Charlotte
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いつも彼女を待っているのは苦痛ではなかった。
数ヶ月に1度。
それが彼女と決めた暗黙の再会のルールで、会う度に健康的に笑って全うに学校に通っている彼女を見るとどこかほっとしている自分がいる。
彼女は自分とは違って、ごく一般的な人生を歩んでいる。
自ら手放したようなものだが、彼女の幸せのためにはきっとこれが1番いい。
柄にもないやり方に時々苦笑する。
高確率で待ち合わせに使っているカフェは、休日とあってほぼ満席状態だ。
約束の時間まではまだ15分程あったが、いつも彼女より早めに来るようにしているダンテにはどうということはなかった。
彼女が自分を探す仕草が見たい。
そんな単純な願望からだ。
先に店内に入ると窓際に通され、特に飲みたい訳でもなかったがコーヒーを1杯注文する。
ここからなら彼女がやって来る様子がよく見える。
ダンテは窓の外に目をやりながら、彼女の姿を探した。
もうすぐ、あいつは学校を卒業する。
そうしたら、自分で仕事を見つけて俺から離れるかもしれない。
彼女ーダンテの妹は、直接血の繋がらない日本人の娘だ。
親日家だった父親スパーダが日本へ立ち寄った際、幼かった妹を拾った。
分け隔てなく育てられ本当の兄妹のように、彼女はよく懐いてくれた。
早く来ないかなと、まだ店内へ入って数分しか経っていないのにどこかそわそわする自分に、改めて実感する。
無意識のうちに、兄でありながら妹を特別視している。
いつからか、ダンテは妹へ妹以上の感情を抱いていることに気づいていた。
だが、彼女が離れてしまうことを考えて言わないでおいた。
打ち明けて逃げられるより、今の地位を利用してそばにいられる方がマシだ。
注文したコーヒーをウエイトレスが運んできた時、外に小走りで近づいてくる白いワンピース姿の妹が見えた。
彼女はダンテを見つけると窓越しに手を振って花のように微笑む。
今も昔も、こんなに屈託のない笑顔を向けてくれるのは彼女だけだ。
ダンテが手を降り返すと、また急いで店内へと入った。
「ごめんね、ダンテ!お待たせしました」
「久しぶりだな、エリ」
東洋人らしく自然な漆黒の長い髪と、幼く見える顔立ち。
それでいて西洋の食生活で育てられた豊かな身体は、彼女の魅力を引き立てている。
会う度に女らしくなっているんじゃないかと、メニューを開く細く長い指を見て思った。
まさか誰かに食われていないかといつも内心ヒヤヒヤしている。
結局エリと共にお決まりのストロベリーサンデーを注文し、彼女は最近あったことを話してくれた。
いつも主に友だちとのことで、それなりに楽しく過ごしてるんだなと安心する。
妹のためにここだけは真面目に金を積んできた。
ある種自己犠牲かもしれないが、世間でいう一般的な生活をしている彼女を見ていると、いつも満たされるのだ。
幼い頃の光景とは違い、今お互いに置かれている状況は全く対極だと言っていい。
悪魔の血、それも伝説のスパーダの血を引く自分と、ただの人間の彼女。
あの悪夢の夜。
母親を悪魔に殺されたあの夜から約10年、生きて来た道は違い過ぎた。
「でね、ダンテ。卒業してからの話なんだけど…」
「ああ、どうするんだ?」
「ダンテと一緒に住もうかと思ってるの」
ダンテは思わず口に含んだストロベリーサンデーを噴き出しそうになる。
最近独立しようと事務所を借りたばかりなので確かに部屋数は足りているが、一緒に住むなんて、手を出さないでいられる自信がない。
いや、でももしかしたら、エリも受け入れてくれて楽しい同棲生活が待ってるかもしれない。
ごめん、父さん、母さん。
俺たちは不純な兄妹になるかも。
そして大真面目なことを言えば、自身の身体に流れる血にまつわる争い事からも彼女を守ることができるだろうか。
爆弾発言からダンテは1度にたくさんのことを考えて、ようやく真っ直ぐに妹の黒い瞳を見た。
「ダメかな?」
エリは上目遣いで申し訳なさそうに見つめ、おねだりのポーズはどうしようもなく可愛い。
「俺がどういう仕事してるかは知ってるよな」
「勿論。私も一応自己防衛のために射撃はしてたよ」
「…まぁ実戦とは違うが」
ダンテはとりあえず兄らしく止めようとしてみた。
エリも、母親のエヴァが悪魔に襲われたところは見ているし、悪魔の存在は身をもって知っている。
ダンテが悪魔狩りをして生計を立てていることも。
父親スパーダが悪魔であることも。
それを承知で一緒に住みたいということはそれなりの覚悟があってのことだろう。
ダンテの腹は決まった。
「わかった。事務所の空き部屋貸してやるよ」
「本当!?ありがとう、ダンテ!」
目をきらきら輝かせて喜ぶエリに、表情に出さず内心ガッツポーズを決める。
これからはずっとエリと一緒にいられる。
しかもひとつ屋根の下で。
舞い上がっていたら、エリが引っ越してくる日はすぐにやってきた。
事務所2階が今日から妹の部屋になる。
ベッドやタンスひと通り必要なものは揃えて持ってきた荷物を整理すると、1日の大半が終わっていた。
「今日からお世話になります」
「なんか昔みたいだな」
一緒に暮らすのはほぼ10年ぶりで、あの頃はまだお互いに子どもだったし純粋に「兄妹」だったので、懐かしいような気恥ずかしいような微妙なところだ。
エリはわからないが、少なくともダンテは好きな女と同棲するのと変わらない。
「私、ダンテと暮らすのが夢だったの」
「えっ」
「家族で暮らすのがね、夢だったの」
笑顔のエリは完全にダンテを家族として見ている。
まぁこれからたっぷり時間はあるし、異性として意識させる自信はある。
見てろよ、エリ。
「夕飯はデリバリーでいいか?」
「そうだね、本当は作りたいんだけど…」
「今日は疲れてるだろ。お楽しみは後に取っとく」
早速いつもの宅配ピザに連絡を入れる。
何度も利用させてもらった店とも明日からおさらばできるらしい。
妹の手料理は初めてで今から期待で益々腹が減ってきた。
オリーブ抜きのピザは30分程で届けられ、リビングでエリと食卓を囲む。
チープだが記念すべき1日目の食事だ。
2人でピザをつまみ上げ、頬張った。
「ダンテ、付いてるよ」
「エリも」
お互いに口の端についた食べかすを指で取ると、自然と笑みがこぼれる。
やっぱり1人で食べる食事より2人で食べる方がおいしく感じるなと、ダンテもエリも思っていた。
新しい生活は、まだ始まったばかりだ。
end.
数ヶ月に1度。
それが彼女と決めた暗黙の再会のルールで、会う度に健康的に笑って全うに学校に通っている彼女を見るとどこかほっとしている自分がいる。
彼女は自分とは違って、ごく一般的な人生を歩んでいる。
自ら手放したようなものだが、彼女の幸せのためにはきっとこれが1番いい。
柄にもないやり方に時々苦笑する。
高確率で待ち合わせに使っているカフェは、休日とあってほぼ満席状態だ。
約束の時間まではまだ15分程あったが、いつも彼女より早めに来るようにしているダンテにはどうということはなかった。
彼女が自分を探す仕草が見たい。
そんな単純な願望からだ。
先に店内に入ると窓際に通され、特に飲みたい訳でもなかったがコーヒーを1杯注文する。
ここからなら彼女がやって来る様子がよく見える。
ダンテは窓の外に目をやりながら、彼女の姿を探した。
もうすぐ、あいつは学校を卒業する。
そうしたら、自分で仕事を見つけて俺から離れるかもしれない。
彼女ーダンテの妹は、直接血の繋がらない日本人の娘だ。
親日家だった父親スパーダが日本へ立ち寄った際、幼かった妹を拾った。
分け隔てなく育てられ本当の兄妹のように、彼女はよく懐いてくれた。
早く来ないかなと、まだ店内へ入って数分しか経っていないのにどこかそわそわする自分に、改めて実感する。
無意識のうちに、兄でありながら妹を特別視している。
いつからか、ダンテは妹へ妹以上の感情を抱いていることに気づいていた。
だが、彼女が離れてしまうことを考えて言わないでおいた。
打ち明けて逃げられるより、今の地位を利用してそばにいられる方がマシだ。
注文したコーヒーをウエイトレスが運んできた時、外に小走りで近づいてくる白いワンピース姿の妹が見えた。
彼女はダンテを見つけると窓越しに手を振って花のように微笑む。
今も昔も、こんなに屈託のない笑顔を向けてくれるのは彼女だけだ。
ダンテが手を降り返すと、また急いで店内へと入った。
「ごめんね、ダンテ!お待たせしました」
「久しぶりだな、エリ」
東洋人らしく自然な漆黒の長い髪と、幼く見える顔立ち。
それでいて西洋の食生活で育てられた豊かな身体は、彼女の魅力を引き立てている。
会う度に女らしくなっているんじゃないかと、メニューを開く細く長い指を見て思った。
まさか誰かに食われていないかといつも内心ヒヤヒヤしている。
結局エリと共にお決まりのストロベリーサンデーを注文し、彼女は最近あったことを話してくれた。
いつも主に友だちとのことで、それなりに楽しく過ごしてるんだなと安心する。
妹のためにここだけは真面目に金を積んできた。
ある種自己犠牲かもしれないが、世間でいう一般的な生活をしている彼女を見ていると、いつも満たされるのだ。
幼い頃の光景とは違い、今お互いに置かれている状況は全く対極だと言っていい。
悪魔の血、それも伝説のスパーダの血を引く自分と、ただの人間の彼女。
あの悪夢の夜。
母親を悪魔に殺されたあの夜から約10年、生きて来た道は違い過ぎた。
「でね、ダンテ。卒業してからの話なんだけど…」
「ああ、どうするんだ?」
「ダンテと一緒に住もうかと思ってるの」
ダンテは思わず口に含んだストロベリーサンデーを噴き出しそうになる。
最近独立しようと事務所を借りたばかりなので確かに部屋数は足りているが、一緒に住むなんて、手を出さないでいられる自信がない。
いや、でももしかしたら、エリも受け入れてくれて楽しい同棲生活が待ってるかもしれない。
ごめん、父さん、母さん。
俺たちは不純な兄妹になるかも。
そして大真面目なことを言えば、自身の身体に流れる血にまつわる争い事からも彼女を守ることができるだろうか。
爆弾発言からダンテは1度にたくさんのことを考えて、ようやく真っ直ぐに妹の黒い瞳を見た。
「ダメかな?」
エリは上目遣いで申し訳なさそうに見つめ、おねだりのポーズはどうしようもなく可愛い。
「俺がどういう仕事してるかは知ってるよな」
「勿論。私も一応自己防衛のために射撃はしてたよ」
「…まぁ実戦とは違うが」
ダンテはとりあえず兄らしく止めようとしてみた。
エリも、母親のエヴァが悪魔に襲われたところは見ているし、悪魔の存在は身をもって知っている。
ダンテが悪魔狩りをして生計を立てていることも。
父親スパーダが悪魔であることも。
それを承知で一緒に住みたいということはそれなりの覚悟があってのことだろう。
ダンテの腹は決まった。
「わかった。事務所の空き部屋貸してやるよ」
「本当!?ありがとう、ダンテ!」
目をきらきら輝かせて喜ぶエリに、表情に出さず内心ガッツポーズを決める。
これからはずっとエリと一緒にいられる。
しかもひとつ屋根の下で。
舞い上がっていたら、エリが引っ越してくる日はすぐにやってきた。
事務所2階が今日から妹の部屋になる。
ベッドやタンスひと通り必要なものは揃えて持ってきた荷物を整理すると、1日の大半が終わっていた。
「今日からお世話になります」
「なんか昔みたいだな」
一緒に暮らすのはほぼ10年ぶりで、あの頃はまだお互いに子どもだったし純粋に「兄妹」だったので、懐かしいような気恥ずかしいような微妙なところだ。
エリはわからないが、少なくともダンテは好きな女と同棲するのと変わらない。
「私、ダンテと暮らすのが夢だったの」
「えっ」
「家族で暮らすのがね、夢だったの」
笑顔のエリは完全にダンテを家族として見ている。
まぁこれからたっぷり時間はあるし、異性として意識させる自信はある。
見てろよ、エリ。
「夕飯はデリバリーでいいか?」
「そうだね、本当は作りたいんだけど…」
「今日は疲れてるだろ。お楽しみは後に取っとく」
早速いつもの宅配ピザに連絡を入れる。
何度も利用させてもらった店とも明日からおさらばできるらしい。
妹の手料理は初めてで今から期待で益々腹が減ってきた。
オリーブ抜きのピザは30分程で届けられ、リビングでエリと食卓を囲む。
チープだが記念すべき1日目の食事だ。
2人でピザをつまみ上げ、頬張った。
「ダンテ、付いてるよ」
「エリも」
お互いに口の端についた食べかすを指で取ると、自然と笑みがこぼれる。
やっぱり1人で食べる食事より2人で食べる方がおいしく感じるなと、ダンテもエリも思っていた。
新しい生活は、まだ始まったばかりだ。
end.