その他×光

 全国大会終了後、俺は少し何か引っかかっている所があった。
 別に全国大会で優勝したから不満がある訳じゃない。
 けど、準決勝の四天宝寺との試合のあと、白石って不二先輩を倒した無駄に色気のある人が俺に言ったセリフ。

「越前君はうちの財前によく似とるで」

 苦笑して語るその人の言葉なんてよく覚えてないけど、なんか馬鹿にされた気分で思わず眉をひそめた。
 
 似てるって、財前ってあれでしょ?
 部長と乾先輩とのダブルスで全然試合に参加していない、ピアスをいくつも付けている……河村先輩の事を「お荷物」って言った人。 
 そんな人に似てるなんて、正直良い印象なんてないし気分が良くなかった。
 あの白石って人ふざけてるんじゃない?
 
 そんなふうに思ってた全国大会が終わった後の日曜日の午後。

「そろそろグリップテープ買いに行こうかな」

 と、他の買い物を兼ねてスポーツショップに向かった道。

「意外と何もないところで変な出会いってあるんだよね」

 なんてふざけて、曲がり角を曲がった直後。
 ドンッ、と誰かにぶつかる。

「な、なんだよ」
「それはこっちのセリフや。人にぶつかって、謝罪無しか?」

 ちょっと上から、そんな冷めた声が聞こえた。
 その冷めた目をした相手を見て思わず目を見開いた。 
 
「どうも……あんた……財前、光」
「なんや、青学の越前か」
「あんた、大坂でしょ? 何でにいるの?」
「べつに。謙也さんに付き合わされとるだけや。暇やからスポーツショップにでも行こうと思ったけど、どこにあるか分からんからふらふら歩いただけやし」
「へぇ……あんた、意外と抜けてるね」
「ホンマ、お前ムカつくわ。でも……」
「でも?」
「なんや、俺と似とるって部長も謙也さんも先輩らはみんな言うとったわ」

 ああ、この人も言われていたんだ。
 それよりも、案外喋るんだ。
 なんだかな、意外と印象と違って気が狂う。
 
「ねえ、俺もスポーツショップに行くんだけど、あんたも行く? 迷ってんでしょ?」
「ええんか?」
「行かないなら、ふらふら歩いていれば?」
「……ホンマ、生意気や」

 そう言いながらも、口元が緩んでいる。
 無表情かと思ったけど、こんな顔もするんだ。
 口調が、ちょっと似ていると思ったのは俺だけ……?
 そうして二人でスポーツショップに向かって、歩く道。
 
「越前って学校の委員会図書委員ってホンマ?」
「何でそんなこと知ってるの?」
「情報通の先輩がおってな」
「ふーん、そうだよ。だから?」
「偶然やな。俺もや」
「へー」

 なんだろう、たいしたことのない話。
 それなのに、胸が痛い。あれ? いつから?
 
「スポーツショップってここら辺なん?」
「そうだよ。ここの角を右に曲がったとこ」
「あ、ホンマや。結構でかいんやな」
「テニスコーナーこっちだよ」
「おおきに」

 二人でテニスコーナーに行って一緒に色々と見てみる。
 一応グリップテープを買いに来たから、色々選んでるとちょうど良さそうなグリップテープが見つかって手に取る。

「へぇ、越前もこっちのグリップが気に入ったん?」
「まあね」
「へえ、趣味ええやん。俺も好きやで」
 
 なんだか、胸がズキズキ止まらない。
 なんかある度好きってする。

「そういえばさ、あんた部長になるの?」
「別になりたないんやけどな。あの変態部長が決めてしもたんや」
「嬉しくないの?」
「そんなん、めんどいわ」

 めんどい、か。

「越前も海堂が引退したら部長になるん席は用意されとるんやろ? 白石部長から聞いたわ」
「俺は用意された席に座るつもりはないけどね」
「何やねん。それ」
「俺は奪うつもりだから」
「可愛げないわ……って、俺もよう言われとったか」

 やっぱり、この人と何か合うと、胸がズキズキする。
 その気持ちが何がってことも、だんだん分かってくる。
 お互い、似てるって感じるんだ。

「ねえ、テニスコート行ってテニスしない?」
「ええで。謙也さんも遅なる言うとったし。軽く打ち合うくらいなら」
「じゃあ、行こう」

 テニスができると思うと嬉しくて、俺はその腕を引っ張った。

「ちょっ、まちぃや!!」

 まるで少女漫画みたいに俺がその手を引っ張ってテニスコートまで一直線。
 たどり着いたのは、いつも行くストリートテニス場。
 広くなったから、シングルスも出来る。
 もう夕方でライトアップも十分。

「ここ。結構いい所でしょ?」
「……手ぇ、痛いんやけど」
「あ」

 思わずつないでた手を離すと、顔を赤く染めてるその照れた顔を見て心が決まった。

「越前の方が抜けとるんちゃう?」

 すぐに元に戻ったように見えたけど、多分俺たちは似てるから――。
 きっと気持ちも同じ。

「そ、そんな事より、早く打ち合いしようよ」
「ええで」

 俺たちは軽く打ち合う。
 感じたのは俺より弱いって事だけど、不二先輩みたいに『天才』って言われているから……、強いんだ。

「あれ~? 越前じゃねーか?」

 ラリーの最中、声をかけてきたのは……桃先輩だった。

「青学の……桃城?」
「あれ? お前、四天宝寺の財前?」

 突然の桃先輩の登場。
 
「青学の桃城やないか。奇遇やな」
「俺もストリートテニスしにきたんだよ。あとで不動峰の神尾たちもくるぜ」
「へえ、そうなんや。楽しめそうやな」
「それでよー」
 
 桃先輩と財前さんが楽しそうに話す姿を見て、ただイライラが止まらない。
 
「桃先輩……」
「えちぜーん。何財前と二人でいるんだよ。呼べよー?」
「別に。桃先輩には関係ないし」
「そりゃないぜ。あ、財前、どうだ? 四天宝寺って」
「そんなん、桃城には関係あらへんやろ?」

「ははっ、越前と財前て何か、お前ら二人似てるなぁ」

 今、俺と打ち合っていたはずなのに、桃先輩が邪魔して二人で話して……。
 なんかホントにムカついてしょうがない。

「ねえ、光」
「は?」

 チュッ。

 俺は、財前さん、いや、光の胸ぐらを掴んでそのままキスをした。

「はぁぁあ!? 越前、なにやってんだよ!」
「何ってキス」
「え? え? え!?」
「桃先輩。悪いけど、この人俺のなんで」
「え、越前!?」

 光はまだ驚いているようで、唇を押さえている。
 俺はそのまま手を引いて暗闇に連れ込んだ。
 光を、フェンスに押さえ付ける。
 ガシャンと軽く音がした。
 この人、力も弱すぎ。

「ねえ、俺以外の男見ないでよ」
「な、何してんねん! あないな場所で、あないな事!」
「だって、好きだから。あぁ、もちろんベッドでは俺が上だから」

 何度だってキスをして、人が見てても気にしない。
 チュッチュッと啄んで、抵抗なんて許さない。
 不敵に笑ってみせる。
 両手を絡めて、またキスをする。
 強引に舌を絡めて、感触を楽しんで……。
 でも……。

「キス、慣れてないの?」
「う、うっさいわ。アホ」
「でも、俺のこと、好きでしょ?」

 あ、目を逸らしてる。
 照れてるんだ。

「絶対放してやんないから」

 何かを言おうとしたその口にまた俺は強引に口づける。

 放してやんない。
 絶対、俺でいっぱいにしてやる。

「ねぇ、光。このまま、俺の家に行こうよ」
「け、謙也さんが……」
「他の男の名前出さないでよ。ずっと俺の名前、呼んで? ベッドで愛し合おうよ」

 もう暗くなった月明かりの中で俺たちはずっとキスをして。
 そのまま、俺の家に……お持ち帰りした。
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