抱きしめたい。(謙光)


「謙也さん、あったかい」
「俺も……ずっとこうしてたいわ」

 光と付き合うてから、そんな甘い日々が続いていた。
 光は低体温で、猫みたいに温もりを求める癖がある。
 そんで、俺に抱きつくんが好きやった。

「謙也さん、めっちゃ好き」

 両腕を首に回してギュッと抱きついて顔をすりすりと甘えてくる姿は極上や。
 いろいろな理性を保ちつつ俺も光の腰に手を回して抱きしめ返した。
 それが癖になってもええと思ってた。
 それが、永遠に続けば、ええと思った。

 それが永遠に……それが。

 とある日の昼下がり。

「なぁ……光?」
「なんです?」

 カタカタカタカタ……。
 そう、リズム良くキーボードを叩く音が聞こえる。
 現在財前家の光の部屋。
 遊びに来て早々、俺はめちゃめちゃ放置されていた。
 せやからめっちゃ退屈でしゃーない。
 せっかく恋人の家にいるのに、それも誰も来ない光の部屋にいるのに、この調子。
 どうやらDTMとやらで作曲してるらしい。

「なんです? やないで~。俺はいつまで放置なんや~」
「あー、すんません。いまノリにノッてるんで」
「そんなん、あとですればええやんかぁ~。俺に抱きついて? な?」
「お断りっすわ」

 ガクッ………。
 両手を広げてアピールするも、塩対応。
 原因はわからんが、あの甘い日々は夢だったのではないかと思うくらい、光は俺に抱きつくんをやめた。
 何でか分からない。
 いつから……一週間くらい? 
 俺もよう我慢できたわ。

「俺は光の温もり感じたいんや~」
「……うっさい」
「なー、光も俺の温もり感じたいやろ? パソコンなんていくらでもできるやんか~」
「じゃー、そこら辺のクッションでも抱きしめとって下さい」
「光~」

 カタカタカタカタカタカタカタ……。

 無視したまま光のタイピングは進む。
 クッションを投げつけられて呆然と抱きしめたままや。


 俺よりパソコンが大事っちゅー話か。
 ずっと光の後ろ姿しか見れんのか。
 大体、一週間ずっとエッチもしてへんっちゅーねん。
 溜まりに溜まっとるわ。

「ひーかーるー」
「うっさい」
「なぁ~」

 ぐるっ
 イスを回して無理矢理光の身体を振り向かせる。

「謙也さん。俺、忙しいんすけど」
「まあ、そういわず。よっと」

 俺は光を立ち上がらせてそのまま抱きしめる。
 一週間ぶりの光の温もりとか匂いとか、髪の質感とか、肌触りとか全部を感じられて、気持ちええ。

「抱きしめたいんや」
「……アカンです」
「何で?」

 抱きしめられた光は俺の胸から見上げて、顔を赤くして目を逸らしながら、言った。

「謙也さんに……抱きしめられると……甘えてしまうんです。俺はそれがイヤ、なんですわ」
「俺は全然甘えて欲しいけど」
「そんなん俺のキャラちゃう」
「もしかして、そんなことで一週間我慢してた?」
「お、俺かてプライドくらいあります!」

 そんなんめっちゃかわええやないか!!
 ギュッと強く抱きしめて、そのまま二人でベッドにダイブする。

「な、なにやって――むぅっ!?」

 反論も無視してそのまま食べるように口づけてそのまま光の口内を味わう。

「んっちゅ、ふ、んぅ、ちゅっ、ぁむぅ、んっん」

 光もその気になったのか俺の身体を抱きしめてくれて、待ちわびたように俺たちは抱き合った。
 唇が離れた後にはなんか二人とも髪も服もぐちゃぐちゃになって、このままその行為にふけようとした。

「すんません。ええとこっすけど、ノリにノッてるっていっとったでしょ」
「へ?」
「とりあえず、あとで好きにさせますんで、今はどいてください」

 ドン、と身体を押されて、そのまま俺はまたクッションを抱きしめる形に。
 光はパソコンの画面に向かってカタカタとタイピングさせだした。
 またおあずけをさせられたっちゅー話や。

 さっき好きにさせるっちゅーから、終わったら覚悟してもらおうと決意した。

 突然言われた言葉に俺は嬉しくなって、抱きしめる手を強めて何度も、深いキスをして、そのあとめっちゃ愛し合った。

 光にこないな事言われる俺は幸せ者やで!
付き合いたての二人。
最初は甘々だった二人だが、財前が唐突に冷たくなってしまった。
実はそれにはわけがあって――

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