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[Theme 03]3年生編

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──後輩たちの活躍はやっぱり嬉しい?
『そうですね。去年一緒に戦ったメンバーもいますし、頼もしいです。自分も負けられないなと思います』


──2年連続、あと一歩で甲子園出場を逃すということになりましたが…
『今年も鷺嶋さんにやられてしまいましたね。それだけ強い相手がいることで、後輩たちにも刺激になっていると思います。僕も応援してるんで、来年こそは頑張って欲しいです!』


球団の公式チャンネルやネットニュースを眺め、おにぎりに噛り付く。

「誰だコイツ…」

変わらず凛々しい表情で語る拓真とは対照的に、はにかむような笑顔を浮かべる男の写真には、軽く眩暈すらしてきそうだ。

「日坂、ちょっといいか」

早くも2個目のおにぎりのフィルムを剥がそうとしていたところで、教室では聞こえるはずのない声が聞こえた。
思わず背筋を伸ばして声の主を見遣れば、樫井がユニフォームではなく白衣姿で立ち竦んでいる。

いよいよ眩暈がしてきた。



樫井に連れられて辿り着いたのは、今現在授業で使用されている新しい理科室だった。
旧館は既に足場に覆われていて、立ち入ることはできなくなっている。

何かと思い出深いあの理科室で監督と二人きりになるのは非常に気まずいので、ほっと胸を撫で下ろした。

「この話は、しばらくはお前の中だけで留めていて欲しいんだが…」

小脇に抱えていたクリアファイルを開き、瑛へ差し出した。

一体何事かと恐る恐る覗き込む。
そこに並んでいたのは、名刺だった。

「え…?」

それぞれには大学の校章や企業のロゴマーク、そしてあまりに見覚えのある、プロ球団のマークもいくつか描かれていた。

「これまでに日坂のことを尋ねて来られた方々の名刺だ」
「俺を…?」


それはつまり、ここに並んでいるのは、瑛を選手として欲しているチームということ。


「甲子園もこれからなのに…」
「早いところはもっと前から来ている。正式な交渉はまだまだ先だし、相手がどこまで本気で検討しているかは分からん。だが少なくとも、現時点でこれだけの人間が日坂を見ている」

意外だな、と思った。

瑛が2年半ほど見てきた限りでは、目の前のこの男は、こういった話を選手本人に明かすような人物だとは思っていなかったからだ。
それも、よりによってこんなタイミングで。

「どう思う」

その質問もまた、意外だった。
漠然とした問いかけに、もしや白衣を着ると人が変わるのかと疑いつつも、口を開く。

「…この中の全員、本気になってもらわないと困ります。自分には、それ以外の道はないんで」

むしろもっと増えてもらわなければ。
もう一度眺めたその名刺の中には、瑛の贔屓も、はるかの贔屓すらも不在だったのだから。


「そうか…よかった」


樫井はクリアファイルを閉じて、元通り小脇に抱えた。

「日坂なら、そう言うと思った」
「え…」
「本来ならまだ伝えるべきではないんだがな。柳木に言われていたんだ」
「拓さんに…?」

思いがけない名前に瞬きをする。

「お前はこういう話をすると燃えるタイプだろうから、教えてやって欲しいと。さすがに県大会までは伏せておくつもりだったが、一番いい形で伝えられてよかった」
「…」
「今年の甲子園も期待している。やけに遠慮していたようだったが…最後の夏に、悔いを残さないように」

食事中に悪かった、と言い残して、樫井が先に理科室を後にした。



拓真や樫井の見立て通り、瑛は今の話を聞いても気が緩むどころか、むしろもっともっと結果を出さなければと焦燥感すらおぼえたところだ。

だけど少なくとも、これからもそれなりの環境で野球を続けられるということは、ほぼ確定したと言っていいのかもしれない。
もちろん、“それなり”程度では困るのだけど。

──はるかに伝えたら、喜んでくれるだろうか。

お前の中だけで留めていて欲しい、という樫井の言葉が頭を過るけれど、確実に誰にも話したりしないであろうはるかにくらいは、伝えてもいいんじゃないだろうか。

はるかとのメッセージ画面を開いてふと、やっぱりやめておくことにした。

必ず約束の未来を掴み取ってみせるから、それまでは──ずっと自分のことを心配していて欲しい。一秒でも長く自分のことを考えていて欲しい。

“早く甲子園ではるかに会いたい。顔が見たい”

それだけを文字にして、送り出した。
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