Charlotte
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日の晩、エリはいつもより早く部屋に籠もった。
まだ眠る気はなかったが、あんな衝撃的な体験をした夜だ。
悪魔は悪魔としてだけではなく、人間の姿をしている場合もあることを学んだ。
そういえばダンテもバージルも、半分は悪魔の血が流れている。
妹として幼い頃から知っているし、酷いことをされた記憶は全くないので、あまり意識したことがなかった。
ベッドで横になってそう考えていたら、ノックの音が響き身を起こす。
「バージル」
エリが微笑んでみせれば、バージルはベッドの端に座る。
「大丈夫か?」
「うん、もう落ち着いたよ。それにダンテが助けてくれたから」
「…そうか」
わかってはいたし、そんな状況でないのもわかっているが、エリはダンテに絶対的な信頼を抱いている。
それは再会した時から明白だった。
「悪魔って人型にもなるんだね。びっくりしちゃったな…」
今日の強盗事件を思い出しながら呟く。
人間に混じっている悪魔は初めて見たんだろう。
エリは再び震えそうになる自身の肩を包み、バージルはそれを抱き締めたくなった。
だが、出し掛けた手は最後まで伸ばせない。
「しかし本当に…エリが無事で安心した。今回ばかりはダンテが一緒にいて良かったと思った」
それは素直な気持ちだった。
エリひとりだったら、あのまま犯人に連れ去られ殺されていたかもしれないと思うとぞっとする。
「ダンテはいつも私を助けてくれるんだよ。これまでダンテに助けられて生きてきたみたいなものなの」
エリはダンテの話題を振れば、にっこり微笑んだ。
その信頼感が滲み出るきらきらした表情を見ていると、胸の中からもやもやしたものが湧き出す。
エリの中で、俺はずっと死んだ存在だった。
ダンテとエリ。
たった2人の兄妹。
信頼感は強いに決まっている。
そんなことはわかっている。
わかって、いる。
頭で理解していても、心は勝手に反応していた。
「…ダンテばっかりだな」
「バージル…?」
バージルは呟いた自分の声に驚いた。
久しぶりにこんなに低く冷たい声を発した。
エリは眉を潜めて顔を覗き込んで来る。
「…ダンテのことが好きか?」
聞いてはいけない。
頭のどこかで警鐘が鳴る。
もしダンテと同じように、エリから異性としてダンテが好きだと言われたら?
それは自分の居場所がなくなると等しい。
愚かだ。
何故こんなことを怖がっているのか。
エリは真剣な眼差しで口を開く。
その先を想像して、意志に反して心臓が痛くなる。
「勿論好きだよ。だけど…」
エリが腕に手を回してぎゅっと抱き付いて来た。
「バージルのことも、好き」
2人とも好き。
それは家族思いのエリらしい解答だ。
だが、それはダンテの想いとはまた別のものだろう。
良かった。
何故かとても安心する。
まだエリは、恋心を知らない。
今から自分が入り込む余地は、十分にある。
エリが欲しい。
この胸に不意に現れるもやもやしたものを取り除けるのは、恐らくエリしかいない。
「ごめんなさい、バージル。怒らないで」
「…ああ、すまん」
不安げな妹に、薄く微笑んでみせる。
「今日もバージルのためにシャルロットを作ろうと材料を買いに行ったの」
「シャルロットを?」
「バージルに再会できたお祝いしたかったの」
そうか。
だから、ダンテと2人で出掛けていったのか。
自分のために。
バージルはやはり変わらず純粋で優しいエリに、心が温かくなるのを感じた。
エリが、愛しい。
自分のことを大切に思ってくれる、エリが。
「それは…嬉しい、な」
「でも、結局作れなくてごめんね」
「いいんだ、そんなことは」
気持ちだけで、こんなに幸せになれる。
強盗事件で大変だったのはエリなのに、今心満たされて穏やかになっているのは自分で、苦笑する。
「邪魔したな」
バージルがエリの頭を撫でると、彼女は目を細め微笑んで返した。
柔らかい黒髪が指先に絡む。
「ううん、心配してくれてありがとう。バージル」
「おやすみ、エリ」
エリの前髪を梳き、額にそっと口付ける。
愛しい妹が幸せな夢を見られるよう。
唇を離すと、エリが上目遣いでこちらの様子を伺っていて、自然と目と目が合った。
みるみるうちに頬が赤くなり、はっとしたのか目が泳いだ。
「…お、おやすみ…!」
可愛い。
もっとからかいたくなる。
小さな悪戯心が芽生え、今度は赤くなった頬にちゅっと音を立ててキスし囁く。
「ああ、おやすみ」
そのまますぐに部屋を出た。
エリの反応が気になったが、今日はこれくらいで抑えておく。
しかし。だめだ。
止められない。
俺もダンテと変わりない。
エリが好きだ。
妹としても異性としても、エリを愛している。
自分の気持ちを認めることに決め、バージルは隣の部屋のエリのことを想った。
次の日の朝、久しぶりに事務所の電話が鳴る。
「Devil May Cry?」
取ったのはバージルだった。
ダンテが決めた合い言葉を作業的に口に乗せる。
話しながらメモを取っているところを見ると、「当たり」らしい。
とりあえず仕事に参加する気がないようなバージルは、電話の話だけはやけに手際良く進めている。
仕事に行くのは俺だろと、ダンテは受話器を置いたバージルに視線をやった。
「ダンテ、喜べ。仕事だ」
「マジかよ!?」
「随分遠方だったな。この間の強盗のニュースが宣伝になったかもしれん」
「遠方!?」
「ここから2,000キロくらいか。せいぜい励め。留守は預かる」
「何勝手に決めてんだよあんた!」
仕事は入ったのは嬉しいが、勝手に決めて押し付けてくる兄に、ダンテは声を荒げる。
「行くのか行かないのか」
「行くぜ!行くけどな…」
腕を組んで無駄に偉そうなバージル。
随分丸くなったようだが、やっぱりこういうところは変わっていない。
今回の依頼は泊まりになりそうだ。
その間はエリに会えないし、エリのうまい飯は食えない。
しかももし万が一のことを考えれば、エリが攫われる可能性もあるのだ。
ダンテが溜め息つき同時に焦りを感じていると、バージルはにやりと口角を吊り上げた。
「…あんたさ、俺がいない間エリに変なことしないよな?」
「さぁ、どうだかな」
あ、やばい。
どちらにせよ俺がいない間、エリとバージルは2人っきりで、バージルのやりたい放題好き勝手できる訳だ。
「俺に散々言っといて自分はエリに手出してもいいのかよ…!?」
ダンテが掴み掛かると、バージルはまた勝ち誇ったように笑みを深める。
「俺もエリが好きだ。俺たちは兄妹だが、血が繋がらないからいいだろう?」
「…開き直ったな」
「ふん、とにかくお前は依頼に行ってこい」
「エリに妙なことしたらぶっ飛ばすからな!」
2人が組み合った状態のまま言い争いをしていれば、エリがそれを見つけて走って来た。
「2人とも!なに喧嘩してるの!」
すぐさま2人の間に割って入る。
エリを巡って争っているとは言えず、ダンテはわざとらしくバージルの肩を組んで笑って見せた。
「大丈夫だぜ、エリ。喧嘩なんかしてないから安心しろ」
「…そうなの?」
「ああ、ダンテとは意外に仲がいいんだ」
口裏を合わせるバージル。
しかしその瞳は言っていた。
ダンテの留守の間が楽しみだ、と。
end.
まだ眠る気はなかったが、あんな衝撃的な体験をした夜だ。
悪魔は悪魔としてだけではなく、人間の姿をしている場合もあることを学んだ。
そういえばダンテもバージルも、半分は悪魔の血が流れている。
妹として幼い頃から知っているし、酷いことをされた記憶は全くないので、あまり意識したことがなかった。
ベッドで横になってそう考えていたら、ノックの音が響き身を起こす。
「バージル」
エリが微笑んでみせれば、バージルはベッドの端に座る。
「大丈夫か?」
「うん、もう落ち着いたよ。それにダンテが助けてくれたから」
「…そうか」
わかってはいたし、そんな状況でないのもわかっているが、エリはダンテに絶対的な信頼を抱いている。
それは再会した時から明白だった。
「悪魔って人型にもなるんだね。びっくりしちゃったな…」
今日の強盗事件を思い出しながら呟く。
人間に混じっている悪魔は初めて見たんだろう。
エリは再び震えそうになる自身の肩を包み、バージルはそれを抱き締めたくなった。
だが、出し掛けた手は最後まで伸ばせない。
「しかし本当に…エリが無事で安心した。今回ばかりはダンテが一緒にいて良かったと思った」
それは素直な気持ちだった。
エリひとりだったら、あのまま犯人に連れ去られ殺されていたかもしれないと思うとぞっとする。
「ダンテはいつも私を助けてくれるんだよ。これまでダンテに助けられて生きてきたみたいなものなの」
エリはダンテの話題を振れば、にっこり微笑んだ。
その信頼感が滲み出るきらきらした表情を見ていると、胸の中からもやもやしたものが湧き出す。
エリの中で、俺はずっと死んだ存在だった。
ダンテとエリ。
たった2人の兄妹。
信頼感は強いに決まっている。
そんなことはわかっている。
わかって、いる。
頭で理解していても、心は勝手に反応していた。
「…ダンテばっかりだな」
「バージル…?」
バージルは呟いた自分の声に驚いた。
久しぶりにこんなに低く冷たい声を発した。
エリは眉を潜めて顔を覗き込んで来る。
「…ダンテのことが好きか?」
聞いてはいけない。
頭のどこかで警鐘が鳴る。
もしダンテと同じように、エリから異性としてダンテが好きだと言われたら?
それは自分の居場所がなくなると等しい。
愚かだ。
何故こんなことを怖がっているのか。
エリは真剣な眼差しで口を開く。
その先を想像して、意志に反して心臓が痛くなる。
「勿論好きだよ。だけど…」
エリが腕に手を回してぎゅっと抱き付いて来た。
「バージルのことも、好き」
2人とも好き。
それは家族思いのエリらしい解答だ。
だが、それはダンテの想いとはまた別のものだろう。
良かった。
何故かとても安心する。
まだエリは、恋心を知らない。
今から自分が入り込む余地は、十分にある。
エリが欲しい。
この胸に不意に現れるもやもやしたものを取り除けるのは、恐らくエリしかいない。
「ごめんなさい、バージル。怒らないで」
「…ああ、すまん」
不安げな妹に、薄く微笑んでみせる。
「今日もバージルのためにシャルロットを作ろうと材料を買いに行ったの」
「シャルロットを?」
「バージルに再会できたお祝いしたかったの」
そうか。
だから、ダンテと2人で出掛けていったのか。
自分のために。
バージルはやはり変わらず純粋で優しいエリに、心が温かくなるのを感じた。
エリが、愛しい。
自分のことを大切に思ってくれる、エリが。
「それは…嬉しい、な」
「でも、結局作れなくてごめんね」
「いいんだ、そんなことは」
気持ちだけで、こんなに幸せになれる。
強盗事件で大変だったのはエリなのに、今心満たされて穏やかになっているのは自分で、苦笑する。
「邪魔したな」
バージルがエリの頭を撫でると、彼女は目を細め微笑んで返した。
柔らかい黒髪が指先に絡む。
「ううん、心配してくれてありがとう。バージル」
「おやすみ、エリ」
エリの前髪を梳き、額にそっと口付ける。
愛しい妹が幸せな夢を見られるよう。
唇を離すと、エリが上目遣いでこちらの様子を伺っていて、自然と目と目が合った。
みるみるうちに頬が赤くなり、はっとしたのか目が泳いだ。
「…お、おやすみ…!」
可愛い。
もっとからかいたくなる。
小さな悪戯心が芽生え、今度は赤くなった頬にちゅっと音を立ててキスし囁く。
「ああ、おやすみ」
そのまますぐに部屋を出た。
エリの反応が気になったが、今日はこれくらいで抑えておく。
しかし。だめだ。
止められない。
俺もダンテと変わりない。
エリが好きだ。
妹としても異性としても、エリを愛している。
自分の気持ちを認めることに決め、バージルは隣の部屋のエリのことを想った。
次の日の朝、久しぶりに事務所の電話が鳴る。
「Devil May Cry?」
取ったのはバージルだった。
ダンテが決めた合い言葉を作業的に口に乗せる。
話しながらメモを取っているところを見ると、「当たり」らしい。
とりあえず仕事に参加する気がないようなバージルは、電話の話だけはやけに手際良く進めている。
仕事に行くのは俺だろと、ダンテは受話器を置いたバージルに視線をやった。
「ダンテ、喜べ。仕事だ」
「マジかよ!?」
「随分遠方だったな。この間の強盗のニュースが宣伝になったかもしれん」
「遠方!?」
「ここから2,000キロくらいか。せいぜい励め。留守は預かる」
「何勝手に決めてんだよあんた!」
仕事は入ったのは嬉しいが、勝手に決めて押し付けてくる兄に、ダンテは声を荒げる。
「行くのか行かないのか」
「行くぜ!行くけどな…」
腕を組んで無駄に偉そうなバージル。
随分丸くなったようだが、やっぱりこういうところは変わっていない。
今回の依頼は泊まりになりそうだ。
その間はエリに会えないし、エリのうまい飯は食えない。
しかももし万が一のことを考えれば、エリが攫われる可能性もあるのだ。
ダンテが溜め息つき同時に焦りを感じていると、バージルはにやりと口角を吊り上げた。
「…あんたさ、俺がいない間エリに変なことしないよな?」
「さぁ、どうだかな」
あ、やばい。
どちらにせよ俺がいない間、エリとバージルは2人っきりで、バージルのやりたい放題好き勝手できる訳だ。
「俺に散々言っといて自分はエリに手出してもいいのかよ…!?」
ダンテが掴み掛かると、バージルはまた勝ち誇ったように笑みを深める。
「俺もエリが好きだ。俺たちは兄妹だが、血が繋がらないからいいだろう?」
「…開き直ったな」
「ふん、とにかくお前は依頼に行ってこい」
「エリに妙なことしたらぶっ飛ばすからな!」
2人が組み合った状態のまま言い争いをしていれば、エリがそれを見つけて走って来た。
「2人とも!なに喧嘩してるの!」
すぐさま2人の間に割って入る。
エリを巡って争っているとは言えず、ダンテはわざとらしくバージルの肩を組んで笑って見せた。
「大丈夫だぜ、エリ。喧嘩なんかしてないから安心しろ」
「…そうなの?」
「ああ、ダンテとは意外に仲がいいんだ」
口裏を合わせるバージル。
しかしその瞳は言っていた。
ダンテの留守の間が楽しみだ、と。
end.