Charlotte
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ずっと、家族で暮らすのが夢だった。
幼い頃幸せな生活が悪魔によって奪われた時から、ずっと。
ダンテに先にシャワーを浴びるよう促し、エリはデリバリーピザの空き箱を片付けながら、子どもの頃を想った。
あの頃は優しい両親がいて、双子の兄と自分の5人家族だった。
今はダンテと2人の兄妹暮らしだが、自分以外の誰かの食事の片付けをするのがなんだか懐かしく、そして嬉しい。
ダンテは仕事を頑張って彼女を学校に行かせてくれたが、家族がいない1人暮らしはやっぱり寂しかった。
卒業した今も本当は就職して1人で立派に生きていくのが正しい道だと理解はしていたが、できなかった。
食後にと、エリは下宿先から持ってきたココアをいれて、ソファに座った。
明日から、ダンテに喜んでもらえるように早速朝食の支度を張り切ろう。
とりあえずそれが、私がダンテにできる恩返しだ。
ひと息ついた時、シャワーを浴びたダンテがリビングにやってきた。
何気なくそれを横目で見ると、上半身裸で何も纏っていないよく鍛え上げられた肉体が惜しげもなく晒されている。
勝手に身体中が熱くなり、頬が真っ赤になるのがわかった。
「いやダンテ!ちゃんと服着て!」
「ん?」
ダンテは濡れた頭をタオルで拭きながら、きょとんとした目でエリを覗き込む。
彼女は身を後ろに逸らして少しでもダンテから離れようとするが、勿論ソファの背もたれが邪魔して逃げられない。
「お前まだ男の裸見たことねぇの?」
「そ、そうだけど!」
「そーか、悪かったな」
ダンテはそのままエリの隣に座って髪を拭き始める。
言葉だけで上半身裸のスタイルは貫くつもりのようで、注意した分だけ損した気分になった。
エリはなるべく見ないように目を逸らし、ココアを一気に喉に流し込む。
そうしている間も視線を感じ、ダンテにからかわれていることに気づいた。
兄とはいえ男性に全く免疫がなく、心臓がどきどきうるさいのが悔しい。
テーブルに空のマグカップを叩き付けて、シャワールームに逃げ込んだ。
押し殺した笑い声が遠くでも聞こえる。
「ダンテのばか…!」
服を乱暴に脱ぎ捨てると、自分の丸みを帯びた身体が現れる。
毎日見ているものなのに、ダンテの筋肉質で逞しい身体を見た後だと女であることが一層際立って見えた。
今思えば恥ずかしいことだが、昔一緒にお風呂に入った時とは大違いだ。
変にダンテが異性であることを意識して、初めて一緒に暮らすと言った自分がすごいことをしたなと思った。
ほとんど忘れていたが、家族だが勿論血は繋がっていない。
頭をぶんぶん振って、シャワーの蛇口を捻る。
熱い湯を浴びると、少し落ち着いてくるのがわかった。
戻ったら、まだリビングにダンテがいるだろうか。
どんな顔をしたらいいかわからないなんて、なんだか情けない。
でも、このままずっとシャワーを浴びたままでは当然いられない。
テーブルに置いたままのマグカップを洗ったら、すぐに自分の部屋で髪を乾かそう。
そう決めてシャワールームから出ると、ダンテはまだ上半身裸のままソファに座っていた。
何か雑誌を読んでいる。
エリはすぐにマグカップを掴みキッチンで洗って、部屋へと足を向けた。
その時、見計らったのかダンテが雑誌から顔を上げる。
「もう行っちまうのかよ。同棲1日目なんだからもっとゆっくりしようぜ」
「…だって髪乾かさなきゃ」
「そんくらいここでやれよ」
完全な言い訳だったので、そう言われたら断る理由がない。
エリは渋々ドライヤーを引っ張ってきてコンセントに差し、ソファに腰を下ろした。
スイッチを入れ送風の音が耳にうるさいが、ダンテは構わず会話を続ける。
「卒業プロムは行ったのか?」
「行ってないよ。ダンスできないし」
友だちは彼氏に誘われて皆参加したようだ。
エリも情けなのか誘われたが、学校の皆が東洋人の幼く見える顔立ちを子ども扱いしているのを知っていたから、参加する気は起きなかった。
ブラシで髪をとかしながら、ぽつりと言ってみる。
「ダンテは誘ったら来てくれた?」
「エリとダンスも悪くねぇが、タキシードは堅苦しいな」
先程の胸のときめきのせいで、思わずドレスの自分とタキシードのダンテを想像して緊張してしまった。
変な質問するんじゃなかったと、エリは黙々と髪を乾かす。
ダンテはその姿を横目でちらと見て、口角を吊り上げた。
「お前の髪、きれいだな」
「…ありがとう」
改めて誉められると変にくすぐったい。
ドライヤーのスイッチを切るとダンテが髪を指に絡めてくるくる弄り、漆黒に光の波ができる。
髪に神経なんて通っていないのに、ダンテの熱が伝わってくるように身体がほてる。
不意にダンテがこちらを見て、スカイブルーの瞳にどきりとした。
エリは反射的にソファから立ち上がって口を開く。
「も、もう寝るね。おやすみ…!」
「…おやすみ、エリ」
ダンテから逃げるように、今度こそ1度も振り返らずに自分の部屋に閉じこもった。
ベッドにダイブし、枕を抱き締めて目をぎゅっと瞑る。
どうしようもなく心臓がどきどきしている。
今まで深く考えたことがなかったけれど、ダンテもちゃんとした男のひとなんだ。
もう昔みたいに子どもじゃない。
「ダンテは兄なのに、こんなのおかしいよね…」
高鳴る胸を落ち着かせながら、エリは眠気が訪れるのを待った。
ここに引越の荷物を運ぶ時に食材も買ったし、明日から早速キッチンに立ちたい。
そのために早起きしなくちゃいけないのに、目が冴えてなかなか寝付けそうもなかった。
end.