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[Theme 03]3年生編

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いつからか、SNSには繋がりのある人よりも、見ず知らずの人の発信で埋め尽くされるようになった。

はじめは戸惑ったものの、慣れてくると意外にも新しい価値観や、はたまた自分が書いたのかと思うほどに共感できる意見に出会ったりして面白いなとも感じる。
中には“たしかに好きだけど、なぜ分かった…?”というようなものも流れてきて、そういう時はやはりゾッとするのだけど。

──例えば、“女子高生インフルエンサー”の自撮りに収められた、自分の恋人の姿だったり。

「なんとお目が高い…!」
「その反応合ってる?」

勝手にスマートフォンの画面を覗き込んでくるのは、もはやいつものことで。
圭がそのまま隣に座ることにも、慣れてしまっていた。

「でも、試合中によくこんな余裕あるな…しかもこんなに目の前で打席に立ってて…」
「おおー、言うじゃん」
「いや、そのままの意味ですよ。知らない文化だ…」
「…いいの?彼氏にこんなの湧いてて」
「彼には多くの人に愛される選手になって欲しいですから」

でも、と写真に添えられたテキストを目で追う。

「“最古参”なんてのは、いただけませんねえ…?」

胸がざわざわするのは恋人としてじゃなく、ファンとして。

言い聞かせるように頷くはるかを、圭は愉快そうに眺めていた。



悠然と放物線を描いた白球が、ネットを揺らす。

先にホームへ帰っていたチームメイトと拳を合わせ、遠征最後の試合が終了した。


「やっと出たなー、瑛の一発!」

ベンチで瑛を迎え入れたのは、そんな一言。

「俺らもチャンス作れるように、頑張らなきゃな…」

白星を掲げての帰路だが、車内の空気は暗かった。

「…自分で打つ気ないんですか、あの人たち」

隣で冬真が呟く。
その拳は膝の上で硬く結ばれ、小刻みに震えていた。

「ホントだよ。俺が4番打ってる場合じゃねえんだよな」
「それもそれでどうなんですか」
「さすがに端から一発期待されたんじゃ、キツいって」

──そういう役目は、俺じゃなくてもっと…

今この車内にはいない姿を、思い浮かべる。



「え、祥太が藏崎…?」

昨夜、ミーティングルームで直哉から聞いた話には耳を疑った。

高校ではじめて出会ったつもりでいた祥太が、なんと瑛と同じ藏崎出身で、それどころかリトル時代は同じチームに所属していたというのだ。

「いや、知らなかったのが信じられねえんだけど…」
「…なんか、あんまり記憶ねえんだよな。その頃…」
「え…ご、ごめん…?」

“その頃”、というより。

小学4年生の秋、はるかとの突然の別れからここ鷺嶋に来るまで、瑛の記憶はずっと曖昧だ。
我を失ったようにただひたすらに白球を追っていたことだけを、ぼんやりと覚えているだけ。
正也のことだけは、あまりに騒がしいので嫌でも記憶にこびりついているけれど。

「なかなかレギュラーとれないけどさ…去年まではもっとやる気あったはずなんだよな。もう、これで最後なのに…」

昨年時点で千景の後任としての呼び声が高かったとはいえ、何も確約などされてはいない直哉だって、もう後がない現状は同じだ。
それでもこうして同じ3年生の部員たちに思いを馳せているのは、さすが主将の器といったところだろうか。

──俺とは違って。

「いい加減覚醒して欲しいんだけどな。打撃の練習ばっかりしてる訳にいかねえんだし…」
「お前…それ絶対本人に言うなよ」
「言わねえよ。なんか、明らかに嫌われてるし…」

部屋にいても、会話はない。

全体練習の後も昨年以上に練習量を増やしている瑛にとっては、ほぼ寝るためだけの部屋と化していたのでさほど問題にはなっていないけれど。

「あれで正也も涼も頑張ってるからさ。お前らもなんとか考えてみてくれよ」
「はあ…?」
「一人でやるんじゃねえんだから、野球は」



──“一人でやるんじゃねえ”って言うんなら、俺に全部押し付けるのはやめろよ。

祥太のことも、試合も、わけのわからないクラスメイトだかインフルエンサーだかのことも。

スマートフォンの画面に浮かび上がったテキストに、溜め息をこぼした。

“瑛ってSuzuちゃんと付き合ってるの?すごくね?”

卒業してもそのままになっている、シニアチームのグループ。
時折思い出したようにメッセージが飛び交うのを、特に反応もせず既読だけ付けていたが、まさか自分が話題に上がるとは。

しかもこんなどうでもいいことで。

“誰だよ”
“おお、瑛がしゃべった!”
“すげー!”

あっという間に増えていくメッセージをただ眺めていると、つくづく憂鬱な気分になった。
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