Charlotte
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好きだ。愛している。
初めて男の人から言われた言葉。
いつか自分にも彼氏ができるかもとは思っていた。
だけど熱い視線を向けてくれるのが、まさか兄なんて。
夕食中、相変わらず涼しい顔をしているバージルをエリはじっと見た。
なんで私なんだろう。
「…」
バージルが視線に気づき、エリを見返す。
どきっとしたが、変に視線を反らせば意識しているのがばればれなので堪えた。
「どうした、俺の顔に何かついているか?」
「な、なんでもない」
声は勝手に上擦る。
私だけこんなに動揺していて嫌だ。
バージルのこと、やっぱり前と全く同じには見られない。
「また改めて図書館に行こう。今日は楽しめなかったからな」
「う、うん!そうだね!」
口角を上げて今日のやり直しを提案するバージルに、必死に笑顔を返す。
確かに、今日を楽しめなかったのは自分のせいだ。
ちょっと罪悪感。
食事は一応完食したが、あまり食べた気にならなかった。
ふっと溜め息をついて、スポンジを片手に皿を洗おうとしたら、今度はいきなり腰に手を回された。
「わ…!」
背中に体温を感じ、頭が沸騰しそうになる。
身体を横によじると、バージルの顔がすぐ近くにあった。
後ろから抱き締められてる。
そう理解したら、心臓が勝手に暴れ出した。
「バージル…」
嫌だ。
なんでこんなにどきどきするの?
見つめてくるアイスブルーから逃げるように、視線を手元にやる。
そうだ、お皿洗わなきゃ。
皿洗いに集中して、バージルのことは忘れよう。
そう決めたが、お皿を持つ手はがたがたと震える。
「エリ、手が震えている。気をつけろ」
「う、うん…」
囁くような声に指摘され返事はしたが、逆効果だった。
男の人に免疫が無さ過ぎる自分が嫌になる。
一生懸命スポンジを握ると、バージルの身体が小刻みに震えるのが伝わってきた。
「くく…そんなに意識しなくてもいいだろう」
笑われた。
拘束が解かれ、珍しくバージルが肩を震わせるくらい笑っている。
「酷い…バージル!からかうなんて!」
さすがに少し腹が立つ。
どきどきしていたのが馬鹿みたいだ。
「もう…酷いよ…」
「すまん。でも、エリが可愛いのが悪い」
泣きそうになってしまい呟くと、バージルが楽しそうに謝罪する。
絶対本気で謝ってない。
しかももう 1度腰に手が回って来て、耳にキスされる。
ちゅっと音を立てたそれは、そのままざらりと湿ったものが這う感覚に変わった。
「…あ…っ」
身体が勝手にびくっと反応して、耳のなんとも言えない感覚に神経が集中する。
「エリ」
バージルの低く甘い声が耳の中に溶けていく。
こんな風に色っぽく名前を呼ぶ兄なんて、初めてだ。
「やだ…バージル!もう離れてよ」
目をぎゅっとつぶって、言葉では必死に拒否する。
どきどきに押しつぶされそうな精一杯の強がり。
バージルがこんなに意地悪なんて今まで知らなかった。
「お願い…バージル」
何度も懇願してやっとバージルは腕を離し、暴れていた心臓を落ち着かせる。
「少しやりすぎたか。悪かった」
そう言って頭を撫でてくれる仕草は、相変わらず兄のそれなのに。
告白してから宣言通り大胆になったバージルは、エリの知らない男性の部分を出してくる。
戸惑いはあるけれど、勿論嫌いにはなれなかった。
私たちは、血は繋がっていない。
だから、お互いに異性として好きになってもおかしくないのかな…。
もう何回も繰り返したことをまた思う。
自分のこのどきどきの理由を考えると、複雑な気持ちになる。
バージルがシャワーを浴びている間、エリはやっと落ち着いて皿洗いを終えた。
リビングを出たところでちょうど事務所の電話が鳴る。
「Devil May Cry?」
「良かった、エリ」
ダンテだ。
離れていたのは数日なのにとても懐かしく、声のトーンが上がる。
「ダンテ、そっちはどう?お仕事終わった?」
電話の向こうのダンテを想って、自然と笑顔になれる。
やっぱり早く帰って来てほしい。
早く顔が見たい。
「ばっちり終わらせたから、明日帰るな」
「そっか、おいしいもの作って待ってるね!」
「早くエリの飯が食いたいぜ…やっぱ遠いな2,000キロって」
「ふふ、それはそうだよ」
何気ない兄妹の会話が楽しい。
エリは立ったまましばらく、ダンテと今回の依頼の話をしていた。
夢中だったから、いつの間にかシャワールームから出たもう1人の兄が視線をやっていることに気づかなかった。
「あ…」
腰に手が回って来て、エリは初めて目の前の状況に引き戻される。
受話器はそのまま視線だけやれば、バージルのアイスブルーと鉢合わせし心臓が飛び跳ねた。
「エリ?どうした?」
受話器からは異変に気づいたダンテの声。
すぐ傍にいるバージルがもたらす甘いどきどき。
ダンテにばれたらどうしようと言う焦りが、エリの背に嫌な汗を流れさせる。
「な、なんでもないの…!」
「そうか?」
とりあえず必死に誤魔化す。
バージルは早く電話を終わらせろと言わんばかりに、ぎゅっと抱き締めてくる。
「早く帰って来てね…!」
「ああ、じゃあ明日な」
話を無理矢理終わらせ、すぐに受話器を置いた。
「バージル!」
思わず声を荒げる。
ダンテに変な風に思われていないか、それがとても気になってしまっていた。
だけど抱き締めたままのバージルは、一向に離そうとしない。
「明日帰って来るのか、ダンテは」
「うん…そうみたい」
「…今ほっとしたな」
「そ、そんなことない!」
否定したが、正直本当だった。
このまま2人っきりだったら、バージルがどこまで暴走するかわからないし、心臓が保たない。
ダンテが戻ってくればバージルも下手に手は出さず、いつも通りの家族生活を送れる気もした。
しかしそんな考えも虚しく、エリはいきなりバージルに引っ張られソファに座らされて縁まで追い込まれる。
なんだか怒ってるみたい…。
「バ、バージル…」
怯えた声で名前を呼べば、バージルの大きな手が頭の後ろに回されもう一方の手で顎を引く。
アイスブルーはいつの間にか熱を帯び、バージルの顔が近づいてくる。
キスされる。
さすがに気づいて、思わず厚い胸板を力の限り押した。
「だめ…っ」
「何故だ?」
バージルの眉が歪み、明らかに不機嫌そうだ。
だからって、そうすぐにキスする覚悟ができる訳ではない。
「何故って…だめだよ…!」
「俺はエリとキスしたい。だめか?」
「…っ」
あくまで真剣な眼差し。
卑怯だ。
エリはまた心臓がどきっと暴れるのがわかった。
いきなりキスしたいなんて、どうしちゃったのバージル。
はっと、さっきダンテと電話していたのを思い出す。
もしかしてヤキモチ…?
益々頬が赤くなり、バージルはエリの制止を無視して距離を縮めてくる。
ち、近い。
反射的に自分の口を両手で隠した。
「だめ…!だめだよバージル!」
「…そんなに嫌がらなくてもいいだろう」
バージルがまた不機嫌そうに眉を歪める。
気持ちは十分わかったけれど両想いという訳ではないのに、ぐいぐい迫ってくるのはどうかと思った。
それに、本気で嫌いになれないことをわかっていてやっている。
しばらくそのまま見つめ合った後、バージルはとりあえず諦めたのかエリの頭を撫でた。
「全く…これがエリでなかったら、もっと強引にできるんだが」
ふっと口の端を上げた姿は、やっぱり兄のもの。
いつもの兄の面と男性の面、2つに翻弄される。
「今日はこれくらいで勘弁してやる」
「あ…」
いつかのような、額への優しいキス。
エリは右手でそこを押さえ、バージルをじっと見る。
どきどきが、止まらない。
「そんな顔していると、今度こそキスするぞ?」
「え…!」
「冗談だ」
完全にバージルのペース。
こんな状態で、ダンテが帰って来たらどうなってしまうのか。
色々な意味で怖い。
どうにも改めて動き出せずに隣同士で座ったままでいれば、バージルが再び口を開いた。
「本当に…ここを出て、俺に付いて来る気はないか。お前のことは絶対に守る。寂しい思いもさせない」
真剣な眼差しと提案された内容に、エリは疑問と戸惑いが先に来てしまい何も答えられない。
以前バージルを看病している時に、「また家族で暮らすことが夢だ」と告げた。
ここを出るということは、同じく兄であるダンテと離れることを意味する。
今まで2人で支え合って生きてきたので、そんなことは考えられなかった。
ダンテを排除するような台詞が、エリの心をまた掻き乱した。
「バージル…」
「ダンテか?」
それはできないと言おうとした時、被せるように強い口調でバージルがダンテの名前を出す。
まるで心を読まれているみたいだ。
いや、ただ思っていることが顔に出やすいだけかもしれない。
「そんなにダンテが大切か?もう十分だろう。今まで散々一緒に過ごした筈だ」
「…どうして、バージル。なんでそんなこと言うの?」
バージルの眉間にははっきりとしたしわが刻まれ、低く冷たい声にエリは胸が締め付けられる。
自分ではどちらかの味方をしている気はない。
だから、バージルにこんな顔をさせている状況自体も嫌だった。
「私は、できるならバージルとだってずっとずっと一緒に過ごしたかった。でも、できなかった…」
あの日何もなければ、あのまま3人で暮らしていたのだろうか。
行方不明のバージルを、泣きながら探しに出た日を思い出す。
瞳から勝手に涙が溢れたが、それが辛い記憶のせいか、バージルがダンテを憎むような言動をしているからなのか、わからない。
目を伏せていると、濡れた頰を他ならぬバージルが左手で拭ってくれ、再び視線を上げる。
「エリ…泣くな。お前を悲しませたい訳ではない」
今くれる言葉は、かつて幼い頃にくれたような優しいそれ。
ダンテが絡んでくると何故かバージルは顔色が変わる。
スーパーの1件の夜もダンテの話をしたら、今回のようにどこか怒っているようでもあった。
それはもう、ヤキモチという一言だけでは片付けられない気がし始めた。
バージルの透き通るアイスブルーが真っ直ぐに見つめて来て、エリはとうとう釘付けになった。
「俺は、お前を俺で満たしたくて堪らない。ずっと俺のことを考えてほしい」
「バージル…」
「お前を攫って無理矢理に俺のものにするのは簡単だろう。だが、お前相手にはそれができない」
裏を返せば、他の人にはそれができていたということだ。
離れてからバージルがこれまでどうやって生きてきたのか、全く知らない。
エリは幸運にもダンテと生きる道を歩めたが、恐らくバージルはずっとひとりで生きてきた。
その間にどんなことがあって、バージルが何を感じたのか、それは本人にしかわからない。
エリが知っているのはテメンニグルを建てたという事実だけで、ホテルのテレビで観たニュースキャスターが悪魔に襲われる映像が一瞬、頭に浮かんでしまう。
バージルは何のために、魔界と人間界を繋ごうと思ったのか。
エリにはわからない理由がそこにあったのだろうが、しかし、図書館の帰り道に悪魔から身を守ってくれたのもまた、バージルだった。
「エリが死んだと思った時、俺は俺を許せなかった。だが、お前はこうして生きていた。もう2度と離したくはない」
2度と離れたくないという気持ちは、それが何としてであれリンクしていてエリの心臓はどくんと脈打つ。
「ずるい、バージル…」
「ずるい?どこがだ」
「そんなこと言われたら、益々選べないよ…」
エリがぽつりぽつりと答えるのを、バージルは心底わからないという顔で見つめた。
胸のうちをここまで赤裸々に伝え、それを受けて自身を選択するなら理解できる。
だが、この期に及んでまだ選べないというのは、どういう了見なのか。
「やっぱりどうしても、私は2人が両方大切…2度と離れたくないの」
同じ台詞を返され、今にもまた涙を零しそうな瞳に、バージルは口を噤んだ。
もしここで無理矢理にでもキスして触れてしまえば、一時的にエリの頭を自身で満たすことは容易い。
だがその場合、エリはいつものように優しく微笑んでくれるかと考えたら、疑問だった。
幼い頃から変わらない彼女が変わってしまうのは、不本意だ。
「…お前のそれは、家族としてのそれか」
「え…」
予想していなかったのか、エリの眉がぴくりと動く。
彼女が自分で気付いていないのかもしれないが、それは紛れもなく真意を掴んでいるようだ。
純粋なのはいいが、家族愛をどこまでも引っ張り出されるのは困りものだ。
「俺を、ひとりの男として選ばせてやる…絶対に」
バージルは決意を新たに、エリに告げた。
end.
初めて男の人から言われた言葉。
いつか自分にも彼氏ができるかもとは思っていた。
だけど熱い視線を向けてくれるのが、まさか兄なんて。
夕食中、相変わらず涼しい顔をしているバージルをエリはじっと見た。
なんで私なんだろう。
「…」
バージルが視線に気づき、エリを見返す。
どきっとしたが、変に視線を反らせば意識しているのがばればれなので堪えた。
「どうした、俺の顔に何かついているか?」
「な、なんでもない」
声は勝手に上擦る。
私だけこんなに動揺していて嫌だ。
バージルのこと、やっぱり前と全く同じには見られない。
「また改めて図書館に行こう。今日は楽しめなかったからな」
「う、うん!そうだね!」
口角を上げて今日のやり直しを提案するバージルに、必死に笑顔を返す。
確かに、今日を楽しめなかったのは自分のせいだ。
ちょっと罪悪感。
食事は一応完食したが、あまり食べた気にならなかった。
ふっと溜め息をついて、スポンジを片手に皿を洗おうとしたら、今度はいきなり腰に手を回された。
「わ…!」
背中に体温を感じ、頭が沸騰しそうになる。
身体を横によじると、バージルの顔がすぐ近くにあった。
後ろから抱き締められてる。
そう理解したら、心臓が勝手に暴れ出した。
「バージル…」
嫌だ。
なんでこんなにどきどきするの?
見つめてくるアイスブルーから逃げるように、視線を手元にやる。
そうだ、お皿洗わなきゃ。
皿洗いに集中して、バージルのことは忘れよう。
そう決めたが、お皿を持つ手はがたがたと震える。
「エリ、手が震えている。気をつけろ」
「う、うん…」
囁くような声に指摘され返事はしたが、逆効果だった。
男の人に免疫が無さ過ぎる自分が嫌になる。
一生懸命スポンジを握ると、バージルの身体が小刻みに震えるのが伝わってきた。
「くく…そんなに意識しなくてもいいだろう」
笑われた。
拘束が解かれ、珍しくバージルが肩を震わせるくらい笑っている。
「酷い…バージル!からかうなんて!」
さすがに少し腹が立つ。
どきどきしていたのが馬鹿みたいだ。
「もう…酷いよ…」
「すまん。でも、エリが可愛いのが悪い」
泣きそうになってしまい呟くと、バージルが楽しそうに謝罪する。
絶対本気で謝ってない。
しかももう 1度腰に手が回って来て、耳にキスされる。
ちゅっと音を立てたそれは、そのままざらりと湿ったものが這う感覚に変わった。
「…あ…っ」
身体が勝手にびくっと反応して、耳のなんとも言えない感覚に神経が集中する。
「エリ」
バージルの低く甘い声が耳の中に溶けていく。
こんな風に色っぽく名前を呼ぶ兄なんて、初めてだ。
「やだ…バージル!もう離れてよ」
目をぎゅっとつぶって、言葉では必死に拒否する。
どきどきに押しつぶされそうな精一杯の強がり。
バージルがこんなに意地悪なんて今まで知らなかった。
「お願い…バージル」
何度も懇願してやっとバージルは腕を離し、暴れていた心臓を落ち着かせる。
「少しやりすぎたか。悪かった」
そう言って頭を撫でてくれる仕草は、相変わらず兄のそれなのに。
告白してから宣言通り大胆になったバージルは、エリの知らない男性の部分を出してくる。
戸惑いはあるけれど、勿論嫌いにはなれなかった。
私たちは、血は繋がっていない。
だから、お互いに異性として好きになってもおかしくないのかな…。
もう何回も繰り返したことをまた思う。
自分のこのどきどきの理由を考えると、複雑な気持ちになる。
バージルがシャワーを浴びている間、エリはやっと落ち着いて皿洗いを終えた。
リビングを出たところでちょうど事務所の電話が鳴る。
「Devil May Cry?」
「良かった、エリ」
ダンテだ。
離れていたのは数日なのにとても懐かしく、声のトーンが上がる。
「ダンテ、そっちはどう?お仕事終わった?」
電話の向こうのダンテを想って、自然と笑顔になれる。
やっぱり早く帰って来てほしい。
早く顔が見たい。
「ばっちり終わらせたから、明日帰るな」
「そっか、おいしいもの作って待ってるね!」
「早くエリの飯が食いたいぜ…やっぱ遠いな2,000キロって」
「ふふ、それはそうだよ」
何気ない兄妹の会話が楽しい。
エリは立ったまましばらく、ダンテと今回の依頼の話をしていた。
夢中だったから、いつの間にかシャワールームから出たもう1人の兄が視線をやっていることに気づかなかった。
「あ…」
腰に手が回って来て、エリは初めて目の前の状況に引き戻される。
受話器はそのまま視線だけやれば、バージルのアイスブルーと鉢合わせし心臓が飛び跳ねた。
「エリ?どうした?」
受話器からは異変に気づいたダンテの声。
すぐ傍にいるバージルがもたらす甘いどきどき。
ダンテにばれたらどうしようと言う焦りが、エリの背に嫌な汗を流れさせる。
「な、なんでもないの…!」
「そうか?」
とりあえず必死に誤魔化す。
バージルは早く電話を終わらせろと言わんばかりに、ぎゅっと抱き締めてくる。
「早く帰って来てね…!」
「ああ、じゃあ明日な」
話を無理矢理終わらせ、すぐに受話器を置いた。
「バージル!」
思わず声を荒げる。
ダンテに変な風に思われていないか、それがとても気になってしまっていた。
だけど抱き締めたままのバージルは、一向に離そうとしない。
「明日帰って来るのか、ダンテは」
「うん…そうみたい」
「…今ほっとしたな」
「そ、そんなことない!」
否定したが、正直本当だった。
このまま2人っきりだったら、バージルがどこまで暴走するかわからないし、心臓が保たない。
ダンテが戻ってくればバージルも下手に手は出さず、いつも通りの家族生活を送れる気もした。
しかしそんな考えも虚しく、エリはいきなりバージルに引っ張られソファに座らされて縁まで追い込まれる。
なんだか怒ってるみたい…。
「バ、バージル…」
怯えた声で名前を呼べば、バージルの大きな手が頭の後ろに回されもう一方の手で顎を引く。
アイスブルーはいつの間にか熱を帯び、バージルの顔が近づいてくる。
キスされる。
さすがに気づいて、思わず厚い胸板を力の限り押した。
「だめ…っ」
「何故だ?」
バージルの眉が歪み、明らかに不機嫌そうだ。
だからって、そうすぐにキスする覚悟ができる訳ではない。
「何故って…だめだよ…!」
「俺はエリとキスしたい。だめか?」
「…っ」
あくまで真剣な眼差し。
卑怯だ。
エリはまた心臓がどきっと暴れるのがわかった。
いきなりキスしたいなんて、どうしちゃったのバージル。
はっと、さっきダンテと電話していたのを思い出す。
もしかしてヤキモチ…?
益々頬が赤くなり、バージルはエリの制止を無視して距離を縮めてくる。
ち、近い。
反射的に自分の口を両手で隠した。
「だめ…!だめだよバージル!」
「…そんなに嫌がらなくてもいいだろう」
バージルがまた不機嫌そうに眉を歪める。
気持ちは十分わかったけれど両想いという訳ではないのに、ぐいぐい迫ってくるのはどうかと思った。
それに、本気で嫌いになれないことをわかっていてやっている。
しばらくそのまま見つめ合った後、バージルはとりあえず諦めたのかエリの頭を撫でた。
「全く…これがエリでなかったら、もっと強引にできるんだが」
ふっと口の端を上げた姿は、やっぱり兄のもの。
いつもの兄の面と男性の面、2つに翻弄される。
「今日はこれくらいで勘弁してやる」
「あ…」
いつかのような、額への優しいキス。
エリは右手でそこを押さえ、バージルをじっと見る。
どきどきが、止まらない。
「そんな顔していると、今度こそキスするぞ?」
「え…!」
「冗談だ」
完全にバージルのペース。
こんな状態で、ダンテが帰って来たらどうなってしまうのか。
色々な意味で怖い。
どうにも改めて動き出せずに隣同士で座ったままでいれば、バージルが再び口を開いた。
「本当に…ここを出て、俺に付いて来る気はないか。お前のことは絶対に守る。寂しい思いもさせない」
真剣な眼差しと提案された内容に、エリは疑問と戸惑いが先に来てしまい何も答えられない。
以前バージルを看病している時に、「また家族で暮らすことが夢だ」と告げた。
ここを出るということは、同じく兄であるダンテと離れることを意味する。
今まで2人で支え合って生きてきたので、そんなことは考えられなかった。
ダンテを排除するような台詞が、エリの心をまた掻き乱した。
「バージル…」
「ダンテか?」
それはできないと言おうとした時、被せるように強い口調でバージルがダンテの名前を出す。
まるで心を読まれているみたいだ。
いや、ただ思っていることが顔に出やすいだけかもしれない。
「そんなにダンテが大切か?もう十分だろう。今まで散々一緒に過ごした筈だ」
「…どうして、バージル。なんでそんなこと言うの?」
バージルの眉間にははっきりとしたしわが刻まれ、低く冷たい声にエリは胸が締め付けられる。
自分ではどちらかの味方をしている気はない。
だから、バージルにこんな顔をさせている状況自体も嫌だった。
「私は、できるならバージルとだってずっとずっと一緒に過ごしたかった。でも、できなかった…」
あの日何もなければ、あのまま3人で暮らしていたのだろうか。
行方不明のバージルを、泣きながら探しに出た日を思い出す。
瞳から勝手に涙が溢れたが、それが辛い記憶のせいか、バージルがダンテを憎むような言動をしているからなのか、わからない。
目を伏せていると、濡れた頰を他ならぬバージルが左手で拭ってくれ、再び視線を上げる。
「エリ…泣くな。お前を悲しませたい訳ではない」
今くれる言葉は、かつて幼い頃にくれたような優しいそれ。
ダンテが絡んでくると何故かバージルは顔色が変わる。
スーパーの1件の夜もダンテの話をしたら、今回のようにどこか怒っているようでもあった。
それはもう、ヤキモチという一言だけでは片付けられない気がし始めた。
バージルの透き通るアイスブルーが真っ直ぐに見つめて来て、エリはとうとう釘付けになった。
「俺は、お前を俺で満たしたくて堪らない。ずっと俺のことを考えてほしい」
「バージル…」
「お前を攫って無理矢理に俺のものにするのは簡単だろう。だが、お前相手にはそれができない」
裏を返せば、他の人にはそれができていたということだ。
離れてからバージルがこれまでどうやって生きてきたのか、全く知らない。
エリは幸運にもダンテと生きる道を歩めたが、恐らくバージルはずっとひとりで生きてきた。
その間にどんなことがあって、バージルが何を感じたのか、それは本人にしかわからない。
エリが知っているのはテメンニグルを建てたという事実だけで、ホテルのテレビで観たニュースキャスターが悪魔に襲われる映像が一瞬、頭に浮かんでしまう。
バージルは何のために、魔界と人間界を繋ごうと思ったのか。
エリにはわからない理由がそこにあったのだろうが、しかし、図書館の帰り道に悪魔から身を守ってくれたのもまた、バージルだった。
「エリが死んだと思った時、俺は俺を許せなかった。だが、お前はこうして生きていた。もう2度と離したくはない」
2度と離れたくないという気持ちは、それが何としてであれリンクしていてエリの心臓はどくんと脈打つ。
「ずるい、バージル…」
「ずるい?どこがだ」
「そんなこと言われたら、益々選べないよ…」
エリがぽつりぽつりと答えるのを、バージルは心底わからないという顔で見つめた。
胸のうちをここまで赤裸々に伝え、それを受けて自身を選択するなら理解できる。
だが、この期に及んでまだ選べないというのは、どういう了見なのか。
「やっぱりどうしても、私は2人が両方大切…2度と離れたくないの」
同じ台詞を返され、今にもまた涙を零しそうな瞳に、バージルは口を噤んだ。
もしここで無理矢理にでもキスして触れてしまえば、一時的にエリの頭を自身で満たすことは容易い。
だがその場合、エリはいつものように優しく微笑んでくれるかと考えたら、疑問だった。
幼い頃から変わらない彼女が変わってしまうのは、不本意だ。
「…お前のそれは、家族としてのそれか」
「え…」
予想していなかったのか、エリの眉がぴくりと動く。
彼女が自分で気付いていないのかもしれないが、それは紛れもなく真意を掴んでいるようだ。
純粋なのはいいが、家族愛をどこまでも引っ張り出されるのは困りものだ。
「俺を、ひとりの男として選ばせてやる…絶対に」
バージルは決意を新たに、エリに告げた。
end.