半分人間の妖狐と半妖の少女
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『……確かに、あたしは妖怪の血が流れてる。でも、同時に人間でもある』
自分の正体を誰かにさらしたのは、これが始めてかもしれない。
『……そうか、半妖だね』
蔵馬が謎が解けたといわんばかりにうなずいた。
『正直、君を見たときから、妖気と人間のエネルギーを同時に感じていた。基礎体力の高さも妖怪の血がまざっているなら、納得がいく』
あたしは、ため息をついた。
なんだか、複雑な気分だった。
正体がばれてしまったというなんともいえない落胆、その一方で、やっと自分の正体を誰かに明かせたという不思議な安堵感が心にあった。
『半妖の君が幻海師範のところにいるというのは、どうやら訳ありなんだろうな。まあいい。余計な詮索はしない。さあ、今日はもう終いにしよう。いいだろう、飛影。傷も彼女が治してくれたことだし』
まだ、何か言いたそうな飛影を制して、蔵馬がその場を収める。
*
蔵馬にも治癒の術を施して、修行初日はおひらきになった。
飛影は相変わらず無愛想なままだったが、「傷が癒えた以上、明日からはもっと容赦せんからな」と言葉を残して、さっさと一人で立ち去っていった。
「あれは、彼なりのお礼の言葉なんだと思うよ」と、蔵馬がフォローする。
「さてと、これから君はどうする?」
「近くにおばあちゃんが持ってるマンションがあるから、しばらくそこで寝泊りするつもり」
今日、出かけるときにおばあちゃんから、しばらく帰ってくるなとマンションの鍵と家族用のクレジットカードを渡された。
おばあちゃんはああ見えてやり手で、霊能力者としての仕事だけじゃ家計が成り立たないので、地主として土地活用したりゲーム機器を貸し出したりとあれこれ副業をやって儲けてる。
住んでいる寺以外にもいくつかマンションを買ったり貸したりして運営していて、これからあたしが行こうとしているマンションの一室もおばあちゃんの持ち物。
実のところ、おばあちゃんは、やばい仕事が舞い込んできたとき、巻き込みたくないのか、これまでも「あんた、しばらく帰ってくるんじゃないよ」と放り出されることはざらにあって、そういうときは決まってマンションに寝泊りして、学校もそこから通う。もはや自分のもう一つの家みたいなものだ。
「そうですか。じゃあ送りますよ」
「え、大丈夫。そんなに遠くないし」
「夜道を女性一人で歩かせるわけにはいきませんよ」
蔵馬はにっこり笑った。
この人、どうしてこうも自然に王子様みたいな振る舞いができるんだろう。
*
森を抜けて、蔵馬と夜道を歩く。
彼は言葉以外のところでも紳士らしく、さりげなく車道側を歩いてくれている。
あたしはといえば、実はかなり緊張していた。
正直なところ、男性と二人きりで夜道を歩くなんて、これまでの人生で初めてだった。しかも、こんなかっこいい男の子(妖怪だけど)…やっぱりちょっとドキドキしてしまう。
「…聞いていいかい?」
ふいに蔵馬が話し出す。
「余計な詮索はしないといったけど…一つ聞きたい。なぜ、飛影の治療をしたんだい? あれをしなければ、妖怪だって知られなくてすんだかもしれないのに」
確かに、蔵馬の言うことはもっともだ。
「うーん、正直、あたしもよくわからない。あえて言うなら、飛影、彼が痛そうにしてたから、このままほっておけないって思っちゃったの。それだけ」
蔵馬は怪訝そうな顔をする。あたしは話し続けた。
「あと、そう、もう一つは、あなたたちには正体を知られてもいいかなって、なんとなく思っちゃったんだと思う」
それが本心だった。
これまで、あたしの正体を知るのは幻海おばあちゃんだけだった。
人間の世界に生まれて、人間として育てられてきたあたしは、これからも人間として生きようと思っている。だから、正体を隠すのは当然のこと。
だけど、ときどきやっぱり苦しくなるときがあった。常に正体を隠して生きていて、本当の自分じゃないみたいな息苦しさに耐えられないときもあって。
「たぶん、コエンマはあたしの正体を知ってる。なんだかんだでうちのおばあちゃんとよく顔を合わせてるし、あたしを見たとき、全部わかってる顔してた。それにあなたたちも妖怪だってことで、正体隠さなくていいんだなって、気が抜けちゃったみたい」
えへへと思わずわらってしまうあたしに、蔵馬は表情をやわらげた。
「そうか…ごめんよ。変なことを聞いて」
そして、蔵馬は下を向いて、何かを考えているようだったが、やがて顔を上げた。
「実は、俺も…君とちょっと似たようなものなんだ」