【第2章】目に見えないもの
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日で、ここにやって来て16日目。
アリアと過ごす過ごす日々も、あと数えられるほど。
朝日が昇り抱き合ったまま眠っていたのを、起こさないように床に手をついて座る。
昨夜は、やはり無理をさせてしまったのだろうか。
彼女と繋がった事実に、俺としては嬉しさと切なさが混じり合う。
本当はもっともっと彼女を感じていたかったが、この紙同然の身体では難しいところもあることを、身をもって感じてしまった。
やはり「バージル」の感覚とは違う。
アリアの穏やかな寝顔を眺めながらそっと頬に触れると、まぶたがぴくりと動き、とろんとした瞳で俺をぼんやり捉えた。
「おはよう、アリア」
「V…」
「まだ眠そうだな…今日は、ゆっくりしていろ」
「うん…ありがとう」
微笑んで頭を撫でてやれば、再び目を閉じてすぐに規則正しい寝息を立て始める。
彼女は俺に「初めて」をくれた。
時間が過ぎることは惜しいが、無理はさせたくない。
たっぷり眠って、また一緒に過ごそう。
風邪をひかないようにブランケットでしっかり包んでやり、俺は身支度して、一応グリフォンとシャドウの様子を見に行くことにした。
レコードが並んだ店内へ続くドアを開ければ、床でくつろいでいた2人は、一斉に俺を見る。
グリフォンがにやにやしながら、早速俺の傍まで羽ばたいてやってきた。
「あらーVちゃん!昨日はさぞかし熱い夜だったんだろうな!」
「…うるさい」
「えっ、何キレてんの?うまくいかなかった?やっぱり力がないから?」
「…っ」
「あーわかった、ちょっと黙るぜ」
気にしていたところだったので、思い切り睨んでやる。
椅子までずるずる引きずるように歩き、勢いよく身体を預け、シャドウは足に擦り寄って来た。
良い夜だったが、俺の中でそれが理想通りだったかと言うと、そうではなかった。
では今俺がバージルだったらと考えたら、アリアにあんなに優しくできたとも思えないし、そもそもアリアに出逢えたかもわからない。
ただ、本当に好きな者ができてこんなにも心を通わせているのに、身体が思い通りにいかない。
「反吐が出る…」
「いや、久々にめちゃくちゃ機嫌悪ぃな」
口から思わず溢れた言葉に、俺に話し掛けているのかいないのか、グリフォンが呟いた。
それから翼を広げ再び俺の近くまでやって来て、スタンドライトに留まる。
「バージルだった時の方が、良かったか?」
良かった悪かった、そんなことは考えたことはなかった。
当たり前だ。
この世に最初に生まれ落ちた時から「バージル」だったのだから。
強いて答えるなら、やはりこれだ。
「…力があった、という点ではな」
俺に力があれば、俺は完全に、俺を俺として満足できるだろうか。
俺が力を取り戻すには、元に戻る、バージルに戻るしかない。
アリアから見たら、完全なる別人になってしまうが。
「…もしバージルに戻ったら、俺は消えると思うか」
グリフォンとは目を合わせず、質問した。
ここでいう「俺」は勿論Vとしての「俺」であり、人間として得た時間を、惜しむ気持ちがそうさせる。
「そんなモン…物理的には消えるだろうよ」
「だろうな。無意味な質問だった」
バージルがバージルに戻るのだから、当たり前だ。
愚かしいことをわざわざ口に出したことにも、気の利いた回答ができないグリフォンにも、呆れてきた。
「今頃ユリゼンも、バージルが恋しくなってるかもしれねェぜ」
「ふん、どうだろうな…」
「ユリゼン」には、心なんてないだろう。
やつは悪魔なのだから。
こんな殺戮をもたらした張本人なのだから。
可視化できなかったが、今までバージルの中に、俺もユリゼンも確かにいたことが不思議だった。
今度元に戻るならば、できればこの温かい心で、生きていたい。
俺の中である程度考えが固まり、グリフォンも再び嘴を開く。
「ま、Vもユリゼンも「バージル」なんだから、実体が消えてもどっかで生きてるだろ。Vは心で、ユリゼンは力。結局両方とも要るンじゃね?多分」
「珍しく…賢い回答だな」
あらかた俺と同じ考えだったため、素直に口角を上げる。
割と長くこうしていたので、区切りがついて、また椅子から立ち上がった。
「アリアのところに行ってくる」
「おー!」
もう起きているかもしれない。
その時ひとりぼっちだったら、俺はきっと酷い男に映ってしまうだろう。
急いで書斎まで足を運ぶと、ちょうど覚醒したところなのか、身体を起こしてブランケットで肌を一生懸命隠している。
そんな初な反応も可愛らしく、構わずアリアの隣に膝をつく。
「あ…V…」
「アリア…こんなに顔を赤くして」
頬はこれ以上ないくらいに染まっており、面白くなって笑みがこぼれてしまった。
「え?いや、だって、恥ずかしくない?Vは、そうでもないか…」
「恥ずかしさよりも、愛しさの方が大きいな」
「V…」
静かに口づけながら、まだ唯一話していないバージルのことを、彼女に告げるべきかを考え始める。
end.
アリアと過ごす過ごす日々も、あと数えられるほど。
朝日が昇り抱き合ったまま眠っていたのを、起こさないように床に手をついて座る。
昨夜は、やはり無理をさせてしまったのだろうか。
彼女と繋がった事実に、俺としては嬉しさと切なさが混じり合う。
本当はもっともっと彼女を感じていたかったが、この紙同然の身体では難しいところもあることを、身をもって感じてしまった。
やはり「バージル」の感覚とは違う。
アリアの穏やかな寝顔を眺めながらそっと頬に触れると、まぶたがぴくりと動き、とろんとした瞳で俺をぼんやり捉えた。
「おはよう、アリア」
「V…」
「まだ眠そうだな…今日は、ゆっくりしていろ」
「うん…ありがとう」
微笑んで頭を撫でてやれば、再び目を閉じてすぐに規則正しい寝息を立て始める。
彼女は俺に「初めて」をくれた。
時間が過ぎることは惜しいが、無理はさせたくない。
たっぷり眠って、また一緒に過ごそう。
風邪をひかないようにブランケットでしっかり包んでやり、俺は身支度して、一応グリフォンとシャドウの様子を見に行くことにした。
レコードが並んだ店内へ続くドアを開ければ、床でくつろいでいた2人は、一斉に俺を見る。
グリフォンがにやにやしながら、早速俺の傍まで羽ばたいてやってきた。
「あらーVちゃん!昨日はさぞかし熱い夜だったんだろうな!」
「…うるさい」
「えっ、何キレてんの?うまくいかなかった?やっぱり力がないから?」
「…っ」
「あーわかった、ちょっと黙るぜ」
気にしていたところだったので、思い切り睨んでやる。
椅子までずるずる引きずるように歩き、勢いよく身体を預け、シャドウは足に擦り寄って来た。
良い夜だったが、俺の中でそれが理想通りだったかと言うと、そうではなかった。
では今俺がバージルだったらと考えたら、アリアにあんなに優しくできたとも思えないし、そもそもアリアに出逢えたかもわからない。
ただ、本当に好きな者ができてこんなにも心を通わせているのに、身体が思い通りにいかない。
「反吐が出る…」
「いや、久々にめちゃくちゃ機嫌悪ぃな」
口から思わず溢れた言葉に、俺に話し掛けているのかいないのか、グリフォンが呟いた。
それから翼を広げ再び俺の近くまでやって来て、スタンドライトに留まる。
「バージルだった時の方が、良かったか?」
良かった悪かった、そんなことは考えたことはなかった。
当たり前だ。
この世に最初に生まれ落ちた時から「バージル」だったのだから。
強いて答えるなら、やはりこれだ。
「…力があった、という点ではな」
俺に力があれば、俺は完全に、俺を俺として満足できるだろうか。
俺が力を取り戻すには、元に戻る、バージルに戻るしかない。
アリアから見たら、完全なる別人になってしまうが。
「…もしバージルに戻ったら、俺は消えると思うか」
グリフォンとは目を合わせず、質問した。
ここでいう「俺」は勿論Vとしての「俺」であり、人間として得た時間を、惜しむ気持ちがそうさせる。
「そんなモン…物理的には消えるだろうよ」
「だろうな。無意味な質問だった」
バージルがバージルに戻るのだから、当たり前だ。
愚かしいことをわざわざ口に出したことにも、気の利いた回答ができないグリフォンにも、呆れてきた。
「今頃ユリゼンも、バージルが恋しくなってるかもしれねェぜ」
「ふん、どうだろうな…」
「ユリゼン」には、心なんてないだろう。
やつは悪魔なのだから。
こんな殺戮をもたらした張本人なのだから。
可視化できなかったが、今までバージルの中に、俺もユリゼンも確かにいたことが不思議だった。
今度元に戻るならば、できればこの温かい心で、生きていたい。
俺の中である程度考えが固まり、グリフォンも再び嘴を開く。
「ま、Vもユリゼンも「バージル」なんだから、実体が消えてもどっかで生きてるだろ。Vは心で、ユリゼンは力。結局両方とも要るンじゃね?多分」
「珍しく…賢い回答だな」
あらかた俺と同じ考えだったため、素直に口角を上げる。
割と長くこうしていたので、区切りがついて、また椅子から立ち上がった。
「アリアのところに行ってくる」
「おー!」
もう起きているかもしれない。
その時ひとりぼっちだったら、俺はきっと酷い男に映ってしまうだろう。
急いで書斎まで足を運ぶと、ちょうど覚醒したところなのか、身体を起こしてブランケットで肌を一生懸命隠している。
そんな初な反応も可愛らしく、構わずアリアの隣に膝をつく。
「あ…V…」
「アリア…こんなに顔を赤くして」
頬はこれ以上ないくらいに染まっており、面白くなって笑みがこぼれてしまった。
「え?いや、だって、恥ずかしくない?Vは、そうでもないか…」
「恥ずかしさよりも、愛しさの方が大きいな」
「V…」
静かに口づけながら、まだ唯一話していないバージルのことを、彼女に告げるべきかを考え始める。
end.