【第2章】目に見えないもの
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夜でさえ眠るのが惜しい。
俺はそんなことを思ったが、彼女は耐えられず欠伸をして右目を擦る。
「V…眠くなってきちゃった…」
「ああ…アリア。そうだな」
身体を優しく横たえてやりながら、俺も隣に寝転がってアリアの頭を撫で、瞳を細めた。
「おやすみ、俺の大切なひと」
そのまま目を閉じてしまうと思ったのに、何故か彼女はくすりと笑う。
何か変なことを言っただろうか。
「…V、王子様みたい」
「では、アリアはどこかの姫君か…」
童話の世界のように自分たちをなぞらえて、そんな幼い子どものような思考を、一緒になって楽しめるのが新鮮だ。
「おやすみ、私だけの王子様…」
「おやすみ、アリア」
そしてとうとう、アリアは眠りの世界に旅立った。
彼女が眠っているのをいいことに、規則正しく上下する双丘に、そっと頭を乗せる。
胸の鼓動を聞きながら1度目蓋を閉じた。
当たり前だが、アリアは生きている。
しっかりと、この脈打つ心臓を持って。
俺は形として心臓があるが、今止まってもおかしくないくらい脆弱だ。
ふと、もうひとりの「自分」であるユリゼンの姿を思い浮かべた。
あいつの心臓はさぞかし力強いだろう。
俺には力がなく、あれには心がない。
もし全部がうまく行き「バージル」に戻れたら、ユリゼンはアリアを気にいるだろうか。
無自覚かもしれないがプライドが高いところは、ユリゼンも好きそうだ。
そうしたらVとしての自分も、またアリアと出逢うことができる。
1ヶ月を越えられる。
バージルが、Vとしてユリゼンとしての記憶をそのままはっきりと覚えていなくとも、「心」はアリアを忘れない。
例えば何年もかかってもいい。
俺が、アリアを探し出す。
アリアは、その時どうするのだろう。
見た目も中身も違うから、きっと警戒する。
もしかしたら、引っ叩くかもしれないな。
バージルが手のひらで殴られる画を想像したら、おかしくてほんの少し笑った。
アリアは、「俺」のものだ。
これまでも、この先も。
「アリア…俺は、お前がほしい…」
時間がない。
真っ白な紙に墨を垂らすように、お前を「俺」で染めたい。
俺はかなり、わがままになり始めたようだ。
「バージル」にさえ嫉妬するとは。
もうすっかり寝入ってしまっているアリアの、艶やかな唇に、またひとつ口付ける。
ただ口と口を合わせるこの行為が、こんなにも幸福で崇高で情欲的だとは。
心からの感情が絡んでくると、現実は文章よりもずっと楽しい。
アリアの鼓動を聞きながら、俺は今度こそ瞳を閉じた。
「……」
「あ…V?」
突然の明るい日差しに、視界がちかちかする。
さっきから何度か温かい手で頭を撫でられていて、ゆっくり視線を上にやった。
「おはよ、V…時間的には、こんにちはかも?」
アリア。
彼女の微笑みが光に照らされて、まるで天使かのように錯覚する。
柔らかな頬に左手を伸ばしたところで、やっとお互いの体勢に気づく。
「すまない、アリア…重かっただろう」
アリアの胸元を枕にしたまま、一晩中上に重なっていたらしい。
急いで床に手をついて上半身を起こすと、彼女も俺に続いた。
「全然重くなかったよ。でも、グリフォンにはばっちり見られちゃった」
頬を染め少しだけ恥ずかしそうなアリアは、それでもにこにこと嬉しそうだ。
俺もアリアも、こんなに甘い朝は初めての経験なんだと、心が沸き立つ。
「見せつけてやろう。今グリフォンたちは…?」
「本当の意味でお客さんは来ないけど、店番してくれてる」
「そうか…まだ、2人きりだな」
アリアの肩に手をやって額と額を合わせれば、曇りのない瞳が俺のそれを見つめる。
耐えられなくなったのかアリアがくすりと微笑んで、俺もそれにつられて、それからまた見つめ合う。
「V…好き…どうしよう、それ以外言葉が見つからない」
「気にするな…時に、言葉は無力だ」
唇を近づけると、アリアは素直に目蓋を閉じる。
キスすることにも慣れてきたようで、それが俺がもたらしたものだと思うと、また幸福感で満たされた。
end.
俺はそんなことを思ったが、彼女は耐えられず欠伸をして右目を擦る。
「V…眠くなってきちゃった…」
「ああ…アリア。そうだな」
身体を優しく横たえてやりながら、俺も隣に寝転がってアリアの頭を撫で、瞳を細めた。
「おやすみ、俺の大切なひと」
そのまま目を閉じてしまうと思ったのに、何故か彼女はくすりと笑う。
何か変なことを言っただろうか。
「…V、王子様みたい」
「では、アリアはどこかの姫君か…」
童話の世界のように自分たちをなぞらえて、そんな幼い子どものような思考を、一緒になって楽しめるのが新鮮だ。
「おやすみ、私だけの王子様…」
「おやすみ、アリア」
そしてとうとう、アリアは眠りの世界に旅立った。
彼女が眠っているのをいいことに、規則正しく上下する双丘に、そっと頭を乗せる。
胸の鼓動を聞きながら1度目蓋を閉じた。
当たり前だが、アリアは生きている。
しっかりと、この脈打つ心臓を持って。
俺は形として心臓があるが、今止まってもおかしくないくらい脆弱だ。
ふと、もうひとりの「自分」であるユリゼンの姿を思い浮かべた。
あいつの心臓はさぞかし力強いだろう。
俺には力がなく、あれには心がない。
もし全部がうまく行き「バージル」に戻れたら、ユリゼンはアリアを気にいるだろうか。
無自覚かもしれないがプライドが高いところは、ユリゼンも好きそうだ。
そうしたらVとしての自分も、またアリアと出逢うことができる。
1ヶ月を越えられる。
バージルが、Vとしてユリゼンとしての記憶をそのままはっきりと覚えていなくとも、「心」はアリアを忘れない。
例えば何年もかかってもいい。
俺が、アリアを探し出す。
アリアは、その時どうするのだろう。
見た目も中身も違うから、きっと警戒する。
もしかしたら、引っ叩くかもしれないな。
バージルが手のひらで殴られる画を想像したら、おかしくてほんの少し笑った。
アリアは、「俺」のものだ。
これまでも、この先も。
「アリア…俺は、お前がほしい…」
時間がない。
真っ白な紙に墨を垂らすように、お前を「俺」で染めたい。
俺はかなり、わがままになり始めたようだ。
「バージル」にさえ嫉妬するとは。
もうすっかり寝入ってしまっているアリアの、艶やかな唇に、またひとつ口付ける。
ただ口と口を合わせるこの行為が、こんなにも幸福で崇高で情欲的だとは。
心からの感情が絡んでくると、現実は文章よりもずっと楽しい。
アリアの鼓動を聞きながら、俺は今度こそ瞳を閉じた。
「……」
「あ…V?」
突然の明るい日差しに、視界がちかちかする。
さっきから何度か温かい手で頭を撫でられていて、ゆっくり視線を上にやった。
「おはよ、V…時間的には、こんにちはかも?」
アリア。
彼女の微笑みが光に照らされて、まるで天使かのように錯覚する。
柔らかな頬に左手を伸ばしたところで、やっとお互いの体勢に気づく。
「すまない、アリア…重かっただろう」
アリアの胸元を枕にしたまま、一晩中上に重なっていたらしい。
急いで床に手をついて上半身を起こすと、彼女も俺に続いた。
「全然重くなかったよ。でも、グリフォンにはばっちり見られちゃった」
頬を染め少しだけ恥ずかしそうなアリアは、それでもにこにこと嬉しそうだ。
俺もアリアも、こんなに甘い朝は初めての経験なんだと、心が沸き立つ。
「見せつけてやろう。今グリフォンたちは…?」
「本当の意味でお客さんは来ないけど、店番してくれてる」
「そうか…まだ、2人きりだな」
アリアの肩に手をやって額と額を合わせれば、曇りのない瞳が俺のそれを見つめる。
耐えられなくなったのかアリアがくすりと微笑んで、俺もそれにつられて、それからまた見つめ合う。
「V…好き…どうしよう、それ以外言葉が見つからない」
「気にするな…時に、言葉は無力だ」
唇を近づけると、アリアは素直に目蓋を閉じる。
キスすることにも慣れてきたようで、それが俺がもたらしたものだと思うと、また幸福感で満たされた。
end.