【第2章】目に見えないもの
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13日目の夜。
私たちは早めに夕食を済ませて、書斎の一角に、Vと一緒にブランケットに包まって座っていた。
隣にVがいて、視線をやれば綺麗な緑色の瞳を向けてくれる。
すっかりVのパーソナルスペースに踏み込むのを許された私は、にやにやが止まらなかった。
「アリア、なんかすっげー嬉しそうだなァ」
「えっへへー!Vに本読んでもらえるんだもん!」
私とVの周りを囲む形で、グリフォンもシャドウもそれぞれ身体を丸めている。
考えようによっては、Vの音読会が始まるような図にわくわくもしてくる。
「ていうかイチャつくのやめろとは言わねェけど、普通に距離近ェな…」
私とVは、いっそのこと肩が触れ合っている。
それが嬉しさいっぱいな私には、グリフォンの指摘は全く何も思わない。
口出ししてくるのを、Vは鋭い眼光で、でも口元には笑みを浮かべて切り返す。
「何か問題か?」
相変わらずの王様と従者なやりとりに、グリフォンの声は小さくなる。
「…いや、何でもないデス…続けてクダサイ。俺ら飽きたら適当に寝るから!」
「おやすみ、グリフォン!」
「アリア、最近Vがいると俺に冷たくないか?」
「え、そうかな?ごめん!」
特に他意はない。
ただVと二人っきりっていうシチュエーションは、皆とわいわいやっている時とはまた別だから…。
気をとりなおし、Vがいつも大切に持っている本を1枚ずつ丁寧にめくっていった。
結構厚みがあるから、Vの選択したものを静かに口に乗せていく。
鮮やかな色彩のイラスト付きで、そこを覗き込みながらVの声に耳を傾けていた。
私はVのことを知りたい気持ちで溢れているので、全然眠くなかったけれど、グリフォンとシャドウは最初の宣言通りに早々に寝息を立てていた。
Vがまた一節読み終えて、そこで思わず呟く。
「む、難しくて、全くわからない…」
一生懸命頭を全部使って聞いていたのに、このウィリアムブレイクの詩はなんというか、幻想的過ぎてこんがらがってしまう。
「そうか…」
「待ってV!そんな顔しないで…今までだと、えっと」
私の反応を見てVがあからさまにしゅんとしたので、聞かせてもらった中で印象的なものを、Vに伝えようと思った。
全部はわからないけど、ちゃんと気に入ったものはある。
大切な本を傷つけないようにページを戻って、3つの詩が並ぶ、1番下を指差してVに微笑みかける。
「この、ゆりの詩が良かった。デイリリーって、ユリ科だし」
「ゆりの花」というタイトルのそれ。
棘があるバラや大きな声で鳴く羊と対比させて、ゆりをただただ褒めている、短めの詩だった。
他のと比べて、かなりわかりやすい。
「…ああ、アリアにぴったりだな」
「そ、そう?」
Vは確かに口角を上げてにっこりと笑って、すごく安直に選んでしまった自分が恥ずかしくなってくる。
同じ詩でも、Vが考えているのと私のは、きっと違うんだろうな。
「ゆりは純愛の象徴で、咲いているだけで美しい」
Vは瞳に私を映したままそんなことを言うから、ゆりのことを褒めているのに、私のことを言っているようで頬が熱くなる。
Vは、デイリリーは私の花だって言ってくれたし…。
私がVに酔ってしまう前に、Vが改めて本に視線を戻しページをめくった。
「そうだ、愛を描いた詩なら、これもある」
Vの角張って、でもすらりとした指が示したのは、牛や羊そして川辺の挿絵が載っている詩。
読んでいくと、愛という言葉は何回か出てくるのに、何故か牛に踏まれる土や川を流れる石の話も書いてある。
「土?石…?」
「アリア、これは例え話だ」
Vの助言をもらって、また最初から読んでみた。
例え話ってことは、土と石、それぞれが何かを表しているってことで…。
この「土くれと小石」は「ゆりの花」と比べて長くて、2段構成になっている。
「…最初と最後のところは何となく、わかる。最初に書かれてる愛は、自分よりもひとのことを考えるのが愛って言ってる」
そしてこの愛は、牛に踏まれる土くれが語っているらしい。
「最後の部分は同じ愛なのに、自分の欲望を満たすために愛があるって言ってるみたい」
後半は川に流れる小石が考えた、愛が書かれている。
ウィリアムブレイクもVも、かなりの「詩人」だ…。
「なんで土と小石にしたんだろう」
「想像してみろ。牛に踏み付けられても耐える土と、川の流れに身を任せて踊る小石を」
ものすごくストレートな疑問を口にしたら、またVのアドバイスが与えられた。
土、小石、それぞれになった気分で、目を閉じて想像を膨らませる。
「…うーん。なんとなく、わかるようなわからないような」
とにかく、この詩は無償の愛と利己的な愛、両方を書いているんだろう。
私もVと出逢って、最初はVのことを知りたいばっかりで、Vの気持ちとか全く考えてなかったこともあった。
今は、残された時間でできるだけVのためになることをしたい。
ここで再びまぶたを開き、隣のVの瞳を見つめる。
「…私はできれば「土」になりたいな。自分よりも、Vや皆のことを考えたい」
「…とても、お前らしい」
「ねぇ、Vはどう?」
自分でそうなりたいと思っていることを、Vに肯定してもらえて胸がじんわりするのがわかる。
こうして、お互いの考えを穏やかに話せるのっていいな。
とっても楽しい。
「…俺は、どちらともだな。両方、思うところがある」
私の問いに、Vは何故か視線を反らしてしまって、ひとりで舞い上がっていた気持ちが少し落ち着いた。
「…ここに俺が、いまだに留まっていること自体がそうだろう」
Vの言葉に、私に何も告げずに出て行ってしまったVの姿を思い出す。
あの時は辛かったけれど、結果的にV自身が私のところに戻ってくれたのが、本当に嬉しかった。
Vはまた私の方に視線をやって、その緑色の瞳は、夜の暗闇の中で漆黒にも思える。
…このまま吸い込まれそう。
「アリア…ここにいるのは、お前に死んでほしくないからと、俺自身がお前を恋しいからだ」
2段構成の「土くれと小石」のように、Vの中で、私に対する無償の愛と利己的な愛が混ざり合っている。
そんな気がする。
「…Vの「愛」は深いんだね」
「そうだろうか…わがままにも見える」
「V…それが私は、とっても嬉しい。わがままなんかじゃない」
私という存在がVにそれだけ影響を与えられているのが堪らなくて、くっついていたVの肩に少しだけしなだれかかった。
「大好き、V」
「アリア」
名前を呼ばれ、Vの腕が不意に私の肩に回ってくる。
そしてそのまま細い指が私の頬を撫で、宝石みたいな瞳と、静かな息遣いを直で感じる。
「…っ…?」
近い。
ものすごく近い距離に、Vの顔が…!
遅れて状況を把握して、だけど視線は逸せない。
もっと、見ていたい。
「V…」
「月しか見ていない。今俺たちの逢瀬を」
「…うん」
私がそっとまぶたを閉じると、Vのくちびるが優しく降りてくる。
触れるか触れないかのキスは、まるで絵本の世界に入ってしまったみたいだった。
end.
私たちは早めに夕食を済ませて、書斎の一角に、Vと一緒にブランケットに包まって座っていた。
隣にVがいて、視線をやれば綺麗な緑色の瞳を向けてくれる。
すっかりVのパーソナルスペースに踏み込むのを許された私は、にやにやが止まらなかった。
「アリア、なんかすっげー嬉しそうだなァ」
「えっへへー!Vに本読んでもらえるんだもん!」
私とVの周りを囲む形で、グリフォンもシャドウもそれぞれ身体を丸めている。
考えようによっては、Vの音読会が始まるような図にわくわくもしてくる。
「ていうかイチャつくのやめろとは言わねェけど、普通に距離近ェな…」
私とVは、いっそのこと肩が触れ合っている。
それが嬉しさいっぱいな私には、グリフォンの指摘は全く何も思わない。
口出ししてくるのを、Vは鋭い眼光で、でも口元には笑みを浮かべて切り返す。
「何か問題か?」
相変わらずの王様と従者なやりとりに、グリフォンの声は小さくなる。
「…いや、何でもないデス…続けてクダサイ。俺ら飽きたら適当に寝るから!」
「おやすみ、グリフォン!」
「アリア、最近Vがいると俺に冷たくないか?」
「え、そうかな?ごめん!」
特に他意はない。
ただVと二人っきりっていうシチュエーションは、皆とわいわいやっている時とはまた別だから…。
気をとりなおし、Vがいつも大切に持っている本を1枚ずつ丁寧にめくっていった。
結構厚みがあるから、Vの選択したものを静かに口に乗せていく。
鮮やかな色彩のイラスト付きで、そこを覗き込みながらVの声に耳を傾けていた。
私はVのことを知りたい気持ちで溢れているので、全然眠くなかったけれど、グリフォンとシャドウは最初の宣言通りに早々に寝息を立てていた。
Vがまた一節読み終えて、そこで思わず呟く。
「む、難しくて、全くわからない…」
一生懸命頭を全部使って聞いていたのに、このウィリアムブレイクの詩はなんというか、幻想的過ぎてこんがらがってしまう。
「そうか…」
「待ってV!そんな顔しないで…今までだと、えっと」
私の反応を見てVがあからさまにしゅんとしたので、聞かせてもらった中で印象的なものを、Vに伝えようと思った。
全部はわからないけど、ちゃんと気に入ったものはある。
大切な本を傷つけないようにページを戻って、3つの詩が並ぶ、1番下を指差してVに微笑みかける。
「この、ゆりの詩が良かった。デイリリーって、ユリ科だし」
「ゆりの花」というタイトルのそれ。
棘があるバラや大きな声で鳴く羊と対比させて、ゆりをただただ褒めている、短めの詩だった。
他のと比べて、かなりわかりやすい。
「…ああ、アリアにぴったりだな」
「そ、そう?」
Vは確かに口角を上げてにっこりと笑って、すごく安直に選んでしまった自分が恥ずかしくなってくる。
同じ詩でも、Vが考えているのと私のは、きっと違うんだろうな。
「ゆりは純愛の象徴で、咲いているだけで美しい」
Vは瞳に私を映したままそんなことを言うから、ゆりのことを褒めているのに、私のことを言っているようで頬が熱くなる。
Vは、デイリリーは私の花だって言ってくれたし…。
私がVに酔ってしまう前に、Vが改めて本に視線を戻しページをめくった。
「そうだ、愛を描いた詩なら、これもある」
Vの角張って、でもすらりとした指が示したのは、牛や羊そして川辺の挿絵が載っている詩。
読んでいくと、愛という言葉は何回か出てくるのに、何故か牛に踏まれる土や川を流れる石の話も書いてある。
「土?石…?」
「アリア、これは例え話だ」
Vの助言をもらって、また最初から読んでみた。
例え話ってことは、土と石、それぞれが何かを表しているってことで…。
この「土くれと小石」は「ゆりの花」と比べて長くて、2段構成になっている。
「…最初と最後のところは何となく、わかる。最初に書かれてる愛は、自分よりもひとのことを考えるのが愛って言ってる」
そしてこの愛は、牛に踏まれる土くれが語っているらしい。
「最後の部分は同じ愛なのに、自分の欲望を満たすために愛があるって言ってるみたい」
後半は川に流れる小石が考えた、愛が書かれている。
ウィリアムブレイクもVも、かなりの「詩人」だ…。
「なんで土と小石にしたんだろう」
「想像してみろ。牛に踏み付けられても耐える土と、川の流れに身を任せて踊る小石を」
ものすごくストレートな疑問を口にしたら、またVのアドバイスが与えられた。
土、小石、それぞれになった気分で、目を閉じて想像を膨らませる。
「…うーん。なんとなく、わかるようなわからないような」
とにかく、この詩は無償の愛と利己的な愛、両方を書いているんだろう。
私もVと出逢って、最初はVのことを知りたいばっかりで、Vの気持ちとか全く考えてなかったこともあった。
今は、残された時間でできるだけVのためになることをしたい。
ここで再びまぶたを開き、隣のVの瞳を見つめる。
「…私はできれば「土」になりたいな。自分よりも、Vや皆のことを考えたい」
「…とても、お前らしい」
「ねぇ、Vはどう?」
自分でそうなりたいと思っていることを、Vに肯定してもらえて胸がじんわりするのがわかる。
こうして、お互いの考えを穏やかに話せるのっていいな。
とっても楽しい。
「…俺は、どちらともだな。両方、思うところがある」
私の問いに、Vは何故か視線を反らしてしまって、ひとりで舞い上がっていた気持ちが少し落ち着いた。
「…ここに俺が、いまだに留まっていること自体がそうだろう」
Vの言葉に、私に何も告げずに出て行ってしまったVの姿を思い出す。
あの時は辛かったけれど、結果的にV自身が私のところに戻ってくれたのが、本当に嬉しかった。
Vはまた私の方に視線をやって、その緑色の瞳は、夜の暗闇の中で漆黒にも思える。
…このまま吸い込まれそう。
「アリア…ここにいるのは、お前に死んでほしくないからと、俺自身がお前を恋しいからだ」
2段構成の「土くれと小石」のように、Vの中で、私に対する無償の愛と利己的な愛が混ざり合っている。
そんな気がする。
「…Vの「愛」は深いんだね」
「そうだろうか…わがままにも見える」
「V…それが私は、とっても嬉しい。わがままなんかじゃない」
私という存在がVにそれだけ影響を与えられているのが堪らなくて、くっついていたVの肩に少しだけしなだれかかった。
「大好き、V」
「アリア」
名前を呼ばれ、Vの腕が不意に私の肩に回ってくる。
そしてそのまま細い指が私の頬を撫で、宝石みたいな瞳と、静かな息遣いを直で感じる。
「…っ…?」
近い。
ものすごく近い距離に、Vの顔が…!
遅れて状況を把握して、だけど視線は逸せない。
もっと、見ていたい。
「V…」
「月しか見ていない。今俺たちの逢瀬を」
「…うん」
私がそっとまぶたを閉じると、Vのくちびるが優しく降りてくる。
触れるか触れないかのキスは、まるで絵本の世界に入ってしまったみたいだった。
end.