[Theme 02]2年生編
46
「ウオリャ!」
「は…?うおお、行ったー!!」
──目標はエースで4番!鷺嶋のオオタニに、俺はなる!
そう豪語しつつも残念な打席が多かった正也に、公式戦初のヒットが生まれた。
記念すべきヒットをなんとか得点に繋げてやりたい。
そんな思いが実を結び、3番のバットで1点を返し試合が振り出しに戻ったものの、すかさず高峰に1点を奪われる。
4回、“高峰の4番”のツーランホームランから観客たちのムードも高峰側に傾いていた。
やっぱり高峰だったね、でも鷺嶋も結構頑張ったね、まるでそんなセリフを言う準備ができているかのようだ。
「もう十分頑張った」
鷺嶋のベンチに描かれた円の中心で、樫井が口を開いた。
「…そう思っている者はこの中にいるか」
その言葉に、誰もが心中で大きく首を振る。
そしてそれを、樫井は確かに感じ取る。
「そうだ、お前たちはまだやれる。ここまでしっかりとその準備をしてきたはずだ。球数も投げさせている。珍しい一本もあった」
「か、監督…」
正也の情けない声に、ひっそりと笑いが漏れる。
「明日は嵐か、いや──今この瞬間、お前たちが嵐を起こせ。この球場をひっくり返してやれ!!」
「ハイ!!」
今一度決意を硬め、繋ぐ1点。
それもまた、塗り替えられてしまう。
球場のボルテージが上がっていく。
「ゴメン、正也」
千景がいつになく、その表情を歪めてこぼした。
「いやマジで、守備堅すぎっすよ…特に内野。詐欺だろこんなん」
「ピッチャーもフィールディング上手いしな、お前と違って」
「オイ!監督も俺を使ってなんか上手いこと言うし、なんなんだよ!」
「…ずいぶん落ち着いてるね」
その言葉に、正也は笑った。
「俺、打たれちゃってますけど…一秒も諦めてない皆さんが、マジで頼もしくて」
正也の視線は、そこに集まる面々と、ベンチ、そしてその上方へ。
「スタンドもいつの間にかめちゃくちゃアウェー感ですけど、あのへんだけはずっと俺たちのこと応援してくれてますよね」
「ああ、そうだな」
「キレてるヤツもいるけどな」
「え?ああ…それは瑛のせいでしょ」
千景も、いつものようにくすくすと笑った。
「ただその…俺たぶんそろそろアレなので、この回でよろしくお願いします」
「うん、正しい自己分析だね」
「成長したな」
「だから、瑛オイ!」
騒がしいのはいつまで経っても変わらないけど。
ここで語られたのは間違いなく、“エースの言葉”。
「わかった。約束しよう」
主将が応えて、一同は散った。
宣言通り、ボールが先行する“そろそろアレ”な投球。
それでもどうにか打ち取り、9回表のスコアに“0”を刻んだ。
4対3。
“あとアウト3つで甲子園”、高峰の選手たちがより一層引き締まった表情でフィールドに飛び出していった。
代打が出た関係でセンターへと移った4番の男だけは、相変わらずニヤニヤと笑みを浮かべている。
2番の粘りを見せるバッティングは、まさにその男のグラブに摘み取られた。
3番には、球数を投げても尚崩れない高峰のエースのピッチングが猛威を振るう。
“あと3つ”が、“あと1つ”へ。
「力みは取れたようだな──瑛」
5回終了後のグラウンド整備中、拓真が言った。
先制打となった、瑛のレフト前ヒット。
初戦から感じていた“感覚のズレ”はなくなっていた。
「お前も案外分かりやすいところがあったんだな」
気負い過ぎていた。身体中が力んでいた。
自分のスイングが、できていなかった。
それは拓真の目からは、あまりにも明らかだったことだろう。
「…情けないっす」
「それでも打っていたんだから、お前は本当におそろしいな」
拓真の目が、バックスクリーンを仰ぐ。
電光掲示板に並んだ、チームメイトの名前。
「後ろから追い上げてくるお前に、嚙み千切られないように毎日必死だ」
「え…」
「だが…夏が終わるまで、4番は譲らない」
打順にはこだわらない。
こだわるのは、結果だけ。
それでも、自分の前を打つ男のその言葉には、胸が熱くなった。
ネクストから、打席に立つ拓真を見つめる。
猛暑の中全身に防具を纏い、常にフィールドの端から端まで神経を張り巡らせる。
打席に立てば4番の仕事を、そして主将としてのふるまいは、試合の外でも。
とめどなく伝う汗は、彼の苦労を、努力を、そして生き様を現すようだった。
ツーアウト、ツーストライク。
崖っぷちの打席から、金属音が高らかに鳴り響いた。
打球は右中間を飛び越え、フェンスに直撃する。
またしても、たった一人でチャンスを創り出した拓真が、三塁で吠えた。
瑛はバットを握り締め、静かに立ち上がった。
________________
【フィールディング】捕球や送球といった一連の守備動作のこと。投手ももちろん、9人目の野手として守備をする場面があります。
【ネクスト】次の打者が待機する場所のこと。ネクスト・バッターズ・サークル。
「ウオリャ!」
「は…?うおお、行ったー!!」
──目標はエースで4番!鷺嶋のオオタニに、俺はなる!
そう豪語しつつも残念な打席が多かった正也に、公式戦初のヒットが生まれた。
記念すべきヒットをなんとか得点に繋げてやりたい。
そんな思いが実を結び、3番のバットで1点を返し試合が振り出しに戻ったものの、すかさず高峰に1点を奪われる。
4回、“高峰の4番”のツーランホームランから観客たちのムードも高峰側に傾いていた。
やっぱり高峰だったね、でも鷺嶋も結構頑張ったね、まるでそんなセリフを言う準備ができているかのようだ。
「もう十分頑張った」
鷺嶋のベンチに描かれた円の中心で、樫井が口を開いた。
「…そう思っている者はこの中にいるか」
その言葉に、誰もが心中で大きく首を振る。
そしてそれを、樫井は確かに感じ取る。
「そうだ、お前たちはまだやれる。ここまでしっかりとその準備をしてきたはずだ。球数も投げさせている。珍しい一本もあった」
「か、監督…」
正也の情けない声に、ひっそりと笑いが漏れる。
「明日は嵐か、いや──今この瞬間、お前たちが嵐を起こせ。この球場をひっくり返してやれ!!」
「ハイ!!」
今一度決意を硬め、繋ぐ1点。
それもまた、塗り替えられてしまう。
球場のボルテージが上がっていく。
「ゴメン、正也」
千景がいつになく、その表情を歪めてこぼした。
「いやマジで、守備堅すぎっすよ…特に内野。詐欺だろこんなん」
「ピッチャーもフィールディング上手いしな、お前と違って」
「オイ!監督も俺を使ってなんか上手いこと言うし、なんなんだよ!」
「…ずいぶん落ち着いてるね」
その言葉に、正也は笑った。
「俺、打たれちゃってますけど…一秒も諦めてない皆さんが、マジで頼もしくて」
正也の視線は、そこに集まる面々と、ベンチ、そしてその上方へ。
「スタンドもいつの間にかめちゃくちゃアウェー感ですけど、あのへんだけはずっと俺たちのこと応援してくれてますよね」
「ああ、そうだな」
「キレてるヤツもいるけどな」
「え?ああ…それは瑛のせいでしょ」
千景も、いつものようにくすくすと笑った。
「ただその…俺たぶんそろそろアレなので、この回でよろしくお願いします」
「うん、正しい自己分析だね」
「成長したな」
「だから、瑛オイ!」
騒がしいのはいつまで経っても変わらないけど。
ここで語られたのは間違いなく、“エースの言葉”。
「わかった。約束しよう」
主将が応えて、一同は散った。
宣言通り、ボールが先行する“そろそろアレ”な投球。
それでもどうにか打ち取り、9回表のスコアに“0”を刻んだ。
4対3。
“あとアウト3つで甲子園”、高峰の選手たちがより一層引き締まった表情でフィールドに飛び出していった。
代打が出た関係でセンターへと移った4番の男だけは、相変わらずニヤニヤと笑みを浮かべている。
2番の粘りを見せるバッティングは、まさにその男のグラブに摘み取られた。
3番には、球数を投げても尚崩れない高峰のエースのピッチングが猛威を振るう。
“あと3つ”が、“あと1つ”へ。
「力みは取れたようだな──瑛」
5回終了後のグラウンド整備中、拓真が言った。
先制打となった、瑛のレフト前ヒット。
初戦から感じていた“感覚のズレ”はなくなっていた。
「お前も案外分かりやすいところがあったんだな」
気負い過ぎていた。身体中が力んでいた。
自分のスイングが、できていなかった。
それは拓真の目からは、あまりにも明らかだったことだろう。
「…情けないっす」
「それでも打っていたんだから、お前は本当におそろしいな」
拓真の目が、バックスクリーンを仰ぐ。
電光掲示板に並んだ、チームメイトの名前。
「後ろから追い上げてくるお前に、嚙み千切られないように毎日必死だ」
「え…」
「だが…夏が終わるまで、4番は譲らない」
打順にはこだわらない。
こだわるのは、結果だけ。
それでも、自分の前を打つ男のその言葉には、胸が熱くなった。
ネクストから、打席に立つ拓真を見つめる。
猛暑の中全身に防具を纏い、常にフィールドの端から端まで神経を張り巡らせる。
打席に立てば4番の仕事を、そして主将としてのふるまいは、試合の外でも。
とめどなく伝う汗は、彼の苦労を、努力を、そして生き様を現すようだった。
ツーアウト、ツーストライク。
崖っぷちの打席から、金属音が高らかに鳴り響いた。
打球は右中間を飛び越え、フェンスに直撃する。
またしても、たった一人でチャンスを創り出した拓真が、三塁で吠えた。
瑛はバットを握り締め、静かに立ち上がった。
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【フィールディング】捕球や送球といった一連の守備動作のこと。投手ももちろん、9人目の野手として守備をする場面があります。
【ネクスト】次の打者が待機する場所のこと。ネクスト・バッターズ・サークル。