【第1章】夢のようなひと
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「またVたちとこうして一緒にいられて、本当に嬉しい!」
久しぶりに、皆と囲んだ夕食の後。
相変わらず外の世界とは違って、私たちはBGM付きで優雅に紅茶を飲んでいた。
心の健康って本当に大切だ。
それをこの数日で痛いくらい実感してしまった私は、今叫びたいくらいに満たされている。
皆が今、私と一緒にいる。
「アリア。念を押すようだが、俺たちはずっと一緒にはいられない」
Vは食事自体久々だからたくさん食べてほしかったのにやっぱり少食で、だけどちゃんと紅茶は飲み干してから、私を真っ直ぐに見た。
「ワーォ、はっきり言ったなV」
鳥くんがすぐにツッコむ。
「…これは紛れもない事実だからな」
申し訳ない気持ちがほんの少しでもあるのか、Vは瞳を細めた。
だけど、私は返って嬉しくなっていた。
Vがちゃんと、私に向き合ってくれている。
ごまかさない。
逃げない。
今までどこか腫れ物に触るようにして来たけれど、今のVなら答えてくれる。
そんな自信が私の中にもあって、だから真正面から聞いてみた。
「Vは、何を背負ってるの?1ヶ月経ったら、どうなるの?」
「アリア…」
鳥くんが、私とVの会話に割って入ろうとする。
どうやらやっぱり、あまり深く触れてはいけない話題らしく。
Vは鳥くんの留まっている方向に腕を上げて「黙れ」と表すと、再び口を開く。
「俺には、やらなければいけないことがある。そしてその時に、俺がどうなるかわからない」
私の瞳を見ながら、でも、どこか別の何かを見つめてVは言った。
「どうなるかというか…そもそも「俺」という概念が…」
「概念…?」
「…いや、この説明はやめよう」
この概念のことは、さすがの私もこれだけじゃわからない。
とりあえずそのことは置いておこう。
とにかく、Vはありのまま全てを、話そうとしてくれている。
私の存在がVの中で、そこまで大きくなっている事実がすごいことだ。
「…俺がどうなるかは、そうだな…神のみぞ知るというところだ」
前にも、Vは「やるべきことがある」と言っていた。
そうしてそのひとつが、「この街から多くのひとを救うこと」だと。
それを「ヒーローみたい」と言ったら、否定されたこともあった。
頭の中に、パズルのピースがいくつか散らばって行く。
とにかくVは、生死に関わるくらいに大きなことをしようとしているらしい。
それに向かう理由は私の頭が導いた答えだと、こうなる。
この街に悪の元凶をもたらした何かに、Vは関わっている。
だから、Vはひとを助けていても自分のことを「綺麗」だとは言わなかった。
「自分」がほんの少しでも、この「悪夢」の理由だから。
Vはそれに、責任感みたいなものを感じているんだろうか。
「…ありがとう、V。正直に話してくれて。それが、すっごく嬉しいよ」
彼がここにいる訳を、私は知ってしまった。
Vを夢みたいだと思ったことがあるけれど、全然違った。
Vは、すごく「人間」だ。
私と同じように、色々なことに悩んで自分のしたことに後悔したり、それで良かったと思ったりする「人間」だ。
だた、私に隠していただけだった。
私を「美しい」と言ってくれたV。
私とあなたの違いって、何かあったかな。
少なくとも、私が見てきたVは「美しい」。
一旦自分の中で考えを整理して、それが終わったのがわかったように、Vが私に手を差し伸べる。
「…たとえば俺が消えても、お前は生きる。いや、俺がお前を生かす。残りの時間を、俺と過ごそう」
それはまるで遺言みたい。
たとえばと言っているけど、消えることが前提の話みたいだ。
「…ちょっと待て。言い回しがアレだから、まるで遺言じゃねェ?」
「そうかもな…こんな過激な愛情表現ですまない」
鳥くんが同じように思ったのか、Vの発言にまたツッコミを入れる。
さすがシェイクスピア。
これって、私にすごく遠回しに「好き」って言ってくれてるのかもしれない。
「それに、そうだな…お前の父をなぞるようなことをしているな、俺は…」
即座に答えられる内容じゃないから、まだ口をつくんでいたら、Vは罪悪感も感じ始めてきたみたい。
「この先、ずっと、「俺」の記憶を背負って生きろと言っている…」
私はもう、Vを知ってしまった。
じゃあ、それをなかったことにできるだろうか。
忘れるか、もしくはあの時出逢わなければ良かったと嘆くのか。
Vとの思い出は、悲しい思い出?
父との思い出は、悲しい思い出?
色々あったけど、全部輝いている。
それは私の中の一部で、私はもうわかってる筈なんだ。
私がこの店に留まり続けた理由さえも。
「…私ね。Vがいなくなった時、初めて、全部捨ててここを出た」
父の店は、大切だ。
だけどいつの間にか、父よりも皆のことを考える時間が増えた。
無意識に、自然に、私は過去より今を向いた。
「それまで、私はある意味で、父と過ごしたこの場所に縛られていたんだと思う」
時は流れる。
それは、止められない。
たとえ、どんなに嘆いたとしても。
「Vは、私を初めて外に動かしたひと。Vたちは、私を初めて外に繋げてくれたひと」
私は皆に出逢って、過去を力に変えて生きる希望をもらった。
きっと、私がこの店に残った理由は、Vたちと出逢うためだったんだ。
「怖がらない。私はVと、最後まで一緒にいる」
怖がることはない。
私はもっとVを知って、そして、もっと生きていく。
Vに宣言すると、鳥くんは溜息なのかなんなのか1度息を吐いた。
「アリアちゃん…そんなに成長しちゃって…」
「…皆が消えても、私が生きていれば私の中で皆が生き続ける。私は永遠に忘れない、この1ヶ月を」
もうスピーチみたいになっていたけれど、V、グリフォン、シャドウ、そしてVのタトゥーの中にいるナイトメアに、はっきり告げる。
「Vたちは、私の前に確かにいた」
誰かに頭がおかしいと言われても構わない。
今ここに、皆は存在している。
「アリア、やはり…お前は美しいな」
Vはくすりと笑い、おもむろに椅子から立ち上がって私の傍に寄ると、両肩に手をそっと置く。
「お前に、できる限り「俺」をやろう」
瞳を細めるVを確かに見つめながら、私もVの長い指に自分の手を重ねる。
【第1章】 end.