Dark Chocolate
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魔界で、思う存分…。
思う存分という表現が正しいのかわからないが、戦い続けていた俺たちは、いい加減身体を動かすのも飽きてきた。
忘れてたが、俺たちももういい歳だ。
半魔とはいえ疲れはやってくる。
魔界のくすんだ土に胡座をかいて、人間界においてきたもうずっと姿を見ていない妹のことが、ふと頭によぎった。
「あー…言い忘れてたけど、生きてるぜ。エリ」
こいつはあの日、エリは死んだと思い続けて来たんだろう。
すったもんだ色々あったが、まぁとにかく、こいつが俺の双子の兄であることには変わりない。
教えてやる義務みたいなものがある気がした。
しかしながら、向かいで同じように座り込むバージルは、俺の報告を聞いて目を見開いたまま固まっている。
「バージル?」
「どうしてそれを早く言わない!?」
名前を呼ぶと、身を乗り出してすごい剣幕でまくし立てた。
ああ、こいつ、こんな顔もできたんだな。
あの件から随分人間らしくなったバージルに、俺はいまだに動揺する瞬間もある。
Vという男と魔王ユリゼンに分離して、再び戻ったこいつは昔と比べて随分表情筋が動く。
「いや…あいつ、結婚してるし」
「………………そうか」
「…今世紀最大の間だったな」
「そうか」と返事する間に、色々と考えたんだろう。
それを口にはしなかったが、俺たちは子どもの頃から血の繋がらない妹であるエリが、お互いに「大切」だった。
それが今では誰かの妻であり、決して自分のものにできない事実は、衝撃以外のなにものでもない。
「わかるぜ、俺もまだ複雑だ」
ああ、俺があの時想いを打ち明けていたら。
もしかしたら、今エリは俺の妻で俺の子を産んでいたのかもしれない。
何度も繰り返した女々しい思考をもう1度なぞると、バージルは不意に立ち上がった。
「帰るぞ、ダンテ。今すぐに」
「…マジか」
「俺は帰ってエリの顔が見たい。別に、ここにひとり置いて行っても構わんがな」
理由がめちゃくちゃシンプルだが、今のバージルを人間界に連れて行けば、久しぶりに胸を張ってエリに会えるような気がする。
ずっと、優しいエリはバージルのことを忘れたことはなかった。
あいつが結婚するまで支えていた俺が、1番知っている。
「わかった、帰ろうぜ!」
俺たち実質何ヶ月戦っていたのか…。
久しぶりにガキの頃みたいに喧嘩できたのは、人間界にいるネロの存在がでかい。
色々ありがとうな、ネロ。
俺たちはこの日の会話をきっかけに、お互いの勝敗ではなく、ただエリに会うという単純な思考で繋がった。
そして…閻魔刀の力でモリソンに託していた自分の事務所に、帰ってくることができた。
今、人間界は10月だった。
帰ってすぐにしたのは、エリへの電話だ。
前回エリから電話をもらってまた少し経っているが、会いたいと言ったらなんとOKをもらえた。
1つ屋根の下に、いい歳のおっさんの双子が一緒に暮らしてるのは少々キモいが、これからバージルと同居するのは仕方ない。
水道や光熱費を支払うために、どんなショボい仕事もバージルも巻き込んでこなし、貼ってあったピンナップとか、見せたくないものは全部掃除して片付けた。
そうしてとうとう、今日エリが、俺の事務所にやってくる。
「おい、バージル。俺、髭剃った方がいいか?」
「…知るか。好きにしろ」
ガキみたいに慌てる俺に、バージルは腕を組んで呆れた表情だ。
しょうがない、エリにはいいところしか見せたくない。
それだけは子どもの頃から変わらない。
「わかった。剃る。あんたもなんかよくわからねぇけど肌きれいだし」
「…ガキか。歳取って落ち着いたように見えたが違ったな」
「馬鹿野郎。俺がどんな思いで今日という日を迎えると思ってる…!」
堂々としているバージルに、両手を広げて熱く宣言する。
ずっとずっと会いたいと思っていたけれど、会えなかった。
それは昔の俺が結局チキンだったから。
そうしてみすみすどっかのよくわからない男に、エリを取られた。
やっと久しぶりにエリに会う自信が出て、今日という今日を迎えた俺としては、これは「決戦」だ。
「エリに言われて気づいたけど、10年も会ってないんだよ!俺は、あいつに!」
「…それを言うなら、俺は軽く四半世紀以上経っている」
それはわかりきったことだが、俺は俺自身のことが重要だ。
あんたはあんたで感情の整理をしてくれ。
バージルを放置して、慌てて髭を剃りに洗面所に向かった。
そうなんだよ。
俺はいいオトコだ。
大丈夫、ビビるな。
鏡に映る自分の顔を見つめながら、自身に話し掛ける。
相手がエリだって、うまく口説ける。
あ、そういや忘れたけど、あいつ結婚してた。
不倫か?
さすがにダメだよな。
色々考えてデスクに戻ると、事務所のドアをノックする音がタイミングよく響く。
「おいー!来たぜ…!」
俺はバージルと顔を見合わせたが、嬉しい気持ちだけが前面に出てしまっているのか、珍しく口角を上げた。
早く会いたいんだな、わかった。
「出ろ、すぐに」
「OK、隠れてろ」
エリには直接、バージルが生きていて今ここにいることは言っていない。
あくまで「サプライズ」にしてある。
バージルが隅に身を潜めたのを確認して、俺は事務所の扉に手を掛けた。
end.
思う存分という表現が正しいのかわからないが、戦い続けていた俺たちは、いい加減身体を動かすのも飽きてきた。
忘れてたが、俺たちももういい歳だ。
半魔とはいえ疲れはやってくる。
魔界のくすんだ土に胡座をかいて、人間界においてきたもうずっと姿を見ていない妹のことが、ふと頭によぎった。
「あー…言い忘れてたけど、生きてるぜ。エリ」
こいつはあの日、エリは死んだと思い続けて来たんだろう。
すったもんだ色々あったが、まぁとにかく、こいつが俺の双子の兄であることには変わりない。
教えてやる義務みたいなものがある気がした。
しかしながら、向かいで同じように座り込むバージルは、俺の報告を聞いて目を見開いたまま固まっている。
「バージル?」
「どうしてそれを早く言わない!?」
名前を呼ぶと、身を乗り出してすごい剣幕でまくし立てた。
ああ、こいつ、こんな顔もできたんだな。
あの件から随分人間らしくなったバージルに、俺はいまだに動揺する瞬間もある。
Vという男と魔王ユリゼンに分離して、再び戻ったこいつは昔と比べて随分表情筋が動く。
「いや…あいつ、結婚してるし」
「………………そうか」
「…今世紀最大の間だったな」
「そうか」と返事する間に、色々と考えたんだろう。
それを口にはしなかったが、俺たちは子どもの頃から血の繋がらない妹であるエリが、お互いに「大切」だった。
それが今では誰かの妻であり、決して自分のものにできない事実は、衝撃以外のなにものでもない。
「わかるぜ、俺もまだ複雑だ」
ああ、俺があの時想いを打ち明けていたら。
もしかしたら、今エリは俺の妻で俺の子を産んでいたのかもしれない。
何度も繰り返した女々しい思考をもう1度なぞると、バージルは不意に立ち上がった。
「帰るぞ、ダンテ。今すぐに」
「…マジか」
「俺は帰ってエリの顔が見たい。別に、ここにひとり置いて行っても構わんがな」
理由がめちゃくちゃシンプルだが、今のバージルを人間界に連れて行けば、久しぶりに胸を張ってエリに会えるような気がする。
ずっと、優しいエリはバージルのことを忘れたことはなかった。
あいつが結婚するまで支えていた俺が、1番知っている。
「わかった、帰ろうぜ!」
俺たち実質何ヶ月戦っていたのか…。
久しぶりにガキの頃みたいに喧嘩できたのは、人間界にいるネロの存在がでかい。
色々ありがとうな、ネロ。
俺たちはこの日の会話をきっかけに、お互いの勝敗ではなく、ただエリに会うという単純な思考で繋がった。
そして…閻魔刀の力でモリソンに託していた自分の事務所に、帰ってくることができた。
今、人間界は10月だった。
帰ってすぐにしたのは、エリへの電話だ。
前回エリから電話をもらってまた少し経っているが、会いたいと言ったらなんとOKをもらえた。
1つ屋根の下に、いい歳のおっさんの双子が一緒に暮らしてるのは少々キモいが、これからバージルと同居するのは仕方ない。
水道や光熱費を支払うために、どんなショボい仕事もバージルも巻き込んでこなし、貼ってあったピンナップとか、見せたくないものは全部掃除して片付けた。
そうしてとうとう、今日エリが、俺の事務所にやってくる。
「おい、バージル。俺、髭剃った方がいいか?」
「…知るか。好きにしろ」
ガキみたいに慌てる俺に、バージルは腕を組んで呆れた表情だ。
しょうがない、エリにはいいところしか見せたくない。
それだけは子どもの頃から変わらない。
「わかった。剃る。あんたもなんかよくわからねぇけど肌きれいだし」
「…ガキか。歳取って落ち着いたように見えたが違ったな」
「馬鹿野郎。俺がどんな思いで今日という日を迎えると思ってる…!」
堂々としているバージルに、両手を広げて熱く宣言する。
ずっとずっと会いたいと思っていたけれど、会えなかった。
それは昔の俺が結局チキンだったから。
そうしてみすみすどっかのよくわからない男に、エリを取られた。
やっと久しぶりにエリに会う自信が出て、今日という今日を迎えた俺としては、これは「決戦」だ。
「エリに言われて気づいたけど、10年も会ってないんだよ!俺は、あいつに!」
「…それを言うなら、俺は軽く四半世紀以上経っている」
それはわかりきったことだが、俺は俺自身のことが重要だ。
あんたはあんたで感情の整理をしてくれ。
バージルを放置して、慌てて髭を剃りに洗面所に向かった。
そうなんだよ。
俺はいいオトコだ。
大丈夫、ビビるな。
鏡に映る自分の顔を見つめながら、自身に話し掛ける。
相手がエリだって、うまく口説ける。
あ、そういや忘れたけど、あいつ結婚してた。
不倫か?
さすがにダメだよな。
色々考えてデスクに戻ると、事務所のドアをノックする音がタイミングよく響く。
「おいー!来たぜ…!」
俺はバージルと顔を見合わせたが、嬉しい気持ちだけが前面に出てしまっているのか、珍しく口角を上げた。
早く会いたいんだな、わかった。
「出ろ、すぐに」
「OK、隠れてろ」
エリには直接、バージルが生きていて今ここにいることは言っていない。
あくまで「サプライズ」にしてある。
バージルが隅に身を潜めたのを確認して、俺は事務所の扉に手を掛けた。
end.