【第1章】夢のようなひと
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「ねぇ、Vは紅茶派?コーヒー派?」
「強いて言えば紅茶か…」
私は調達した食材をテーブルに散らかしながら、Vに質問した。
食後の飲み物用に紅茶の箱だけ表に出して、他はとりあえず適当にまとめておく。
さっき鳥くんと黒猫ちゃんがお腹が空いたって言ってたし、片付けは後。
まだこの街が大変なことになってからそこまで日にちが経っていないので、ある程度鮮度が保たれた食品があることに感謝したい。
しかも、父のお店のライフラインはかろうじて残されていたので、私は本当に生きる運はあるのかもしれない。
作ったのは、冷蔵庫に残ったスモークサーモンとクリームチーズのサンドウィッチ。
父は食器の趣味も良かったので、そこにきれいに盛り付けてみた。
「なァ、ホントに今悪夢の中?普通に高級感あるレストラン風な食事が俺たちの目の前に広がってるぜ」
鳥くんが椅子の縁にとまって、目を丸くしている。
私も久々にまともに食卓の準備をした。
改めて並べられたサンドウィッチを眺めながら、私は自分の腰に手を当てた。
「今日食料調達したばかりだし、久しぶりに1人じゃない記念に頑張ってみた」
「いやー!お嬢ちゃんマジで救世主!俺たちのメシアちゃん!」
「大げさだなぁ、鳥くんは」
「だって最高じゃん?外は辛気臭い空気で溢れてるのに、ここは音楽も飯もある!」
鳥くんが褒め上手過ぎて、自然と笑顔が溢れる。
ああ、1人じゃないって、こういう感覚だった。
目を輝かせる鳥くんと黒猫ちゃんをこれ以上待たせる理由はないので、私はリアクション薄めなVに声を掛けるために口を開いた。
「さ、V、頂こう!」
「…ああ、色々助かる」
Vは瞳を僅かに細め、それに答える。
なんだかミステリアスな雰囲気だなぁ。Vって。
大切にしたい「物」があることは共通してるけど、私とVだとまた持っている「雰囲気」が違う。
勿論父とも違う。
あんまり見つめるのもダメだと思ったので、私は慌てて視線をずらした。
どうやって食べるのかと思ったけど、鳥くんは嘴を大きく開けて丸呑み、黒猫ちゃんは想像通りに少しずつ口で千切っている。
「鳥くんも黒猫ちゃんも、サンドウィッチ食べるんだねぇ」
「俺たち雑食だから…!うめぇなコレ!」
「それは良かった」
鳥くんは、鳥なのに感情豊かに笑ってみせる。
一方対照的に、静かに黙々と口に運ぶVが気になって、直接聞いてみることにした。
「Vはどう?口に合ってる?」
「そうだな。俺もこんな食事は久しぶりだ」
Vも口角を吊り上げる。
聞けば答えてはくれるんだ。
自分からは発しないけど。
今まであんまり会ったことのないタイプ。
「そういえば、せっかく出逢えた記念に聞きたいな。Vはどうしてこの街にいるの?」
そのまま食事の感想以外の質問をすれば、Vはサンドウィッチをお皿に置いて、私を見つめる。
「私に言ってくれたことは、そっくりそのままVにも言えるもの」
Vは私を助けようとしていた。
だけどこの街にいて危険なのは、V自身にも言えることだ。
「…お前はなんだかんだで口が立つな」
すぐに質問の答えは返ってこず、私に対する感想みたいなことを言われたので、そばにいる鳥くんに助けを求めることにした。
Vとの仲は当然鳥くんの方が長い。
「ねぇ鳥くん。今のって、褒めてる?」
「あァ、Vちゃんなりの賞賛だと思う」
「そっか、ありがとう。V」
お礼を伝えると、Vはまた瞳を細める。
あ、やっぱり私に対する賞賛で合ってたのね。
Vは外で初めて会った時から、どこか特徴的な雰囲気だった。
話し方も、他の人とちょっと違って独特だ。
自分なりの世界観がある、みたいな。
「…俺は、やるべきことがあるんだ」
「やるべきこと…」
彼の言葉を自分に言い聞かせるように、私は繰り返す。
この台詞が、さっきの私の質問に対する答えなんだろう。
「最終的なものはひとつだが、それに伴ってたくさんある」
まとめると、やらなければいけない大きなことがあるってことでいいのかな。
考えながら聞いていれば、Vが更に続ける。
「……そのひとつが、生存者を可能な限り救うことだ」
つまりVは、今はこの街に留まってひとを助けているってこと?
それだけ聞くとまるで…。
「なんだかヒーローみたい…」
「…俺は、そんな綺麗ものではない」
思ったことをそのまま口に出すと、Vは眉を歪めながら微笑み視線を反らす。
私、何か変なことを言っただろうか。
ほんの少しだけ沈黙が流れて、どうしようか迷った時、再びVの視線が私に帰ってきた。
「アリアと言ったな。きっと、お前の方がよっぽどまっすぐで美しい」
「V…」
Vの吸い込まれるような緑っぽい瞳に、何故か私の心臓は高鳴る。
美しいなんて、初めて言われた。
でも、ごめんね、V。
あなたの言い回しが詩的過ぎて、どこを褒められてるか、私じゃわからないの。
「…鳥くん、Vの言うこと、要約できる?」
「多分とりあえず褒められてる。喜んどけ!」
「ありがとう、V」
「…この流れ2回目じゃね?」
鳥くんのツッコミ。
当然私も気付いてて若干わざとやった節があるけど、それにVも微笑んでくれたから、勝手によしとしておく。
皆でご飯を食べるのは、やっぱり本当に楽しい。
ひとりでも大丈夫だと思っていたけど、こんなに違うものなんだ。
会話しながらゆっくり食事していたからか夜も更け、片付けをして、変形はしたもののシャワールームも残っているので順番にお風呂にした。
鳥くんも黒猫ちゃんも入ると言ってきたので、見守りながら身体をきれいにしてもらった。
そうして、現在。
鳥くん、私、V、黒猫ちゃんの順番で、ブランケットをかけて皆で寝る準備はバッチリ。
この順番は一応、いつ危険が迫っても対応できるようにらしい。
鳥くんと黒猫ちゃんに、私たち2人が守られている形だ。
「ちょっと、Vちゃん。メシアちゃんに変なことすんじゃねぇぞ。俺たち見張ってるからな、寝てても起きるからな」
「……言われなくともわかっている」
寝る前までわいわい騒ぎ立てる鳥くんと、もう何も気にせず丸まって眠っている黒猫ちゃんに、笑わずにはいられない。
「皆で雑魚寝するの、楽しいねぇ」
私の台詞に、Vが目を伏せて微笑む。
やっぱり意外とVも、こういう賑やかな雰囲気、嫌いじゃないのかな。
「ねぇ、V。明日はもう、行っちゃうの?」
1度自分ひとりのお城に愉快な仲間が加わると、またひとりになるのが少しだけ切なくなって勝手に口が動いた。
私、明日もこうしていたいって、ほんの少しだけでも思ってしまってるんだなぁ。
自分のことなのに遅れて感情がやってくる。
Vは私の心に気づいてか、私の瞳をまっすぐに見つめた。
「…俺たちがこの街に留まるのは決まっている。あと1ヶ月は確実にな」
「…そうなんだ」
「いいじゃねェか、V!1ヶ月ここを拠点にしようぜ!そうすりゃメシアちゃんも守れるしよォ!」
鳥くんが私とVのやり取りに、割って入ってくる。
ありがとう、鳥くん。
鳥くんも、私とのこの数時間を楽しいって思ってくれたのかもしれない。
もし違っても、そうだといいな。
「いいのか…?アリア」
「うん、勿論だよ。私も、1人じゃなくて楽しくなってきたとこ」
「よっしゃ、決定な!」
こうして私とVと1ヶ月限定の生活が始まった。
1ヶ月後のことは、私はまだ考えられない。
ただ、明日も皆でわいわいできたらいいなぁと思っていた。
end.