれ妹の異変に気づいていた。
いつものように笑わないエリ。
ダンテは夜の突然のキスと告白に少し責任を感じ、バージルはそれを知らないものの、ダンテがエリに何かしたことを気配で察した。
2人ともとりあえずエリを下手に刺激することはやめ、真面目に食事を終えた。
エリはいつも通り3人分の皿を洗い始めたが、心は完全に別のことに向いていた。
ダンテとバージル。
どちらかを選ぶなんて、できない。
2人には待ってほしいと言ったけど、正直初めから心の中で半分以上決まっていた。
だって…。
2人とも私には大切で大好きなひとだから、選べない…。
恋心だってまだあまりわからないけど、2人を想う気持ちは誰より強いと思ってる。
だから。
だからこそ、私は2人と一緒に暮らしてちゃいけない。
ダンテの想いに応えてもバージルに応えても、どちらかを排除することになってしまう。
そんなの、私にはできそうにない。
もしそうなるなら、いっそのこと別のどこかでひとりで暮らそう…。
長年の夢は、家族一緒に暮らす夢は砕けてしまうけど、2人の真剣な想いに応えられないから当然だ。
エリは目を盗んで、とりあえずハンドバッグ片手に街へ出た。
なんとか決心しても、すぐに行けるところなんてなかった。
学校に通っていた時の下宿先は遠く、行くお金もない。
どうしよう…。
とぼとぼ歩いていたら、ある建物が目に入る。
以前バージルとお茶したお店。
時間はまだお昼前だが、精神的に落ち着きたかった。
今度はひとりで店のカフェスペースへ腰掛けてメニューを広げる。
やっぱり時間的に店内には誰もおらず、ひとり貸切状態だ。
なんとなく入って気分も気分だったため、メニューのページをただぱらぱら捲った。
こんな時にもこの苺の乗ったケーキダンテが好きそうだなとか、バージルはコーヒーだけかなとか、2人のことを考える自分が少し嫌になった。
「はぁい」
突然声を掛けられ顔を上げると、見覚えがあるブロンドヘア。
バージルと来た時に注文を取ってくれた女性店員だった。
「あ、あの時の」
「どうしたの、浮かない顔して。あの彼氏と喧嘩でもした?」
「…そういう訳じゃ」
そんな深刻な表情してるのかと他人事のように思う。
女性店員はエリの向かいの席に座って、親身になって眉をひそめる。
「この世の終わりみたいな顔してる」
「そんな顔してましたか…」
「やっぱり男関係?」
思わず視線を逸らす。一応合ってる。
「あ、図星?」
「間違ってはないと思います…」
「詳しくは言えないみたいね」
例えば今ダンテとバージルのことを話しても、誰かに理解されにくい状況だろう。
当事者である自分もちょっと戸惑っている。
血は繋がらない兄妹で、恋愛関係で悩んでいるなんて。
それより、そうだ。
もしかしたら、ここで働けないだろうか。
仕事があれば、ひとりでも生きていける。
とっさに思いつき、思ったまますぐ口を開く。
「あ…突然すみません!ここで雇ってもらえませんか?」
「え?」
エリの提案に、女性店員はただ目をぱちくりさせる。
そうして一呼吸してから、急に真剣な瞳に変わった。
「逃げるの?」
「…え?」
今度はエリが目をぱちくりさせる番だった。
逃げるって、どういうことだろう。
「よくわからないけど、そんな顔で仕事探すってそういうことでしょ。同棲してる彼氏から逃げて、ひとりで暮らそうと思ってるとか」
ちょっと違うけれど、大体は合っている。
自分では「逃げる」とは思っていないけれど。
「本当にそれでいいの?思いつめた顔のまま、このまま後悔しない?」
正直、後悔しないかと言えば嘘になる。
でも、ダンテもバージルも選べない。
どっちも大切。
妹としてなら許される感情は、ひとりの女性としては許されない。
だったら、自分が2人の前からいなくなるしかない。
そうするしか、思いつかない。
「…っ…」
瞳から熱いものが溢れて頬を伝い、エリは手で顔を覆った。
「やだ!ごめんね…泣かせるつもりじゃなかったの…」
「すみません…ごめん、なさ…」
女性店員は椅子から立ち上がって、エリの身を包んで背中をさする。
「本当は…離れたくなくて…」
「じゃあ一緒にいればいいのに…」
「でも…できないんです…」
言葉にしたら益々涙で視界が曇る。
もう、ダンテとバージルと一緒の生活ができない。
本当は一緒にいたいけど、こんな風にどっちも選べないから、自分がいなくなるしか方法がない。
「迷ってるなら、まだ行動する時じゃないのかもね」
優しく包んでくれる彼女はまた、囁くように助言してくれる。
この間まで兄だと思っていた2人に突然異性としての想いを告げられ、今はパニックになっているだけかもしれない。
バージルにも家族愛がどうだとか言われたが、皆で一緒にいたいというのはその延長の気持ちなのだろうか。
「きっと大丈夫、自分で納得する答えがいつか見つかるから…焦っちゃダメ」
ダンテとバージル。
どちらかと、恋人として過ごす未来。
とにかく今、2人を見る目はこれまでとはまた違う。
いつか選べるだろうか。
エリはしばらく、彼女に甘えて泣いていた。
「バージル!エリがいねぇ!」
同じ頃、エリの不在に気づいたダンテが事務所中を走り回っていた。
今まで無断で出て行ったことなんてなかった妹が、知らない間にひとりで出て行った。
思ったより事態は深刻だ。
「知っている。しかし荷物は全部ある。家出ではないだろう」
いつの間にかエリの部屋を確認していたバージルは腕を組んで、冷静な口調で言う。
「貴様、エリに何をした」
「…何もしてねぇよ。あんたみたいにエリに好きだって言っただけだ」
バージルに問われた瞬間キスしてエリを泣かせたことを思い出したが、ごまかしておく。
「今の間はなんだ」
「何でもねぇし」
バージルは更に追求してくるが、言ったら腹を刺されかねない。
「エリが帰って来なかったらどうする!?」
「探し出すに決まっているだろう」
「そ、そうか…そうだよな」
エリが出て行った理由。
やっぱり、兄だと思っていた男に突然愛を告白されたからか。
それとも自分たち2人のうち、どちらを選ぶか悩んでいるのか。
「…あんたさ、エリが俺たち2人どっちかひとり選べると思ってるか?」
ダンテの質問に、バージルは答えなかった。
ダンテもバージルもお互いに妹に想いを打ち明けたが、エリが性格的に2人を天秤に掛けることはできないだろうと、心の奥ではわかっていた。
幼い頃から平等に接してくれた妹。
しかしそれは家族としての愛情で、異性間のそれとはまた別だ。
テメンニグルでの一件とはまた違う、双子の戦いが再び火蓋を切る。
「ただいま…」
そんな時事務所の扉が開き、弱々しく帰宅を告げたのは愛しい妹だった。
良かった帰って来てくれたと、2人とも一斉に駆け寄る。
「エリ、心配したんだぜ」
「無断でいなくなるから、どうしたものかと」
「ダンテ…バージル…」
エリはそれぞれに視線を送って、2人に微笑んで見せる。
「ごめんね、これからは気をつけるから。今からすぐご飯作るね」
無理矢理笑っているのは、明白だった。
しかも目元は赤くなり腫れている。
エリは思った以上に精神的に追い詰められている。
兄2人は心から思った。
end.