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[Theme 03]3年生編

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「三輪ねえ…」

千景が呟く。

「迫力あるよね、あの子」

他のチームメイトよりも一回り近く大柄に見える、圧倒的スラッガーの風格。
目力も人一倍で、離れていても威圧感を感じるほどだ。

一方、実際の成績は決して芳しいものとは言えず。
練習試合でも打席に立つ機会は少なく、昨年夏のベンチ入りも逃していた。

今日の試合でも、最初の打席は三振に終わっている。

「…だけど、彼はきっと“何か”を持っている。そう信じています…!」
「え、はるかちゃん目つけてたの?」

スタンドにまで漂う暗いムードを跳ね返すように、吹奏楽部の演奏が力強く響き渡る。
はるかは部員たちの方を仰ぎ見て、大きく頷いた。

そして目一杯の念を込めて、視線を打席に送る。

──全身から漲る闘志、力強いスイング、歯車が嚙み合えばきっと…!


詰まった当たり。

しかしその打球は、ギリギリのフェアとなった。

「おお、思ったより早い…!」

巨体が駆け出し、一塁へ。
ミラクルのような出塁に、ベンチとスタンドが一気に沸いた。



祥太には代走が送られ、送りバントで進塁。
涼が粘りに粘った後に繰り出したヒットで1点を返し、これが決勝点となった。

なんとか初戦を突破し、スタンドも活気に満ちていた。

千景がベンチ裏へと向かっていったので、はるかも吹奏楽部が陣取るエリアへ歩み寄る。

「月城先輩!お久しぶりです!」

渚をはじめ、部員たちが口々にはるかの名前を呼ぶのを、遠くから眺めている存在に気付く。
刺すような視線にはそっと気付かないふりをして、はるかは微笑んだ。

「今年も暑いねー。みんな水分塩分摂って、無理しないようにね。夏は長いからね!」
「はい!」
「これ、よかったら。日持ちするからひと夏はいけるかな?」
「えっ、いいんですか!?ありがとうございます!」

大き目の紙袋に詰め込んだ塩分タブレット。
荷物になるかとも思ったけれど、吹奏楽部にもバスがあるのでおそらく大丈夫だろう。

「下まで持ってっとくよ。気を付けて降りといでね」
「あ…すいません、ありがとうございます!」

渚はまだ到底話し足りない様子だったが、片付けの邪魔にならないよう、早々に立ち去る。
出入り口に向かう間も、視線が追いかけてくるのを感じた。


「はるか!」

階段を降りると、すぐに瑛が駆け寄ってきた。
いつだったかと同じように、土だらけのユニフォーム姿のままだ。

「着替えてバス乗るんじゃないの?こんなとこいて大丈夫?」
「…相変わらずつめてーな。それ、くれんの?」
「あ、ごめん…これは吹部の子たちに…」

はるかがそう言うと、瑛は迷子の子どものような目をして黙り込んだ。
初回にタイムリーを放った瞬間の眼差しが嘘のようだ。

「…あの、でもね。瑛くんにだけ持ってきたものがあるから、あとで会えるかな?」

みんなの分はないから、内緒なんだけど。
耳元でそう囁くと、瑛は咄嗟にはるかの手をとった。

「…なんか、ムカつく。いろいろとズルすぎ」
「ええ…」
「ちょっと遅くなるけどいい?どっか泊ってくの?」
「うん、もちろん!普通にうちに帰るよ」
「わかった。また連絡する」

そう言って、手をとったまま、しばらくじっとはるかの瞳を見つめて。

撫でるようにそっと指を滑らせて、手を離した。

「それどこ持ってくの?吹部のバス?」
「ああ、これはいいよ!早く帰る準備しておいで」

ぽんぽんとやさしく背中を押す。
瑛は見るからに名残惜しそうに、ベンチ裏へと踵を返した。


吹奏楽部への差し入れは、バスの前にいた部員に預けた。
はるかも久しぶりの我が家へ向かおうと、スマートフォンで電車の時間を確かめる。
ゆっくり歩いてちょうどいいくらいだ、と頷いたところで、画面に影が落ちた。

近くで見るとますます懐かしいな、なんて思う制服。
自分とは違うリボンの色が時の流れを感じさせた。

「ええと…?」

──さて、どうしたものか。

はじめて向けられるタイプの視線に見下ろされ、はるかは困ったように笑った。



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【スラッガー】長打力のあるバッターのこと。
【フェア】ファウルゾーンギリギリにある、フェアゾーンに打球が落下すること。厳密には他にもいろいろ複雑な条件があります。

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