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[Theme 03]3年生編

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修了式を終え、どこか浮足立った校内の空気も、窓ガラス一枚隔てれば別世界のようで。
なんとなく開いた文集のページに視線を落とした。

“3年2組ランキング”と記され、見開きいっぱいに様々な題目でクラスメイトの名前が連ねられている。
正確には、今日をもって“元クラスメイト”になるわけだけど。

“頭がいい人”、“美人な人”、“将来有名になりそうな人”──思いがけず、はるかの名前はあちこちに登場していた。

だけど、一つページをめくればそこには、白紙の寄せ書き欄。
担任の先生が予め記入してくれていたメッセージだけが、隅っこで寂しそうにしていた。

「ふーん、はるかって友達いねーの?」

うつむいた視界に、傷だらけの手が現れた。

「瑛くんは?」
「えっ、おれはいーんだよ!」

ランドセルを置いて、はるかの隣に腰を下ろす。
そうするのが当たり前というようなその所作に、無意識に心が安らいでいた。

そのまま瑛は、スポーツブランドのロゴが入った筆箱を取り出して、サインペンを握った。

そしてためらうことなく、はるかが眺めていた文集へと手を伸ばした。

“ホームランをうってし合にかつ”

見開きいっぱいに書かれた文字に、笑いがこみ上げる。

「あはは。絵馬じゃないんだから」
「エマ?だれ?」
「これはね、お友達に伝えたいことを書くところなんだよ」

──わたしには、誰も伝えたいことなんてなかったみたいだけど。

「しってるし!おれのブンシューにもあるもん」
「え…?」
「だからこれ、おまえに言ってんの!ホームラン打って勝つとこ、ちゃんと見てろよ!」

照れ隠しなのか瑛は再びペンをとって、書いたばかりの文字をさらに太く縁取っては、がしがしと塗り広げている。

そのインクは何ページにも渡ってくっきりと裏移りしていて、ランキングのページはもはやぐちゃぐちゃになっていた。

それがどうしようもなく嬉しくて、宝物を見るようにしばらくぼうっと眺めていた。



スピーカー越しに、サイレンが鳴る。

マウンドで片足を上げる正也の後ろ姿に、既に爆発しそうな緊張感がさらに駆け上がっていった。

2年連続の甲子園出場を懸けた最後の戦い。
鷺嶋高校の前に立ちはだかるのは昨年と同じ、高峰高校。

昨年に引き続き先発のマウンドに上がったエースは、まずは一つ目の三振をしっかりと手中に収めた。

球数を使ってもしっかりと、丁寧に。
打者に狙いを絞らせない。
そんな涼のリードに、正也もしっかりと頷いていて早くも胸が熱くなった。

金属音にはっとしたのも一瞬のこと。

打球は正也が振り返った先、待ち構えていた瑛のグラブに吸い込まれていった。

初回のスコアに“0”を刻み、一同がベンチへと戻っていく。
画面の中の青空は、窓の外で更けていく夜空とはまるで対照的だった。



低めに決まった球を掬い上げるようにセンター前へ運び、一塁を回る。
二塁に滑り込むと、歓声が上がった。

先にチャンスを作ったのは鷺嶋。
瑛は二塁から、バッターボックスの涼へ視線を送った。

──ガチガチじゃねえか…

ミットを構える姿はずいぶんと頼もしくなったのに、マスクを外して打席に立つ姿は一気に心許なく見えてしまう。
正也が良いピッチングをしている時ほど、打席で責任感を感じてしまうというのはあまりに皮肉なものだ。

勢いのないセカンドゴロに、続く二人のバッターもあっさりと凡退。
瑛を塁に残し、鷺嶋のスコアにもまた一つ“0”が刻まれた。


チャンスをモノにしたのは、高峰だった。

ツーアウト二、三塁から痛烈なレフト前ヒット。
先制のランナーがホームインし、セカンドランナーも勢いよく三塁を蹴る。

しかし左翼手からのレーザービームが突き刺さり、2点目は許さなかった。

どよめくスタンド。

「チャンスを活かせなかった分はチャラか?」

グラブを合わせた左翼手の言葉に、瑛は笑う。

「守備はノーカン。バットの借りはバットだろ」
「ケチくせ!」

そうは言っても彼のおかげで、先制点を奪われたにもかかわらずベンチには活気が満ちている。
一気に流れを引き寄せるべく、主将・直哉が詰まった当たりから意地の出塁を果たした。

「ウオー!二代目韋駄天!」

この回の先頭バッターで、鮮やかなまでの空振り三振に倒れた正也も元気よく叫んでいる。

続く冬真も、得意の粘りを見せた末に見事二遊間を破った。

「ウオー!二代目…何だ?」
「初代はねえのかよ」

ワンナウト一、二塁、得点圏に俊足の直哉。
再び訪れたチャンス、バッターはバントの構えを見せた。

“三塁に直哉”という状況で祥太を打席に送ることができれば、チャンスはさらに膨れ上がる。


しかし、そう簡単に事を進めさせてくれないのが高峰だ。

二度のバント失敗のあと、ヒッティングに切り替えたバッターを打ち取り、祥太にはフルカウントから外一杯のストレートで見逃し三振を掴みとられてしまった。

二度もチャンスを逃したここまでの攻撃、それも、見逃し。
祥太は奥歯を噛み締めた。

「もう少しだ」

二塁から戻った直哉が、ヘルメットを脱ぐなりそう言った。

「これだけヒットが出ていることを、素直に喜ぼう。そして、次こそ繋ごう!」

主将の言葉に、チーム全員が頷いた。

──やっと出たなー、瑛の一発!

あの日の彼らは、もうどこにもいなかった。




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【レーザービーム】野手からホームへの鋭い(速くて正確な)送球のこと。似た言葉で「ストライク返球」(=捕球位置でそのままアウトが取れる送球)もあります。
【二度のバント失敗のあと~】ツーストライクのあとに「バントを失敗」すると、ファールでも三振になります(スリーバント失敗)。もちろんそれを承知でバントに挑む場合もあります。
【外一杯】ストライクゾーンの外側ギリギリ、バッターから見て最も遠いコース。ほんの少しでもズレたらボールになるので投げるのも見極めるのも難しいところです。
【見逃し】ストライクの球に対しバットを振らなかったこと。球筋を見るためや狙い球じゃなかったりであえて見逃す場合と、ボールだと見誤って見逃してしまう場合などがあります。

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