[Theme 02]2年生編
49
「ああ、そうよ!おめでとう、甲子園!」
はるかのセリフに大きく瞬きをして、薫は手を叩いた。
「はるちゃんから聞いて、テレビ観てたよ。あんなにちっちゃかった瑛君が、立派になって一生懸命頑張ってて…ちょっと涙出ちゃった」
「…ありがとうございます」
「一生懸命頑張ってる姿、近くで観に行こうよ!」
マグカップを置いて、はるかがもう一度語りかける。
「テレビもいいけど、球場で観るともっと、すっごくワクワクするんだよ!あの空気を、お母さんにも味わってほしい。一緒に瑛くんたちを応援したい!」
「…はるちゃん…」
「はるかさんはもう球場慣れてるし、うちの父親も来ると思うんで、いろいろ心配はないかと思います。良いプレーを見せられるよう頑張ります。甲子園に、来てもらえませんか」
瑛もそう言って、頭を下げた。
「…うん、わかった。楽しみにしてるね」
はるかとよく似た笑顔を浮かべたその瞳は、不安気に揺れていた。
「ありがとうございます」
その瞳にも、新しい夏の景色を──
瑛はテーブルの下で、拳を固く結んだ。
ふたりはまた、駅のホームに立った。
時刻は20時になろうというというところだが、空はまだうっすらと明るい。
「抽選会はいつ?」
「確か3日だったな」
「拓真君大変だね」
「ホントだよな、そろそろオンラインにできねえのかなあれ」
そうだよね、なんて相槌を打ちながら、はるかが自販機のボタンに手を伸ばす。
その指先が目に入って、瑛は慌てて手をとった。
「待て待て。お前さすがにコーヒー飲みすぎだろ…」
「ええ、寝れるから大丈夫だって」
「そういう問題じゃ…」
「そんなのいちいち口出されるの、ウザくない?」
背後から飛んできた声に、振り返る。
2日前、県大会決勝のグラウンドで対峙した男が、そこに佇んでいた。
「はっ、“高峰の4番”…!」
「もう4番じゃねえよ、誰かさんのせいでな。秀人 って呼んで?」
「市川 さん」
ノコノコとはるかに近付いて来ようとしたその男の前に立ち、瑛ははるかを背に隠した。
「うわ、やっぱり」
「は?…こんなとこで何してんすか」
「それ言ったら、お前らの方が何してんの?ここ、うちの最寄だし」
「確かに…!」
肩越しに、はるかが短く息を呑むのが聞こえる。
瑛は溜め息をこぼした。
「お前さ、その謎の引力どうにかしてくんねえ?」
「えっ!?」
「余計な虫がつくのは学内で十分なんだけど」
「むし…?」
「あーめんどくせえ。やっぱどっか閉じこめとくか」
「はい!?」
「いや、だから、無視すんなよ俺を」
秀人のことなど眼中にないかのように、ぽんぽんと並べられる物騒なセリフに秀人は顔を引き攣らせた。
「なあお前、高校出たらどうすんの?」
不機嫌な顔に、問いかける。
「プロ行きますけど」
瑛は試合中と同じ、鋭い視線を返した。
「…ふーん。じゃあリベンジはその時かな」
「は?」
「俺、先に行ってるから。今年甲子園行けなかったのは痛いけど、これまでで十分結果出してるから問題ないね」
確かに、秀人は1年生の頃からレギュラー入りし、春夏2年連続の甲子園出場、秋季大会や明治神宮大会でもスカウトの目に留まるには十分といっていい活躍を収めてきた。
今年は夏の甲子園こそ逃したものの、春は関東の強豪校を下しベスト8に名を連ねていた。
「これからまだまだ大変だね?」
相変わらずニヤニヤとした顔が、瑛を見下ろす。
「…というわけで俺、入団までちょっと余裕あるんだけどどう?」
「はい?」
その視線が瑛の背後に映った。
「決勝のホームランの景品、おねえさんがいいんだけど?」
「な…っ」
「お前、」
一歩前に出た瑛の腕を慌てて掴み、はるかが瑛の隣に並んだ。
「こちらは、鷺嶋高校限定の景品ですので…!」
真っ赤な顔で一生懸命睨む──正確には睨んでいるつもりの──はるか。
秀人は堪えきれずに笑った。
「ハーおかしい。だってよ、良かったよな打てて」
「…」
「まあ、またあのバッティングセンター行くから。気が変わったらいつでも言って?」
「結構です!ハリアーズに来たら歓迎します!ただのファンとして!」
「おい」
「へえ?ドラフト楽しみだなあ」
秀人はそう言って、ちょうど滑り込んできた列車を見た。
どうやら彼が乗る列車のようだ。
ひらひらと手を振って乗り込んでいく。
瑛はその姿を睨み付けながら、もう一度溜め息をこぼした。
「…お前、やっぱりあのバッセン禁止な」
「ええっ!!」
──超ビッグになっちゃうかもしれない。
はるかの母親の言葉がリフレインして、頭を抱えた。
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「ああ、そうよ!おめでとう、甲子園!」
はるかのセリフに大きく瞬きをして、薫は手を叩いた。
「はるちゃんから聞いて、テレビ観てたよ。あんなにちっちゃかった瑛君が、立派になって一生懸命頑張ってて…ちょっと涙出ちゃった」
「…ありがとうございます」
「一生懸命頑張ってる姿、近くで観に行こうよ!」
マグカップを置いて、はるかがもう一度語りかける。
「テレビもいいけど、球場で観るともっと、すっごくワクワクするんだよ!あの空気を、お母さんにも味わってほしい。一緒に瑛くんたちを応援したい!」
「…はるちゃん…」
「はるかさんはもう球場慣れてるし、うちの父親も来ると思うんで、いろいろ心配はないかと思います。良いプレーを見せられるよう頑張ります。甲子園に、来てもらえませんか」
瑛もそう言って、頭を下げた。
「…うん、わかった。楽しみにしてるね」
はるかとよく似た笑顔を浮かべたその瞳は、不安気に揺れていた。
「ありがとうございます」
その瞳にも、新しい夏の景色を──
瑛はテーブルの下で、拳を固く結んだ。
ふたりはまた、駅のホームに立った。
時刻は20時になろうというというところだが、空はまだうっすらと明るい。
「抽選会はいつ?」
「確か3日だったな」
「拓真君大変だね」
「ホントだよな、そろそろオンラインにできねえのかなあれ」
そうだよね、なんて相槌を打ちながら、はるかが自販機のボタンに手を伸ばす。
その指先が目に入って、瑛は慌てて手をとった。
「待て待て。お前さすがにコーヒー飲みすぎだろ…」
「ええ、寝れるから大丈夫だって」
「そういう問題じゃ…」
「そんなのいちいち口出されるの、ウザくない?」
背後から飛んできた声に、振り返る。
2日前、県大会決勝のグラウンドで対峙した男が、そこに佇んでいた。
「はっ、“高峰の4番”…!」
「もう4番じゃねえよ、誰かさんのせいでな。
「
ノコノコとはるかに近付いて来ようとしたその男の前に立ち、瑛ははるかを背に隠した。
「うわ、やっぱり」
「は?…こんなとこで何してんすか」
「それ言ったら、お前らの方が何してんの?ここ、うちの最寄だし」
「確かに…!」
肩越しに、はるかが短く息を呑むのが聞こえる。
瑛は溜め息をこぼした。
「お前さ、その謎の引力どうにかしてくんねえ?」
「えっ!?」
「余計な虫がつくのは学内で十分なんだけど」
「むし…?」
「あーめんどくせえ。やっぱどっか閉じこめとくか」
「はい!?」
「いや、だから、無視すんなよ俺を」
秀人のことなど眼中にないかのように、ぽんぽんと並べられる物騒なセリフに秀人は顔を引き攣らせた。
「なあお前、高校出たらどうすんの?」
不機嫌な顔に、問いかける。
「プロ行きますけど」
瑛は試合中と同じ、鋭い視線を返した。
「…ふーん。じゃあリベンジはその時かな」
「は?」
「俺、先に行ってるから。今年甲子園行けなかったのは痛いけど、これまでで十分結果出してるから問題ないね」
確かに、秀人は1年生の頃からレギュラー入りし、春夏2年連続の甲子園出場、秋季大会や明治神宮大会でもスカウトの目に留まるには十分といっていい活躍を収めてきた。
今年は夏の甲子園こそ逃したものの、春は関東の強豪校を下しベスト8に名を連ねていた。
「これからまだまだ大変だね?」
相変わらずニヤニヤとした顔が、瑛を見下ろす。
「…というわけで俺、入団までちょっと余裕あるんだけどどう?」
「はい?」
その視線が瑛の背後に映った。
「決勝のホームランの景品、おねえさんがいいんだけど?」
「な…っ」
「お前、」
一歩前に出た瑛の腕を慌てて掴み、はるかが瑛の隣に並んだ。
「こちらは、鷺嶋高校限定の景品ですので…!」
真っ赤な顔で一生懸命睨む──正確には睨んでいるつもりの──はるか。
秀人は堪えきれずに笑った。
「ハーおかしい。だってよ、良かったよな打てて」
「…」
「まあ、またあのバッティングセンター行くから。気が変わったらいつでも言って?」
「結構です!ハリアーズに来たら歓迎します!ただのファンとして!」
「おい」
「へえ?ドラフト楽しみだなあ」
秀人はそう言って、ちょうど滑り込んできた列車を見た。
どうやら彼が乗る列車のようだ。
ひらひらと手を振って乗り込んでいく。
瑛はその姿を睨み付けながら、もう一度溜め息をこぼした。
「…お前、やっぱりあのバッセン禁止な」
「ええっ!!」
──超ビッグになっちゃうかもしれない。
はるかの母親の言葉がリフレインして、頭を抱えた。
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※この話に続く番外編があります。読まなくてもストーリー上支障はありませんが、ご興味がありましたらぜひ。