[Theme 02]2年生編
43
一糸乱れず並んだその姿は、壮観だった。
全体的にかなり体格が良く、引き締まった表情も相まってかなり迫力がある。
ただ一人、目の前の男だけは、緊張感のない顔つきで瑛を見下ろしていた。
“高峰の4番”。
はるかが口にしていたその言葉が、男のにやけた面に重なる。
ふと、対する我らが鷺嶋の4番──主将として自分たちの先頭に立つその姿を見遣ると、瑛と同じように目の前の男を見ていた。
その瞳は静かに、燃えている。
「礼!」
球審の号令に続き、漲る思いをすべて、声にした。
先攻は高峰高校。
マウンドにはエースナンバーに飾られた正也の背中。
リリーフとしての腕は中学生の頃から光るものがあった。
しかし長いイニングが増えて浮き彫りになったのが、他人が作ったピンチにはめっぽう強いのに、自分が作ったピンチには揺らいでしまうという、不思議な弱点。
高い集中力を維持することも苦手で、練習試合では大きく崩れてしまう場面もあった。
だけど普段は、呆れるくらいに単純かと思えば、意外と冷静に状況を分析することもできる男だ。
いつの間にかそれをマウンドでも発揮し、厳しい場面でも後ろを守る瑛たちを、拓真のリードを、そして自分自身の球を信じて投げ抜くことができるようになった。
その証こそが先発のマウンド、そしてエースナンバー。
「ストライク!バッターアウト!」
球審の声が響く。
二者連続三振。立ち上がりが安定しない正也が、とスタンドからも動揺が伝わってくる。
それが危険なフラグとなってしまったかのような、短い金属音に空気がヒヤリとする。
しかしそれも一瞬のこと。
高く上がった打球は千景のグラブが危なげなく掴み、わずか3人で1回表が終了した。
「ナイスピー、お前今日死ぬのか?」
瑛が声をかけながらグラブを合わせると、正也は真っ青な顔をしていた。
「かもしれねえ…ヒイ…」
「力入れすぎだ、すぐにバテるぞ。普段通りやればいい」
拓真も呆れ顔で肩を叩く。
「“五臓六腑に染み込ませたいつも通りのプレー”でしょ?」
「チカさん、それいつまでいじるんすか…」
千景も正也を肘で突いて、バッターボックスへと向かっていった。
高峰の先発は、3年生エースのサウスポー。
圧倒的な球速で放たれるストレートとともに多彩な変化球を操り、全国的にも注目されている存在。
ツーストライクで追い込まれた後、千景のバットがその速球を弾き返す。
当たりは弱いが、それをヒットにするのが千景の足だ。
「くっ…!」
しかし、自慢の快足がベースを駆け抜けるより早く、一塁手のグラブが音を立てる。
──バカスカ打つだけのチームじゃなかったのかよ。
もちろん、事前のリサーチで守備面も強化されていることは把握しているけれど。
文字通り目にも止まらぬスピードで打球を処理した遊撃手の姿に、瑛は奥歯を噛み締めた。
「バッターアウト!」
高峰側も鷺嶋のバッターを3人でシャットアウトし、初回のスコアには“0”が並んだ。
そして2回表、バッターボックスには──“高峰の4番”。
マウンドの正也と対照的な、嫌味なほどにリラックスした構えから振り出されたバットは、初球からいきなり正也の球を捉えた。
一、二塁間を抜け、ライト前に落ちた打球。
瑛が二塁で送球を受け取った時には、既にその男のスパイクがベースに到達していた。
「セーフ!」
一気に歓声が上がる。
切り替えろ、と正也に視線を送ると、思ったより落ち着いている様子で安心した。
瑛もサインを確認し、二塁を離れる。
「あ、ねえ」
その途中、思わぬ声に呼び留められた。
「…」
無言で振り返る。
4番の男が、相変わらず緊張感のない笑みを浮かべて口を開く。
「あのエロい子の彼氏って、お前?」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。
しかし、頭の中でぼんやりとした点と点のようなものが、薄っすらと線を描く。
「…ハア」
瑛は呆れたように溜め息を吐いて、身を翻した。
「無視かよ」
追いかけてくる声は耳に入らない。
──お前と違ってこっちは真剣なんだ。
高く響いた音とともに飛び出した鋭い打球が、三塁手のグラブを掠める。
勢いそのままに突き抜けようと大きく跳ねた球は、瑛が掬うように掴み捕った。
軽いステップで一塁へと放つ。
「アウト!」
ナイスキャッチ、と頷く一塁手の後ろを悔しそうに駆け抜ける仲間の姿を、4番の男は落ち着いて見送っていた。
──飛び出してくれていたらよかったものを。
まあいい。お前はそこでじっとしてろ。
瑛のプレーにより一層気が引き締まった正也は、続く2人のバッターも打ち取り、スコアに“0”を重ねた。
扇の要に座していた拓真が、防具を外す。
2回裏、鷺嶋高校の攻撃。
先頭に立つのは我らが鷺嶋の4番。
「俺は絶対に帰します──拓さん」
その背中に語りかけ、瑛もバットを握り締めた。
一糸乱れず並んだその姿は、壮観だった。
全体的にかなり体格が良く、引き締まった表情も相まってかなり迫力がある。
ただ一人、目の前の男だけは、緊張感のない顔つきで瑛を見下ろしていた。
“高峰の4番”。
はるかが口にしていたその言葉が、男のにやけた面に重なる。
ふと、対する我らが鷺嶋の4番──主将として自分たちの先頭に立つその姿を見遣ると、瑛と同じように目の前の男を見ていた。
その瞳は静かに、燃えている。
「礼!」
球審の号令に続き、漲る思いをすべて、声にした。
先攻は高峰高校。
マウンドにはエースナンバーに飾られた正也の背中。
リリーフとしての腕は中学生の頃から光るものがあった。
しかし長いイニングが増えて浮き彫りになったのが、他人が作ったピンチにはめっぽう強いのに、自分が作ったピンチには揺らいでしまうという、不思議な弱点。
高い集中力を維持することも苦手で、練習試合では大きく崩れてしまう場面もあった。
だけど普段は、呆れるくらいに単純かと思えば、意外と冷静に状況を分析することもできる男だ。
いつの間にかそれをマウンドでも発揮し、厳しい場面でも後ろを守る瑛たちを、拓真のリードを、そして自分自身の球を信じて投げ抜くことができるようになった。
その証こそが先発のマウンド、そしてエースナンバー。
「ストライク!バッターアウト!」
球審の声が響く。
二者連続三振。立ち上がりが安定しない正也が、とスタンドからも動揺が伝わってくる。
それが危険なフラグとなってしまったかのような、短い金属音に空気がヒヤリとする。
しかしそれも一瞬のこと。
高く上がった打球は千景のグラブが危なげなく掴み、わずか3人で1回表が終了した。
「ナイスピー、お前今日死ぬのか?」
瑛が声をかけながらグラブを合わせると、正也は真っ青な顔をしていた。
「かもしれねえ…ヒイ…」
「力入れすぎだ、すぐにバテるぞ。普段通りやればいい」
拓真も呆れ顔で肩を叩く。
「“五臓六腑に染み込ませたいつも通りのプレー”でしょ?」
「チカさん、それいつまでいじるんすか…」
千景も正也を肘で突いて、バッターボックスへと向かっていった。
高峰の先発は、3年生エースのサウスポー。
圧倒的な球速で放たれるストレートとともに多彩な変化球を操り、全国的にも注目されている存在。
ツーストライクで追い込まれた後、千景のバットがその速球を弾き返す。
当たりは弱いが、それをヒットにするのが千景の足だ。
「くっ…!」
しかし、自慢の快足がベースを駆け抜けるより早く、一塁手のグラブが音を立てる。
──バカスカ打つだけのチームじゃなかったのかよ。
もちろん、事前のリサーチで守備面も強化されていることは把握しているけれど。
文字通り目にも止まらぬスピードで打球を処理した遊撃手の姿に、瑛は奥歯を噛み締めた。
「バッターアウト!」
高峰側も鷺嶋のバッターを3人でシャットアウトし、初回のスコアには“0”が並んだ。
そして2回表、バッターボックスには──“高峰の4番”。
マウンドの正也と対照的な、嫌味なほどにリラックスした構えから振り出されたバットは、初球からいきなり正也の球を捉えた。
一、二塁間を抜け、ライト前に落ちた打球。
瑛が二塁で送球を受け取った時には、既にその男のスパイクがベースに到達していた。
「セーフ!」
一気に歓声が上がる。
切り替えろ、と正也に視線を送ると、思ったより落ち着いている様子で安心した。
瑛もサインを確認し、二塁を離れる。
「あ、ねえ」
その途中、思わぬ声に呼び留められた。
「…」
無言で振り返る。
4番の男が、相変わらず緊張感のない笑みを浮かべて口を開く。
「あのエロい子の彼氏って、お前?」
一瞬、何を言っているのか分からなかった。
しかし、頭の中でぼんやりとした点と点のようなものが、薄っすらと線を描く。
「…ハア」
瑛は呆れたように溜め息を吐いて、身を翻した。
「無視かよ」
追いかけてくる声は耳に入らない。
──お前と違ってこっちは真剣なんだ。
高く響いた音とともに飛び出した鋭い打球が、三塁手のグラブを掠める。
勢いそのままに突き抜けようと大きく跳ねた球は、瑛が掬うように掴み捕った。
軽いステップで一塁へと放つ。
「アウト!」
ナイスキャッチ、と頷く一塁手の後ろを悔しそうに駆け抜ける仲間の姿を、4番の男は落ち着いて見送っていた。
──飛び出してくれていたらよかったものを。
まあいい。お前はそこでじっとしてろ。
瑛のプレーにより一層気が引き締まった正也は、続く2人のバッターも打ち取り、スコアに“0”を重ねた。
扇の要に座していた拓真が、防具を外す。
2回裏、鷺嶋高校の攻撃。
先頭に立つのは我らが鷺嶋の4番。
「俺は絶対に帰します──拓さん」
その背中に語りかけ、瑛もバットを握り締めた。