【第2章】目に見えないもの
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11日目。
Vはいつも通りに外に偵察に出て行った。
でも、私は店内にひとりじゃない。
私に出来るだけ危険がないように、形上Vがグリフォンも一緒にお留守番するように命じてくれた。
机の上にどんと構えたグリフォンは、目の前に座った私をにやにやと見つめている。
「アリア!昨日のアレ、カッコよかったぜ」
「ありがと、グリフォン」
昨日のアレって言うのは勿論、私がVたち皆を永遠に忘れないと告げたこと。
あんなに、自分の意思で冷静にはっきり言ったのは、初めてのことかもしれない。
「でもよ。なんか、アリアもVと契約したみたいになったよなァ」
そう言われると、そんな気もしてくる。
確かに、Vに心から認められたような雰囲気は、自分でも感じた。
グリフォンたちも契約する時は、やっぱり色々あったのかなと、改めてその存在が気になり始める。
「そういえば、グリフォンたちは何なの?Vの使い魔って?」
グリフォンは鳥。
シャドウは黒豹。
ナイトメアは、ちょっとよくわからない…。
けど、ただの動物じゃないのは確かだ。
「俺たちは悪魔だ。でも今はなんつーの、悪夢みたいなもんよ」
グリフォンももう私にためらわずに、きっぱりと告げる。
悪魔って、私を殺そうとしたり街の人たちを殺した、あれ。
グリフォンたちは私に良くしてくれたから、とても同じ悪魔には思えない。
しかも今は「悪夢」って?
こうして実態があるのに?
このヒントだけじゃわからない。
「…悪夢ねぇ。ただのお喋りな鳥に見えるな」
頬杖をついてまじまじとグリフォンを見つめてみても、彼が私に対する殺意がないからか全く怖くない。
むしろ今では私の大切な友だちだ。
「それ、褒めてるゥ?」
「褒めてる、褒めてる」
グリフォンが言葉を話せて、本当に良かった。
私はVが心を開いてくれるまで、グリフォンに助けられたようなものだから。
「Vは俺たちの宿主。Vがいなくなれば消える」
「じゃあ宿主がいたら、グリフォンたちは消えないってこと?」
私の思考が正しいなら、もし万が一本当にVが消えたとしても、代わりの者がいたら他の皆は救えるという仮説が成り立つ。
グリフォンは私を見つめたまま、やや遅れて瞳を大きく開いた。
「……エ?ちょっと待て。アリア、もしかして」
「そのまさか。私が宿主になるよ」
にっこり笑って切り出せば、珍しくグリフォンの声は張り上げたそれじゃなく小さなものになる。
「マジで言ってンの?俺たち、イイ記憶だけじゃねェし…それに、本当のただの人間とそーゆーの、したことねェ」
そういうっていうのは、契約のことだろうか。
じゃあ、Vはただの人間じゃないってことになる…。
昨日Vが言っていた「俺という概念」っていうのも、正直気掛かりだけど…。
とりあえず、それは置いておこう。
とにかくグリフォンたちは、私にとっては恐怖でも悪夢でも全然ない。
「私の目に映る皆は、優しいよ。だからきっと大丈夫。可能性があればやってみよう。グリフォン」
「アリア…」
グリフォンは視線を落として、しばらく考えている様子だった。
知識がない私の提案は、彼からしたら簡単に言いやがってって感じなのかもしれない。
「…わかった。そうなった時、やってみる…アリアの身体に負荷がかからねェようにな」
そうか。
グリフォンは、私のことを考えていてくれたんだ。
確かに改めて考えれば、ただの人間に悪魔が3体も入ってくるって、全然想像できないことだ。
映画とかしか見たことない。
しかもそれらは、だいたい悪い感じにことが運ぶ。
それでも、グリフォンたちが消えない可能性を試さないことは私にはできなくて、グリフォンの頬にそっと触れた。
「…アリア。お前は本当の意味で、俺たちのメシアになるのかもな」
救世主、か。
初めてグリフォンに呼ばれた時は大げさだなと思ったけど、そうなれるなら、なりたい。
私に希望をくれた皆に、そのお返しをしたい。
ちょうどその時今日は早めにお店のドアが開き、瞬間的に椅子から立ち上がって駆け寄った。
「おかえりなさい!V!」
「ただいま、アリア」
シャドウを連れたVが帰宅し、私の姿をしっかりその瞳に映して微笑んでくれる。
シャドウも、私に身体を擦り付けて来てくれる。
こんな何気ないことがものすごく嬉しい。
私より少し遅れて、グリフォンが翼をはためかせて隣にやってきた。
「よー、大将!姫はきっちりお守りしました」
「ご苦労」
「…上からなのは相変わらずネ」
王様と従者みたいなやりとりに笑っていたら、Vは杖を持っていない方の腕を私に差し出して口角を上げる。
「アリア、今日は雲ひとつない快晴だ。外に出てみないか」
「うん、是非行きたい!」
身を乗り出して即答した。
Vからそんな提案をしてくれるなんて、素敵過ぎる。
今までどこか一線引かれていたのが、嘘みたい。
Vが私の手を取って、その手を繋ぐ単純な行為が私の心臓をときめかせる。
「こっちだ」
「え?こっち?」
歩き出したのは、お店のドアから逆の方向。
てっきりお店の外に出て行くのかと思っていたから、思わず声を上げる。
「待てよ、俺も行くー!」
グリフォンもシャドウも、廊下を歩く私たちの後を付いて来た。
そして、さすがに自分の住んでいる場所なので、Vがどこに向かっているかはわかった。
寝室だ。
黄色のデイリリーが咲き乱れる、庭がある。
「外」って、そういう意味だったんだ。
到着して、ベッドの横の大きな窓の縁に皆で並んで立つ。
「…この窓から出たことは?」
Vが改めて、私の顔を覗き込む。
太陽の光を受けて、Vの緑色の瞳がきらきら輝き、金色にも見える。
吸い込まれそうになるけど、質問に答えようときちんと口を開く。
「ない。ずっと、見てただけ」
「出よう。俺も、こうやって外で過ごすのは久しぶりだ」
Vはどこか子どもみたいに、いたずらっぽく微笑んだ。
こんな無邪気な一面もあるんだなぁ。
私が大きく頷いた時、同じように隣にいたグリフォンが、ひとあし早く黄色いじゅうたんに飛び込んで行く。
「じゃあ俺一番乗りなァ!猫ちゃんも来いよ!」
「あっ待って、グリフォン、シャドウ!」
シャドウも後を追って、私たちは言い出しっぺなのに完全に取り残された。
2人はデイリリーの咲き乱れる中を、追いかけっこしている。
「…行こう、俺たちも」
Vの再びの呼び掛けに、Vと握った手に力を込めた。
そしてお互いに、窓の外と向かい合って利き脚を上げる。
「せーの…!」
Vと一緒に同時に、裏庭の土を踏みしめた。
1歩ずつ、デイリリーを傷付けないように歩いていく。
窓の外から見るそれとはまた違って、周り中取り囲む黄色の世界は、現実じゃないくらいに綺麗…。
そこに私が立っている。
Vと一緒に。
「デイリリーは、1日しか保たないんだったな」
Vが不意に立ち止まり、でも私じゃなく、デイリリーを眺めながら呟いた。
いつだか、私が言っていたのをVは覚えていたみたいだ。
「…でもV、明日には明日の花が咲く。たくさんたくさん」
1日しか保たないけれど、1本の花茎に多くの花を咲かせ何本も立ち上がるから、長く楽しめる。
だから枯れてしまっても、哀しくなったりはしなかった。
「そうか…なら、寂しくならない」
私の台詞を受けて、Vも私と同じような気持ちを抱いてくれたみたい。
ほぼ同時に顔を合わせると、瞳を細めて微笑んだ。
「私なんだか…今改めて、この花が好きになった」
「…理由を聞かせてくれ。アリアの、言葉で」
今まで何かを好きになった理由を、しっかりと考えたこと、聞かれたことはなかった。
Vは、それを聞いてくれる。
興味を持ってくれる。
「そうだなぁ…昨日の私の宣言に関係してる」
私は自分でも言葉を選びながら、ゆっくりとVに話し始めた。
デイリリーは1日しか保たない。
だけど、その分たくさん咲くから切なくない。
私たちの関係は、1ヶ月しかない。
1日1日が大切で、そして、1日1日が確実に終わっていく。
でも、その分楽しい思い出がたくさん積もっていくから。
だからきっと、「その時」が来ても切なくない。
デイリリーは、今の私たちとどこか重なって見える。
私の目には。
私の心には。
全て話し終えると、優しく微笑むVが私の頬に触れてくれる。
「そうか…デイリリーは、今、改めてお前のものになったな」
「私の、もの…?」
Vが言う意味がわからずに、私はそのまま繰り返す。
「デイリリーがお前の中で、確かな意味を持って息づいた。それは、お前にしか見えない花だ」
デイリリーは多くの人に等しく見える筈なのに、見え方は人それぞれ違うと、Vは言う。
それは、私が自分の考えと想いを込めて、デイリリーを見つめたから。
「そうして…俺はお前の言葉を聞いたから、限りなく近い形で、お前の花が見える。俺にとって、デイリリーはアリアの花だ」
Vと私が見ているデイリリーは皆と同じだけど、同じじゃない。
今私たちは、目に見えない2人だけの世界に、いる。
「なんか、それ…すごくいいね。すごく、嬉しい」
「良かった…俺も、こうして誰かに説明したのは初めてだ」
自然と顔が綻んで、Vが頬に触れたまま私に1歩近づいた。
自分のおでこにVのそれが近づきそうになって、ドキドキするのに耐え切れずに、また口を開いた。
「…Vのお気に入りの本も、そんな感じ?」
「ああ。直接目に見えないが、確かにそこに情景が見えたりする」
Vの動きが止まる。
それが良かったと思うし惜しいなと思うし、恋心って大変だ。
だけど、そう。
私は今日新しく、Vの「世界」を知ることができた。
それに私も、デイリリーを新しい見方で見ることができた。
「…Vにはたくさん、見えないものが見えるんだ」
「アリアにも見える筈だ、きっと」
いいな。
私もVと同じように、色々なものを見てみたい。
私にも見えると、彼は信じてくれる。
「少し話し過ぎたな…こんなことは子どもの頃以来で…」
唐突に視線を外したVが申し訳なさそうに呟くから、今度は逆に私からVに縋り付いた。
「いいよ!私はVが、すごく純粋で可愛らしい人だなって思って、嬉しい」
「そうか…恐らく、お前の前だからこそ」
Vはまたさっきと同じに、私に微笑んでくれる。
「忘れていたものを、また思い出した気がする…」
end.
Vはいつも通りに外に偵察に出て行った。
でも、私は店内にひとりじゃない。
私に出来るだけ危険がないように、形上Vがグリフォンも一緒にお留守番するように命じてくれた。
机の上にどんと構えたグリフォンは、目の前に座った私をにやにやと見つめている。
「アリア!昨日のアレ、カッコよかったぜ」
「ありがと、グリフォン」
昨日のアレって言うのは勿論、私がVたち皆を永遠に忘れないと告げたこと。
あんなに、自分の意思で冷静にはっきり言ったのは、初めてのことかもしれない。
「でもよ。なんか、アリアもVと契約したみたいになったよなァ」
そう言われると、そんな気もしてくる。
確かに、Vに心から認められたような雰囲気は、自分でも感じた。
グリフォンたちも契約する時は、やっぱり色々あったのかなと、改めてその存在が気になり始める。
「そういえば、グリフォンたちは何なの?Vの使い魔って?」
グリフォンは鳥。
シャドウは黒豹。
ナイトメアは、ちょっとよくわからない…。
けど、ただの動物じゃないのは確かだ。
「俺たちは悪魔だ。でも今はなんつーの、悪夢みたいなもんよ」
グリフォンももう私にためらわずに、きっぱりと告げる。
悪魔って、私を殺そうとしたり街の人たちを殺した、あれ。
グリフォンたちは私に良くしてくれたから、とても同じ悪魔には思えない。
しかも今は「悪夢」って?
こうして実態があるのに?
このヒントだけじゃわからない。
「…悪夢ねぇ。ただのお喋りな鳥に見えるな」
頬杖をついてまじまじとグリフォンを見つめてみても、彼が私に対する殺意がないからか全く怖くない。
むしろ今では私の大切な友だちだ。
「それ、褒めてるゥ?」
「褒めてる、褒めてる」
グリフォンが言葉を話せて、本当に良かった。
私はVが心を開いてくれるまで、グリフォンに助けられたようなものだから。
「Vは俺たちの宿主。Vがいなくなれば消える」
「じゃあ宿主がいたら、グリフォンたちは消えないってこと?」
私の思考が正しいなら、もし万が一本当にVが消えたとしても、代わりの者がいたら他の皆は救えるという仮説が成り立つ。
グリフォンは私を見つめたまま、やや遅れて瞳を大きく開いた。
「……エ?ちょっと待て。アリア、もしかして」
「そのまさか。私が宿主になるよ」
にっこり笑って切り出せば、珍しくグリフォンの声は張り上げたそれじゃなく小さなものになる。
「マジで言ってンの?俺たち、イイ記憶だけじゃねェし…それに、本当のただの人間とそーゆーの、したことねェ」
そういうっていうのは、契約のことだろうか。
じゃあ、Vはただの人間じゃないってことになる…。
昨日Vが言っていた「俺という概念」っていうのも、正直気掛かりだけど…。
とりあえず、それは置いておこう。
とにかくグリフォンたちは、私にとっては恐怖でも悪夢でも全然ない。
「私の目に映る皆は、優しいよ。だからきっと大丈夫。可能性があればやってみよう。グリフォン」
「アリア…」
グリフォンは視線を落として、しばらく考えている様子だった。
知識がない私の提案は、彼からしたら簡単に言いやがってって感じなのかもしれない。
「…わかった。そうなった時、やってみる…アリアの身体に負荷がかからねェようにな」
そうか。
グリフォンは、私のことを考えていてくれたんだ。
確かに改めて考えれば、ただの人間に悪魔が3体も入ってくるって、全然想像できないことだ。
映画とかしか見たことない。
しかもそれらは、だいたい悪い感じにことが運ぶ。
それでも、グリフォンたちが消えない可能性を試さないことは私にはできなくて、グリフォンの頬にそっと触れた。
「…アリア。お前は本当の意味で、俺たちのメシアになるのかもな」
救世主、か。
初めてグリフォンに呼ばれた時は大げさだなと思ったけど、そうなれるなら、なりたい。
私に希望をくれた皆に、そのお返しをしたい。
ちょうどその時今日は早めにお店のドアが開き、瞬間的に椅子から立ち上がって駆け寄った。
「おかえりなさい!V!」
「ただいま、アリア」
シャドウを連れたVが帰宅し、私の姿をしっかりその瞳に映して微笑んでくれる。
シャドウも、私に身体を擦り付けて来てくれる。
こんな何気ないことがものすごく嬉しい。
私より少し遅れて、グリフォンが翼をはためかせて隣にやってきた。
「よー、大将!姫はきっちりお守りしました」
「ご苦労」
「…上からなのは相変わらずネ」
王様と従者みたいなやりとりに笑っていたら、Vは杖を持っていない方の腕を私に差し出して口角を上げる。
「アリア、今日は雲ひとつない快晴だ。外に出てみないか」
「うん、是非行きたい!」
身を乗り出して即答した。
Vからそんな提案をしてくれるなんて、素敵過ぎる。
今までどこか一線引かれていたのが、嘘みたい。
Vが私の手を取って、その手を繋ぐ単純な行為が私の心臓をときめかせる。
「こっちだ」
「え?こっち?」
歩き出したのは、お店のドアから逆の方向。
てっきりお店の外に出て行くのかと思っていたから、思わず声を上げる。
「待てよ、俺も行くー!」
グリフォンもシャドウも、廊下を歩く私たちの後を付いて来た。
そして、さすがに自分の住んでいる場所なので、Vがどこに向かっているかはわかった。
寝室だ。
黄色のデイリリーが咲き乱れる、庭がある。
「外」って、そういう意味だったんだ。
到着して、ベッドの横の大きな窓の縁に皆で並んで立つ。
「…この窓から出たことは?」
Vが改めて、私の顔を覗き込む。
太陽の光を受けて、Vの緑色の瞳がきらきら輝き、金色にも見える。
吸い込まれそうになるけど、質問に答えようときちんと口を開く。
「ない。ずっと、見てただけ」
「出よう。俺も、こうやって外で過ごすのは久しぶりだ」
Vはどこか子どもみたいに、いたずらっぽく微笑んだ。
こんな無邪気な一面もあるんだなぁ。
私が大きく頷いた時、同じように隣にいたグリフォンが、ひとあし早く黄色いじゅうたんに飛び込んで行く。
「じゃあ俺一番乗りなァ!猫ちゃんも来いよ!」
「あっ待って、グリフォン、シャドウ!」
シャドウも後を追って、私たちは言い出しっぺなのに完全に取り残された。
2人はデイリリーの咲き乱れる中を、追いかけっこしている。
「…行こう、俺たちも」
Vの再びの呼び掛けに、Vと握った手に力を込めた。
そしてお互いに、窓の外と向かい合って利き脚を上げる。
「せーの…!」
Vと一緒に同時に、裏庭の土を踏みしめた。
1歩ずつ、デイリリーを傷付けないように歩いていく。
窓の外から見るそれとはまた違って、周り中取り囲む黄色の世界は、現実じゃないくらいに綺麗…。
そこに私が立っている。
Vと一緒に。
「デイリリーは、1日しか保たないんだったな」
Vが不意に立ち止まり、でも私じゃなく、デイリリーを眺めながら呟いた。
いつだか、私が言っていたのをVは覚えていたみたいだ。
「…でもV、明日には明日の花が咲く。たくさんたくさん」
1日しか保たないけれど、1本の花茎に多くの花を咲かせ何本も立ち上がるから、長く楽しめる。
だから枯れてしまっても、哀しくなったりはしなかった。
「そうか…なら、寂しくならない」
私の台詞を受けて、Vも私と同じような気持ちを抱いてくれたみたい。
ほぼ同時に顔を合わせると、瞳を細めて微笑んだ。
「私なんだか…今改めて、この花が好きになった」
「…理由を聞かせてくれ。アリアの、言葉で」
今まで何かを好きになった理由を、しっかりと考えたこと、聞かれたことはなかった。
Vは、それを聞いてくれる。
興味を持ってくれる。
「そうだなぁ…昨日の私の宣言に関係してる」
私は自分でも言葉を選びながら、ゆっくりとVに話し始めた。
デイリリーは1日しか保たない。
だけど、その分たくさん咲くから切なくない。
私たちの関係は、1ヶ月しかない。
1日1日が大切で、そして、1日1日が確実に終わっていく。
でも、その分楽しい思い出がたくさん積もっていくから。
だからきっと、「その時」が来ても切なくない。
デイリリーは、今の私たちとどこか重なって見える。
私の目には。
私の心には。
全て話し終えると、優しく微笑むVが私の頬に触れてくれる。
「そうか…デイリリーは、今、改めてお前のものになったな」
「私の、もの…?」
Vが言う意味がわからずに、私はそのまま繰り返す。
「デイリリーがお前の中で、確かな意味を持って息づいた。それは、お前にしか見えない花だ」
デイリリーは多くの人に等しく見える筈なのに、見え方は人それぞれ違うと、Vは言う。
それは、私が自分の考えと想いを込めて、デイリリーを見つめたから。
「そうして…俺はお前の言葉を聞いたから、限りなく近い形で、お前の花が見える。俺にとって、デイリリーはアリアの花だ」
Vと私が見ているデイリリーは皆と同じだけど、同じじゃない。
今私たちは、目に見えない2人だけの世界に、いる。
「なんか、それ…すごくいいね。すごく、嬉しい」
「良かった…俺も、こうして誰かに説明したのは初めてだ」
自然と顔が綻んで、Vが頬に触れたまま私に1歩近づいた。
自分のおでこにVのそれが近づきそうになって、ドキドキするのに耐え切れずに、また口を開いた。
「…Vのお気に入りの本も、そんな感じ?」
「ああ。直接目に見えないが、確かにそこに情景が見えたりする」
Vの動きが止まる。
それが良かったと思うし惜しいなと思うし、恋心って大変だ。
だけど、そう。
私は今日新しく、Vの「世界」を知ることができた。
それに私も、デイリリーを新しい見方で見ることができた。
「…Vにはたくさん、見えないものが見えるんだ」
「アリアにも見える筈だ、きっと」
いいな。
私もVと同じように、色々なものを見てみたい。
私にも見えると、彼は信じてくれる。
「少し話し過ぎたな…こんなことは子どもの頃以来で…」
唐突に視線を外したVが申し訳なさそうに呟くから、今度は逆に私からVに縋り付いた。
「いいよ!私はVが、すごく純粋で可愛らしい人だなって思って、嬉しい」
「そうか…恐らく、お前の前だからこそ」
Vはまたさっきと同じに、私に微笑んでくれる。
「忘れていたものを、また思い出した気がする…」
end.