【第1章】夢のようなひと
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Vを追いかけて出たはいいけど、街は一方通行な訳がない。
こっちじゃなかったかな…。
体感だと結構歩いてる気はする。
だって、もう日が暮れて来てしまった。
夜になって外を歩くのは、いつぶりだろう。
街の広間だったところにたどり着くと、中央にある噴水にはまだまだ血のような赤が混じっている。
それに、以前は人だったものが黒い塊みたいに、いくつか形状を保って残っていた。
コーヒーやクレープを売るワゴンは、横転して襲われた時のままだ。
…ちょっと、吐きそう。
実際にそういう場面は見たし頭でわかっていたのに、再び前にするとダメだった。
私が自分の口元を手で覆ったのと同時、地面が何個もサークル状に黒く歪むのがわかった。
早く逃げなきゃ。
感じられる命の危機。
今までの経験から、私は走り出した。
不気味な声が悪魔の出現を理解させて、でも姿は見てやらない。
だって見たら、怖くて足が竦んでしまいそう。
私は広間を抜けた先をただ見つめて走った。
「…あ…っ!」
行く手を阻んだのは、同じく地面から生えてきた不気味な木の根。
先端部が槍みたいに鋭く人間に向かってくるのは知っていたから、進行方向を変えて、とりあえずやり過ごすため横転したワゴンの中に隠れようという思考が降ってくる。
でも私の考えは甘過ぎたみたいで、もう広間には予想以上に悪魔で溢れていた。
ちょっと待って。
私、まだ死ねない。
もう1回Vに会うの。
Vに会って「ありがとう」って言うの。
一瞬でそれだけ頭の中に浮かんで、現実世界では、白い仮面の大きなハサミを持った悪魔がふわふわと私に向かって来ていた。
ねぇ逃げなきゃ、アリア。
ダメでしょ、死んじゃダメ。
絶対生きなきゃ。
でも、どこに逃げたらいい…?
恐怖と絶望感から、足は自然と動かなくなっていた。
悪魔の鋭いハサミが私目掛けて振り下ろされ、思わず目をぎゅっと閉じる。
覚悟していた痛みの代わりに、洋服の両肩の部分を力強く掴まれ、身体全体がふわっと宙に浮く感覚がやってきた。
「助けに来たぜェ!アリアちゃん!」
「え…!?あ…えー!?」
まぶたを開くと私は空を飛んでいて、その高さに驚いて、足をちょっとバタつかせてしまう。
「ちょっととりあえず大人しくしてくんね?落としちまう」
「鳥くん…っ!ありがとう…!」
助けに来てくれたんだ。
聞き慣れた声にすぐ反応することはできなかったけど、やっと思考が追い付いて意識的に身体を固くした。
鳥くんはそのまま、私をゆっくりと地面に降ろしてくれる。
降ろされたのは他でもない、鳥くんの主人である…Vの後ろ。
傍には黒猫ちゃんも控えていて、一瞬だけVと目が合ってしまい、反らそうとしたのにVはふっと微笑む。
「よくやった…では、反撃開始だ」
「OK、Vちゃん!だが、無理はするなよォ!」
Vが左腕を振り上げると身体のタトゥーと黒い髪の色素が抜けて、悪魔たちの頭上にまるで爆弾みたいに黒い塊が降ってきた。
今まで知らなかったけど、Vの使い魔は3体目がいたんだ。
「ちょっとV、今の状態でいきなりナイトメアって…平気かよ?」
「いいから…早く片付けてくれ」
「あーわかったぜェ」
鳥くんも悪魔たちの元へ再び飛び立ち、電撃を放って攻撃を始める。
Vは今度こそ私に向き合って、何故か少しだけ咳込んだ後私の手を取った。
「アリア、こっちへ」
「う、うん…!」
連れて行かれたのは、さっき召喚したナイトメアと呼ばれる使い魔の背中。
「しっかりしがみついていろ…絶対に離すな」
「わかった!」
言われた通りに、力の限りナイトメアの背中にくっついた。
見ていると、黒猫ちゃんも自分の身体の形を全く変えて、例えば針みたいになったりして、悪魔たちを攻撃していく。
そうして、その身体が白っぽく脱力したところを、Vがいつも持っていた杖で貫く。
「安らかに眠れ」
悪魔はその台詞と共に、肉体が風に消えていった。
Vの杖、こういう意味もあったんだ。
自分で意図せずに、私はまたVのことを知ってしまった。
Vが、助けに来てくれた。
戻って来てくれた、その理由はわからないけど…。
やがて地獄絵図みたいな戦闘は終わり、ナイトメアは地面に溶けるように姿を消す。
「V…!ありがとう、助けてくれて」
私は素直にVの傍に駆け寄ることができ、再び黒髪に戻ったVは、不意に私の頬に左手を伸ばして来た。
そっと触れて、瞳を細めて微笑んでくれる。
そうしてVの顔が近づいて来て、胸がドキドキし始めたのも、つかの間。
Vは私の身体にもたれかかるようにして、動かなくなった。
「え?V?V…!?どうしたの!?」
まさか死んじゃったなんてことはないだろうけど!
Vを揺らしてみても、勿論反応はなくて。
鳥くんや黒猫ちゃんも、私たちの傍まですっ飛んで来てくれた。
「ったく、さっき注意したのによ!アリア、ここから店まで戻るぞ…!」
「う、うん…V、大丈夫だよね?」
「休めばまた元に戻ると思うぜ。詳しくは後でな!」
自分自身に感じた死の恐怖を、今度はVに感じてしまって、私は勝手に指先が冷たくなってくるのに気づいていた。
だけど絶対にVを助けるっていう気持ちはとても強く、3人で協力しながらなんとかお店までVを運ぶ。
細身だけどVも男性だから、私にはやっぱりちょっと大変だ。
Vを横たわらせて、自分の呼吸を整えながらVの口元をじっと見つめる。
「良かったー…V…ちゃんと息してる…」
ここまで戻って、ようやく少し私は胸を撫で下ろした。
「Vのやつ、あれから飲まず食わず1回も立ち止まらず、戻って来たんだ」
「え…」
Vを取り囲むようにして、私の左右それぞれの隣にいた鳥くんと黒猫ちゃん。
そういえばさっき、鳥くんは後で説明してくれるって言っていた。
「店に戻ったらアリアちゃんはいねぇし、探して見つけたら、命の危機だし。Vちゃん、多分、相当疲労したんだろうよ」
Vも私と同じように、もう1度私に会いたいと思ってくれた…?
しかもこんなに必死に?
そんなの、嬉しくなっちゃうよ…。
期待、しちゃうよ。
「鳥くん…私…Vが好き。もう1度、どうしてもVに会いたかった。だから、探しに行ったの」
目を閉じているVの、今はとても穏やかなその表情を見つめながら、まるで独り言みたいに呟いた。
「でも結果的にはVを危険に晒しちゃったね…助けてくれてすごく嬉しかったのに、Vがぼろぼろになっちゃったのはダメだ。胸が痛いよ」
また涙が頬を伝って、Vの腕に数粒溢れる。
鳥くんがそんな私の顔を覗き込んで来て、嘴を開いた。
「アリアちゃんだってVのせいで危険な目に遭っただろうが…でもな、見ないうちに愛でいっぱいだなァ」
「どういうこと?」
「アリアちゃん今は自分よりもVの心配してんの。…Vもそうかね?」
そして、鳥くんは私から視線を外して、Vの方を見つめた。
end.
こっちじゃなかったかな…。
体感だと結構歩いてる気はする。
だって、もう日が暮れて来てしまった。
夜になって外を歩くのは、いつぶりだろう。
街の広間だったところにたどり着くと、中央にある噴水にはまだまだ血のような赤が混じっている。
それに、以前は人だったものが黒い塊みたいに、いくつか形状を保って残っていた。
コーヒーやクレープを売るワゴンは、横転して襲われた時のままだ。
…ちょっと、吐きそう。
実際にそういう場面は見たし頭でわかっていたのに、再び前にするとダメだった。
私が自分の口元を手で覆ったのと同時、地面が何個もサークル状に黒く歪むのがわかった。
早く逃げなきゃ。
感じられる命の危機。
今までの経験から、私は走り出した。
不気味な声が悪魔の出現を理解させて、でも姿は見てやらない。
だって見たら、怖くて足が竦んでしまいそう。
私は広間を抜けた先をただ見つめて走った。
「…あ…っ!」
行く手を阻んだのは、同じく地面から生えてきた不気味な木の根。
先端部が槍みたいに鋭く人間に向かってくるのは知っていたから、進行方向を変えて、とりあえずやり過ごすため横転したワゴンの中に隠れようという思考が降ってくる。
でも私の考えは甘過ぎたみたいで、もう広間には予想以上に悪魔で溢れていた。
ちょっと待って。
私、まだ死ねない。
もう1回Vに会うの。
Vに会って「ありがとう」って言うの。
一瞬でそれだけ頭の中に浮かんで、現実世界では、白い仮面の大きなハサミを持った悪魔がふわふわと私に向かって来ていた。
ねぇ逃げなきゃ、アリア。
ダメでしょ、死んじゃダメ。
絶対生きなきゃ。
でも、どこに逃げたらいい…?
恐怖と絶望感から、足は自然と動かなくなっていた。
悪魔の鋭いハサミが私目掛けて振り下ろされ、思わず目をぎゅっと閉じる。
覚悟していた痛みの代わりに、洋服の両肩の部分を力強く掴まれ、身体全体がふわっと宙に浮く感覚がやってきた。
「助けに来たぜェ!アリアちゃん!」
「え…!?あ…えー!?」
まぶたを開くと私は空を飛んでいて、その高さに驚いて、足をちょっとバタつかせてしまう。
「ちょっととりあえず大人しくしてくんね?落としちまう」
「鳥くん…っ!ありがとう…!」
助けに来てくれたんだ。
聞き慣れた声にすぐ反応することはできなかったけど、やっと思考が追い付いて意識的に身体を固くした。
鳥くんはそのまま、私をゆっくりと地面に降ろしてくれる。
降ろされたのは他でもない、鳥くんの主人である…Vの後ろ。
傍には黒猫ちゃんも控えていて、一瞬だけVと目が合ってしまい、反らそうとしたのにVはふっと微笑む。
「よくやった…では、反撃開始だ」
「OK、Vちゃん!だが、無理はするなよォ!」
Vが左腕を振り上げると身体のタトゥーと黒い髪の色素が抜けて、悪魔たちの頭上にまるで爆弾みたいに黒い塊が降ってきた。
今まで知らなかったけど、Vの使い魔は3体目がいたんだ。
「ちょっとV、今の状態でいきなりナイトメアって…平気かよ?」
「いいから…早く片付けてくれ」
「あーわかったぜェ」
鳥くんも悪魔たちの元へ再び飛び立ち、電撃を放って攻撃を始める。
Vは今度こそ私に向き合って、何故か少しだけ咳込んだ後私の手を取った。
「アリア、こっちへ」
「う、うん…!」
連れて行かれたのは、さっき召喚したナイトメアと呼ばれる使い魔の背中。
「しっかりしがみついていろ…絶対に離すな」
「わかった!」
言われた通りに、力の限りナイトメアの背中にくっついた。
見ていると、黒猫ちゃんも自分の身体の形を全く変えて、例えば針みたいになったりして、悪魔たちを攻撃していく。
そうして、その身体が白っぽく脱力したところを、Vがいつも持っていた杖で貫く。
「安らかに眠れ」
悪魔はその台詞と共に、肉体が風に消えていった。
Vの杖、こういう意味もあったんだ。
自分で意図せずに、私はまたVのことを知ってしまった。
Vが、助けに来てくれた。
戻って来てくれた、その理由はわからないけど…。
やがて地獄絵図みたいな戦闘は終わり、ナイトメアは地面に溶けるように姿を消す。
「V…!ありがとう、助けてくれて」
私は素直にVの傍に駆け寄ることができ、再び黒髪に戻ったVは、不意に私の頬に左手を伸ばして来た。
そっと触れて、瞳を細めて微笑んでくれる。
そうしてVの顔が近づいて来て、胸がドキドキし始めたのも、つかの間。
Vは私の身体にもたれかかるようにして、動かなくなった。
「え?V?V…!?どうしたの!?」
まさか死んじゃったなんてことはないだろうけど!
Vを揺らしてみても、勿論反応はなくて。
鳥くんや黒猫ちゃんも、私たちの傍まですっ飛んで来てくれた。
「ったく、さっき注意したのによ!アリア、ここから店まで戻るぞ…!」
「う、うん…V、大丈夫だよね?」
「休めばまた元に戻ると思うぜ。詳しくは後でな!」
自分自身に感じた死の恐怖を、今度はVに感じてしまって、私は勝手に指先が冷たくなってくるのに気づいていた。
だけど絶対にVを助けるっていう気持ちはとても強く、3人で協力しながらなんとかお店までVを運ぶ。
細身だけどVも男性だから、私にはやっぱりちょっと大変だ。
Vを横たわらせて、自分の呼吸を整えながらVの口元をじっと見つめる。
「良かったー…V…ちゃんと息してる…」
ここまで戻って、ようやく少し私は胸を撫で下ろした。
「Vのやつ、あれから飲まず食わず1回も立ち止まらず、戻って来たんだ」
「え…」
Vを取り囲むようにして、私の左右それぞれの隣にいた鳥くんと黒猫ちゃん。
そういえばさっき、鳥くんは後で説明してくれるって言っていた。
「店に戻ったらアリアちゃんはいねぇし、探して見つけたら、命の危機だし。Vちゃん、多分、相当疲労したんだろうよ」
Vも私と同じように、もう1度私に会いたいと思ってくれた…?
しかもこんなに必死に?
そんなの、嬉しくなっちゃうよ…。
期待、しちゃうよ。
「鳥くん…私…Vが好き。もう1度、どうしてもVに会いたかった。だから、探しに行ったの」
目を閉じているVの、今はとても穏やかなその表情を見つめながら、まるで独り言みたいに呟いた。
「でも結果的にはVを危険に晒しちゃったね…助けてくれてすごく嬉しかったのに、Vがぼろぼろになっちゃったのはダメだ。胸が痛いよ」
また涙が頬を伝って、Vの腕に数粒溢れる。
鳥くんがそんな私の顔を覗き込んで来て、嘴を開いた。
「アリアちゃんだってVのせいで危険な目に遭っただろうが…でもな、見ないうちに愛でいっぱいだなァ」
「どういうこと?」
「アリアちゃん今は自分よりもVの心配してんの。…Vもそうかね?」
そして、鳥くんは私から視線を外して、Vの方を見つめた。
end.