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[Theme 03]3年生編

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「それ、あのサックスの男にも言っといて。“大好きな彼氏がいるので近付かないでください”って」
『ええっ、い、一応…知ってるよ。一番最初に会った時、思いっきりロック画面見られたし』
「それであの態度かよ。ありえねー」
『両親とも日本人だけど、ずっとアメリカ育ちなんだって。だから変な意味はないって言うんだけど…でもやっぱりわたしは慣れないのでやめてくださいって言ってもあんなかんじ…』
「おい、一発殴らせろ」

“変な意味はない”なんて、信じられるわけがない。
瑛は無意識にグリップをぎりぎりと握り締めていた。

『あ、瑛くんだって、最近女の子ファン増えてるの知ってますよ…!』
「は?」

思いもよらない反論に、バットを落としそうになる。

『千景君からタレコミがありました!なんか、わたしが卒業したのをいいことに瑛くんに迫りくる勢力があるとか…!?』
「“勢力”…?まだいんのか…?」
『ファンを大事にして欲しいとは言ったけど、明確に下心で近付こうとする方々は別です!』
「え?」
『瑛くんこそ、か、“彼女がいるので度を越したファンサはできません”って、有事の際はちゃんと言ってね…!』

いよいよバットを地面について、うずくまってしまった。
両手がふさがっていて、痛いほどに震える腹を押さえられない。

『笑ってる場合じゃありません…!』
「く…いや、ごめん…お前、やっぱ傑作だわ。ていうか、度を越さなきゃいいのかよ?」
『それは致し方ない…』
「そんなふうには聞こえねーけど?」
『鍛えていかないといけないから…将来、ファンフェスとかに向けて…』

──大丈夫だ。今は、きっと“一緒に”戦えてる。

自分自身の胸に刻み付けるようにそう思っていると、瑛と同じようにバットを持つ部員たちが、寮から歩いてくるのが見えた。

そこに、ルームメイトの姿はない。

『瑛くん?どうしたの?』
「…いや、ちょっといろいろと考え直したとこ」

とりとめのない返答に、はるかはただ“そっか”と囁いた。


そんなはるかともう二、三言葉を交わして、電話を切った。
ポケットの中に収まった重みが、瑛の背中を押す。

「…ウス」
「え、瑛?」

辿り着いた部員たちに一声かけて、瑛は来た道を引き返した。
バットを持っていたのに振らずに帰っていくその背中を、誰もが訝しげに見送る。

そのまま部屋まで戻ってドアを開けると、祥太はようやく起き出したところだった。

「おい」

一切会話のなかった部屋に、投げかける。

「…何だよ」
「何がそんなに気に入らねえの?」

直球勝負を仕掛けると、祥太は目を丸くした。

その視線はしばらく傷だらけのフローリングをさまよう。

「…別に。朝から晩までバット振ってても報われない奴らだっているのに、お前はずいぶん楽しそうだなって」
「は?」
「レギュラー確定だからって毎晩コソコソ女と電話かよ。“現地妻”まで作って、器用だな」
「…」
「まあ、お前ほどの実力があれば、誰も咎められねえよな」

ゆるりと、視線が瑛に向かった。
思わずはっとするほど、仄暗い瞳。


「だからムカつくんだよ」


呟くようなその声も、祥太の視線とともにずしりと沈んでいった。

──お前…それ絶対本人に言うなよ

悪いな、と心中で独り言ち、口を開いた。

「…そんなに羨ましいなら、登ってこいよ。ここまで」

小さく開いたカーテンの影が伸びる。

「俺は、お前に打ってもらわねえと困るんだよ」

やんわりと差し込んだ朝日が、祥太の背中を照らした。

生まれ持った体格以上に、鍛え上げたその身体。


「…まあ、打ってくれなくてもやるしかねーんだけど」

それだけ言い残して、瑛はまた部屋を後にした。

直哉が聞いたら平手打ちされそうな口上だったが、仕方ない。
気の利いた言葉をこねくり回している時間なんて、もうどこにもないから。




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【ファンフェス】ファンフェスティバル、ファン感謝祭。プロ野球球団が、ファンに対して日頃の感謝を伝えるために行うイベント。選手が出演するいろんなステージ企画が行われるほか、かなり近い距離感で選手と接することができる企画なんかもあったりします(ツーショット撮影やグッズのお渡し等)(そんなことより紅白戦が観たい…!)。

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