甘えてよ(謙光)



 ある晴れた、部活を終えた放課後。
 俺は、後輩の財前光を部室の裏に呼び出した。
 心臓は以上にドキドキして、落ち着かない。

「謙也さん? なんすか? 呼び出しって」
「え、えーと」

 なんて言おうか、今になって頭真っ白。
 もうなんや勢い余って、手を差し出して口に出す。

「俺……光が好きや! 付き合ってくれへん?」
「……別に、ええですけど」

 キモいとか、アンタそういう趣味やったんすね、とかそういう返事を想像していた。
 今までの関係すら危ういことも思っていたけど、聞こえた返事に目を大きくする。

「え?」
「せやから、別にええですけど」

 頭上には天使が舞っているようやった。
 こうして、忍足謙也は先週愛しの財前光と恋人になりました!
 なんて……幸せなんや。

「これからよろしゅうな!」

 光の顔を見るとこう……ニヤけてまう。
 あぁ、神様。俺と光をくっつけてくれておおきに!

「んじゃ、光。部室行こか!」
「……手」
「ん? ええやん、繋いでも」

 光は左利きやからと左手を出す。
 せやけど、肝心の彼は差し出した手と俺の顔を交互に見て――-。

「……いやや」
「は?」
「キモイねん!」

 パシィィン!!
 手を振り払われて、そのままスタスタ通り過ぎていく光……。
 その手がぶらんと下がって、俺の目は点となった。

「き、キモい……?」

 俺の手が、キモい?
 手ぇにぎんのが、キモい?
 男やから?
 それとも、俺やから?
 あれ? 俺ら、付き合うんやなかった?
 俺たち恋人になったんちゃうん?
 混乱して訳分からん。なんでこうなったん? 
 
 そういえば、光から俺に何かしようなんて、パシリに使われる以外、何もあらへん。
 俺ら、ホンマに恋人?

「……んで、そのお通夜みたいなテンションは何やねん」
 
 クラスメイトの白石が呆れたテンションで、見てくる。
 今日の俺の調子が悪かったからか、心配して席まで来てくれて話を聞いてくれる。

「やって、光からキモいなんて」
「そのキモいっちゅーセリフは財前の十八番やろ。何今更凹んでんねん」
「俺ら恋人同士なんやで? 手ぇ繋ぐくらい有りやんか」

 恋人になったらまずは手をつなぐ、やろ?
 そら男同士やから気まずいことあるかもしれんけど。
 四天宝寺のみんなは順応性高いし、照れることないんやけどなぁ。

 俺は机に伏せて、しくしくとのの字を書いていた。
 ああ、光が甘えて、可愛ええ事言ってくれたら俺のこのテンションは上がんのに。

「やって、謙也さん、他の人のおる前で手え繋ごうとするんやもん。は、恥ずかしいに決まっとるやん」

 後ろから甘えた声の光の声がする。
 ホンマは俺に甘えたくて、せやけど二人きりがええっちゅうことやな!
 もう振り向きたくて仕方がない!!

「ま、まだ振り向かんといて、俺やって、謙也さんに抱きしめてもらいたいし、キスやって……その先、も……」
「ひ、光~~!!」

 光がそんな積極的に誘ってくれるなんて、嬉しいわ!!
 あぁ! 光、光、光、光!

「なぁんてな。抱きつくな、アホ謙也」

 目の前には愛しの光やない、ただのユウジやった。

「ゆ、ユウジ……」
「はは、相変わらずおもろいで~」

 笑いながら白石が拍手していた。
 笑い事やないっちゅーねん。

「いや~。こないな恥ずいセリフ吐く財前がおったら見てみたいわ。なぁ、白石?」
「せやなぁ。レアな財前が見れたらコケシいくらくらいやれるやろ?」
「賭けるか? 財前がデレるか」
「ええで」

 二人して俺で遊ぶ姿に、やるせなさがでてくる。
 次の授業がはじまり、二人は自分の席とクラスに戻っていった。

 そして気づいたら屋上におった。

「謙也さーん!!」

 呼ばれた方向に体を向けると、光が満面の笑みで抱きついてきた。

「ひ、光?」
「謙也さん……あったかい」

 ぎゅううって光が俺を抱きしめる。
 何やこれ!?
 光、可愛すぎるやろ!?
 な、なんか悪いもんでも食うたんやろうか?

「謙也さん。好きです」
「ぅぉぉおおおおおお……」

 スリスリ頬を俺の胸にすりつけて、そのまま、上目遣いの潤んだ目で俺を見つめる。

「謙也さん。二人きりやし……キスして、ええよ?」

 き、キスぅ!?
 あ、アカン! こんな光反則や!

「ねぇ。謙也さん……」
「ひ、光~~~~~!!」

 二人の唇が今重なろうとした。

 バシッ!!

「こら、忍足!! 何してんねん!」
「……へ?」

 頭に響く衝撃。
 気づいたら俺は、先生に抱きついて、顔は先生の唇にくっつこうとしていた。

「おおおおぉぉぉおぉぉおおおおおぉぉおぉ!!??」
「叫びたいんはこっちや!」

 クラス中が爆笑の渦に飲み込まれていた。
 え、俺……寝てた!?
 恥ずっ!
 それから、俺は昔の漫画の如くバケツを持たされ、廊下に立たされていた。
 はぁ、あんな甘えてくれる光が見てみたいなぁ。
 高い確率で理性が持つとは思わへんけど。

 そんなこんなで昼休み。
 俺はかなり低いテンションで、屋上におった。
 光と飯食うんやったなぁ。

「光、甘えてくれへんかなぁ……」
「何一人でアホな事言うとるんです?」
「ひ、光!?」

 光は無言で俺の隣に座って弁当を広げる。
 相変わらず冷めた表情で、箸を進める光は、まるで俺の事なんかダチ以下やんか。

「はぁ……」

 ちらっ。
 あ、いちごオレ飲んどる。
 唇エロいわー。

「あー、ストローなりたい……」
「いちごオレに浸りたいんスか? 一口だけやったら、あげますよ」

 口からストローを離して、いちごオレを渡してきた。

「ちゃうねん、逆や逆」
「は?」


 何か、外れたような気がした。
 俺は近づいた手を引っ張って、光の体ごと俺に引き寄せた。
 光の後頭部を押さえて、そのまま……口づけた。

「!? むぅっ!!」

 甘いいちごオレの味がして、やっぱり、理性なんて持たへんかのように、夢中に光にキスしている。 
 何秒、そうしとったやろうか、唇を食むように理性がどっかいにいきそうになって――――。
 ドスッ!

 腹に拳を入れられた。
 痛みに思わず唇が離れる。
 光は逃げるように俺の腕から放れた。
 いそいそと弁当を片づけて、屋上の扉まで走っていった。

「か、勘違いせんといてくださいね。び、びっくりした、だけで……」

 終わった。
 完全に光との関係が終わったと思った。

「でも、あんたのキス、好きですわ」

 光の唇が濡れてて、照れてる表情がまたグッとくる。
 耳まで真っ赤にして光は去っていった。
 ポカンとして残されている俺は、ハッと我に返って光の言葉をリピート。
 瞬間、「よっしゃー!!!」っと雄叫びを上げてガッツポーズをした。

 甘えて欲しいけど、こんな光も、大好きや。
付き合いたての二人。
でもなかなか甘えてくれない財前に、謙也は納得がいかない。

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