[Theme 03]3年生編
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柄にもなくはるかを叩き起こしてまで泣き付いたら、とんでもない反撃を喰らってしまったものだと思う。
“告白してくる女子にちゃんと対応しろ”なんて言うはるかだから、今回のことも瑛の身を案じる以外は何とも思わないんじゃないかという気もしていたけれど。
──わたしだけに見せてくれる表情だとか、そういうのは…瑛くんに本当にファンができてからも、ずっとひとりじめしていたいなって…
初戦を終えた夜の言葉然り、はるかがそういう気持ちを抱いてくれるのは、瑛にとって非常に喜ばしい兆候だった。
「うーん…僕はそのネットニュース自体、鈴井さんの根回しだと思うなあ」
昼休み、人気のない寮の食堂で渚が言う。
部外者が入っていいのかと躊躇っていたが、特別そういった規則があるわけではないので大丈夫だろう。
「え、自作自演ってこと?」
「自分自身で書いたってわけではないんじゃないかな。一応、自社のライターが書いてるものみたいだし。どっちかっていうとこのライターに鈴井さんが書かせたんだと思う」
「そんなことあるのか…?」
「ええと、これ見て」
渚がテーブルに置いたタブレット。
ロック画面の集合写真──はるかや杏里がいるので、おそらく昨年の──から、カメラロールに切り替わる。
渚はそこから1枚のスクリーンショットをタップした。
SNSのアカウントが一覧のように並んでいる。
「これは、鈴井さん…“Suzu”のフォロワー欄だよ。この“山本 祐一”っていう人、あの記事を書いたライターなんだ」
「えっ、すげー!よく見つけたな…!」
正也が興奮気味に叫んだ。
その声は並んで画面を覗き込んでいた瑛の耳元で響いたので、すかさず額を叩く。
「お前、大会中だぞ!大事なエースの身体だぞ!」
「どういう関係なんだ?こいつら」
「詳しくは分からないんだけど…“Suzu”の投稿にかなりの頻度でリアクションしてるから、めちゃくちゃファンなのは明らかだね。コメントも薄っすら気持ち悪いから、だいぶ痛いかんじの」
「結構言うな、お前…」
他にも何枚かスクリーンショットを表示させながら、渚は続けた。
「他にもこういうタイプのファンが一定数いるみたいだね。もちろん、大半は普通のファンっていうか、主に同じ女子高生が多いかな。それでも…鈴井さんが脅し文句にした“影響力”は、残念ながら本物だと思う」
「渚お前、デカみたいだな」
「ええっ!?ご、ごめんなんかいろいろ勝手に…」
「いや、すげー助かる」
頼りになりそうだとは思ったが、まさかここまでとは。
瑛も正也も呆然としてしまった。
「…で、結局どうすりゃいいんだ…?このライターに、あの記事はでまかせでしたって言わせるとか?」
「少なくとも僕らがお願いしたところで、そんなことはしてくれないだろうね。二人の関係性を断定的に書いたわけではないから、出るとこ出るにしても弱い。マイナーメディアのくせに無駄にしっかりしてるよ」
「…」
「やるとしたら、“目には目を”だね」
渚の目があやしく光る。
「鈴井さんよりももっと影響力のある人をぶつけるんだ」
「なるほど…!ん?でも俺たちの周りにいるか?そんなすごい人…」
「君たちだから、いるんだよ!」
まさか、と胸がざわつくのと同時に。
「僕もその考えには同感です」
口いっぱいに何かを詰め込んだ冬真が小さく手を挙げていた。
「うおおおお冬真!!い、いいいいつの間に!」
「あいつは最初からいたぞ」
「何!?瑛は気付いてたのかっ」
「気付かねえ方が怖えよ…」
「なんか緊張してて…」
うろたえる正也を他所に、冬真が歩み寄る。
その手には食べかけのおにぎりが握られていた。
「吹部の部長さんですよね。どうも」
「あ、どうも!お邪魔してます」
「で、そのインフルエンサーにぶつける人なんですけど」
「めちゃくちゃ珍しい組み合わせなのに普通に話し始めた…」
「普通に考えたら柳木先輩でしょうか」
前置きの割にぶっ飛んだアイデアのように思えて、瞬きをする。
そんな瑛さえ置いてけぼりにして、二人は続けた。
「うん、僕もそう思ってた。今週末は一軍に出るんだよね?タイミングとしてもちょうどいいし」
「そうですね。割と注目されるでしょうし」
「いや、全然ちょうどよくねえだろ」
世話になった先輩の、人生において重要な局面で、こんなことに巻き込んでいいはずがない。
いくらこの二人が言うことでもさすがに悪手だろうと、瑛は首を振った。
しかし、冬真がそれに首を振り返す。
「何もピンポイントで今回の件に触れろって言うんじゃないです。ただ、母校の元チームメイトたちへの思いを一言語ってもらうだけですよ。このタイミングでのコメントとしてまったく不自然じゃありません」
「でも…」
「いいんですか。月城さんにつらい思いさせたままで」
そんなの、よくないに決まっている。
それでも──
「このことを知ったら、柳木さんだって黙ってないんじゃないかな」
渚もまた、冬真のように真っ直ぐに瑛を見据えた。
よく見るとこのふたりは少し似ているようにも思える。
「月城先輩は、柳木さん世代にとっても大事な“勝利の女神”でしょう?」
その言葉に思わず笑みをこぼしたのは、正也だった。
──残念ながらこのネタ、みんなに擦られすぎて殿堂入りしそうっすね。
「そうと決まれば、拓さんに連絡だ!割とすぐ返してくれるぞ!」
「お前、そんな頻繁に連絡してんのかよ」
「当たり前だろ!拓さんを勇気づけてあげられるのは俺だけだからな!」
「はあ…?何言ってんだお前…」
なんだか釈然としないけれど、世間話ついでに話を聞いてもらうくらいならいいのかなと思うことにした。
柄にもなくはるかを叩き起こしてまで泣き付いたら、とんでもない反撃を喰らってしまったものだと思う。
“告白してくる女子にちゃんと対応しろ”なんて言うはるかだから、今回のことも瑛の身を案じる以外は何とも思わないんじゃないかという気もしていたけれど。
──わたしだけに見せてくれる表情だとか、そういうのは…瑛くんに本当にファンができてからも、ずっとひとりじめしていたいなって…
初戦を終えた夜の言葉然り、はるかがそういう気持ちを抱いてくれるのは、瑛にとって非常に喜ばしい兆候だった。
「うーん…僕はそのネットニュース自体、鈴井さんの根回しだと思うなあ」
昼休み、人気のない寮の食堂で渚が言う。
部外者が入っていいのかと躊躇っていたが、特別そういった規則があるわけではないので大丈夫だろう。
「え、自作自演ってこと?」
「自分自身で書いたってわけではないんじゃないかな。一応、自社のライターが書いてるものみたいだし。どっちかっていうとこのライターに鈴井さんが書かせたんだと思う」
「そんなことあるのか…?」
「ええと、これ見て」
渚がテーブルに置いたタブレット。
ロック画面の集合写真──はるかや杏里がいるので、おそらく昨年の──から、カメラロールに切り替わる。
渚はそこから1枚のスクリーンショットをタップした。
SNSのアカウントが一覧のように並んでいる。
「これは、鈴井さん…“Suzu”のフォロワー欄だよ。この“山本 祐一”っていう人、あの記事を書いたライターなんだ」
「えっ、すげー!よく見つけたな…!」
正也が興奮気味に叫んだ。
その声は並んで画面を覗き込んでいた瑛の耳元で響いたので、すかさず額を叩く。
「お前、大会中だぞ!大事なエースの身体だぞ!」
「どういう関係なんだ?こいつら」
「詳しくは分からないんだけど…“Suzu”の投稿にかなりの頻度でリアクションしてるから、めちゃくちゃファンなのは明らかだね。コメントも薄っすら気持ち悪いから、だいぶ痛いかんじの」
「結構言うな、お前…」
他にも何枚かスクリーンショットを表示させながら、渚は続けた。
「他にもこういうタイプのファンが一定数いるみたいだね。もちろん、大半は普通のファンっていうか、主に同じ女子高生が多いかな。それでも…鈴井さんが脅し文句にした“影響力”は、残念ながら本物だと思う」
「渚お前、デカみたいだな」
「ええっ!?ご、ごめんなんかいろいろ勝手に…」
「いや、すげー助かる」
頼りになりそうだとは思ったが、まさかここまでとは。
瑛も正也も呆然としてしまった。
「…で、結局どうすりゃいいんだ…?このライターに、あの記事はでまかせでしたって言わせるとか?」
「少なくとも僕らがお願いしたところで、そんなことはしてくれないだろうね。二人の関係性を断定的に書いたわけではないから、出るとこ出るにしても弱い。マイナーメディアのくせに無駄にしっかりしてるよ」
「…」
「やるとしたら、“目には目を”だね」
渚の目があやしく光る。
「鈴井さんよりももっと影響力のある人をぶつけるんだ」
「なるほど…!ん?でも俺たちの周りにいるか?そんなすごい人…」
「君たちだから、いるんだよ!」
まさか、と胸がざわつくのと同時に。
「僕もその考えには同感です」
口いっぱいに何かを詰め込んだ冬真が小さく手を挙げていた。
「うおおおお冬真!!い、いいいいつの間に!」
「あいつは最初からいたぞ」
「何!?瑛は気付いてたのかっ」
「気付かねえ方が怖えよ…」
「なんか緊張してて…」
うろたえる正也を他所に、冬真が歩み寄る。
その手には食べかけのおにぎりが握られていた。
「吹部の部長さんですよね。どうも」
「あ、どうも!お邪魔してます」
「で、そのインフルエンサーにぶつける人なんですけど」
「めちゃくちゃ珍しい組み合わせなのに普通に話し始めた…」
「普通に考えたら柳木先輩でしょうか」
前置きの割にぶっ飛んだアイデアのように思えて、瞬きをする。
そんな瑛さえ置いてけぼりにして、二人は続けた。
「うん、僕もそう思ってた。今週末は一軍に出るんだよね?タイミングとしてもちょうどいいし」
「そうですね。割と注目されるでしょうし」
「いや、全然ちょうどよくねえだろ」
世話になった先輩の、人生において重要な局面で、こんなことに巻き込んでいいはずがない。
いくらこの二人が言うことでもさすがに悪手だろうと、瑛は首を振った。
しかし、冬真がそれに首を振り返す。
「何もピンポイントで今回の件に触れろって言うんじゃないです。ただ、母校の元チームメイトたちへの思いを一言語ってもらうだけですよ。このタイミングでのコメントとしてまったく不自然じゃありません」
「でも…」
「いいんですか。月城さんにつらい思いさせたままで」
そんなの、よくないに決まっている。
それでも──
「このことを知ったら、柳木さんだって黙ってないんじゃないかな」
渚もまた、冬真のように真っ直ぐに瑛を見据えた。
よく見るとこのふたりは少し似ているようにも思える。
「月城先輩は、柳木さん世代にとっても大事な“勝利の女神”でしょう?」
その言葉に思わず笑みをこぼしたのは、正也だった。
──残念ながらこのネタ、みんなに擦られすぎて殿堂入りしそうっすね。
「そうと決まれば、拓さんに連絡だ!割とすぐ返してくれるぞ!」
「お前、そんな頻繁に連絡してんのかよ」
「当たり前だろ!拓さんを勇気づけてあげられるのは俺だけだからな!」
「はあ…?何言ってんだお前…」
なんだか釈然としないけれど、世間話ついでに話を聞いてもらうくらいならいいのかなと思うことにした。