【第2章】目に見えないもの
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14日目の午後。
私は例の如く、グリフォンとお店でお留守番していた。
Vと両想いになれて数日。
今までに感じたことのない充実感が胸に溢れている。
店内の無数のレコードを1枚1枚丁寧に取り出しながら、自然と鼻歌を歌っていた。
「アリア、ご機嫌だなァ」
隣で羽ばたくグリフォンに言われ、左手いっぱいのレコードをしっかり支えながら、身を乗り出す。
「聞いて、グリフォン!なんかね、頭の中に音楽がずっと流れてて、夢みたいな気分なの!」
人生でこんなに、心踊るような出来事があるなんて。
初恋は私を、毎日雲の上にいるみたいにふわふわした気分にさせる。
「幸せそうで何よりだ。これからVと2人っきりで寝るかァ?きっとスイートな夜が待ってるぜ」
グリフォンはグリフォンで気を遣ってくれているのか、全く茶化すこともなくまさかの提案をされる。
この前の朝の情景を思い出すと少し頬が赤くなるし、Vが私の胸を枕にして眠っていたのはものすごくびっくりした。
でもVと2人だけの夜も、とても魅力的…。
私が視線を逸らして想像を膨らませたら、グリフォンは笑いながら嘴を開く。
「あら、まんざらでもないな!」
「…う…うん」
恥ずかしさもあるから真っ直ぐ見れず、だけど、しっかり頷く。
「わかったわかった。俺たち何かあればすぐ駆けつけるからよォ、楽しみな」
「ありがとう、グリフォン」
本当に、感謝してもしきれない。
私とVの仲を取り持ってくれたのは、他でもないグリフォンだ。
「私今、本当に幸せ…」
「そうかそうか」
頬を染めたまま瞳を細めると、グリフォンも満足そうに口の端を吊り上げる。
このまま、時が止まればいいのに…。
「幸せ」と自然に言えたのに、後から現実のことも、頭に一瞬戻って来た。
「あ!ちゃんとわかってるよ、終わりが来るって!」
「改めて言うなよォ!!しかも笑顔で言うな!」
わかってるよ、わかってる。
Vにもしっかりはっきり言われたし。
ここ数日は楽しいことばっかりで、忘れかけてたところもあるけれど。
「…でも、俺たちは全部終わったら、アリアのなんちゃって守護神になるつもりだからよォ!安心しろ!」
グリフォンに言われて、以前「契約」の話をしたことを思い出す。
「全部終わった時」Vが私の傍にいなくても、皆がいてくれたら、きっと私は少しでも救われる。
Vのことを忘れることはないけれど、時々寂しさに潰されそうになって、そんな時にグリフォンたちがいてくれたら。
それは紛れもなく「守護神」だ。
「真剣に考えてくれたんだね、グリフォン」
私は遠くない未来の自分をちょっとだけ想像して、グリフォンの目を真っ直ぐに見つめた。
「ありがとう」
「お礼を言うのは、俺たちの方だろ!」
私もグリフォンも、お互いに感謝しているなら、これ以上に素敵な関係はないと思う。
グリフォンたちって、本当に「悪魔」なんだろうか。
絶対違うよなぁとしみじみ感じたところで、私の最愛のひとが、お店に無事帰宅する。
「V、お帰りなさい」
「アリア、ただいま」
駆け寄っていくとVが愛おしげな瞳で私を見て、胸がきゅんするのがわかった。
何回私はこの人に恋をするんだろうと、浮かれたことを考えてしまう。
右脚にシャドウが擦り寄ってくれて、やっと現実に引き戻されて、ビロードみたいな身体を撫でた。
同時に、レコードをまだ片手に、そして店内も散らかし放題だったのを思い出す。
「これはこれは…派手に広げたな」
Vが惨状に気づき、でも、口角を上げて楽しそうに呟いた。
今ならVが興味を持ってくれた「私のお気に入りの曲」が見つけられる気がして、こんな状態になってしまった。
「ちょっと、やり過ぎたかな…Vと恋をしてから、わくわくが止まらないんだ!」
この感情も、Vがくれたもの。
素直に喜びを示すと、Vは私の両手を自分ので包み、引き寄せる。
「アリア」
「あ…」
Vの甘い呼び掛けと近づく唇に、キスされると気付いて、でも私は思わずグリフォンとシャドウの方を見てしまった。
Vはもう全く気にしないのか、密着するすれすれで辛うじて止まっている。
「…いいぜ、キスしろよ。ただし短めのな!」
グリフォンの許可を得て、私はどきどきしながらも目蓋を閉じた。
柔らかな感触はすぐに離れ、目を開いたら、Vの瞳には2人の前でも私の姿だけを映している。
「あー、猫ちゃん、どう思う?まァ、幸せなのが1番か」
「…うん、幸せ」
横からグリフォンの囁きが聞こえて、自分でも人の前で見せつけ過ぎだなぁと思うけど、にっこり微笑む。
Vがここにいて、私に触れてくれることが、それだけで堪らない。
満たされたままVの方に視線を戻せば、私の身体をまた少し引き寄せ、軽く抱き締められる形になる。
「お前のお気に入りの1曲、見つかりそうか?」
耳元で囁くような、Vの声。
身体に響いてしまって、伸ばされた腕をぎゅっと掴んだ。
「…今色々探してるところ。Vは好きなものある?」
「そうだな、パガニーニのカプリース第24番…」
Vの口からするする出てきた曲名は、ジャズではないことは明白だった。
でも、父は有名な曲や自分が出逢った素敵な曲は買い集めるひとだったから、あるかもしれない。
私はVから離れ、店内の父の私物レコード棚を探し始める。
「ここに、あるのか…?」
「ジャズ以外にもあるから…」
改めて見るとここだけでもかなりの枚数があって、一緒に1枚ずつ目を通していった。
しばらくして当たりを引いたのはVで、ジャケットを眺めながら目をぱちくりさせた。
「ある、な…」
「聴いてみる!」
「ああ」
いつものようにプレーヤーにセットして、レコードに針を降ろす。
流れてきたのは高速のヴァイオリンの音色。
私もいつだったか聴いたことがある、有名な旋律だった。
「すごく、頭に残る…」
そう呟いたら、Vはどこか遠くを見つめ口角を上げる。
この曲はVを、Vにしか知らないところに連れて行ってくれるみたい。
「ヴァイオリン…昔、少し習ったものだ」
「そうなの…!?V、とっても似合うと思う!」
どこか優雅な雰囲気があるVにはぴったりな楽器で、思わず声を張り上げた。
もしここにあったら、ちょっとだけでも聴かせてもらうのに。
私の気持ちが伝わったのか、Vは持っていた杖を持ち替えて肩に当てた。
そうして、レコードから流れる音色に合わせて、上下に動かし始める。
エアギターならぬ、エアヴァイオリンだ。
そこにないはずの楽器の形を想像して、頬が緩んだ。
Vの伏せられた目蓋も色っぽくて、曲が終わった後、1人で手が痛くなるくらい何回も拍手してしまう。
「きゃー!すごいすごい、V!私にはヴァイオリンがばっちり見えた!」
「ありがとう、アリア」
「あーなんか、Vちゃんのワンマンライブ始まっちゃったな…」
得意げなVと、興奮する私の横で、グリフォンとシャドウは呆れているようにも見えた。
end.
私は例の如く、グリフォンとお店でお留守番していた。
Vと両想いになれて数日。
今までに感じたことのない充実感が胸に溢れている。
店内の無数のレコードを1枚1枚丁寧に取り出しながら、自然と鼻歌を歌っていた。
「アリア、ご機嫌だなァ」
隣で羽ばたくグリフォンに言われ、左手いっぱいのレコードをしっかり支えながら、身を乗り出す。
「聞いて、グリフォン!なんかね、頭の中に音楽がずっと流れてて、夢みたいな気分なの!」
人生でこんなに、心踊るような出来事があるなんて。
初恋は私を、毎日雲の上にいるみたいにふわふわした気分にさせる。
「幸せそうで何よりだ。これからVと2人っきりで寝るかァ?きっとスイートな夜が待ってるぜ」
グリフォンはグリフォンで気を遣ってくれているのか、全く茶化すこともなくまさかの提案をされる。
この前の朝の情景を思い出すと少し頬が赤くなるし、Vが私の胸を枕にして眠っていたのはものすごくびっくりした。
でもVと2人だけの夜も、とても魅力的…。
私が視線を逸らして想像を膨らませたら、グリフォンは笑いながら嘴を開く。
「あら、まんざらでもないな!」
「…う…うん」
恥ずかしさもあるから真っ直ぐ見れず、だけど、しっかり頷く。
「わかったわかった。俺たち何かあればすぐ駆けつけるからよォ、楽しみな」
「ありがとう、グリフォン」
本当に、感謝してもしきれない。
私とVの仲を取り持ってくれたのは、他でもないグリフォンだ。
「私今、本当に幸せ…」
「そうかそうか」
頬を染めたまま瞳を細めると、グリフォンも満足そうに口の端を吊り上げる。
このまま、時が止まればいいのに…。
「幸せ」と自然に言えたのに、後から現実のことも、頭に一瞬戻って来た。
「あ!ちゃんとわかってるよ、終わりが来るって!」
「改めて言うなよォ!!しかも笑顔で言うな!」
わかってるよ、わかってる。
Vにもしっかりはっきり言われたし。
ここ数日は楽しいことばっかりで、忘れかけてたところもあるけれど。
「…でも、俺たちは全部終わったら、アリアのなんちゃって守護神になるつもりだからよォ!安心しろ!」
グリフォンに言われて、以前「契約」の話をしたことを思い出す。
「全部終わった時」Vが私の傍にいなくても、皆がいてくれたら、きっと私は少しでも救われる。
Vのことを忘れることはないけれど、時々寂しさに潰されそうになって、そんな時にグリフォンたちがいてくれたら。
それは紛れもなく「守護神」だ。
「真剣に考えてくれたんだね、グリフォン」
私は遠くない未来の自分をちょっとだけ想像して、グリフォンの目を真っ直ぐに見つめた。
「ありがとう」
「お礼を言うのは、俺たちの方だろ!」
私もグリフォンも、お互いに感謝しているなら、これ以上に素敵な関係はないと思う。
グリフォンたちって、本当に「悪魔」なんだろうか。
絶対違うよなぁとしみじみ感じたところで、私の最愛のひとが、お店に無事帰宅する。
「V、お帰りなさい」
「アリア、ただいま」
駆け寄っていくとVが愛おしげな瞳で私を見て、胸がきゅんするのがわかった。
何回私はこの人に恋をするんだろうと、浮かれたことを考えてしまう。
右脚にシャドウが擦り寄ってくれて、やっと現実に引き戻されて、ビロードみたいな身体を撫でた。
同時に、レコードをまだ片手に、そして店内も散らかし放題だったのを思い出す。
「これはこれは…派手に広げたな」
Vが惨状に気づき、でも、口角を上げて楽しそうに呟いた。
今ならVが興味を持ってくれた「私のお気に入りの曲」が見つけられる気がして、こんな状態になってしまった。
「ちょっと、やり過ぎたかな…Vと恋をしてから、わくわくが止まらないんだ!」
この感情も、Vがくれたもの。
素直に喜びを示すと、Vは私の両手を自分ので包み、引き寄せる。
「アリア」
「あ…」
Vの甘い呼び掛けと近づく唇に、キスされると気付いて、でも私は思わずグリフォンとシャドウの方を見てしまった。
Vはもう全く気にしないのか、密着するすれすれで辛うじて止まっている。
「…いいぜ、キスしろよ。ただし短めのな!」
グリフォンの許可を得て、私はどきどきしながらも目蓋を閉じた。
柔らかな感触はすぐに離れ、目を開いたら、Vの瞳には2人の前でも私の姿だけを映している。
「あー、猫ちゃん、どう思う?まァ、幸せなのが1番か」
「…うん、幸せ」
横からグリフォンの囁きが聞こえて、自分でも人の前で見せつけ過ぎだなぁと思うけど、にっこり微笑む。
Vがここにいて、私に触れてくれることが、それだけで堪らない。
満たされたままVの方に視線を戻せば、私の身体をまた少し引き寄せ、軽く抱き締められる形になる。
「お前のお気に入りの1曲、見つかりそうか?」
耳元で囁くような、Vの声。
身体に響いてしまって、伸ばされた腕をぎゅっと掴んだ。
「…今色々探してるところ。Vは好きなものある?」
「そうだな、パガニーニのカプリース第24番…」
Vの口からするする出てきた曲名は、ジャズではないことは明白だった。
でも、父は有名な曲や自分が出逢った素敵な曲は買い集めるひとだったから、あるかもしれない。
私はVから離れ、店内の父の私物レコード棚を探し始める。
「ここに、あるのか…?」
「ジャズ以外にもあるから…」
改めて見るとここだけでもかなりの枚数があって、一緒に1枚ずつ目を通していった。
しばらくして当たりを引いたのはVで、ジャケットを眺めながら目をぱちくりさせた。
「ある、な…」
「聴いてみる!」
「ああ」
いつものようにプレーヤーにセットして、レコードに針を降ろす。
流れてきたのは高速のヴァイオリンの音色。
私もいつだったか聴いたことがある、有名な旋律だった。
「すごく、頭に残る…」
そう呟いたら、Vはどこか遠くを見つめ口角を上げる。
この曲はVを、Vにしか知らないところに連れて行ってくれるみたい。
「ヴァイオリン…昔、少し習ったものだ」
「そうなの…!?V、とっても似合うと思う!」
どこか優雅な雰囲気があるVにはぴったりな楽器で、思わず声を張り上げた。
もしここにあったら、ちょっとだけでも聴かせてもらうのに。
私の気持ちが伝わったのか、Vは持っていた杖を持ち替えて肩に当てた。
そうして、レコードから流れる音色に合わせて、上下に動かし始める。
エアギターならぬ、エアヴァイオリンだ。
そこにないはずの楽器の形を想像して、頬が緩んだ。
Vの伏せられた目蓋も色っぽくて、曲が終わった後、1人で手が痛くなるくらい何回も拍手してしまう。
「きゃー!すごいすごい、V!私にはヴァイオリンがばっちり見えた!」
「ありがとう、アリア」
「あーなんか、Vちゃんのワンマンライブ始まっちゃったな…」
得意げなVと、興奮する私の横で、グリフォンとシャドウは呆れているようにも見えた。
end.