不幸にピピピ・踊ループ

イデ×転生姫2

『助けれ☝️😩』

 イデアのLINEの文面は、オタク臭くて絶妙にキモいと専ら評判である。――仕方ない。オタクってのは古今東西カワイソウな脳の病気なのだ。寛解なんてするもんじゃない。誰に言われたとて別に治らないので彼はこの瞬間も最近流行りのネットミームの……ピンクの豚のモノマネをしながら気持ちだけは懸命にメーデーを発している。

 あの後。混乱したイデアは結局、王室との予定をすっぽかし。一人帰還の我が儘の手続きだなんだ通して呼ぶのもかったるいと渋っていた空輸便を手配して、嘆きの島へ即時帰還を決め込んでいた。無論レオナ(?)を連れてのことである。
 レオナ、というかこの子供が何なのか、何を考えているのかは未だ本当に分からないが……。話してみる限りかのレオナ・キングスカラーの記憶を認識しているようで間違いがない。となると事件自体の関係者であるというセンが捨てきれない。
 関係者でありそう……というからには捨て置くこともできず、また一番には子どもは、――何でなのかは本当に分からないが……イデアと『特殊』な縁を結ぶことを強く希望しているようだったので。王宮に報・連・相どころか人目に触れさせるのも妙に憚られ……だってそうだろう。死んだ筈の弟にそっくりな女児が不審者丸出しの男に求愛してる姿をもし王様に知られたら?絶対に死刑すぎる。
 ともかく様々要因があり、後の待遇はそれこそ兎も角として……要観察の被検体として保護して緊急帰還をした、というところが顛末だ。

 尚親には叱られた。当然である。
「元いたところに戻してきなさい!」「オタクが過ぎるかもと以前から思っていたが、光源氏計画は現実には存在し得ないものです。諦めなさい」などと馬鹿みたいに諭されたのだが、それでもイデアは「嫌だ!返すものか!」と意地を張った。

「彼女には精神錯乱的言動が見られるし、これは魔力濃度の高い現場付近に長時間滞在したから脳の指揮系統に影響が出て弱っているのかもしれない!万が一被検体の立場を解いて家から出すと言うことになっても、まずは人道的に『子供』の為として一通り健康チェックや脳波測定を受けさせるべきだ!それに一度保護を約束して僕が受け入れてしまったからには彼女の希望は兎も角、大人として約束に見合っただけの環境を提供すべきだよ!少なくとも元いたスラムには戻せない!この子は修道院に入れます!」

 するとイデアの両親は所謂"良い人"であったので、イデアのこの道理を違えぬ論説を聞き、「全くだ」と言って、嘆きの島はレオナ(?)を受け入れるはこびとなったというわけだ。
 Q.E.D.
 さて、然し困ったのはイデアである。子どもは一先ずS.T.Y.X本部内に設けられた被検体滞在用個室……いつの日か、旧レオナを初めとするオーバーブロット経験者お歴々が案内された部屋だが……に通され、少なくとも検査の間はそこに暮らす手筈となったのであるが。そもそもの生活の面倒を主とした保護者的セキニンの管理を負わされたのが、イデアであった。要はいきなりコブ付きとなってしまったのだ。全然独身なのに……。
 勿論職員は基本善人であって、古くには幼いシュラウド兄弟の成長を見守ってきた中高年層も多い。父母も清き正しき真人間であるし、子育ての経験も言わずもがな。オルトだってサポートの為に新たな認識をインストールして、環境保全に努めようと頑張ってくれている。……要は皆協力的に手を差し伸べてくれている。
 そもそもレオナ(?)とて、どういう存在なのかは本当に不明だが……接してみる限り、口ぶりからしてホンモノの子供というような気もせず。つまるところコブ付きの導入として、完全にネックなのがイデアのお気持ちのみである。

 馬鹿げた話であった。被検体として保護が必要と、生活をともにすることを強行したのは確かにイデアであったのに、彼は本当に物凄く"保護者"たることに拭い去れない違和を感じている。
 否、然しレオナ(?)も悪いのだ。行使するのは被検体の保護としての役だって言い聞かせているのに、なんと言うか……彼女(?)は既にそういう顔をするようになっているのだ。理解に難いことである。それは己はイデアのもの、と、そう言わんばかりの顔である。
 何処か鋭くささくれていた角が、取れたような……安心したような。或いは期待するような……媚びるような。そういう顔をするのだ。それは少女を通り越して、きっと女のする顔つきだった。イデアには仔細わかりかねたが。
 少なくとも、あのプライド馬鹿高ナルシストな俺様系マッチョの花形であったかつてのレオナ・キングスカラーが同窓の男を見るそれではない。これは絶対に。然し見てくればかりは、朝露を浴びて開いたばかりの華のかんばせの少女なのだが……一転その表情は、無邪気な齢で見せられるような哀愁の範疇にもなく。浮かべた翳だけが、どうにもかつての男を思わせる。あの男のものでは有り得ないのに。いつか青春の木陰に、同じものを見つけたことがあるような気がして。
 故にイデアはいきなりコブ付きに戸惑ってもいたが、それに重ねてそのコブがかつての年上の同級生すぎる……といった意味不明な状況にSAN値を打ちのめされてしまって、なんだか妙に立て直せなくなってしまったと言うわけだ。
 イデアは悪くない。そんなものには誰だってスマートな対応をできるわけがない。もしできるものがいるとすればそれこそ人間味を超えし者……彼の、人工知能が搭載された弟くらいか。

 兎も角、同級生すぎる!というショックを共有できる者が現環境には居なくて……イデアは彼なりの大真剣に、今、他者の共感を求めているというわけだ。少なくともこれを一つでも手に入れたら、千の勇気も、万の光も手に入れたと同じ。己が精神汚染を受け狂ったわけではないと、認識は間違ってないと確固たる自信を持って目下SCPであるところの子供に立ち向かっていけると思ったから。……子育てに対神話生物用のSAN値が必要になるとは思わなかった。
 そして、助けを求めた先がイデアと、かつてレオナがNRC第三学年であった折、各寮寮長のみで情報共有の為作られたグループチャットである。尚これを選んだ理由は十五年経って尚未だ生きている数少ないホットラインであった為だ。……少なくともレオナ以外は。
 後当時在籍していた面々は何か目立って能力に欠く者がいなくて……つまりは仕事が出来る。頭も切れる。現在だってある程度の権力とコネを持っている。筈だ。何せWikipediaに名前が乗っているような連中である……。万が一死んでいたり、後はゴシップが出たら大体わかる。そういう面子。
 彼らなればイデアとも、かつてのレオナとも面識があるし、説明の大変面倒臭い……イデアの職務についても概ね理解してくれている。
 イデアが今欲しかったのは一緒に「ヤバすぎるンゴw」と笑ってくれる所謂ジャンキーな共感であって、他にはちょびっと少女の生活水準へのアドバイス。そしてこのTakeにあたっての懇切丁寧なGiveを用意するだけの心の余裕は無い。
 故に……彼は実に十五年ぶりであるのについ昨日今日の仲のような気安い口ぶりで『助けれ☝️😩』とかなんとかいきなり送って……無邪気に返信待ちをしているという訳だ。


『割とガチでマジで至急救助クエキボンヌ。報酬弾むめう』
『明日会えん?皆暇?笑』
『暇なわけないでしょう』
『ねほんとにこっちからは謝礼に良いもん出すって。
リドル氏オルトと勉強会したいって言ってたじゃん、あれまだ有効?15年経ったが……😅オルトまだ現役どころか進化エグいから医学方面のデータ片っ端から積んでもらって君だけのオルトとして派遣するけど……』
『そのまま貰って良いんですか?』
『いいわけないだろ、返せ』
『あの、他の皆さんにも全然大金払うしなんなら技術提供かて出来ることがあれば何でもしますし、下僕になってクツとか舐めるんでもいいですし、マジのガチで親戚に駄々捏ねまくってOlympos pixelsの広告塔でもCMでも何でも枠もぎ取りますし、あと、あの、妖精王の人とかもツマラン世の中に退屈してる頃と思いますが、あの、今度ばかりはめっちゃビビらせて漏らさせる自信アリニキ』
 
『言いましたね?聞きましたよ。Olympos pixelsのCMに出していただけるんですね?』
『アズール氏!?』
『僕アレ愛用しているんです。消しゴムマジックがかなりイイ。丁度広告塔としてCMに出たかった』
『何よ、アタシの気持ちをお金で買おうとしないで』
『名指ししなかった拙者が悪かったんでしょうかねこれは』
『明日行けるぞ✌️😁走れば間に合う』
『是非とも漏らしたい』
『汚い』
『死になさい』
 
「死ィ!……」

 イデアは突っ伏した。彼個人の寝室、ベッド上である。来る夜更けに寝巻きをつけて、寝そべりながらインターネットをしているというようなところであったが、その傍らには至極当然の顔をしてレオナ(?)が座っていた。
 
 子供は"めちゃくちゃ"であったので、割り当てられた個室から勝手に抜け出し、勝手に人のベッドで共寝をしてくる。それも初めは、どうやら本部内他の空室で。職員用仮眠室で。リフレッシュルームのソファで。救護室のベッドで。
 いつのまにかイデアの実家に上がり込んでは床暖房のラグの上で。ファミリーサイズのソファの上で。イデアの両親の寝室のベッドで。そしてめぼしいところを制覇して、最終的にイデアのベッドに落ち着いているらしいわけだ。尚、イデアが許可した覚えは無い。めちゃくちゃもめちゃくちゃである。
 彼女はどうやら最高の寝心地を探し渡り歩いてきたらしかった。なので彼女からすれば占有できて当然の領土らしくあり……故にやっぱり寝巻きでポヨンと座って。ちっちゃなブラシでせっせと髪などを梳かしたりしているわけだ。落ち着きどころの話じゃない。既にかなりの"生活"をしている。
 尚何度言っても出て行かないので……主にはイデアが出て行って、大体同室内の床やソファで眠るが、彼の持病のヘルニアが辛い日は仕方なくベッドの端を使わせていただいている……。閑話休題。
 もう『助けれ☝️😩』以外の何物でもない。そして現行六色のヒーロー戦隊たちは、ちゃんと助けてくれるらしかった。明日でも何でも、言ってみるもんである。
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