[Theme 03]3年生編
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一見打たされたかのような当たりが、シフトの穴を突いて2打席連続のツーベースヒットとなった。
今年からスイングをアッパー気味に変えてきたかと思っていたら、驚くほど器用なバッティングを見せてきた。
画面の向こうで拳を掲げる姿に、いよいよおそろしさまで感じてくる。
瑛に続いて打席に入る涼の表情は、先ほどよりは少しやわらいでいる気がした。
拓真が正捕手の座に就いていた昨年も、左翼手として甲子園という場での戦いを経験した人物。
何度か練習試合でマスクを被る姿も見ていたが、バッターを惑わせるのが非常に上手い印象があった。
正也との相性は正直心配なところで、実際苦労している話を聞いた時はどうなることかと思ったけれど、ここまでの投球内容を見る限り今は上手くいっているようだ。
何かを待つように見逃した後、振り抜かれたバット。
二塁手のグラブをすり抜け、ライト前へ転がった。
涼が一塁を駆け抜ける間に瑛も進塁し、ノーアウト一、三塁。
“三度目の正直”なるか──はるかはぎゅっと両手を組んだ。
最初のチャンスで、悔しくもセンターフライを打ち上げスリーアウトとなった左翼手。
その後の守備で魅せたレーザービームが記憶に新しい。
そして今、そのバットがゆっくりと、胸の前に掲げられた。
「スクイズ…!」
勢いを殺した見事なバントが決まる。
投球と同時に駆け出していた瑛がホームに帰り、同点に並んだ。
一塁はアウトとなったものの、最高の仕事を果たしたといえるだろう。
鷺嶋らしくないといえば、それまでだけど。
着実に一点を獲りにいくプレーもまた、野球の醍醐味にほかならない。
チームメイトとハイタッチを交わす瑛の笑顔がカメラに抜かれ、どきりとした。
涼もちゃっかりと進塁を果たし、ノーアウト二塁。
高峰はここで、継投を選択した。
尚も鷺嶋のチャンスではあるが、球は走っているし、高峰のエースは決してマウンドを降りるような状態には見えない。
この選択が、一体どんな影響を及ぼすのか──マウンドに上がったのは、今大会初登板となる2年生ピッチャーだった。
スタンドの動揺が、画面越しでも伝わってくる。
それを一瞬で黙らせるように、ミットを叩き割るような音が鳴り響いた。
「今の…何キロ…?」
高校生とは思えぬ急速に、鋭い落差。
同点に追いつき、勢いに乗ろうとしていたはずの鷺嶋のバッターは文字通り手も足も出なかった。
突如現れた剛速球。
ただ、コントロールにやや難があるのか、フォアボールで直哉が出塁した。
しかし塁上からのプレッシャーには一切動じず、走る隙も与えてくれない。
続くバッター二人をテンポよく三振に打ち取っていった。
もちろんこちらも、一歩も引くわけにはいかない。
祥太の打球が三塁手のグラブを弾き、ヒットとなった。
続く打席に瑛が入り、息を吐いてマウンドを見据えた。
何としても、主将を逆転のホームへ。
──立ち上がりでバタついてる今、決めるしかない!
その音は無情にも、高らかに鳴り響いた。
冷たい弾丸のようなストレートをしっかりと受け留めたミット。
バットを構えたまま、立ち竦む瑛。
逆転のチャンスを三球三振で消し去り、その“秘密兵器”は完成した。
再三訪れたチャンスでまたも得点を挙げられなかった鷺嶋は、次の回、勢いに乗った高峰打線に勝ち越しを許した。
さらに次の回でも追加点を奪われ、7回にして点差は2。
“あと一歩”が届かない鷺嶋。
“あと一歩”を必ずモノにする高峰。
やはり今年も、強豪の壁はあまりに大きかった。
「悔しい場面が続いているが、やるべきことは変わらない」
攻撃を前に、円陣を組んだその中心で樫井が口を開く。
「一つずつ、繋いでいく。その先に必ず、突破口がある」
“その先”──その言葉を告げるとともに、樫井は顔を上げた。
戦いの地を、ぐるりと取り囲むスタンド。
昨年の今頃は、観客のムードはすっかり高峰に傾いていた。
だけど今年は。
昨年と同じく“追う者”となった鷺嶋野球部にも、多くの声援が向けられている。
──きっと遠い空の下、画面の向こうの彼女も。
「この地にもう一度、いや何度でも、嵐を起こしてやれ!!」
チーム全員が、雄叫びを上げた。
静かにバットを見つめる後ろ姿に、視線を向ける。
「ここに来てあんなの隠し持ってたなんてな」
大柄なその背中は、ピクリとも動かない。
「悪い、祥太…頼む」
その言葉にようやく振り向いたその瞳は、とても複雑な色に揺れていた。
一見打たされたかのような当たりが、シフトの穴を突いて2打席連続のツーベースヒットとなった。
今年からスイングをアッパー気味に変えてきたかと思っていたら、驚くほど器用なバッティングを見せてきた。
画面の向こうで拳を掲げる姿に、いよいよおそろしさまで感じてくる。
瑛に続いて打席に入る涼の表情は、先ほどよりは少しやわらいでいる気がした。
拓真が正捕手の座に就いていた昨年も、左翼手として甲子園という場での戦いを経験した人物。
何度か練習試合でマスクを被る姿も見ていたが、バッターを惑わせるのが非常に上手い印象があった。
正也との相性は正直心配なところで、実際苦労している話を聞いた時はどうなることかと思ったけれど、ここまでの投球内容を見る限り今は上手くいっているようだ。
何かを待つように見逃した後、振り抜かれたバット。
二塁手のグラブをすり抜け、ライト前へ転がった。
涼が一塁を駆け抜ける間に瑛も進塁し、ノーアウト一、三塁。
“三度目の正直”なるか──はるかはぎゅっと両手を組んだ。
最初のチャンスで、悔しくもセンターフライを打ち上げスリーアウトとなった左翼手。
その後の守備で魅せたレーザービームが記憶に新しい。
そして今、そのバットがゆっくりと、胸の前に掲げられた。
「スクイズ…!」
勢いを殺した見事なバントが決まる。
投球と同時に駆け出していた瑛がホームに帰り、同点に並んだ。
一塁はアウトとなったものの、最高の仕事を果たしたといえるだろう。
鷺嶋らしくないといえば、それまでだけど。
着実に一点を獲りにいくプレーもまた、野球の醍醐味にほかならない。
チームメイトとハイタッチを交わす瑛の笑顔がカメラに抜かれ、どきりとした。
涼もちゃっかりと進塁を果たし、ノーアウト二塁。
高峰はここで、継投を選択した。
尚も鷺嶋のチャンスではあるが、球は走っているし、高峰のエースは決してマウンドを降りるような状態には見えない。
この選択が、一体どんな影響を及ぼすのか──マウンドに上がったのは、今大会初登板となる2年生ピッチャーだった。
スタンドの動揺が、画面越しでも伝わってくる。
それを一瞬で黙らせるように、ミットを叩き割るような音が鳴り響いた。
「今の…何キロ…?」
高校生とは思えぬ急速に、鋭い落差。
同点に追いつき、勢いに乗ろうとしていたはずの鷺嶋のバッターは文字通り手も足も出なかった。
突如現れた剛速球。
ただ、コントロールにやや難があるのか、フォアボールで直哉が出塁した。
しかし塁上からのプレッシャーには一切動じず、走る隙も与えてくれない。
続くバッター二人をテンポよく三振に打ち取っていった。
もちろんこちらも、一歩も引くわけにはいかない。
祥太の打球が三塁手のグラブを弾き、ヒットとなった。
続く打席に瑛が入り、息を吐いてマウンドを見据えた。
何としても、主将を逆転のホームへ。
──立ち上がりでバタついてる今、決めるしかない!
その音は無情にも、高らかに鳴り響いた。
冷たい弾丸のようなストレートをしっかりと受け留めたミット。
バットを構えたまま、立ち竦む瑛。
逆転のチャンスを三球三振で消し去り、その“秘密兵器”は完成した。
再三訪れたチャンスでまたも得点を挙げられなかった鷺嶋は、次の回、勢いに乗った高峰打線に勝ち越しを許した。
さらに次の回でも追加点を奪われ、7回にして点差は2。
“あと一歩”が届かない鷺嶋。
“あと一歩”を必ずモノにする高峰。
やはり今年も、強豪の壁はあまりに大きかった。
「悔しい場面が続いているが、やるべきことは変わらない」
攻撃を前に、円陣を組んだその中心で樫井が口を開く。
「一つずつ、繋いでいく。その先に必ず、突破口がある」
“その先”──その言葉を告げるとともに、樫井は顔を上げた。
戦いの地を、ぐるりと取り囲むスタンド。
昨年の今頃は、観客のムードはすっかり高峰に傾いていた。
だけど今年は。
昨年と同じく“追う者”となった鷺嶋野球部にも、多くの声援が向けられている。
──きっと遠い空の下、画面の向こうの彼女も。
「この地にもう一度、いや何度でも、嵐を起こしてやれ!!」
チーム全員が、雄叫びを上げた。
静かにバットを見つめる後ろ姿に、視線を向ける。
「ここに来てあんなの隠し持ってたなんてな」
大柄なその背中は、ピクリとも動かない。
「悪い、祥太…頼む」
その言葉にようやく振り向いたその瞳は、とても複雑な色に揺れていた。
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【シフト】守備陣形。試合中、野手は状況に応じて陣形を変えながら守備に当たっています。
【スクイズ】三塁ランナーをバントでホームインさせること。失敗すればバッターだけでなく三塁ランナーもアウトになる危険性のある作戦です。